外食産業基礎コース 第2回目 人材教育その1

レストランチェック

 人材育成はマクドナルドを例に取ると、階層的な教育で、マニュアル、トレーニングプログラム、チェックリスト、評価制度などが必要だ。

月刊食堂1991年5月号、日本マクドナルド研究 を見てみよう。

<店長までの教育システム>

 入社後、まずマネージャートレー(マネージャー見習い)として店舗に配属される。入社後店舗に配属されると同時に、MDP#1(マネージメント.デベロップメント.プログラム)に基づいて、トレーニングが開始される。

MDPそのものはマニュアルでなく、研修期間のカリキュラムを日別に書いてあり、毎日実習する項目と、勉強するマニュアル、VTR教材などを明確にしてある。店長やトレーナーはそれに基づいて毎日指導していく。

この終了予定期間は個人差があるが、3-6カ月で終了するようになっている。内容は開店業務、営業中の店舗運営、閉店業務、アルバイトの業務、QSCの管理を一人で具体的に出来るようになるまでである。

 MDP#1を終了すると、B・O・C(ベーシック・オペレーション・コース、基本トレーニングコース)という地区本部の主催するトレーニングコースを受講する。このコースを終了後、更にMDP#1の項目を全て満足すると、セカンド・アシスタント・マネージャー(第二店長代理)に昇進し一人前のマネージャーとして一人で店舗の運営をまかされるようになる。

昇進により、給料、ボーナスの額が上がる。各タイトルが上がるごとに給料、ボーナスの額が上がり、仕事に対する意欲を具体的に高める。昇進はあくまでも実力主義であり資格試験などというペーパーテストではなく店舗運営での実績に基づく。昇進は日本の一般的な会社のような年功序列ではなく、場合によっては年齢が上の社員を指導する。

 セカンド・アシスタント・マネージャーに昇進後さらにMDP#2を渡され、3-6カ月で終了する。内容は店舗の高いQSCを実現するために、人物金の具体的な管理方法を学ぶ。

これを終了後、I・O・C(インターミーディエイト・オペレーション・コース、中堅マネージャートレーニングコース)というコースを受講し、MDP#2の項目を満足すると、ファースト・アシスタント・マネージャー(第一店長代理)の試験への挑戦資格をもらえる。

試験と言っても書類の試験ではなく、実際に店舗を運営しているところをスーパーバイザー(SV、店長の上司で複数の店舗を担当している、QSCと店舗の売上、利益の管理と、人事評価を行う、店舗のQSCの監査も担当する)がチェックし、店長と同等の能力があるとみなされたら合格する。あくまでも実務面の能力をチェックする。

 ファースト・アシスタント・マネージャーに昇格するとMDP#3-1を受け取り、店長になるための、具体的なQSCの実現方法、人物金の管理手法についての具体的な勉強をする。

このコースを終了後、A・E・C(アドバンス・エクイップメント・コース、上級機器メインテナンスコース)を受講する。米国では全ての店舗の機器、建物は自分たちでメインテナンスする。

建物や機器が壊れてから直すのではなく、定期的な清掃、調整、部品交換をして壊れるのを未然に防ぐ、プリベンティブメインテナンスの考え方である。授業を通じて、機械の作動原理、冷却原理、等の基本を教え、さらに店舗の各機械の構造を理解させる。そして、簡単な修理を実習させ、店舗で実際に行えるようにする。

 これを終了すると、MDP#3-2を渡され次の勉強をする。内容は更に店長の業務を出来るようにする。この過程で、シニアー・ファースト・アシスタント・マネージャー(上級第一店長代理)の資格を満たせば昇進する。

この後、A・O・C(アドバンス・オペレーション・コース、上級マネージャートレーニングコース)を受講する。この授業から本社のハンバーガー大学が担当し、全国のマネージャーは本社のハンバーガー大学で受講する。このコースでは店長になるための全ての知識と手法を学ぶ。更に、広告宣伝、人事管理、目標管理、人事管理、機器メインテナンス、利益管理、等を具体的に学ぶ。

 これを終了後新店舗の開店に伴い、ストアーマネージャー(店長)に昇進する。店長昇進で勉強は終了ではない。これから更にMDP#4をもらい、新人店長の勉強を開始する。内容は具体的な業務と店舗のマネージメントだ。

 MDP#4の途中でS・M・C#1(ストアー・マネージメント・コース、新人店長トレーニングコース)を受講する。ここでは店舗のQSCの維持と売上と利益の管理と更に店舗におけるリーダーシップの取り方を学び、多くの人の前で話すプレゼンテーションスキル等を修得する。

 SMC#1を終了すると更にMDP#4を継続して学びそれを終了すると、シニアストアーマネージャー(上級店長)に昇進する。数年の上級店長経験を経た後にSMC#2を受講し、次に職位であるスーパーバイザーを目指す。

 と複雑だ。これを読んで、当社の規模は小さくて、マニュアルの整備も無いので人材教育は難しいなと悲観することはない。

 私がマクドナルドに入社したのは、日本進出後の2年後で、店舗数は30店鋪位と少なくマニュアルの整備はされていなかった。

マニュアルが整備されたのは、私が店長からsvに昇進してから初めて渡米し、米国ハンバー大学の研修をうけ、いかに日本のマニュアルの整備がなされていないかと実感し、米国のマニュアルを持ち帰り、翻訳させ、1言一句確認しながらという作業を3年ほどした、1978年頃で店舗数は130店舗くらいだった。私が店長やsvの頃はマニュアルなしで教育せざるを得なかった。

 店長のころにアルバイト教育の必要性に迫られた。1973年の第一次オイルショックにより、原材料コスト、や全ての資材、人件費が高騰し、店舗の採算性が悪化した。

従来店舗にいた社員を減らす必要が出てきた。それまでマネージャーと言う管理職は社員に限定していたが、その仕事をアルバイトにさせるスイングマネージャー制度だ。アルバイトにマネージャーとしてまかせるには、金銭や食材の管理と言う仕事をさせなければ行けない。

 仕事という技術より、モラル教育が必要になった。そこで早朝から来られるアルバイト2名と夜最後まで働く3名を選んで教育することにした。私が働いていた新宿二幸店舗(現在のスタジオアルタ)での仕事中につきっきりで実務を教え、週に一回店舗を離れて近所の喫茶店で勉強会を開いた。このミーティングは私のシフトが終わってから行った。

朝のアルバイトの一人は仕事が要領良く早かった。仕事もすぐ覚えた。夜の3人は要領良く無いが夜遅くまで働くに必要な忍耐力を備えていた。一人は身長180cmくらいあり、体格も顔も厳つかった。当時の新宿駅前はフウテンが多く、睡眠薬の売売で店舗のゴミ箱を使うので客が嫌がった。

そこで彼らが店の前に来ると、その体の大きいアルバイトに命じて、店舗カウンター前の床拭きをモップでさせた。そしてわざとフウテンに体当たりさせ追い払わせた。閉店後深夜駅に帰る時も物騒だから彼にボディガードのように同行してもらった。残りの2人は新島出身で真面目な働きぶりであった。

朝の1人は東北出身で真面目であったが、仕事が遅く仕事を覚えるのに時間がかかった。しかし逆に仕事を正確にこなし、わかりやすいマニュアルを作り、新人アルバイトに丁寧にわかりやすく教えることが出来た。朝のもう一人のアルバイトは要領良くすぐに仕事を覚えるが、新人に丁寧に教えられず、新人の教育には向いていなかった。

マニュアルがないころ教育に使った本

 米国の外食産業のシステムの詳細を最初に紹介したのは日本リテイリングセンターの故渥美俊一氏の著書の、「食堂の経営技術革命」1970年 柴田書店 発行 だ。

 1970年1月に日本フードサービス協会(現在の社団法人日本フード・サービス・チェーン協会,JFの前身)が設立され以下の本を出した。

監修者 力石寛夫

訳者  芝山忠彦

    武田二美

「レストラン・マネージメント」

1975年 発行

発行所 (株)プラザ出版

 同時期には外国のチェーン経営に必要なトレーニングシステムの本が数多く日本に紹介され、小売り、外食企業に採用されていった。人事管理の技術を詳細に述べたのは「人事管理と教育訓練・スーパーマーケットの人材育成」だ。この本では初めて科学的な人事管理論を以下の内容で述べている。

目 次

1. 従業員の離職

2. 従業員の必要数の予測

3. 従業員の雇用

4. 従業員の選考

5. 新入社員教育

6. 従業員教育

7. 教育の原理

8. 教育プログラムの作成

9. マネジャー教育

10. 計画、組織及び問題解決

11. 動機づけと作業意欲

12. コミュニケーション

13. 業績評価

14. 目標設定の事例

15. 目標設定プログラム

16. 昇進の基準

17. 賃金・給料の管理

18. 雇用と法律

19. 組合との関係

20. 人事部門の内容

21. 顧客とパブリック・リレーション

小売業、外食チェーンはこれらの文献に基づき、具体的な人事管理制度を固めていった。

著 者  エドワード.M.ハーウェル

 訳 者  現代経営研究会

「人事管理と教育訓練 スーパーマーケットの人材育成」

 初 版  1971年3月1日

 発行者  倉本初夫

 発行所  株式会社商業界

 上記の本は絶版であるが、以下の3つのサイトで最新の本を探せます。

故・渥美俊一氏の日本リテイリングセンター 発酵のチェーン理論教材

http://www.pegasusclub.co.jp/tanko.html

日本フードサービス協会 発行物

https://www.jfnet.or.jp/online_c.htm

日本フランチャイズチェーン協会

https://www.jfa-fc.or.jp/particle/1587.html

 スイングマネージャーの育成は、最初はマネージャーの現場管理を補助するためのものだった。次にマネージャーの負担になっていたのが細かい書類管理だ。そこで優秀な女子アルバイトに書類管理のスイングマネージャー教育をし成功した。

 ここで思いがけない問題が発生した。それは、女子スイングマネージャーのボーイフレンドだ。当時のマクドナルドには色々な人間がおり、アルバイトをする理由が単なる金だけではなく友人を作りたい、ボーイフレンド、ガールフレンドがほしいという不純な動機の者もいた。

 おもしろいことに優秀なアルバイトが優秀なアルバイトをパートナーに選ぶのではなく、意外とどうしようもない奴を選ぶ例が多い。彼女もその口だった。彼女の選んだボーイフレンドは1年以上も働いているが、モラルも低く夜になるとアルバイトを引き連れて飲みに行くという頭痛の種だった。

 勿論、以前いたどうしようもないアルバイトよりもコントロールはしやすいのだが、彼とつきあいだしてから彼女の仕事の質が落ち、モラルも低下しだしたのには困った。

 ボーイフレンドを辞めさせるのは簡単だが、そんなことをすれば折角育てた女子スイングマネージャーも辞めてしまう。つきあっている男子より女子の方が身分が上になると、男子がメンツをつぶすので嫌がるという日本独特の問題が発生してきたわけだ。

彼もスイングマネージャーにすれば良くなるかと思い、本人に希望を聞いた。彼の趣味は若い学生らしく車であった。それもかなり好きで、車のメインテナンスを自分でやり、ファンベルト、スパークプラグ、オイル、フィルターの交換なんかお手の物だという。車の話をし出すと目の色が変わりすごくポジティブな態度になる。学校も大学の工学部に通学し将来はエンジニアになりたいという。やっと彼にピッタリの大事な仕事が見つかった

 当時はオイルショックの後であり、全ての経費が上昇し、損益計算書が大変苦しくなっていた。特に、電気水道光熱費の急上昇が大きな問題となりつつあり、それらを消費する空調機器や調理機器の正しい調整、メインテナンスが脚光を浴びつつあった。

 社員が専門的な建物や設備備品、厨房機器のメインテナンスをやるのは専門家ではないから時間がかかるし無駄なように思われるし、メインテナンスを行うためには機械の作動原理などの基本的なことを知っていなければいけないなどすごくトレーニングに時間がかかるように思うが、マクドナルドで要求しているのは基本的にメンテナンス(維持)であり、リペアー(修理)ではない。

 女子スイングマネージャーのどうしようもないボーイフレンドに白羽の矢を立て、メインテナンスをやらせることにした。最初は責任感がないいい加減な奴なので心配していたのだが、思いがけもない効果が出たようだ。

彼にとっては店長が一人でしこしこ楽しそうにやっている大事な調理機器のメイテナンスを任されたわけだし、店長の筆者と一緒に仕事をするチャンスが増えて、スイングマネージャーの彼女より店長に大事にされているように思い、プライドを持ち俄然とやる気を出しだした。

そうなると筆者よりも車好きで専門の学校に行っているからその仕事ぶりは素晴らしい物があり、店舗の機械は何時もばりばりの新品の様に光り輝きだした。

まだAOC(上級トレーニングコース)を出ていないアシスタントマネージャーも彼の仕事ぶりをみて「お、すごいなー、今度どうやってメインテナンスをやるのか教えてくれよ!等と声をかけ、すっかり自信がついた彼は、今までいくら言っても働かなかった、早朝や深夜のメインテナンスの仕事も自分から進んでやるようになった。当然、夜、アルバイトを誘って飲み歩く回数も減りモラルも大幅に向上した。

 どんな人間でもよく見れば優れた点があるからその良い点を見いだし、チャンスを与えることにより、欠点や弱点も良くなると言うことを学ぶことができたわけだ。この手法は日本だけではなく筆者が後に米国に駐在したときに、やはり問題のあるアルバイトにも応用して大成功を治め事が出来た。人材育成は洋の東西を問わず同じであるという事だろう。

以下は王の経験談詳細です。

店長時代の勉強方法

ダンキンドーナツ時代(5-6店舗チェーン時代)のマニュアル作り

マニュアルの難しさ

店長時代の経験談

どんくさいアルバイトに作らせたわかりやすいマニュアル

その当時の経験談

問題点の発見方法

スイングマネージャーの育成

女子アルバイトの活用方法とボーイフレンド対策

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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