マックのマニュアル25 最終回

レストランチェック

 前回、米国マクドナルドの株価維持と米国株と日本株の違いをお話ししました。

過去マクドナルドのノウハウをお話ししました。私が立教大学ビジネスデザイン時代の指導学生の劉暁穎の博士論文(現在当社社員で、学生時代私が英文資料を取り寄せ、翻訳指導した)では、ノウハウは土地の取得による利益率の高さとしていますが、よく考えてみると、利益率を高く維持し、株価を高く維持していたのが最大のノウハウだと思うように至りました。

 マクドナルドのノウハウは、マクドナルドの最大の強豪のバーガーキング実質的創業者のジェームズ・マクラモアのバーガーキングという自伝に書かれています。バーガーキングはフロリダに本社を構えていたのですが、マクドナルドに比べ、企業体質が弱く、大手企業に点々と買収され、経営方針が点々として変わり、それがマクドナルドに大きく水をあけられました。その最大の違いは日本への進出です。

 私が外食企業に最初に就職したのは、当時西武百貨店の子会社の西武レストランだったのです。理由はハンバーガーチェーンのバーガーキングとの提携の噂でした。しかしバーガーキングは日本の食肉の高さなどを理由に断ってきました。

そこでレストラン西武はダンキンドーナツと提携し私は転籍したのでした。当時バーガーキングはピルズベリーという大手製粉企業の傘下にあり、ジェームズ・マクラモアは日本との提携に乗り気であったのですが、ピルズベリーがフランチャイズシステムを理解していなかったためです。

その結果マクドナルドは日本での成功のノウハウをもとに世界進出に成功し、バーガーキングは米国内中心の外食企業として、マクドナルドの半分ほどの店舗数に過ぎません。

 実はバーガーキングの調理システムはマクドナルドより生産性が高く、マクドナルドはバーガーキングの研究をしてきました。マクドナルドが自慢する、メイド・フォー・ユーというシステムで重要なクラムシェルグリルや、商品の保管システム等はバーガーキングが創業時より備えていたのです。

私が米国で店舗の運営にあたっていた時に、部下の副店長が、バーガーキングに転職しました。彼に聞くとバーガーキングの店舗の生産性はマクドナルドより、3割ほど高いと言っていました。この点についてはバーガーキングのマニュアルでご説明しましょう。

マクドナルドの調理システム

 マクドナルドが収益性と株価を大事にしていた例をご説明しましょう。私がシリコンバレーで店舗のマクドナルドを運営していた時です。チキンマックナゲットの大成功の後、出血性大腸菌O-157の最初の食中毒を引き起こし、売り上げだ3割ほど低迷していた時です。

ある日、シカゴの本社から電話がありました。本社の財務部門トップの重役からでした。彼は売り上げ状態や、資金繰りを心配し、必要だったら助けるよというのです。私はたった1店舗のことを気に掛けるという姿勢に驚きました。彼は全体だけでなく1店舗単位の損益計算書を把握していたのです。

 財務の責任者というと財務だけを気にすると思いますが、フランチャイジーの財務や家庭状況も把握しています。フランチャイジーを集めて、年に一回コンベンションを開きます。その会場で、財務責任者の重役や、CEOはフランチャイジーだけでなく、家族まで親しくファーストネームで呼びます。企業の財務のもとになる家族関係まで把握しているのです。このフランチャイジーとのきずなの強さもマクドナルドの強さの秘密ですね。

 マクドナルドが株価を高く維持しているのは、ストックオプションにより、米国マクドナルド経営者や社員、世界各国のマクドナルドの合弁相手の労働意欲を高めています。

合弁会社の契約終了時マクドナルドは相手の持ち分を年間売り上げを持ち分で計算し、4割程度で買い上げます。現金でなくマクドナルドの株式を与えます。現金でもらってもそれ以上増えませんが、株価が増え、配当も増えることで膨大な資産となります。

以前ご紹介した、日本マクドナルド創業者の故・藤田田氏が、上場で1,000億円以上の現金を本人だけでなく家族にももたらしましたが、上場でなく米国マクドナルドの売却し、米国マクドナルド株を入手したほうがもっと利益が増えていたと思います。結局、故・藤田田氏は、金もうけは上手でしたが、公開企業の株価向上という会社経営は分かっていなかったといえるでしょう。

 次回から、バーガーキングのマニュアルをご説明しましょう。

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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