モスバーガー絶不調の原因「講談社日刊ゲンダイ記事」

 昨年2017年は、ファストフード業界を激変が見舞った年だった。
明暗の「明」となったのは、鮮やかな回復劇を見せたマクドナルドだ。
周知の通り、日本マクドナルドは2014年秋、中国における食材供給業者の「賞
味期限切れ食材」問題、中国政府による不衛生な工場の摘発というダブルパン
チに見舞われた。それにより不振に陥ったところへ、2015年正月の異物混入事
件がダメ押しとなって、年間349億円もの最終赤字を計上。3期連続の最終赤
字となり、その間で実に全店舗数の3割に当たる1000店舗近い閉店を余儀なく
された。
しかし2017年には、過去最高益となる営業利益を叩き出す見通しで、どん底か
ら見事に這い上がった。(その原因をかいつまんでいうと、何でしょうか?徹
底したリストラと直営店のフランチャイズ化とメニュー開発やマーケッティン
グの刷新である。)あまりの好調ぶりに、2017年12月21日にはテレビ東京の「
カンブリア宮殿」で取り上げられたほどである。
マクドナルドの売り上げと利益推移
https://www.nikkei.com/nkd/company/?scode=2702

カンブリア宮殿
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/2017/1221/

マック回復
http://www.sankei.com/premium/news/171213/prm1712130001-n1.html

2017年11月9日の日本経済新聞朝刊では、マクドナルドの「2017年1〜9月期の
連結決算は純利益が154億円と前年同期の4.8倍に膨らんだ」と伝えられている

逆に言うと、マクドナルドは2014〜2016年は絶不調だったということだ。では
、競合他社は業界トップ企業の不振の隙をついて、その間に店舗数や売り上げ
を大きく伸ばしたのではないか、と思われるかもしれない。
ところが、マクドナルドと入れ替わるようにして、ハンバーガー業界2位のモス
バーガーが、いま創業以来2度目の絶不調に陥っている。
2017年11月11日の日本経済新聞朝刊では、「モスバーガーが苦戦している

。10日発表した2017年4〜9月期決算は純利益が前年同期比17%減の15億円だっ
た。最高益を見込む日本マクドナルドとの差は歴然で、その背中はほとんど見
えない。売りにしていた健康メニューが埋没し、安くもなく高くもない価格も
客離れにつながった。3位以下の突き上げも激しいバーガー戦国時代を生き抜
けるのか?」と厳しく書かれている。
ライバルであり先行者であるマックが不振の間、モスは一体、何をしていたの
だろうか?
モスバーガー店舗数
http://www.mos.co.jp/company/outline/store_data/
http://www.mos.co.jp/company/ir/finance_results/0301/

モスバーガー業績 2015年
http://biz-journal.jp/2015/07/post_10704.html

モスバーガーの売り上げと利益推移
https://www.nikkei.com/nkd/company/?n_cid=DSMMAA13&scode=8153

モスバーガー社長桜田厚氏 社交退任会長就任時コメント
http://toyokeizai.net/articles/-/116369

モスバーガー沿革
http://www.mos.co.jp/company/outline/history/1972_1989/

2017年 四半期決算
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=yuho_pdf&sid=2606403

過去5年の決算
http://www.uforeader.com/v1/se/E02675_S1008075_4_4.html

過去の決算
http://www.mos.co.jp/company/ir/library/valuable_securities/

2017年、マクドナルドが不振脱却のために注力したのは、1000店舗以上の改
装によるイメージ改善と、メニューの刷新(日本人好みの商品開発と、安全性
のアピール)、マーケティングの刷新だった。
実は、これらの手法はすでに、モスバーガーが2000年頃から先行していた手法
である。本稿ではモスバーガーの歴史をたどり、その独自の戦略の強みと限界
、そして今不振に陥っている理由を探ってみよう。
1971年創業の日本マクドナルドとほぼ同時期、1972年に創業したモスバーガ
ーは、1980年代にはマクドナルドに迫る勢いで急成長を遂げていた。
もともと、モスバーガーの出店戦略は、銀座などの「一等地」に出店するマク
ドナルドとの差別化を図り、商店街でも駅から遠いエリアや、住宅地との境界
などに出店する「二等地」戦略であった。しかし1980年代後半には、テリヤキ
チキンバーガー、ホットドッグ、モスライスバーガー、ロースカツバーガーな
どの独特な「和風メニュー」を発売し、これがヒットとなる。力をつけたモス
バーガーは、やがてマクドナルドと直接バッティングする大型店を都心に開業
するようになった。
しかし、好調だったモスバーガーは、創業者である桜田慧(さとし)社長が
1997年、60歳の若さでスキャンダラスな急死を遂げたことで暗転に見舞われる

桜田氏の後を継いだのは、叩き上げでフランチャイジーを経験したあるベテラ
ン社員であったが、創業家が反対し、1年もたたない間に社長が交代、会社の方
針が定まらない状態に陥った。そこに創業時のメンバーであり、創業家とも姻
戚関係のある(創業者の甥)現会長の桜田厚氏が社長に就任し、ようやく安定
させた。
創業者の桜田慧氏が急死した当時、モスバーガーの経営幹部は根本的な戦略の
見直しを開始していた。
当時、モスバーガーの強みは、①日本人向けの味付けの商品、②コストの安い
二等地への出店、③独特のフランチャイズシステムの3つであった。
しかし、急成長を経験した1980年代後半に「迷い」が生じ、マクドナルドの一
等地戦略を真似たり、商品提供時間の短縮を志向したりし始めた。1980年代
〜90年代のモスバーガーの看板は、マクドナルドと同じ「赤地に黄色のM マー
ク」だったが、○年ごろから黄色のMマークをマクドナルドのように大きくは
み出させるようになったた(この意匠が後にマクドナルドの抗議に遭い、Mマ
ークを白に変えた)。

さらにメニューの面でも、調理時間を短縮するために高速でミートパティを焼
き上げられるクラムシェルグリル(マクドナルドで使用しているのと同タイプ
)導入や、「日本人の好みに合う」という理由で使っていた牛豚の合い挽きを
、マクドナルドと同じ牛100%に変更するなど、マクドナルドを後追いするか
のような試行錯誤を行った。
だが、フランチャイジーの多いモスバーガーは、1980年代後半から低価格戦略
を本格化させたマクドナルドに対抗できるほどには低価格にシフトすることが
できず、1990年代を不振の中で過ごすことになった。
モスバーガーという企業は日本生まれであるが、その原点は米国ロサンゼルス
の老舗ハンバーガーチェーン「トミーズ」の日本化である。
創業者の桜田氏は、証券会社勤務時代に米国LAに駐在した際、たまたまトミー
ズを訪れ、ミートソースをたっぷり使ったジューシーなハンバーガーに出会っ
た。桜田氏はそのトミーズのハンバーガーを日本人に合う味に変更し、パティ
も日本人の好きな牛豚の合挽き肉にすることで、人気商品を誕生させた。そう
した経緯もあって、モスバーガーは米国のハンバーガー業界をいつも念入りに
ウォッチしていた。
その中でモスバーガーが注目したのが、1998年頃から米国の飲食業界で急成長
を遂げた「ファスト・カジュアル」という業態だった(当時、まだその言葉は
誕生していなかったが)。
「ファスト・カジュアル」業態の始まりは、「レストランコンセプト作りの天
才」といわれた経営者フィル・ロマーノ氏が1982年に開業した、高級ハンバー
ガーチェーンの「ファドラッカース(FuddruckersFuddruckers)」だと言われて
いる。
http://www.fuddruckers.com/
マクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーチェーンは、冷凍の食材を
使い調理工程を見せないため、消費者は「冷凍食品を電子レンジで温めている
だけではないか」という不信感を抱いている。そこで「ファドラッカース」は
、店内にオープンキッチンを設けて肉や野菜の処理・加工工程を見せ、さらに
ベーカリーまで設置し、素材感の訴求によって大人気を得た。
(https://www.sayko.co.jp/article/leisure/2004-10.htm)
消費者のファストフードに対する不健康なイメージを打破するため、ファスト
・カジュアル業態では食品添加物や動物性油脂、冷凍食品、調理済み食品をな
るべく使わず、またそのことを顧客に大々的にアピールする。
サービス面でも、ファストフード店は「作り置きの商品を素早く提供するため

に、冷凍食品をアルバイトが電子レンジでチンしているだけ」と思われがちだ
。そこで、ファスト・カジュアル業態は「セミセルフサービス」方式をとる。
客は商品を注文してお金を払ってから客席に座り、料理は後から運ばれる。注
文の後にオープンキッチンで作り始めることにより、出来たて感をアピールす
るのだ。
「ファドラッカース」のメニューはマクドナルドなどに比べて大人向けで、客
単価も6ドル〜10ドルと倍近い。さらに、ファストフードとの決定的な違いが
、ワインやビールなどの軽いアルコールを提供しているということである。そ
の後米国のファスト・カジュアル業態は、ハンバーガーだけでなくベーカリー
カフェ、スープサラダ、イタリアン、アジアン、メキシカン、HMR(惣菜)な
ど様々なスタイルに発展していった。
もうひとつ、ファスト・カジュアルの店舗がこだわるのは「見た目」である
。「不健康でダサい」というイメージが強いファストフードの店舗と差別化す
るため、店舗の外観や大看板を工夫した。当時のマクドナルドなどは、とにか
く目立つように、赤や黄色の原色のプラスチックの看板に内部から明るい光を
当てる「行灯方式」だった。それが一層不健康なイメージを強めるとして、フ
ァスト・カジュアルではプラスチックの行灯や原色を使わないようにした。内
外装デザインも、木材を多用した、落ち着きのある洒落たデザインを採用して
いる。
そして、最後に触れておきたいのが食材の違いだ。ファスト・カジュアルでは
、生の食材を店舗内で客に見えるようにして加工調理する。しかも、できるだ
け新鮮な野菜を多用するのである。
ファスト・カジュアルの店を起点として、2000年前後に米国で流行ったのが、
最近日本でも普及している「低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエットや
ロカボとも呼ばれる)」だ。当時のLAで大人気だったハンバーガーチェーン
「IN&OUT」の裏メニュー「プロテイン」と呼ばれるハンバーガーは、炭水化
物であるバンズを使用せず、レタスの葉で肉を包んで提供する。ちなみに同様
のメニューはモスバーガーで現在「菜摘」として定番で提供されているし
、2014年に日本にも進出した「米国内のカールスジュニア」にもある。
マクドナルドでは、生産性向上のために、ビッグマックなどで使うレタスは工
場で刻んでおり、季節によっては国産ではなく海外から輸入したものになって
いる。刻みオニオンも、乾燥玉ねぎを水で戻しているだけだ。
桜田慧社長が亡くなる以前から、モスバーガーは丸ごとのレタスや玉ねぎを店
舗でカットする方式を採用していた。調理に手間をかけ、その様子を客に見せ
る。このファスト・カジュアルの発想は、まさしくモスにマッチしているので

はないか——そう考えたモスバーガーの経営陣は、1998年に新デザインの看板
と内装を備えた店舗を三軒茶屋でテスト開業した。手作り感のある緑色の看板
と、野菜を強調した商品ビジュアルから、後年「緑モス」と呼ばれるようにな
ったタイプの店舗である。
このテスト店舗の快調により、モスバーガーは「緑モス」を2000年前後から大
々的に展開していった。目玉商品は、大型のミートパティをバンズでなくレタ
スの葉で巻いた高額のハンバーガー「匠味レタス」。前述したように、当時米
国で大人気だったロカボメニューをいち早く取り入れたのだ。さらに「緑モス
」の好調は、フランチャイジーに古臭くなった店舗を改装させる格好の動機に
もなった。
この「緑モス」への転換が契機となり、モスバーガーは業績を大きく伸ばした
だけでなく、ハンバーガー業界で確固たる地位を築くことにも成功した。決し
て業界トップを獲りに行くわけではないが、いわば「永遠の二番手」ともいう
べき独特の立ち位置を確立した同社のその後は、皆さんもご存知の通りだろう

しかし今、モスバーガーは突然の不振に陥っている。理由は大きく言ってふた
つ考えられる。
第一の原因は、モスバーガーの「強み」であったフランチャイズ・システムで
あろう。直営店中心のマクドナルドとは異なり、好調時のモスバーガーはフラ
ンチャイジーの店舗が中心であり、全国約1500店のうち直営店舗は100店に満
たなかった。
しかし最近では、直営店舗数がなんと300店舗以上に増えている。
かつて、モスバーガーの強みは地方の優秀な個人フランチャイジーが多いこと
であり、最盛期には500名近いフランチャイジーがいた。また、店舗経営の指
導は本社が行うのではなく、フランチャイジーに「共栄会」という組織を作ら
せ、その共栄会が店舗同士を指導するという、独特ながら効率の良いシステム
であった。
モスバーガー共栄会
http://www.mos.co.jp/company/csr/society/kyoeikai/

ちなみに,モスバーガーの本社とマクドナルドの本社へ訪問すると、両社の違い
がよくわかる。マクドナルドの本社はビジネスライクなそっけない対応で、よ
ほど重要な顧客でなければお茶一杯も出さない。一方、モスバーガーの本社を
訪問すると、にこやかな受付嬢(派遣社員ではあるが)が応対し、コーヒーな

どの飲み物が丁寧に出される。その理由は、フランチャイジーの訪問が多いこ
となのだ。「フランチャイジーも大事な顧客である」というモスバーガーの考
え方がここに表れている。
この「フランチャイジーを丁寧に扱う」という哲学は、成長が続いた時代には
プラスに働いたのだろうが、日本全体の人口減とデフレ経済の継続で、いつし
かマイナス要素となってしまった。業界でも比較的早い時期から個人オーナー
によるフランチャイジーを展開したために、彼らの高齢化が進行しているのだ
。それによる店舗リニューアルの遅れを解消したり、廃業するフランチャイジ
ーの店舗を買い取る必要が生じたりしていることが、直営店の増加につながっ
ているのだろう。
もうひとつ、以前とは大きく環境が変わった点が、「異業種」との戦いの激化
だ。
マクドナルドが3年にもわたって不調だった間、モスバーガーは店舗数を伸ば
すことができなかった。その理由は同業他社ではなく、異業種との競合激化だ
った。特に脅威となったのが、コンビニの売り上げ増大と低価格戦略である。
マクドナルドが「100円コーヒー」で話題を呼んだ時、コンビニ各社も「100円
コーヒー」を売り出し、マクドナルドに大きなダメージを与えた。また近年の
コンビニ・ドーナツの販売は、ミスタードーナツに壊滅的ダメージを与えてい
る。カウンターで販売するフライドチキンも、KFCの成長を止めている。
前述したように、マクドナルドをはじめとするファストフードチェーンは「一
等地」への出店にこだわるため、地の利でこれを多少はカバーできる。しかし
、「二等地戦略」を強みとしてきた、しかも比較的価格の高いモスバーガーの
場合、近隣のコンビニがダイレクトな競合となり、より大きなダメージを与え
られているようなのだ。
以前、筆者の自宅近くには、モスバーガーの1000号記念店があった。2017年
に入って改装が始まったので、どんな店になるのかと期待していたのだが、工
事が終わるとなんとモスバーガーはなくなり、隣のセブンイレブンが店舗を拡
張して、惣菜を強化したイートイン客席を備えた店に変わってしまった。まる
でモスバーガーの不振の原因を物語っているかのようだった。
ファスト・カジュアル
http://sayko.co.jp/article/syogyo/insyoku/2005/2005-01.htm

低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエット)
http://sayko.co.jp/article/leisure/2004-2.html

http://sayko.co.jp/article/leisure/2004-3.html

さらに今後、モスバーガーを脅かすであろう存在が、続々と日本展開を始めた
「黒船」である。
現在、ファストフード業界では、モスバーガーを追うロッテリアやフレッシュ
ネスバーガー、さらにファーストキッチンを傘下に入れたウエンディーズ、バ
ーガーキングなど、各社が一斉に態勢を刷新しつつある。そこに加え、マクド
ナルド不振の間隙を突くようにして、海外から高級・健康的イメージのハンバ
ーガーチェーンであるカールスジュニア、シャイクシャック、UMAMIバーガ
ー、ザ・カウンターなどが続々と参入してきている。
海外からの「黒船ハンバーガー」は、「品質」「健康志向」を最大の売りにし
てきたモスバーガーと、真っ向からバッティングすることになる。モスバーガ
ー復活の道は、意外にも長く険しいものになるのかもしれない。

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