モスバーガー 2回目

レストランチェック

 第一回でモスバーガー共栄会のご説明をしました。

 共栄会の組織があればマニュアルなしでも大丈夫なくらいすごい組織です。マニュアルは初期のマクドナルドそっくりですが、店舗ではちょっと違います。ハンバーガーのミートパティを焼くのも、マックのように時間管理でなく、焼けの状態を目や触感で確認しながら丁寧に焼きます。

 その大きな理由は肉やバンズ、野菜、ソースなどの原材料の違いです。マクドナルドは牛肉100%ですが、モスは牛と豚の合い挽きです。そのため焼き上がりがちょっと異なります。もっともモスはちょっと迷いがあり、マックを意識して牛100%にしたこともあります。また焼くグリルもマックのようなクラムシェルで高速に焼いたこともあります。でもクラムシェルで合い挽きは美味しくないのです。モスのミートパティは時間をかけてじっくり焼いたほうがふっくらと美味しいのです。また、バンズの違いもあります。マックのバンズはあまり味がしないのですが、モスのバンズは日本人好みの甘さがあります。そのため、マックのように高温で短時間で焼くと美味しさが出ません。鉄板でじっくり焼くと香ばしくなり、ほんのりと甘くなります。

 また、モスはすべての野菜を丸ごと仕入れ、店舗でカットします。マックはレタスもトマトもスライスして納品します。そのため日本のトマトはスライスすると型崩れし、普段は取り扱いしません。

 一番違うのが玉ねぎです。マックがミートパティに乗せる玉ねぎのみじん切りは、乾燥したものを水で戻しているので香りや歯触りがしません。モスは新鮮な玉ねぎを刻んで水にさらして使います。そのため、香りがあって歯ごたえが良いのです。モスバーガーのオリジナルのモスバーガーは、合い挽きの肉にトマトとミートソースに刻み玉ねぎを入れます。私は注文時に玉ねぎ増量をお願いします。そうすると香りがよくシャキシャキとした玉ねぎの触感を楽しめます。

 モスバーガーは商品もよいのですが、従業員の訓練もすごいのです。特に凄いのは女子社員のやる気と能力です。新店舗の立ち上げなどで活躍するのですが、それは優れています。社員やフランチャイジーを大事にするのが見て取れます。

 受付の丁寧さに見て取れます。モスバーガーの本社を訪問すると、受付嬢が丁寧に応対し、すぐに飲み物を出してくれます。多くのフランチャイジーが訪問しますが彼らにも丁寧に接遇します。フランチャイジーもお客様だという考え方です。

 こんな良いことづくめのモスバーガーですが、近年元気がありません。共栄会の欠点は多店舗展開を妨げているようだし、フランチャイジーの老齢化もあり、店舗数が減る傾向があります。

モスの店舗数動向 を見てください

https://www.mos.co.jp/company/ir/finance_results/0301/

 以下王のちょっと厳しいコメントです、次回から現在の状況とモスの強い台湾のお話をしましょう。

2017年王記事 モスバーガー絶不調の原因「講談社日刊ゲンダイ記事」

 マクドナルドは2014年、2015年、2016年は絶不調で、競合他社は業界トップ企業の不振の隙に店舗数や売り上げを大きく伸ばしたのではないかと思われるだろう。ところが2017年11月11日の日本経済新聞・朝刊で「モスバーガーが苦戦している。10日発表した2017年4-9月期決算は純利益が前年同期比17%減の15億円だった。最高益を見込む日本マクドナルドとの差は歴然で、その背中はほとんど見えない。売りにしていた健康メニューが埋没し、安くもなく高くもない価格も客離れにつながった。3位以下の突き上げも激しいバーガー戦国時代を生き抜けるのか?」と厳しく書かれている。競合のマックが不振の間になぜ業績を伸ばせなかったのだろうか?

モスバーガー店舗数

http://www.mos.co.jp/company/outline/store_data/

http://www.mos.co.jp/company/ir/finance_results/0301/

モスバーガー業績 2015年

http://biz-journal.jp/2015/07/post_10704.html

モスバーガーの売り上げと利益推移

https://www.nikkei.com/nkd/company/?n_cid=DSMMAA13&scode=8153

モスバーガー社長桜田厚氏 社交退任会長就任時コメント

http://toyokeizai.net/articles/-/116369

モスバーガー沿革

http://www.mos.co.jp/company/outline/history/1972_1989/

2017年 四半期決算

https://www.mos.co.jp/company/ir/library/soa/

過去5年の決算

https://www.mos.co.jp/company/ir/finance_results/0101/

過去の決算

http://www.mos.co.jp/company/ir/library/valuable_securities/

 マクドナルドは不振脱却のため1000店舗以上の店の改装によるイメージ改善と、メニューの刷新(日本人好みの商品開発と、安全訴求)、マーケッティングの刷新を行ったが、実はこれら手法はすでにモスバーガーが2000年頃より先行して行ってきた手法である。

 モスバーガーは日本マクドナルドとほぼ同時代に創業し、1980年代にはマクドナルドに迫る勢いで急成長を遂げていた。モスバーガーは一等地に出店するマクドナルドとは異なり、2等地戦略であった。しかし、1980年代後半に、テリヤキチキンバーガー、ホットドッグ、モスライスバーガー、ロースカツバーガー、など独特な和風メニューを発売し、力をつけたモスバーガーはマクドナルドと直接バッティングする大型店を都心に開業するようになった。

 しかし好調だったモスバーガーの創業者桜田慧(さとし)社長が1997年に60歳の若さでスキャンダラスな急死を遂げたことで暗転する。桜田慧氏の後を継いだのは叩き上げでフランチャイジーを経験したベテランであったが、創業家が反対し1年もたたない間に社長が交代し会社の方針が定まらない状態に陥った。そこに創業時のメンバーであり、創業家と姻戚関係のある(創業者の甥)現会長の桜田厚氏が社長に就任し安定させた。

 創業者の桜田慧氏の急死当時、経営幹部はモスバーガーの根本的な見直しを開始していた。元々モスバーガーの強みは、日本人向けの味付けの商品、コストの安い2等地立地、独特のフランチャイズシステムの3つである。しかし急成長する1980年代に迷いが生じ、マクドナルドの一等地戦略や、商品提供時間の短縮を志向しだした。看板の色はもともとマクドナルドと同じで、赤地に黄色のM マークを配置していたが、黄色のMマークをマクドナルドのように大きくはみ出させた(後にマクドナルドの抗議を受けMマークを白に変えた)。調理時間を短縮するために高速にミートパティを焼き上げるクラムシェルグリル(マクドナルドで使用しているのと同タイプ)や、日本人の好みに合った牛豚の合い挽きを牛100%に変更するなどの試行錯誤を行ったが、フランチャイジーの多いモスバーガーは1980年代後半から低価格戦略にシフトしたマクドナルドのような低価格にシフトすることができず不振状態に陥っていた。

 モスバーガーは日本生まれであるが、原点は米国ロサンゼルスの老舗ハンバーガーチェーンのトミーズの日本化である。創業者の桜田氏が証券会社勤務時に米国LAに駐在した際に、トミーズのミートソースをたっぷり使ったジューシーなハンバーガーに出会ったのである。そのトミーズのハンバーガーをもとに、日本人に合う味に変更し、日本人の好きな牛豚の合い挽き肉を組み合わせることで人気商品が誕生した。その経緯から、モスバーガーは米国のハンバーガー業界を念入りにウオッチしていた。

 そのウオッチング活動で、1998年頃に米国の飲食業界で急成長しつつあるファスト・カジュアルという業態に注目した(まだその言葉は誕生していなかったが)。この業態の創始者は1982年にレストランコンセプト作りの天才フィル・ロマーノ氏Phil Romanoが開業した、高級ハンバーガーチェーンのファドラッカースFuddruckersだと言われている。マクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーチェーンは冷凍の食材を使って、調理工程を見せていないため、消費者は冷凍食品を電子レンジで温めているだけではないかという不信感を抱いている。そこで、店内にはオープンキッチンの肉処理工程や野菜加工、ベーカリーまで設置し、素材感の訴求と、調理工程を見せるようにして大人気を得た。

 消費者はファスト・フードの料理は健康的でないという不信感も抱いているので、ファスト・カジュアル業態は食品添加物や動物性油脂、冷凍食品、調理済み食品を使わずそれを顧客にアッピールする。サービス面でもファストフードは作り置きの商品を素早く提供するために冷凍食品をアルバイトが電子レンジでチンと温めるだけと思われがちだ。そこで、ファスト・カジュアル業態はセミセルフサービスで、注文してお金を払ってから客席につき、料理は後から運ばれる。料理はオープンキッチンで注文後作りだし、出来たて感をアッピールする。大人向けのメニューで、客単価は6ドルから10ドルの間でファスト・フードの倍近い。内外装デザインは落ち着いた洒落たデザインを採用している。ファスト・フードとの決定的な違いはワインやビールなどの軽いアルコールを提供していると言うことである。この業態は、ベーカリーカフェ、ハンバーガー、スープサラダ、イタリアン、アジアン、メキシカン、ベーカリー、HMRまでも含んでいる。

 ファスト・カジュアル業態は不健康でダサいというイメージを持たれているファスト・フード業界に差別化するため、店舗の外観や大看板を変更した。当時のマクドナルドなどのファストフードは目立つように、プラスチックの看板に内部から明るい光を当てる行灯方式で、赤や黄色などの原色を使っていた。それが不健康なファスト・フードを連想させるとして、プラスチックの行灯タイプの看板や赤や黄色の原色を使わないようにした。

 食材面でも、生の食材を店舗内で客に見えるように加工調理する。当時の米国で流行りだした食べ方が、最近日本でも取り上げられるようになった、低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエットやロカボとも呼ばれる)だ。当時のLAで大人気のIN&OUTアウトバーガーの裏メニューにあるプロテインと呼ばれるハンバーガーは、炭水化物であるバンズを使用せず、レタスの葉で肉を包んで提供する。同様のメニューは最近日本にも進出した、カールスジュニアでも提供している。

 マクドナルドでは生産性のためにビッグマックなどで使うレタスを刻むのは工場だし、季節によっては海外から輸入する。刻みオニオンも乾燥した玉ねぎを水で戻しているだけだ。モスバーガーは丸ごとのレタスや玉ねぎを店舗でカットする。その手間をかけた調理方法はまさにファストカジュアルそのものだと気が付いた。そこで新デザインの野菜を強調する看板や店舗デザインの店舗を1998年に三軒茶屋にテスト開業した。その手作り感のある看板と野菜を強調した店舗を2000年代に大々的に展開することになり、緑モスと呼ばれるようになった。緑モス展開時には米国で人気のロカボメニューにヒントに開発したメニュー・匠味レタスを備えていた(大型のミートパティをバンズでなくレタスの葉で巻いた高額のハンバーガー)。この緑モスを武器にフランチャイジーに古臭くなった店舗を改装させるようになったのだ。

 この緑モスへの転換は話題となり、業績を大きく伸ばすことに成功した。それなのにモスバーガーはマクドナルド不振の際に業績を伸ばすことができなかった。この大きな原因はモスバーガーの強みであった、フランチャイズ・システムであろう。直営中心のマクドナルドと異なり、好調時のモスバーガーはフランチャイジーの店舗が中心であり、直営店舗は100店に満たなかった。しかし最近の直営店舗数はなんと300店舗以上になっている。モスバーガーの強みは地方の優秀な個人フランチャイジーが多いことであり、最盛期には500名近いフランチャイジーがいた。またフランチャイジーの指導は、本社が行わず、フランチャイジーに共栄会という組織を作らせ、その共栄会が店舗同士を指導するという独特の効率の良いシステムであった。

モスバーガー共栄会

http://www.mos.co.jp/company/csr/society/kyoeikai/

 因みに、モスバーガーとマクドナルド本社へ訪問するとその違いがよくわかる。マクドナルド本社はビジネスライクのそっけない対応で、よほど重要な顧客以外にはお茶一杯も出さない。モスバーガーの本社を訪問するとにこやかな受付嬢(派遣社員ではあるが)が応対し、コーヒーなどの飲み物が丁寧に出される。理由はフランチャイジーの訪問が多く、フランチャイジーは大事な顧客であるというモスバーガーの考え方である。

 このフランチャイジーを丁寧に扱うという趣旨は成長時代にはよかったのであろうが、日本の人口減やデフレ経済の日本ではマイナスとなっているようだ。比較的早くから個人オーナーによるフランチャイジーを展開していたが、それらのフランチャイジーや企業の老齢化が進行している。そのため、店舗のリニューアルが遅れたり、廃業するフランチャイジーの店舗を買い取るため直営店の増加につながっているのだろう。

 もう一つの脅威がある。マクドナルドが不振の間に店舗数を伸ばせなかったのは同業との業績激化ではなく、異業種との競合激化である。それはコンビニの売り上げ増大と低価格戦略である。マクドナルドが100円コーヒーで話題となるやコンビニも100円コーヒーを売り出し、マクドナルドに大きなダメージを与えた。また最近のコンビニ・ドーナツの販売はミスタードーナツに壊滅的なダメージを与えた。カウンターで販売するフライドチキンもKFCの成長を止めている。30年以上前から、マクドナルドの最大の強豪はコンビニであるが、立地の違いから店舗同士という意味では明確でなかった。それに引き換え2等地立地を強みとする、比較的価格の高いモスバーガーは店舗を囲んだコンビニに大きなダメージを与えられているようだ。筆者の自宅近くにモスバーガーの1000号記念店があった。今年に改装が始まったので期待していたら、完成したらなんとモスバーガーはなくなり、隣のセブンイレブンが店舗を拡張し、総菜を強化したイートイン客席を備えた店に代わった。これがモスバーガーの真の不振を物語っているようだ。

ファスト・カジュアル

低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエット)

 ファスト・フード業界ではモスに次ぐチェーンは、ロッテリア、フレッシュネスバーガー、ファーストキッチンを傘下に入れたウエンディーズ、バーガーキングが態勢を刷新しつつあり、マクドナルド不振の最中に海外からは高級で健康的な商品のイメージのハンバーガーチェーン、カールスジュニア、シェイクシャック、UMAMIバーガー、ザ・カウンターなどが参入し、品質が売り物のモスバーガーを脅かし始め、日本人好みの新商品を売り出したマクドナルドも脅威となるだろう。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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