外食産業基礎コース 第6回目 物の管理 その1

レストランチェック

物の管理 科学的なアプローチ

物の管理

 外食産業は文系出身者が多く、仕事を改善する上での科学的なアプローチにかけているのが現状だ。科学的なアプローチにかけると生産性が悪くなり、売り上げが取れなかったり利益が低下する。特に物の管理と言う点では科学的な合理的なアプローチが必要だ。

1)物の管理とは

 物とは食材、調理機器、建物等のことを言う。

・食材

 食材は、Qのところでも述べたが、指定食材を指定業者から仕入れるので、大事なのは、売り上げに応じた数量を入れ、不足せず余らせないと言うことだ。

店長の大事な業務は高いQSCを維持してお客を満足させることであるが、同時に利益を出さなければいけない。店舗の経費の中でも食材コストは最も大きい額の一つである。簡単なように思われるが、日曜祭日の売り上げは平日の2倍から、4倍にもなると言う難しさがあるということだ。

特にこれからくるゴールデンウイークの売り上げ予測は大変難しい。まず、売り上げは天候に大きく左右されると言うことだ。当然のことながら雨が降ると売り上げは晴天の半分くらいになる。また、温度と湿度により売れる料理の種類が異なる。

ゴールデンウイークの難しさは、温度と湿度と晴天の度合いが大きく変動するからだ。ちょっと温度が高くなると、飲み物やアイスクリームなどが多く出る。逆に麺類などのあつい物や、揚げ物などのしつこい物は出なくなる。しかし温度が低めでからっとした陽気だと揚げ物等の売れ行きがよい。

この予測をうまくできる様になるには、2年間くらいの経験が必要になるのだ。最近ではPOSの自動発注システムがあるが、大抵は数週間前のデーターを参考にする程度であり、天候の変化や、季節性の変化、広告宣伝を考慮していないので、相変わらず、各店舗のマネージャーの勘ピューターが必要で、ここでベテランと新人の経験の差が出てくる。

 発注後店舗に納入された食材を記録し、定期的に在庫管理をする。週末毎、月末毎に在庫を棚卸しして、週間、月間の使用量を計算し、原材料費を計算する。

現在ではPOSが導入されているので、販売数量はわかるからそれに、理論原価率(本社で理論使用量と想定される食材ロスを計算に入れた原材料コスト)をかければ原材料コストは算出できる。

しかし、理論原価率では、賞味期限を過ぎて廃棄した食材コストや、理論値以上に使用した原材料、盗難等は算出できないので、棚卸しして実際の原材料を計算する必要がある。

チェーンの計算方法により異なるが、理論原価率と実原価率では最低でも0.5%から2%の差異が出る。この差異をどのくらいで納めるかが店長の腕の見せ所である。年商2億円で1%の原価が異なれば年間で200万円もの金額になるのである。棚卸しは閉店後に行う必要があり、その後の計算と合わせて、2時間ほど必要である。

・調理機器

 チェーンレストランではベテランのシェフの代わりにアルバイトが調理するので、自動化の調理機器をマニュアル通りに使用する必要がある。自動化の調理機器は温度が設定通りか、設定時間が正しいかを定期的にチェックし、調整する必要がある。毎日1時間くらいは調整と整備に費やす必要がある。

アルバイトでもトレーニングすれば調整ができるが最初は店長がしっかりとトレーニングする。大手チェーンでは、プリベンティブメインテナンス(故障を未然に防ぐメインテナンス)として、カレンダー、マニュアル、手引き書を作成してアルバイトでも簡単に調整、整備をできるようにしている。

・建物

 建物も清掃と簡単な修理が必要である。特に建物の空調設備の清掃は、店内の汚れと、環境を大きく左右するので、定期的に行う必要がある。これもプリベンティブメインテナンスカレンダー等を使用して実施する。

その他に建物が壊れたり、配管などの詰まりがあったときには修理が必要だが、近隣の修理業者を捜したり、見積を取ったりする作業が必要だ。緊急に備え普段から業者を捜しておくのは店長の重要な作業の一つだ。

2)科学的なアプローチが生んだピザの宅配システム

  外食産業というと語弊があり、フードビジネスと言ったほうが良いのがピザのデリバリービジネスだ。ピザはイタリアで生まれ米国に渡り、米国の豊かな食生活の中で、独立した主食として大きく発展した。

日本ではピザと言うとまだ、酒のつまみと言う位置づけであるが、米国においてのピザは、家族皆で賑やかに食べにいく、ご馳走なのである。元々ピザは薪のピザ釜で焼くので時間がかかり、熟練のいる料理であった。焼く間に時間があるので、ビール等で一杯飲みながら家族の団らんを楽しむのである。

  そのピザのマーケットを更に拡大したのが、宅配ピザである。米国での飲食業の成功のキーワードは、サービスが良い、速く待たせない、バリュー(量があり安い)がある、の3つである。この宅配ピザはその成功のすべての要因を満たしており、大成功したのである。この宅配のコンセプトを成功させたのが、エアーインピンジメントオーブンである。

  コンベクションオーブンは焼く時間が速いが、焼けムラが発生するので、焼成時間の長いデッキオーブンを使用していた。普通のコンベクションオーブンの風速は2-4m/秒であるが、エアーインピンジメントは6-8m/秒の風速がある。

その為食品の表面に出来る熱境界層を吹き飛ばし、短時間に焼成が出来るのである。高速の熱風により、ピザの表面にスポットの焼けムラが出来るのを防ぐ為に、コンベアーでピザを動かしながら焼く事により、上下均等に焼けるのである。焼成時間をタイマーで自動コントロール出来るので、焼成の自動化が出来、アルバイトによる焼成でも品質が安定するようになったのである

 キーは誰でも素早く焼くことのできるエアーインピンジメントオーブンというコンベアーオーブンを使っていることだ。このシステムを考案し、全世界に2万店を展開しているのが、ドミノピザだ。ドミノピザでは持ち帰りを促進し、最近は店内に客席を設置しているので、訪問してピザづくりを見学するとよい。またピザ作りを体験できるので試してみよう。

 キッチンは8角形の作業テーブルの真ん中に、コンベアーオーブンが設置されている。注文が入ると3-4名で流れ作業でピザを作り焼いていく。ピザ生地は工場からドウが来るので売り上げ予想に基づいて発酵し、注文後一人がピザの円盤形に成形し、次の一人がピザソースをかけ、次の一人がチーズやトッピングを載せる。4人目がオーブンに入れ、5-6分で自動的に焼き上げる。オーブン出口から出る焼きあがったピザをカットし、宅配用カートンに詰める。宅配要員はそのカートンを保温ケースに入れ、宅配バイクに乗り出発だ。この間約10分以内と高速だ。

 手作りのピザは、ナポリピザのように石窯で焼く。昔のイタリアではこの石窯でピザもパンも焼いていたのだ。ナポリピザの場合、石窯を作ってから使えるようになるまで3日も薪を炊き続ける。

高温に熱せられた石窯にピザを入れると、石に蓄熱された高温で1分ほどで焼き上げる。焼けムラができるので、ピザを回転させながら焼き上げる。温度管理から焼き上げまで熟練の技が必要だ。そこで温度と焼く時間を自動でできる、エアーインピンジメントコンベアーオーブンを開発した。

ドミノピザ 全世界 店舗数推移

https://www.statista.com/statistics/207118/number-of-dominos-pizza-stores-worldwide/

ドミノピザ作り体験

https://www.dominos.jp/pizza-academy

公式HP

https://www.dominos.jp/

宅配ピザ店 店舗数推移

https://www.nipponsoft.co.jp/blog/analysis/chain-pizza2023/

宅配ピザ店 歴史 動向

https://www.sbbit.jp/article/cont1/41404

ピザーラ都道府県別店舗数

https://todo-ran.com/t/kiji/24702

ドミノピザ都道府県別店舗数

https://todo-ran.com/t/kiji/24697

ピザハット都道府県別店舗数

https://todo-ran.com/t/kiji/24707

エアーインピンジメントオーブン

ドミノで使う Middleby Marshall

https://www.middlebymarshall.com/

その他のピザややサイゼリヤで使うLINCOLN

https://www.lincolnfp.com/Products

オーブンの説明

その他

https://www.senoven.com/conveyor-ovens

ガストの例

  宅配ピザ店は他の外食店と立地が違う。宅配ピザは客が来店しなく届けるのだ。そのため、店舗前の車や人の交通量は関係ないので固定費の店舗家賃が低いというメリットがある。その代わり、宅配バイクが容易に出入りでき、車の流れの良い場所が必要だ。

立地選定では店舗からのある程度の商圏人口が必要だ。出店する場合には店舗からバイクで一定の時間(10分)で行ける範囲で決める。商圏は円形でなくアメーバ状になる。

この商圏をきっちり押さえることで、自社店舗の競合が少なくなるというメリットがある。外食の場合多店舗展開により自社店舗の競合が発生し、閉店を迫られることがある。

 このオーブンに注目して低価格業態の多店舗展開に成功したのが、ガストと、サイゼリヤだ。ガストのすかいらーくグループはファミリーレストランだけでなくファストフード店も実験した。

当然宅配ピザ店も実験したが、あえなく失敗した。その担当者が高価なエアーインピンジメントオーブンの活用を模索し誕生したのがガストだった。ガストの厨房は、すかいらーくの厨房にエアーインピンジメントオーブンを入れただけで、グリルもフライヤーを備えている。

そのシステムに着目し徹底したのがサイゼリヤだ。サイゼリヤの厨房の加熱機器は、エアーインピンジメントオーブンと電磁コンロしかない。パスタは工場でゆでて急速冷却して店舗の配送し、電磁コンロでソースと和える。ハンバーグやステーキ等の肉類は電磁コンロで加熱した鉄板に置き、エアーインピンジメントオーブンで加熱する。揚げ物は工場で上げ、店舗でエアーインピンジメントオーブンで加熱する。

この仕組みでピーク時でも3名で厨房を回せるので、あの低価格が実現した。

このように合理的な物の管理と理解が多店舗展開に必要なのだ。

 宅配ピザのシステムを詳細に述べた以下の私の記事をご参照ください。

<宅配ピザショップの必要機器>

<原材料>

<店舗選定基準>

<今後のピザマーケットの方向>

<シカゴスタイル・ピザのレシピー>

ピザ宅配店のシステム

3)精密設計の必要なドライブスルー

 コロナ禍でも、人を避けて持ち帰れる便利なドライブスルーが力を出し、ファストフードの店舗は元気だった。

  ファーストフードの最大の特徴は持ち帰りが多く効率が良いことである。お客様にとっても、注文をしてから待たないですぐに食べられるので、忙しい現代人のための究極のシステムが、車から降りないで商品が買える、ドライブスルー形態なのだ。

  ドライブスルーの店舗では売上の50%がドライブスルーによる売上である。その店内の売上のうちの更に半分も持ち帰りになるのである。つまり、全体の売上の75%が持ち帰りになる。

<ドライブスルーシステムの種類>

1)シングルウインドードライブスルー

  さて、ドライブスルーであるが、分散処理方式のカウンターと同じサービス方法を取っていると、1時間に30組しかさばけない。ドライブスルーは客単価が高いので1組あたり1,000円としても、30,000円しか売れないのでは困るのである。

そこで流れ作業方式のレジスター方式を取り入れたのである。まずドライブスルーに並んだお客様はオーダーボードでオーダーをいれる。オーダーボードとは写真入りのメニューと特別のプロモーションメニューボードにカメラ、マイクロフォン、スピーカーを設置してあり、ここでメニューを撰び、オーダーを入れる。

店内ではオーダーテーカー(注文を受ける人)がオーダーを取りすぐにPOSに入力している。入力されたメニューはディスプレーに表示され、製造担当と取り揃え担当の人がそれを見て作業にはいる。ディスプレーに表示されてからでは遅いので、ワイヤーレスコミュニケーションシステムを使用しオーダーを入れた時点で作業に入るようにする。

  次にキャッシングウインドーで代金を支払い、商品を受け取る。オーダーテイクに1名、キャッシングに1名、商品の取り揃えに2名の販売員を置くことにより、1組あたりの所用時間を30秒にすることができる。

これにより理論的に1時間最大で120台の車を捌くことができるのである。客単価1,000円として、12万円の売上になる。しかしながら、まだオーダーの仕方を理解していないお客様や、子供連れの場合の注文が遅かったりするため、現実には100台が限界である。そうすると、1時間に125,000円売ることはできなくなる。

2)ダブルウインドードライブスルー

  そこで、一つの窓口(ウインドー)で代金の授受と商品の受け渡しをするのでなく、オーダーテイクをした後に、もう一つの窓口で代金の授受をし、次の窓口で品物の受け渡しをする方式が考案された。これにより15秒間に1台の車を捌くことができるようになったのである。ロスを考えても1時間に200台の車を捌けるようになったのである。

3)ダブルレーンドライブスルー

  米国ではサービスのスピードが最も重視されるので、更にドライブスルーのスピードアップと、能力アップが要求され出した。そこで出てきたのが、上記のダブルウインドードライブスルーを建物の左右両サイドにもうけ、2倍の能力を実現した。これにより1時間に400台もの車を捌くことが可能になったのである。

  このため、大手ハンバーガーチェーンに対抗して、ドライブスルーオンリーのチェーンのチェッカーズ、ラリーズ、ホット&ナウが誕生し急成長したのである。

4)対面オーダーテイクシステム

  ドライブスルーが普及するに従い、お客様はスピードアップという点で満足したが、問題点も出てきたのである。オーダーテークをマイクを通して行うことにより、応対が冷たく感じられたり、オーダーの間違いが数多く発生するようになってきた。

  元々ドライブスルーは売上の20-30%位のセールスを予想して追加してきたのであるが、現在では、50%をこえ55%位にまで上昇してきているのである。そこで、もっとドライブスルーのお客様へのサービスに力をいれても良いのではないかということになってきた。

  そこで、現在2つあるウインドーにもう一つウインドーを追加して、対面でオーダーをとるようになってきた。オーダーを受けてその際に、塩やケチャップなどの調味量やストロー、ナプキン、コーヒークリーム、砂糖などを渡すのである。

これにより、スピードがアップするわけではないが、オーダー受けの正確さが上昇し、人間がオーダーを受けるのだという柔らかいサービスを訴求することに成功した。

5)タンデムオーダーシステム

  時間を短縮するためにオーダーを取るのを2台ずつまとめてとるシステムである。これにより時間が短縮できる。しかしオペレーションが複雑なためまだあまり普及していない。この考え方は近畿自動車道の吹田インターで料金所の新システムとしてテストして混雑の解消に成功している。

6)アウトサイドオーダーテーカー

  上記のシステムは米国では成功したが日本ではなかなかうまくいっていないのである。日本と米国の違いは売上パターンである。米国の売上の最も高いのは金曜日の昼と、地区によっては土曜日である。

しかし、平日の5日間の売上は大変安定しているのである。日曜日は原則的にキリスト教国である米国では、安息日であり、朝は教会にいき午後は家でのんびり過ごすので売上は最も低いのである。平日の売上が8だとすると日曜日は6であり、金曜日が9位なのである。余り売上に変動がないので、ドライブスルーに投資をしても採算にあうのである。

  しかし、日本の売上は全く反対である。平日の売上が4だとすると土曜が6、日曜は10にもなる。勿論オフィス街の店舗は土日の売上は低いのだが、郊外に行くと、日曜の売上が平日の4倍にもなる。

  その日曜日のピーク売上のためにだけドライブスルーの設備をかけても問題がある。また、売上は、夏場が最大であり、天気が悪いときは売上が悪い。そこで天気の良い日のみ外で人間がオーダーをとって、そこでリモート操作できるレジスターでオーダーをとってしまおうとした。

これをアウトサイドオーダーテイクシステムといっている。対面でオーダーがとれるので、オーダーミスがなくなり、スピードも上がるというメリットがある。投資コストはPOSのケーブルとコミュニケーション用のケーブル配管のみで良いので経済的である。

場合によっては、現金の授受も外部で行うことによりサービスのスピードを向上することが可能である。しかしながら、安全性の問題から特別な場合を除いてお勧めできない。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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