Burger King のマニュアル 第二回

レストランチェック

Burger King Wikipedia 日本語

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Burger King Wikipedia 英語

https://en.wikipedia.org/wiki/Burger_King

 バーガーキングの店舗数は2万店弱でマクドナルドの4万店の半分にすぎません。日本では180店舗とマクドナルドの3000店舗に比べ足元にも及びません。というと、問題は味や品質と思いがちですが、実はバーガーキングの味や、調理システムはマクドナルドよりはるかに優れているのです。

味の違いの前に米国の味を説明しましょう

(1)米国の味トレンド

 米国で料理を食べると「おいしい」という人と「まずい」という人と、必ず二通りに分かれる。「まあまあ」という人はほとんどいない。全般的にいえば、まずいという人の方が多い。人間の舌というのはもともと保守的なものだから、今まで食べたことのないものを口にすれば、おいしく感じられないのだ。ではその味の違いがなんなのかを考えてみよう。

<1>飼料による味への影響

 日本人と米国人の味覚で大きく違うのは、肉や乳製品である。アメリカ人は肉を食べれば、その牛が何を食べて育ったのかがわかる。グラスフェッド(牧草飼育)かグレインフェッド(穀物飼育)か、牛肉を食べればその違いを指摘できる。肉屋さんなど一部の人間を除けば、日本人にはこの違いはわからない。更に、醤油で味付けしたら違いは全くわからなくなる。鳥も同じだ。

 私がマクドナルド時代フライドチキンを米国と共同開発をしたのだが、米国技術者が来日した際に日本の鳥を一切口にしない。なぜかと尋ねたら、「日本の鳥は魚の味がする」と言う。

日本や東南アジアでは鳥に与える餌はフィッシュミル(タンパク質を与えるための魚粉)を使用しておりそのために骨の中の随液の匂いを嗅ぐと魚がする。普段から魚を食べなれている日本人は気がつかないが魚の嫌いな欧米人はすぐに気がつく。

 では、アメリカ人が味覚に優れているのかというと、彼らには魚の味の善し悪しを判別することはできない。魚の匂いが嫌いな彼らの魚調理は新鮮な魚でもスパイシーなバッターをたっぷりつけショートニングで揚げてしまう。

<2>塩分と糖分

 アメリカの料理は塩分がきつすぎるという人もいる。しかし、日本人の方が塩分の摂取量が多くそれが脳溢血などの原因になっていると言われる。日本人は味噌汁や漬物でかなりの塩分をとっているため、料理は薄味になっているが、それらをとらない米国人は食事にしっかり塩味をつけるのだ。

 アメリカのデザートが思いっきり甘いのも理由がある。日本では料理に砂糖を使用しているので、デザートの糖分は控えめにしているが、アメリカの料理はほとんど砂糖を使わないため、糖分はデザートで補う必要があるからだ。

実際に私がダンキンドーナツの立ち上げに参加した際の最大の課題は甘さであった。日本人には甘すぎ、米国の1/2の砂糖量に落として発売した。現在ではその甘さは米国の1/3になっていると思われる。

マクドナルドのホットアップルパイも同様で、日本人の甘さレベルを分からない米国の商品担当者はそれを理解できず、甘さの変更を許してくれなかった。それでやむなく販売したのがベーコンポテトパイという変わった商品だ。

 米国では冷凍ケーキのマーケットは大きくその最大の会社はサラ・リー社だ。日本に何回も提携して進出をしたが、日本人の嗜好に対応する甘さやクリームの質(米国人はバタークリームが好きだが、日本人はよりクリーミーな生クリームを好む)を実現することができず、再度提携相手を変えチャレンジをしているが難しいだろう。

<3>発酵食品

 一番嗜好の違いが出るのが、発酵食品だ。日本は大豆などの発酵物が中心で、味噌、醤油、納豆がその典型だ。

欧米は乳の発酵物が中心で、バター、チーズがその典型だ。味覚は子供の時代に決定する。チーズなどは日本での随分食べるようになったが、いまだに本格的なチーズは好みが分かれる。

マクドナルドではハンバーガーの味は世界共通と言ってはいたが、チーズの香りの強さだけは変えざるを得なかった。日本進出当時はまだ日本人のチーズ消費量が少なく米国と同じ香りをだすと消費者が強い抵抗を示した。

そこで、香りを米国の1/3にするという調整を行った。そして定期的に嗜好調査を行い、徐々に香りを強くしていった。しかし現在でもまだ米国の1/2くらいの強さの香りにしている。米国のハンバーガーと日本のハンバーガーでは、肉の飼料の違い、チーズの違いから微妙に味が異なる。

私のように日本の味に慣れてしまうとそのあたりの味の違いがよくわからないが、筆者の子供は1歳半から3歳半の間米国で育ったためかその違いがわかり、米国のハンバーガーの方が美味しいと言う。

 牛乳の味の違いも存在する。餌の違いの問題もあるが、殺菌方法が異なっている。米国の牛乳の殺菌は相変わらず低温殺菌が中心であるが、日本は早くから効率のよいUHT(高温殺菌)を取り入れている。UHTは高温で短時間に殺菌するためにバーンドフレーバーという焦臭の問題を抱えている。

<4>温度

 英語で日本語の猫舌という言葉はない。そのため全ての食事は温かい料理はあるが熱い料理はない。スープもテーブルにだした際にすぐに飲める温度になっている。

ニューヨークや西海岸には日本のラーメンチェーンが10年以上も前から進出しているが、最初は苦戦した。舌が火傷をしそうな熱さが猫舌の米国人には受けなかったのだ。

<5>めでたい食事:鯛とターキー

 米国人に大人気の七面鳥は食べるとぱさぱさで美味しくないと感じられる。しかし、七面鳥はおめでたいときに食べる日本の鯛のような物である。米国に渡った清教徒が最初の秋の収穫祭で食べ物がなく困った際に、先住民のインディアンからの贈り物が野生の鳥がターキーで、それ以来収穫感謝祭のめでたいご馳走になったのだ。

 また、ターキーの肉は鳥より脂分が少なく健康的であるという面からも人気がある。健康志向の米国では鳥も同様に脂分の少ないホワイトミート(ささみなどの胸肉)が人気があり、ダークミート(もも肉など)の脂分があるジューシーな身は安い。

日本や東南アジアでは逆でホワイトミートは人気が無く、ダークミートの方が高い。ぱさぱさの焼き鳥などは人気がないのだ。米国で大人気のボストンマーケットなどのローティサリーチキンは回転式のローティサリーオーブンで丸鳥の脂をじっくり落としながら焼くのだが、その肉のぱさぱさ感が日本では好まれず、普及しなかった。

米国から日本に進出したエル・ポヨ・ロコやケニーロジャースは焼き鳥のような脂ぎった鶏肉を好む日本人には受け入れられなかった。

<6>酒:禁酒法は未だ生きている

 米国は清教徒によって作られた国で、その影響は未だ色濃く残っており、多くの人々は日曜日には礼拝にいく。日曜日は安息日であり神に祈りを捧げる神聖な安息日だ。教会から帰ったら家で安息する日であり、買い物や外食に行く日ではない。

日本の外食産業で一番忙しい日は日曜日であり、郊外の外食店舗は平日の三倍の売上げを上げる場合も多い。しかし、米国の外食店にとって日曜日は週で一番暇な日であり、ショッピングセンターも平日は夜9時10時まで営業しているが、日曜日は5時や6時に閉店してしまう。

 1920年代の米国は禁酒法が施行されアルカポネなどのギャングが横行した事で思い出される。しかし、米国の禁酒法は過去の遺物ではなく現代でも色濃く残っているのだ。米国ビール会社のトップはセントルイス市に本社を構えるアンハイザーブッシュ社(バドワイザーで有名)だ。

私は夏の暑い日曜日にセントルイス市に到着したときがある。暑さにのどの渇いた筆者はホテルでビールを注文したらないという。品切れかと思ったら当州はドライステーツだと言う。日曜日は安息日で酒の販売は禁止なのだという。ビールの街セントルイスでも酒は飲んではいけないと言うのはカルチャーショックを感じさせられるのだ。

<7>もてなし

 お客を呼んで御馳走と言うときの考え方が異なる。お客をもてなすときに日本では主婦が台所に閉じこもり、品数の多い食事を一所懸命に作る。

米国ではお客を楽しませる会話や楽しい雰囲気が最も御馳走であり、みんなで団らんできる食事が中心となり、ハンバーガー、タコス、バーベキューは立派な御馳走だ。そして食事を中心に皆で会話をじっくり楽しむために、夕食を最低2時間から3時間楽しんでいる。食事そのものでなく、もてなしと会話を楽しむのだ。

 以上米国の味を説明しましたが、味の点ではバーガーキングの味は米国人の好きな本格的な味なのです。米国の本格的なハンバーガーの作り方は、炭火よる直火焼きです。

米国の一般的な一戸建ての家には必ず裏庭があります。そこには必ず、バーベキュー用のグリルが置いてあります。米国の住宅街地域には公園が点在しています。その一角には備え付けのバーベキューグリルが備え付けられています。

 各仕事場での従業員慰安会をやるときは、日本のように居酒屋に行くのでなく、近くの公園のバーベキューグリルでバーベキューを楽しみます。材料は近所のスーパーで調達します。

 マクドナルドのハンバーガーの肉やバンズは特製品でなく標準品です。肉は冷凍品で重量は45g=1ポンドの1/10、か、113g=1ポンドの1/4です。米国のスーパーではこのサイズの肉もバンズも市販しています。

日本でもコストコに行けば、クオーターパンダーの肉113gとバンズを置いているように標準規格です。バンズはどのパン屋も作っており、ハンバーガーやホットドック用のバンズを売っています。スライスピックルス、スライスチーズ、ケチャップ、マスタード、ビールや炭酸飲料、バーベキュー用の炭も一緒に買えます。

 それらを買って、公園のピクニックエリアのバーベキューグリルで焼いて、楽しみます。焼くのは店舗や職場の管理職です。一人1000円以下で楽しめます。なお、注意が必要なのは、ビールなどのお酒を飲めるのは、ピクニックエリアという指定エリアだけです。清教徒が建国した米国は飲酒規制が厳しいのです。

町の中や歩道などの公衆の場では飲酒は厳禁で、警察官に見つかると、軽犯罪で逮捕され罰金刑です。日本では歩道や、駅構内、海岸の浜で、飲酒を平気でしますが、米国では厳禁ですので注意してください。

 バーベキューパーティをピクニックと言い、旧マクドナルド本社の広大な裏庭で楽しんだこともあります。実質的な創業者のフレッドターナーと楽しんだものです。フレッドターナーは私のような外国人には野菜買ったのですが、本社内の人は怖がり近づかなかったのです。

フレッドターナーはミスター・ターナーと呼ぶと、俺は君のおじさんでない、フレッドと呼べと親切で、彼の部屋はいつも開いており、予約なしに訪問できました。

 さて家の裏庭のバーベキューグリルは、ハンバーガーホットドックだけでなく、厚い肉やチキン、魚などを家族で集まって楽しみます。米国の家のキッチンは電化キッチンが多く、排気ダクトが循環式が多いので直火の焼き物には向いていません。魚を焼くと家じゅうに匂いがこもってしまいます。米国人は魚のにおいが嫌いですので要注意です。

 集合住宅のコンドミニアムに住むと、広いテラスに小さなバーベキューコンロを置いて調理します。

 家の場合のバーベキューコンロは、一番安いものは数百ドルで買えます。バーベキューコンロは蓋があり、肉を低温でじっくりと蒸し焼きにできるので厚い肉も焼けます。肉はチャックなどの安い肉で十分です。じっくり焼くので硬い肉でも柔らかくなります。

 さて熱源ですが、一番簡単なのはスーパーで買う安い、チャコール炭です。香りが欲しい時はヒッコリーの枝を入れます。ただ、火をつけるのが難しく、温度管理に熟練が必要です。

また燃え残りの炭は安全上、空気を遮断した燃えない容器に入れて消し、次回に使います。燃え残った灰や焦げカスの掃除が大変です。1000ドル以上するのですが、プロパンガスを使う家もあります。

https://www.amazon.co.jp/s?k=barbecue+grill&ref=pd_sl_3vm5r2uk5y_e

 バーベキュー料理の魅力は、炭やガスなどの炎で肉を焼いた時に垂れる肉汁が炭やガスの炎で焼けた煙が肉を香ばしくすることです。この香りはフライパンでは出せません。美味しいサンマは七輪などで焼くと美味しいのと同じです。

 私が米国のマクドナルド本社で研修を受けていた時に、ある部長が自宅に招いてくれたことがあります。ミシガン湖沿いの初期の移民が作った石造りの重厚な家でだし、ご馳走だよというので期待しました。

そしたら、裏庭でバーベキューです。それもハンバーガーです。なんだと思ったら、それが簡単だったのです。普段は離れて住む息子娘たち家族が私のために集まってくれたのです。簡単なハンバーガーですが、みんなでワイワイガヤガヤ楽しむのが歓待だったのです。

 またある元社員フランチャイジーの家に招待された時があります。シカゴから、トウモロコシ畑の間を2時間走った場所です。近づくと、広大な家で、庭には巨大なクルーザーをおいています。5ベッドルームの豪華な家です。ご馳走すると言うので期待しました。

そうすると山盛りのタコスが出てきました。私は前菜だからあまり食べないで、メインの料理を期待していたら、次に出てきたのはなんとデザートの巨大な甘ーいケーキでした。タコスがメイン料理だったのですね。おもてなしは、美味しい料理でなく家族との楽しい懇談だったのです。

日本でお客さんを呼ぶと主婦の方は台所に閉じこもり、美味しい料理の調理に集中し、会話には加わりません。米国で家に招かれると、主婦の方も最初から終始会話に加わります。これこそがおもてなしなのです。

米国でピザやタコス、フライドチキンなどの宅配が人気なのはそのためです。スーパーにはサンドイッチの具や豊富なチーズがあるのもそうです。それをパンと一緒にテーブルに出し、好きな味のサンドイッチを自分で作り食べるのです。ただし、デザートのケーキだけ、主婦の手作りです。

 また米国ではケータリングサービスと言って、有名店の調理人が材料を持ち込んで美味しい料理を出すことがあります。米国でも接待がありますが、レストランで100ドル以上の料理だと会社に報告が必要です。しかし家に招待され、ケータリングサービスを出されても価格がわからないので報告は不要です。

 以上、バーベキューや家の接待の日本との違いをご紹介しましたが、バーガーキングのフレームブロイルという調理法が米国人の好きな味ということをお判りいただけたと思います。

でななぜ苦戦しているかを次回からご説明しましょう

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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