「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

吉野屋ディー・アンド・シーがダンキンドーナツ事業から撤退し、日本に於ける地域フランチャイジーとしての営業活動に終止符を打つことになった。米国のダンキンドーナツは外食レストランチェーンの中では売り上げ順位で17位と好調なのに、日本ではなぜ撤退に追い込まれたのだろうか?

飲食業が成功するかどうかは

産業として将来性がある
味が優れている
儲かるシステムである
優秀な人材に恵まれている
の4つで判断できる。この視点からダンキンドーナツ撤退の原因を探ってみよう。

1)産業として将来性があるか?
ドーナツという商品のライフサイクル
吉野家ディー・アンド・シーがダンキンドーナツ事業からの撤退発表と同時期に、明治製菓も英国製菓大手のユナイテッド・ビスケッツ(ビスケットのマクビティー)との1973年以来の合弁契約を解除した。ビスケットのマクビティブランドの小売店販売実績は80年前後で130ー150億円の売り上げをピークに一時は年間40億円に落ち込み、活発な営業活動をした97年度でも80億円にすぎなかった。マクビティは英国流で商品の品揃えが少ない大量生産の品物が、日本の常に新しい商品を要求する消費者に飽きられたためだと言われている(日経産業新聞記事)。

このように菓子のライフサイクルは年々短くなっており、常に新しい商品が要求されている。最近流行した菓子を見ても、ティラミス、ナタデココ、パンナコッタ、カヌレ、クイニー・アマン等、流行は2年しか持たない変化の激しい業界だ。

米国ではドーナツは主食だ
米国のDUNKIN’DONUTS,INC.はボストンに1950年に創業した。創業者の一族はミスタードーナツの経営者と親族関係にあり、ミスタードーナツ社を吸収合併している。現在の店舗数は世界20カ国に4,736店舗と世界最大のドーナツチェーンだ。現在は英国のコングロマリットALLIED社の傘下に入っており、グループ企業に不二家と提携しているサーティーワンアイスクリームのBASKIN-ROBBINS、西海岸のグルメサンドイッチチェーンTOGO’Sを持っている。

米国ダンキンドーナツ社がこれだけの店舗数を持っているというのは米国では菓子の位置づけではなく、主食という位置づけをしっかり確保したからである。ドーナツが主食というと驚かれるかもしれないが、米国では朝食でドーナツを食べるのが一般的だ。米国企業は平均的に日本より1時間ほど早く始業し、夏は夏時間があり、まだ暗い内に出勤する。日本人だと早朝出勤の際には朝食を食べない事が多いが、米国人は昼食をスキップすることはあっても朝食を絶対に欠かさない重要な食事だ。

米国にハーディーズというハンバーガーチェーンがある。最近カールスジュニアに買収されたが、一時は急成長していた。その最大の原因が、朝食が強かったという事だ。ハーディーズの朝食の特徴は焼きたてのホットビスケットサンドイッチで、朝食の売り上げ比率は25ー30%と大変高くそれがチェーンの成長に大きく貢献した。マクドナルドが朝食マーケットを奪取するべく、ホットビスケットの導入をせざるを得なくなったほどだ。米国のコーヒーショップチェーンも同様で、一番大きなビジネスは朝食だ。インターナシュナルハウスオブパンケーキ社は名前の通りパンケーキを中心とした朝食をメインにしたビジネスで未だに健在だ。

その朝食で根強い人気を持っているのがドーナツだ。家でパンの代わりにドーナツとコーヒーを食べて出勤したり、途中のドーナツショップでコーヒーとドーナツを食べるというのが最も安価な朝食だ。米国企業は早朝から会議や研修などがあり、朝食を食べながら会議をする。その際に並ぶ食事は、ペイストリー、ドーナツ、フルーツ、ジュース、コーヒーだ。また、朝仕事をしていると突然ドーナツの差し入れがあったりするくらい、ドーナツは朝食マーケットに深く根付いており、立派な主食としての地位を築いている。

しかし、昨今、脂肪の過剰摂取が引き起こす心臓病などへの懸念から、ドーナツ、フライドチキン、フライドポテトなどの油で揚げる商品の人気が下がってきた。その対策としてダンキンドーナツはまずマフィンを追加した。

さらに、数年前に行った店舗のイメージ調査の結果判明したのは、油で揚げたドーナツは健康的でないし、コーヒーもスターバックスなどの新興のコーヒーチェーンに劣るという事だった。そこで、朝食専門チェーンとしてのイメージを挽回するために、流行のベーグルを取り入れた。ベーグルはユダヤ人の食べるドーナツ状のパンであり、油脂を使用せず、茹でてから焼くと言うので健康的なイメージがある。そして、コーヒーの品質と、POPを見直し、ベーグルとコーヒーを全面的に打ち出した店舗イメージに変更した。同時にガソリンスタンドなどとのデュアルブランド作戦で小型店舗の多店舗展開を開始した。

それらの結果NRN(ネーションズレストランニュース紙)の売り上げ順位の調査では

95年17位
96年16位
97年15位
98年16位
と順調な伸び率を示している。

米国ダンキンドーナツ社は朝食という主食の立場を維持しながら、商品やイメージに磨きをかけているといたのだ。

日本ではドーナツは菓子のジャンル
日本でも朝食としての訴求をするべきであったが、進出当時は米国からきた52種類の味のドーナツ、特にできたてのイーストドーナツの人気が高く、菓子として人気が出ていた。ダンキンドーナツの1号店は銀座に開いたが、連日大盛況だった。当時の日本は外食産業の幕開けであり、米国からきたファーストフードは繁華街の歩行者天国のブームにのり大人気で、ドーナツの将来性は保証されたように思われた。初期に郊外型の出店も行ったが立ち上がりの売り上げが悪く苦戦した。郊外の駅前立地では朝食マーケットの存在を獲得しつつあったが、効率を追い求め、菓子としての位置づけのまま繁華街立地進めていった。

同時期に進出してきたハンバーガーも立ち食というファッションとして人気を博した。だが、食事という位置づけになるには随分時間がかかった。顧客を洗脳するために日本進出後直ちに多額の予算を使用して、消費者へのテレビコマーシャルを放映し始めた。洋風ファーストフードは日本になじみが少ないため、テレビコマーシャルという強力なマーケティングツールを使用して消費者を洗脳すると言う努力が必用になるのだ。

マクドナルドは日本進出当時は牛肉製品のハンバーガー類3種類、魚のサンドイッチ1、フレンチフライ、アップルパイ、コーラ、シェーク、コーヒー、ホットチョコレート等17品目の限定商品であった。現在では、ハンバーガー類に使用する蛋白質は、牛肉、豚肉鶏肉、と種類が増加し、その他、朝食メニューとしてホットケーキ、イングリッシュマフィン、卵料理、ハッシュブラウン、ホットドックなど幅広いメニューを追加している。当初数パーセントにすぎなかった朝食売り上げをテレビコマーシャルの力で20%近くまで押し上げた。

デザートも当初のアップルパイから、ベーコンポテトパイ、アイスクリーム、場合によってはケーキ類、を追加し、飲み物もフレッシュのオレンジジュース、アイスコーヒー、アイスティー等を追加している。さらに、主食の座を確保するために210円のハンバーガーを130円に値下げして、プロモーションでは65円という低価格を打ち出すなど主食としての位置を確保するためあらゆる努力を払っている。

マーケティングにより昼食というマーケットでの主食の位置を占めたハンバーガーチェーンでも、これだけの新メニューの投入を余儀なくされているわけで、流行の激しい菓子業界のドーナツではもっと新製品の投入が必用になっているはずだ。

競合のミスタードーナツは当初より郊外型のドライブインの米国風店舗展開を地味に行っていった。しかし、同社もドーナツの菓子としての位置づけに不安を感じ、油で揚げないオーブン調理のパイ菓子などを独自に開発していった。そして、6年ほど前よりミスター飲茶という肉まん、海老餃子、シューマイ、ラーメンという主食メニューの追加を開始した。一般的に飲茶は蒸して温かいあいだに提供する物であり、保管するのが難しい物であったが、特殊な機器を開発し保管時間を2時間にする事を可能にした。しかし、食材コストの低いドーナツと比べ調理済みの冷凍食品のコストが高く、トータルの原材料コストを大きく押し上げた。また、投資額は飲茶関係で700万円近くの投資額といわれ、フランチャイズオーナーの抵抗が強かったが、ミスタードーナツは投資額の削減と原材料のコストダウンを行い、現在ではほとんどの店に導入を終了した。そして、積極的なテレビコマーシャルを投入しミスター飲茶の広告活動を行い、消費者に商品イメージを定着させることに成功したようだ。

勿論、ダンキンドーナツも主食のマーケットを獲得するべく、温かい、クロワッサンサンドイッチを開発し、店舗の売り上げ増加をはかった。しかし、残念ながらダンキンドーナツにはその高額の広告宣伝をサポートするだけの店舗数が存在せず、消費者に主食を扱っているという事を浸透させることが出来なかった。

菓子の業態から抜け出せなかったという事は、菓子の流行の早さに商品の陳腐化が目立つという問題だけでなく、菓子を食べる人口の減少という問題を抱えてしまった。ドーナツは家庭で買い置きし、学校から帰ってきた子供達へのおやつとして提供されている。価格の割にはボリュームがあるという意味で人気があるわけだ。しかし、人口動態の変化で子供の人数が減少し、子供にターゲットを当てたドーナツも顧客減少の影響を受けだしたわけだ。

2)味が優れているか?
ドーナツはお店でスクラッチから作る新鮮さが最大の売り物だ。しかし、スクラッチから作るというのはトレーニングと作業環境という問題を抱えていた。ではドーナツの作り方と問題点を見てみよう。
ドーナツの種類は大きく分けると、イーストドーナツとケーキドーナツの2種類である。ケーキドーナツはベーキングパウダーで膨らませてい為、アルバイトでも調理が出来るが、イーストドーナツはパンと同様に発酵をしなければならない。その為ドーナツ製造の職人を養成する必要がある。発酵技術はかなりの経験が必要であり、チェーン展開のし難いものであった。そこで、まず、プリミックスの採用で粉の配合を作り、スペックを統一した。次に発酵技術をマニュアル化し、ドーナツ大学という体系化したトレーニグコースを作り、全くの素人を1カ月間で一人前のドーナツ職人に仕立てる事にした。

イースト生地の製造は、小麦粉の産地、品質(蛋白質の含有量など)、時期(春、秋)、イースト菌の種類、活性状態、イーストフードの種類、添加物の量、質、砂糖の含有量水の質、室温、湿度、ミキシングタイム、発酵の温度湿度、等で微妙に異なり、とても標準化の出来ない世界であり、一ヶ月という短期トレーニングを終了後も1年間という実務経験を積まないと一人前のドーナツ職人になれない。アルバイトのように定着性の悪い従業員には担当させられないという、トレーニング効率上の問題点があった。

さらに、イーストドーナツの製造は4時間かかり、朝の7時に開店するためには3時には働き出す必要がある。チェーン展開をスタートした25年以上前は従業員がまだ若いから良かったし、当時の従業員は重労働でも耐えてくれた。しかし、従業員の老齢化と、労働環境の改善の必要から、そのスクラッチ方式の見直しが迫られた。そこで店舗に冷凍生地を導入し、その問題を解決しようとした。

だが、イースト菌は生き物であり、冷凍しては活性が失ったり、死滅してしまう。そこで冷凍しても大丈夫なイースト菌でしかも品質に影響が出ない物を探し出すのに何年も必要であった。また、イースト菌は温度に敏感であり配送途中の温度変化を嫌う、そこで配送の経路、温度管理の安定化、店舗における大型冷凍庫の設置が必要になった。また、冷凍生地の解凍と発酵のために高価なリターダーの開発と設置を行なければいけなかった。しかし、それだけの投資をしたが、品質が今一歩だし、店舗毎に多大の投下資本が必用なのでは低コストのドーナツショップのメリットが無くなってしまうと言う問題も発生した。

そこで、セントラルキッチンでドーナツを作りそれを店舗に配送しようと言うパン屋と同じ手法を考えた。確かにそれにより品質の高い商品を店舗に配送することに成功したが、問題はドーナツの劣化であった。元々ダンキンドーナツのドーナツはできてから4時間経過すると廃棄するという新鮮さを売り物にしていた。セントラルキッチンで製造して配送すると確かに品質の安定したドーナツを配送できるが、フレッシュな味を失うという欠点を抱えてしまったわけだ。

また、コーヒーも当初は入れてから18分で廃棄処分するという鮮度が売り物だったが、何時の間にか30分となって、当初の味と随分代わってしまったし、ドトールとかスターバックスなどの高品質なコーヒーを売る専門店の進出と共にその味の優位性も失われてしまった。

主食としての位置づけを達成しないまま、、菓子という流行の速い業界にありながら、肝心の品質をおろそかにした のでは、競争の厳しい菓子業界では厳しい状況に追い込まれてしまうのは避けられなかったのだ。

3)儲かるシステムであるか?
「フランチャイズシステム」
ドーナツの店舗の運営には職人が必用であるが、店舗の投資額が少ないと言う利点があった。手作りであるから厨房機器の投資が少ないのと、粉や缶詰のジャムなどが主力原材料であり、食材の輸送コストや保管コストが低いわけだ。つまり、脱サラや業態変換を希望するフランチャイジーにとって、投資が少なく他店舗化しやすいというメリットがあったわけだ。反面、職人をトレーニングしなければならないとか、深夜や早朝に働かなければいけないと言う人事政策上の問題から直営中心では展開が難しいというデメリットも持っていた。実際に米国のダンキンドーナツ社では現在直営店はゼロである。
そういうわけでダンキンドーナツもミスタードーナツも当初からフランチャイズ展開を行い出したのは当然であろう。しかし、ダンキンとミスターとの差が生まれたのはフランチャイジーの選定と出店地域の選定の差であった。 ミスタードーナツは親会社のダスキンの思想である祈りの経営という考え方で、ダスキンの経営理念に賛同する加盟者のみをジーに加え、ドーナツアカデミーでのトレーニングの際に、京都の一灯園での厳しい修行を加えて、精神的な団結心を植え付けることに成功した。それに対してダンキンは西武流の合理的な思考から、大手小売業や優良な会社の子会社をフランチャイジーとして加えることにした。日本の場合フランチャイジーと言ってもある程度まとまった資金を投下できる個人は限られていたからだ。

このフランチャイジー選択の手法の差が両社の店舗数に影響を与えたようだ。外食チェーンのフランチャイジーを見てみると比較的小さな企業や個人が加盟したチェーンの方が安定して成長しているようだ。

「原材料コスト」
当初、ドーナツのフードコストは粉を使用しているので25%前後と低く当時の外食の原価40%、ハンバーガーの原価45%台と比べると相対的に安価であった。しかし、25年以上経過する間にその価格差に変化が出てきた。主力商品の小麦粉は未だに政府による管理下にあり、価格が国際的に比較して大幅に高いが、牛肉製品は自由化と円高と相まって急速に原材料コストを下げている。そのため、ハンバーガーチェーンは現在のように売価を落とす前は、原材料コストを25%くらいまで下落させている。現在の外食チェーンの課題は原材料コストよりも人件比率の削減になりつつあり、手作りで熟練したドーナツ職人が必用なドーナツビジネスは人件費の面で段々魅力が無くなってきたわけだ。
4)優秀な人材に恵まれているか?
「人材」
レストラン西武はダンキンドーナツを日本で展開する前は、実はハンバーガーチェーンの展開を考えており、マクドナルドに次ぐチェーン規模を誇っていたバーガーキング社と提携の交渉を進めていた。しかしながら、当時の円安と日本の牛肉の高さからバーガーキング社が断りを入れたため、自社でコルネットというハンバーガーチェーンの展開を始めた。しかしながら米国式のチェーンビジネス、特にフランチャイズビジネスを学ぶ必用を感じていたために、やむなくダンキンドーナツと提携をしたと言う事情があった。
西武百貨店の子会社という事で各部門の責任者は定期的な人事異動が多く、ダンキンドーナツが設立して2年ほどの間にダンキン部門の責任者は3名も代わっていた。その後に何人の責任者が代わったか分からないが、はっきりしていることはダンキンドーナツの責任者の顔があまり明確でなかったという事だろう。

外食で成功した企業の、日本マクドナルド(藤田社長)、日本ケンタッキーフライドチキン(大河原社長)、すかいらーく(茅野社長)、等を見ても現社長は当初から社長または責任者として一貫した経営方針を貫いている。競合のミスタードーナツは現ダスキンの千葉社長が、ボストンのドーナツアカデミーのトレーニングから一号店の運営まで常に最前線で指導していたのと対照的である。

「事業の変遷と決断」
当初はレストラン西武(現、西洋フードシステム)の一部門であったダンキンドーナツは後に吉野家のグループ入りに際し、吉野家ディー・アンド・シーとして一体となった。同じファーストフードであるからと言うことが理由だと思われるが、ドーナツと牛丼は全く異なるFFである。
牛丼というと和風の前近代的な商売のように思われるが、実はダンキンドーナツよりも遥かに合理的なシステムを備えている。牛肉、タマネギ、たれなどの食材は全てセントラルキッチンで処理され、店舗では短時間の最終調理を行うだけでよい。売り上げが高いので昼時などのピークになれるには熟練が必用だが、それでもダンキンドーナツのように朝3時から働くような時間のかかる仕込み作業はない。しかも売り上げと利益率が遥かに高と言う利点もあるわけだ。

その合理的な利益率の高い吉野家から見るとダンキンドーナツの将来性は非常に暗く見えたようだ。勿論、サンドイッチの導入やイメージアップという色々な対策を実施したが、根本的な対策を行うには店舗数が不足しすぎていたようだ。

そのダンキンドーナツの命運を断ったのは皮肉なことにミスタードーナツの不振だった。ドーナツというマーケットを独占し、主食であるミスター飲茶を加えて順調にきていたミスタードーナツに変調が見られたのは今年の4月からである。マーケティングの失敗ではないかと言われているが、4、5、6月と既存店の売り上げは未だかつて無い不調におそわれた。そんな状況からドーナツのマーケットとしての将来性がないと判断され、吉野家ディー・アンド・シーはダンキンドーナツの完全なる撤退を実施したのではないかと思われる。企業論理として不採算事業から撤退し、伸びる業態へ資本投下を図るという決断はごく当然のことであるといえよう。

「洋風ファーストフードの経営は難しい」
ダンキンドーナツの撤退の原因をまとめてみると、主食ではないと言う商品特性のまま、業態変換を図ることができず、商品力が相対的に落ちてしまったと言うことだろう。
しかし、セゾングループだけが洋風ファーストフードの経営に失敗したのではない。洋風ファーストフードは実は大変難しい事業であり、ファミリーレストランなどのレストラン会社が洋風のFFに進出してほとんど失敗している。ロイヤルのベッカーズ、サトのホワイトキャッスル、フレンドリーのカールスジュニア、そして業界トップのすかいらーくでさえ、フライドチキン業態への度重なる進出で失敗を繰り返している。商品を主食の位置につけるためには多額の広告宣伝が必用だという事を理解していなかったのが最大の原因だと思われる。

洋風ファーストフードを成功させたのは、ダスキンのミスタードーナツ、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、モスバーガー等、外食とは異なる事業から参入した会社であり、外食経営の経験と先入観がなかったことがかえって成功の要因となっているようだ。

「ダンキンドーナツ事業は失敗ではなかった」
ダンキンドーナツ事業はセゾングループにとって失敗ではなく、実は大きな功績を残している。日本進出当時のダンキンの責任者は後に、コンビニのファミリーマートの創業に参加した。ファミリーマートは店舗運営の手法をシカゴのホワイトヘンパントリーに習ったのだが、フランチャイズ店舗の運営に関してはダンキンドーナツに学ぶことが多かった。特に地区フランチャイズシステムはダンキンのシステムが優れており、ファミリーマートが地区フランチャイズシステムを取り入れているのはその影響だといえる。
ドナーツ事業を運営する中でフランチャイズシステムを学んだという点では当初のダンキンドーナツとの提携の趣旨は十分に果たしたのであると言えるだろう。

「参考資料」
ファーストフードという言葉で、ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、ドーナツ等のチェーンを同一視する傾向があるが、その厨房レイアウト、調理機器、オペレーション、チェーン展開等の経営方法等には大きな差がある。その違いを見てみよう。
工場の流れ作業の発想から生まれたチェーン
ハンバーガーはレストランチェーンとしては歴史が最も浅いのである。最後発のチェーンとして、最初からチェーン展開を考え、厨房などのレイアウトを行っている。マクドナルドの創業者である、レイ・クロック氏の伝記によると最初の店を作る前に、テニスコートに実際のレイアウトをして、作業分析をしたとの事である。シカゴにある第一号店も博物館になっており、見る事が出来るが、その40年以上前のレイアウトと現在のレイアウトが余り変わっていない事に驚くのである。出発の時点から人間工学的に分析し、車の製造ラインの流れ作業の考え方を取り入れているのである。また、メニューや、原材料のスペック、機械のスペック、オペレーション、トレーニングなど、当初よりチェーン展開を考え組み立てられている。

ピークに売上を取れるように設計している為、時間あたり50‾75万円の売上が可能である。

売れ筋商品を絞り込み、原材料や加工方法で特徴を出したチェーン
レストランで売っていた人気商品のみを専門に売る、フライドチキンやピザ等のチェーンである。

ケンタッキー州カービンという町にKFCの1号店が博物館になっている。ここで創始者のカーネル・サンダースはモーテルを営業しており、それに伴い食堂を営業していたのである。そこからフライドチキンが人気が出てフライドチキンのチェーンを開始したのだ。博物館を見るとその厨房は普通のレストランの厨房である事がわかる。当初はレンジの上で一般的な圧力釜で調理していたが、そのうち特殊な専門の圧力釜を開発しフライドチキンに特化していったのである。KFCの店を見てみると判るが店長が長靴を履いている場合があり、ドライキッチンとは言い難いことからも判るように、ハンバーガーのチェーンとはジャンルが異なるのである。フライドチキンの店舗の最高可能売上高は1時間で30万円くらいである。

ベーカリー部門から発生した、職人が必用なドーナツチェーン
ドーナツの種類は大きく分けると、イーストドーナツとケーキドーナツの2種類である。ケーキドーナツはベーキングパウダーで膨らませてい為、アルバイトでも調理が出来るが、イーストドーナツはパンと同様に発酵をしなければならない。その為ドーナツ製造の職人を養成する必要がある。従来発酵技術はかなりの経験が必要であり、ベーカリーはチェーン展開のし難いものであった。そこで、まず、プリミックスの採用で粉の配合を作り、スペックを統一した。次に発酵技術をマニュアル化し、ドーナツ大学という体系化したトレーニグコースを作り、全くの素人を1カ月間で一人前のドーナツ職人に仕立てる事に成功し、チェーン展開が可能になったのである。ただ、深夜にドーナツを作る作業が大変な為直営店では人の確保ができず、フランチャイズ展開が中心になっている。その為、投下資本を極力抑える為、フライヤー、プルーファー、ミキサー、フィリングマシン等シンプルであり、冷凍庫等は必要としない。1日の最高可能売上高は50‾80万円位である。

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