資料整理とKFC その3

レストランチェック

 2回ほど私の収集した文献で KFC Salad(1970年代初期の手作りの時代)、Cole SlowコールスローとPotato Salad ポテトサラダのスペック、オリジナルチキンのバッター液、KFCの11種類のスペックなども書いてほしいとリクエストがあり、ご紹介しました。
 今度はフライヤーの設定を教えてほしいというリクエストがありました。これはマクドナルド時代の資料収集とリバースエンジニアの手法を公開しないといけませんね。私が在籍したころはこのリバースエンジニアをマネドナルドと自虐していました。マクドナルドはいろいろな技術を業界で一番早く導入しているように思われていますが、実際はすごく慎重です。現在のマクドナルドの調理システム、メイド・フォー・ユー(ハンバーガーパティやフライ物を揚げてホールディング機器に入れておき、注文後高速トースターや高速スチーマーでバンズを焼いたり蒸したりして作り上げます。)前任CEOの原田さんは自慢げにすごいシステムだと吹聴していましたが、これは競合のバーガーキングが何十年も前から使っていた手法です。
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 またドライブスルーも、競合のジャック・イン・ボックスが何年も先行して使っていました。
 ただマクドナルドは遅いのですが、良いとなると徹底的に研究し、完成度を高めて採用するので先進的に見えるだけなのです。メニュー開発も慎重で、思い付きで作るのでなく、消費者への徹底的なアンケートに基づいて作り上げ、徹底的な嗜好調査を行い作り上げるのです。モスバーガーで人気のあった照り焼きハンバーガーも、その手法でまねをして作りました。私が退職2年前に、アンケート調査で品質評価の高かった、KFCのフライドチキンのプロジェクトを任命されました。フライドチキンは東南アジアなどのイスラム教徒の多い地域で人気です。
 骨付きのチキンの骨からの血のような髄液を出ないように揚げると、肉が固くなるので低い温度でも沸点を上げる圧力調理が最適です。KFCの最大の調理ノウハウはその圧力釜調理で、特許を取っています。特許をとることはノウハウを守ることが可能ですが、同時にノウハウを公開することでもあるのです。そこで特許公報を元に揚げ油の温度、圧力、調理時間のデーターを推測しました。さらに、過去のマニュアル、米国のデーターを元に最適の調理温度と時間を算出したのです。KFCが当初使っていた手作業の圧力釜のマニュアルを分析しました。揚げた後の油を自動ろ過機付きのフライマスターというフライヤーで濾過した後、一定の温度で120℃ほどで保温しておき、調理の直前にポット(圧力釜)に油を入れ、加熱して180℃に熱します。そこに油2に対して1の比率の鳥(バッターとブレディングをつけた)を投入します。そしてリッドをし、圧力がかかるようにします。
180℃の高温で鳥の表面についたバッターとブレディングがキャラメライズし、天ぷらの衣のように鳥の内部の肉汁を封じ込めます。調理で発生する蒸気を利用し一定の圧力をかけ、火を弱火にして10~12分ほど揚げます。
 さて、古い調理法がわかったのですが当時のKFCは既に自動調理機器を使用していました。KFCの自動圧力フライヤーのノウハウは圧力釜と独自の圧力と温度時間コントロールのコンピューターでした。全く同じフライヤーは市販品で入手できるのですが、KFC仕様のファストロン社製のフライコンピューターを購入することはできません。そこで特許公報に出ている温度カーブを分析し、加熱に必要な熱量を計算し、現場でフライドチキンを店舗から購入しながら比較をして、同じ調理レベルになるように温度と時間の設定を開始したのです。

 ブラックボックスの味の解明については前回ご紹介しましたが、専門家を動員し、スパイスの調合を進めたのです。スパイスは温度をかけた際に成分が揮発するが、種類により異なるので、色々なスパイスを調合し実際に調理しないといけませんでした。さらに課題は工場で調理し、店舗で再加熱をするという2回の加熱後でも同じ味にしなくてはいけないという事でした。そこで、スパイス会社の神様といわれるベテランの女性に調合を依頼する事にしたのです。世の中、専門家がいる物で、商品を食べながら色々な試作をしていったのでした。
 衣の成分である、バッターについては前回ご紹介したように昔のマニュアルの玉子と牛乳の比率があったので簡単に割り出し、ブレディングについては同じく製粉メーカーの中央研究所で研究を行いました。衣についても店舗で一回で調理するのと、再加熱するのでは条件が大きく異なるという問題も克服しなくてはいけませんでした。
 これらの味のスペックを決めるに当たっては、鳥肉の製造供給メーカー、スパイス、粉、油の、各専門家を動員し共同作業で短時間に解析を進めたのです。そのために、鳥の製造メーカー、粉メーカーの中央研究所に極秘のテストキッチンを作り作業を進めたのです。
 この解析と調理レシピーの確定のためには大量の鳥を揚げながらデーター処理を正確に行う必要が出ました。多くのデーターを解析するには調理毎に詳細な記録を残しておかないと後で問題が発生した際に原因の追及ができなくなるからです。
 このときに使用した機器は、正確な温度計、重量計、ガス圧計、風速計、ストップウオッチ、ノート型パソコンであった。当時、小型のノートブックパソコンが発売されたばかりであり、それに表計算のソフトを載せ、調理データーを10秒単位で記録し、全ての製造ロットの温度カーブを記録していきました。後で商品上の問題点が発生した際にはそのロットの揚げた条件を、温度カーブを見ながら解析できるのでした。これが筆者がパソコンの威力を実体験した出会いでした。
 その結果わかったのは、調理時間15分で、ひな鳥4羽分を揚げる温度は華氏360度でスタートします。2気圧に圧力をかけた状態で、水分の沸点は120℃になり、油温は華氏300度以下に徐々に下がります。途中加熱をせず肉の縮小を押さえます。15分近くになったら、華氏275度になるので、圧力を抜き1分ほど加熱し、衣をカリッとさせて出来上がりです。

詳細は
メイド・フォー・ユー
https://www.sayko.co.jp/food104/post-3053/

KFCの厨房
https://www.sayko.co.jp/food104/post-2430/

その他私のHP  sayko.co.jp をご覧ください。

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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