外食産業基礎コース 第8回目 物の管理 その3

レストランチェック

客席のレイアウトもドライブスルーや宅配ピザのように科学的なアプローチが必要なのだ。

 SVの仕事は店舗の管理だけでなく、不動産オーナーとのコミュニケーションも含んでいる。私が直前まで店長を務めていた駅前のお茶に水店では、頻繁にオーナーと接触しており、時々コーヒーなどを持って遊びに行っていた。

ある日オーナーから「会社の取引先が本屋街の学生の多い街で不動産を持っており、それをマクドナルドに貸したい」と言っていると言う情報をもらった。筆者はすぐにそこを訪問し、トントン拍子に新店舗の開店がまとまった。当然の事ながら私がその担当SVとなり、神田小川町店として開店した。

 事務所兼住宅の物件であったから、間口は5メートル弱と狭いが、奥行きの深い店だった。総面積は十分にあり、2階を客席、3階を倉庫・事務所で使えるので、家賃比率も低いと好条件だった。学生街で人通りの絶えない忙しい街だったので、売り上げはかなり上がるだろうと予測していた。しかし、開店してその予測は物の見事にはずれてしまった。

 すぐ近所の筆者のもう一つの担当のお茶の水店は客席がないにも関わらず駅前で通行量が多いので売れていた。この神田小川町店はそれよりも店前の通行量は少ないが、2階に客席を100席ほど持っているのでお茶の水店と同じくらい売れるはずだった。ところが開店してみると売り上げはお茶の水店の1/4以下という惨状だった。

 ここで分かったのが、客席の設計が間違っていたという事だ。100席あったが、4人掛けの客席が25テーブルだった。店舗デザインの設計者や設計担当が、米国の客席デザインの原理原則を理解しないで設計していたわけだ。

 一組の客が必ず4人であればこの客席には100人の客が座ることが出来る。しかし、一組あたりの客数は,曜日、時間帯、ロケーションにより異なる。郊外のファミリー客が多い場合、1家族4人の同伴人数だと、1つのテーブルに4人掛けの椅子があるのは適正だが、この店舗のように学生街で同伴人数が2人と少ないと100席の客席があっても、50人座れば満席状態となってしまう。

 昼時には相席をしてもらえればよいのだが、相席がし難いという問題もあった。マクドナルドのイートインの場合,一階のカウンターでプラスチックのトレイに商品を乗せてもらいそれを客席に運んでいく。

本来、テーブルの大きさは2人掛けのテーブルには2つのトレイが、4人掛けには4つのトレイが並ぶように設計するのが原則だ。しかし、この店の客席テーブルは楕円形の小さい形状であり,トレイが真ん中に一つしか並ばない。さらに悪かったのはテーブルを間に挟んで2つのベンチシートが並ぶ形式にして、分離をしていなかった。そうすると、客は自然に椅子の中央にかけてしまい、後から来た客が相席をしづらいわけだ。

 昼の売り上げを1時間に12万円にするにはイートインの組数120、客数240名を収容できなくてはいけない。50人で満席では1時間に5回転、12分間で食べてもらう必要があり、現実的に不可能だった。改善するために客席のレイアウトとサイズを変更するのは費用がかかりすぎ、利益の出ていないこの店舗の財務状態では不可能だった。

 当時の問題点は,何故その機械を使うのか?、何故その部品を使わなくてはいけないのか?、何故そのレイアウトが必要か?、と言う原理原則、理論をしっかり把握していなかったから、そんな問題が発生したわけだ。

ハードから改善するには、店舗の標準化システムを完成するまで5年以上の時間を要した。最終的には筆者が統括スーパーバイザーになって米国の店舗設計デザイナーと、米国の家具屋を採用するまで問題点は解決できなかった。

 店舗の累積赤字はどんどん増加していき、社内でも問題になりだした。やらなくてはいけないのは経費削減か閉店だ。経費で出来るのは社員とアルバイトの削減だ。開店時は4名でスタートしたがすでに3名になっていた。3名いないと週休2日をとれないと言う問題があったからだ。

しかし、店舗の赤字の累積状態はそれを許さず、初めて2人の社員で店舗を回すことを強いられた。そこで、特別な手当を出してもらう許可をもらい2人マネージャーでスタートした。

 しかし、それだけでは済まなかった。馴れてきたアルバイトも削減すする必要が出てきた。売り上げが低かったためか家庭的な雰囲気で良いアルバイトが集まっていた。特に女子のアルバイトは優秀で美人揃いだった。

問題点を整理してみた

<1>売り上げを上げるには調理能力と販売能力のバランスが必要だ

 そこで、もう一度この店舗の問題点と機会点を整理してみた。当時のマクドナルドは歩行者天国に面した百貨店の一階と言う立地で客席がないのに大繁盛していた。売り上げを確保する方法は,十分な人手と調理機器の能力だった。

だから、調理機器の能力アップに努力を払ってきたわけだ。しかし、この店舗で気づいたのは売り上げを確保するには,製造能力(調理能力)、と同時に販売能力が必要だと言うことだ。販売能力というのは実は店舗の間口だった。

<2>店舗の間口は販売能力を大きく左右する

 マクドナルドの日本上陸時の繁盛店舗は全てテイクアウト中心の店舗だった。銀座店を筆頭に新宿二幸店、新宿三越店など百貨店などの一階の店舗だった。偶然の事ながら、百貨店の一階というのは間口は広いが奥行きは狭いという形式だった。その偶然が十分な販売能力をもたらしていたのだ。広い間口にはレジを8台以上おけたわけだ。

当時はスエダの機械式レジスターで2名の女子クルーが操作に当たった。販売担当の女子クルーは一人当たり、接客時間は90秒で応対できる。そうすると1時間に40人の客をさばけるので、8台のレジで640人という客をさばけることが出来たわけだ。客単価500円として、30万円以上の販売能力があった。

当時の歩行者天国の店舗は日曜日の売り上げが異常に高かったので、瞬間的な販売能力が必要だったわけだ。

 当時も今もレジスターの巾というのはだいたい500mmだ。それよりも広くても狭くても使いにくい。人間の肩幅というのは500mmであり、それが専有面積だ。その前に並ぶ客の肩幅も同じであり、並んで注文するラインと,買った後帰るラインで1000mm必要だ。

そうすると3台で3メートル必要になる。この店の実質的な間口は5メートルだったから、2階に上がる階段の巾1メートル(人間がすれ違えるには必要)を引くと4メートル。カウンターからの出入り口を考えると3メートル、すなわち3台しかおけなかった。

 そこで、この店舗のピークの売り上げを見てみると、学生が集中する昼に売り上げが十分にとれないと言うことだった。この店舗は昼のピークでも6万円しか売れなかった。

 間口が狭いためにレジスターを3台しかおけなかったが、計算式では12万円は売れる筈なのに?

<3>レジ前の混雑感は間口だけでなく、奥行きも影響する

 テイクアウトのカウンターはなるべく道路に近い方がよいと思っていた。ところが、忙しいときにレジスターの前に数人並ぶと、通行している人からはすごく込んでいるように見える。

 昼のピークを見てみると6万円の売り上げでも間口が狭く,カウンターの前のスペースが十分にない。1時間に12万円の売上能力があると言っても、ある10分間の売り上を見ると、1時間で24万円位のペースで売上げ、その後は4万円位のペースに下がるなど、売上には波がある。

売上が瞬間に高まるとお客様は並ぶわけだが、入り口からカウンターまでの距離が短く、2人並んだら道路にはみでるようであると、ものすごく混んでいるように見え、買わないで帰ってしまう。

 ここで分かったのは売り上げの波を吸収するだけのスペースをカウンター前に2mから4m確保しなくてはならないという事だ。しかし、店舗のカウンターをセットバックする改造工事は莫大な費用が必要であり、このままの間口、奥行きで何とかしなくてはいけないのが現実だった。

 そこで、この店舗の問題点と機会点を、もう一度整理してみた。

問題点

<1>カウンター前の道路までの距離が短く昼時に顧客が並べずに逃すことであった。

<2>客席数

 客席の設計が間違っていた。100席あったが、4人掛けの客席が25テーブルだったので、一人客の多い当店では客席の効率が低かった。4人掛けの席でもテーブルが小さく、トレイが1つしか乗らず、相席ができなかった。

機会点

<1>かわいい優秀な女子アルバイトがいる。

 「客席の設計が間違っていた」のは次回述べるように、問題を解決したが、開店したばかりで売り上げが悪い神田小川町店では赤字状態で改装による解決をできなかった。そこで機会点の「かわいい優秀な女子アルバイトがいる」に注目し人的に改善を図った。

 ある時、店舗の機械が何時もきちんと修理されて何時もピカピカな状態であるのに気がついた。当時は機械の修理を外部に頼むとお金がかかるので、本社の施設部に頼むのだが、頼んでも時間がかかり、なかなか直してくれない状況だった。

でも、なぜこの店だけ機械の修理が早いのか聞いてみたら、何と本社の施設部の担当者が、電話一本で駆けつけるのだと言う。施設部の担当者に「忙しいのに、何故そんなに早くくるのか?」と聞いたところ、アルバイトの女性が気に入っているからすぐに来るのだというではないか。

彼の言い分によると「色々な店舗に行くけれど何時も業者と同じ粗末な扱いをされて面白くなかった。でもこの店のアルバイトの女の子は可愛いだけでなく、僕の名前をちゃんと呼んでくれる」と言うではないか。そこで女子のアルバイトを観察すると、お客様にも名前で呼びかけているではないか。にこにこした笑顔でかわいい女子アルバイトが名前を呼べば固定客になるわけだ。

 SVは店舗のチェックマンであるから普通は緊張して笑顔が出ないのは普通だが、この店の女子アルバイトは私を名前で呼んでにこにこしながら応対してくれる。当然気分が良くなるから、店長や社員に対しても厳しいことを言わなくなる。この女子アルバイトがいるおかげで店の雰囲気が全然違うわけだ。

そこでこの笑顔と人なつこさを利用しようではないかとひらめいた。

 マクドナルドの店長はフロアーコントロールと言って、厨房だけでなく、客席を周り、お客様の様子を観察し、あいさつをしたりテーブルや床をきれいにする。しかし、この店舗は2階建てで店長が頻繁にフロアーを回ることは不可能だし、売り上げ不振で2人マネージャーにしたからよけい負担がかかっていた。

 「そうだ、そのフロアーのサービスに上記の女子クルーを活用しよう」とひらめいた。店長の代わりにフロアーに出るのだから、女子クルーの格好ではなく、マネージャーのユニフォームを着せ、ネクタイをさせて、マネージャーと書いた赤い紙帽子をかぶらせて見た。

当時はまだ女子のマネージャーユニフォームがないから、彼女たちが男物のシャツを自分たちで仕立て直し、大胆な紺のミニスカート(自分たちで選んだ)を着用して、2階のフロアーをコントロールしだした。

彼女たちの仕事は3つあった。

<仕事その1:アウトサイドオーダーテイカー>

 まず、狭すぎて混雑するカウンター前の整理とアウトサイドオーダーテイカーだ。アウトサイドオーダーテイカーとはカウンター前に並んだ客のオーダーを取り、メニューチケットという表に注文を書き込んで客に渡す。

客はレジの女子クルーが接客に当たったときにそのメニューチケットを渡すと、そのまま商品を取りそろえてくれる仕組みだ。これにより、注文時間から商品受け取りまでを大幅に短縮することが出来る。また、一旦オーダーを取ってしまうと客は待ち時間が長くても待ってくれるので、ピーク時のロスが無くなった。

<仕事その2:2階の回転率の向上>

 昼のピーク時の客席の効率アップが必要であった。まず、満席率を向上するために相席をお勧めするようにした。厳つい男子マネージャーに「相席をお願いします」と言われると嫌な気持ちになるが、かわいい女子のフロアーホステスに鈴のような声で「お願いします」と言われると、客も思わず笑顔で「いいよ」と気持ちよく席をあけてくれる。

さらに回転を良くするために,食事が終わった客のテーブルのトレイを片づけたり、灰皿を頻繁に帰るようにした。決して帰ってくれと言うのではないが、彼女たちが一生懸命働いて、他の客が待っているのを見ると客も食事が終わったら気持ちよく席を空けてくれるようになった。また、テーブルの大きさを変更できないのでとりあえず、小型のトレイを使い、テーブルに最低2つ乗るようにもした。

 また、2階と一階のフロアーホステス同士で2階の客席状況を連絡させ合うようにして、階段の客の流れをスムーズにすることにも成功した。

<仕事その3:アイドルタイムの売り上げ向上>

 忙しい時間だけでなく、なるべく彼女たちを2階に上げテーブルの清掃や、灰皿の交換をさせるようにした。その際に単に働くのではなく、客に1人1人に声をかけさせるようにした。2-3ヶ月すると驚いたことに彼女たちそれぞれに、ファンクラブが出来て、暇な時間も客がひっきりなしに来るようになった。

<副産物>

 このフロアーホステスの制度は大成功で売り上げは30%近くも上昇した。しかも売り上げが上昇するだけでなく、店舗のモラルが大幅に向上したことにも気がついた。マクドナルドは従来からスイングマネージャーと言う制度があり、男女にその仕事を解放していた。社員のマネージャーの代わりとなって、朝の開店と夜の閉店業務を担当するという役割だ。

しかし、女子の場合、安全上の問題から昼間の時間しか任せられず、女子よりも男子の方が重用されるという傾向が一般的だった。しかし、このフロアーホステスの仕事は売り上げを向上させると言うことが明らかであり、女子の貢献度が飛躍的に高まり男子スイングマネージャーと同等の地位を与えることが出来た。

その結果女子クルーのモラルが大幅に上がり、競争してフロアーホステスの仕事に就きたがるようになり、サービスのレベルが全体に大幅に向上した。この結果フロアーホステスを4名ほど育成することに成功し、彼女たちはフロアーホステスの仕事だけでなく、新人女子クルーのトレーナーとしても活躍してくれるようになった。

<フロアーホステスからSTARプログラムへ>

 このフロアーホステスはこの店舗だけのシステムだったが、その成果から段々他店へ普及しだし、マニュアルを作成し本格的なシステムとして採用されるようになった。同じ頃米国でもその効果に注目し、STARプログラムと言う制度に進化させるようになった。

フロアーホステスはあくまでも店内のサービスが中心であるが、STARプログラムは店外の販売促進活動まで含む物だった。この詳細についてはまた別途紹介しよう。

 マクドナルドのセルフサービスのシステムは時間当たりの高い売り上げを実現するだけでなく、合理的な人件費削減の手段でもある。しかし、合理的な切りつめた無駄のないサービスが全て良いかというとそうでもない。客から見て人間のぬくもりが必要だ。

この店の主な客は田舎から都会に1人で出てきた学生が多く、孤独感にさいなまれ、ぬくもりを求めていた。それなのに1偕と2階が断絶していたのだ。その断絶感を補ったのが無駄だと思っていたフロアーホステスだった。非効率が転じて効率につながったのだ。

理性的に考えたらフロアーサービスは人件費の増大を招くので,経営者サイドから見たら無駄に見えるが、客のサイドから見ると人間味にあふれたサービスとなる。トータルとしては合理的だが、ちょっとした人間味のあるサービスが、客に対してもの凄くインパクトがあるわけだ。

 このフロアーホステスのシステムはよく考えてみると,ホテルのサービスコンシェルジェに近い。小さなホテルだと誰でもその町の事を知っているから,どの従業員に聞いても親切に教えてくれる。しかし、大規模なホテルだとパートタイマーも多くいるから、客の質問に何でも応えられるわけには行かない。だから、大規模なホテルはコンシェルジェを置いて、客のあらゆる要望に応えるようにしているわけだ。

 最近は銀行に行っても,ロビーには振り込み、引き出しが自動で出来る機械が置いて合理化を図っている。銀行には老人や女性など機械に不安を感じる人が多く来店する。そんな不安を防ぐようにパートタイマーの女性が操作の説明や、困ったときに助けるようにしている。

 新幹線の切符も自動発券が増加している。新大阪の自動発券の機械には夕方のラッシュになると数人の女性のアシスタントがついて、説明したり、必要な人には領収書を書いて上げている。

 このように自動化の機械で全て合理化する場合、ちょっとした手助けをすることによりもの凄く人間味のあるサービスが可能になるのだ。

以上の詳細な顛末については 以下の王の経験談をご覧ください

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

関連記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

ランキング

  1. 1

    「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

  2. 2

    マックのマニュアル 07

  3. 3

    マクドナルド 調理機器技術50年史<前編>

アーカイブ

食のオンラインサロン

TOP