モスバーガー 3回目

レストランチェック

 過去2回ほどのモスバーガーのマニュアルのお話をしました。モスは初期のマクドナルドのマニュアルを真似したとお話ししましたがその内容をちょっと見てみましょう。

01)イントロダクション

02)基本

03)呼称

04)オリエンテーション

05)仕込み

06)接客

07)バーガー準備

08)原材料の仕込み

09)オペレーション

10)バーガー製造

11)サービス

12)ライスバーガー準備

13)ライスバーガー製造

14)メンテナンス

15)ホットドッグ準備

16)ホットドッグ製造

その他

などと主に商品準備と製造になっています。

バーガー製造の章を見てみると、

1.バンズに挟む具材の絵の説明

2.バンズを加熱する。

3.焼きあがったパティを加熱の終わったバンズに乗せる。

4.アメリカンマスタード1.8gをパティの前面に塗布する。

5.オニオンのみじん切り5gをパティの中央部に乗せる。

6.ケチャップ15gをオニオンが見え隠れるようにかける。

7.加熱の終わったバンズを乗せる。

8.内袋に入れる。

としか書いてありません。

冷凍のミートパティを何度何分で焼くという具体的な説明はありません。

マクドナルドの場合は

ミートサンドイッチの製造手順

□プルレイの製造手順(一回ごとの調理)

ステップ1:プロダクションコーラーからのオーダーを確認します。

ステップ2:ミートを置く前にバンパーソンからのコールを確認し、バントースターにバンが入っているかどうか確認します。

(例)6ダウン プリーズ

   6サンキュー

ステップ3:ミートパティを手前から奥に並べていきます。ビッグマックとダブルバーガーの場合は1オーダーにつき2枚のミートパティを用意します。ミートパティが6枚以上の場合は半分ずつを両手に持って2列にグリル表面に並べていきます。

ステップ4:タイマーを作動させます。

ステップ5:20秒後にシアーブザーが鳴ったら、ボタンを押してブザーを止めます。

ステップ6:1枚1枚のミートパティにしっかりとシアーをします。パティをしっかりシアースパチュラで押さえ、グリルの奥から手前に向かって焦げ目をつけていきます。シアーが正しくできていれば押した時に「ジュー」という音がします。

使用したシアースパチュラは、拭いてからスパチュラホルダーに戻します。

ステップ7:55秒後にターニングブザーが鳴り始めたら、パティを1枚ずつ手前から奥に裏返していきます。シアーでついた焦げ目を損なわないように慎重にターニングします。ターニングブザーは自動的に止まります。

ステップ8:パティを全部裏返したら各列ごとに塩コショウを奥から手前に均等に6インチ(約15cm)の高さから振りかけます。但し、パティプレースメントの図の1、2、3、4のミートとミートの間をあけて並べた時は、塩コショウを1枚1枚に金づちを振るように(ハンマーモーション)振りかけます。

ステップ9:戻しオニオンを手前から奥へ1/8オンス(約3.5g)ずつミートパティに載せます。

ステップ10:ドレスしたバンズが載っているバントレーをグリルクリップ(トレーを掛けるところ)に掛けます。

ステップ11:105秒後にリムーブブザーが鳴ったら、一度に2枚ずつのミートをスパチュラで取りながらドレスされたバンズの上に載せていきます。(リムーブも基本的にはタイマーに従いますが、ミートの焼け具合を目で見て判断しリムーブします。Be.Well Dressed参照)この時、ミートから出ている肉汁を切ってはいけません。(ダブルバーガー、ダブルチーズバーガーのミートパティは肉汁を切ります。)

パティは、ドレスしたバンズの中央に置いてミートパティを引き抜く要領で載せます。

 などと詳細に、手順、温度(エクイップメントマニュアルで)、時間を述べています。モスバーガーのマニュアルでは焼く時間や細かい手順が明記していなく、具体的な焼き方がよくわかりません。

でも、モスバーガーの実際の店舗の作業にはあまり影響が無かったのです。マクドナルドは厳格なマニュアルに忠実に店長やトレーナーが細かく指導するのです。しかしモスバーガーはフランチャイジー同士の活動の共栄会がその教育に当たるのです。

 ミートパティの調理で言えば、マクドナルドとモスバーガーでは、調理するグリドルの性能やミートパティが異なります。マクドナルドのミートパティは100%牛肉ですが、モスバーガーのミートパティは日本人の好きな牛と豚の合い挽きです(時々変わりますが)。

https://www.mos.co.jp/company/pr_pdf/pr_070412_1.pdf

によると

「創業当時のハンバーガーパティは、日本人にとってハンバーグの標準だった牛豚の合挽き肉を使用していました。1997 年に食材の安全・安心を志向し、飼育環境にまで踏み込んでパティ用の肉の調達を見直したことで、初めて牛肉 100%(当初はオーストラリア南部・タスマニア産の牛のみを使用)のパティに変更しました。

しかし2007年に成長ホルモン剤を使用せず、トレースが可能な当社の安全基準を満たす豚肉が調達できるようになったため、新たな合挽きパティの開発を進め、日本の家庭的なハンバーグの良さを持つ、懐かしくも新鮮な味にしました。」と説明しています。

 合い挽きのミートパティはマクドナルドのように高温で短時間で焼くのには向いていません。一時モスバーガーも短時間調理を目指し、マクドナルドと同じクラムシェルグリルを導入しましたが、味の問題もありやめています。

 モスバーガーのグリドルはマックのように高性能で、表面温度が均一でないのです。でもそれをうまく利用し、低温部分でゆっくり解凍し、だんだん高温部分に移し、じっくり焼き上げるとふんわり美味しいのです。ですから、マニュアルには焼く時間の明記がないのです。

そのため店舗での研修が大事で、共栄会のメンバーの店舗でじっくりと教育するのです。モスバーガーの厨房はガラス張りで焼くところが見えるので見てください。

 モスバーガーのバンズもマクドナルドとは異なります。マクドナルドなどの欧米のハンバーガー(サンドイッチも)におけるバンズの役割は、焼きあがったミートパティを挟んで手を汚さずに手づかみで食べられるようにしたものです。

サンドイッチは1700年ごろ、イギリスのサンドイッチ伯爵がカード好きで、カードプレイの合間に手が汚れずに肉などをパンではさんで食べたのが起源と言われています。

サンドイッチの起源

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%81

 サンドイッチやハンバーガーの主役は肉で、バンズやパンの味は肉の味を邪魔しないプレーンなさっぱりした味です。しかし日本人は中の肉より、バンズやパンの味を大事にします。

日本のパンで言えば酒種で発酵する美味しいアンパンがあります。柔らかくほんのり甘い味です。日本の食パンもしっとりとしてほんのり甘いのが人気です。しかし米国の食パンはドライで日本人にはおいしく無く感じます。

 このマクドナルドとモスバーガーのバンズの違いは大きいのです。現在マクドナルドは高温のトースターで20秒ほどで焼き上げます。このトースターでモスバーガーのバンズを焼くとほんのりした甘さと美味しい香りが出ません。

モスバーガーのバンズは鉄板で1分ほど焼き上げるのが良いのです。モスバーガーとマクドナルドのハンバーガーを消費者に評価させると、モスバーガーのバンズのおいしさを指摘されることが多いのです。

 このモスバーガーが使用する原材料の違いと日本人のハンバーガーの好みの違いが、両社のマニュアルに大きな影響を与えているのです。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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