葉室 麟(はむろ りん)という歴史小説家が出している「古都再見」という文庫本を片手に旅をしています。向かうのは京都を過ぎて名古屋なのが残念ですが。
ところで古都京都と九州がどうつながるのか、と聞かれそうですが。実は葉室さん、生まれは北九州市、育ったのが久留米市なのです。福岡の新聞社勤務の後、作家として独立。多くの作品は久留米市で書かれています。
晩年に仕事場を京都に移し、その頃に京都を散策した折々のことを週刊新潮に連載。まとめたものが書籍化されているのです。
歴史小説家ならではの視点で、京都を描かれているので、ガイドブックとは一味違った楽しい作品です。
とはいえ、毎週の連載なので、高尚な内容だけでなく、京都で食べたラーメンから話が九州に飛び、仲間と呑んで締めに食べた豚骨ラーメン、それも発祥の久留米ラーメンへの愛情がたっぷり絞り込まれている話や、長浜ラーメンは博多ではなく福岡のラーメンだと熱く書いているのを読むと、小説家の前に、生活者として久留米や福岡の街を歩いていたのだろうなと想像できて楽しいのです。
直木賞作品で映画にもなった「蜩ノ記」や「散り椿」など叙情的で、人の心根を温めるような作品は多くの人に愛されています。
50歳で作家活動を開始、なくなるまでの16年間で50作以上の作品が上梓され、その大半が久留米市で書かれていたというのは、少し嬉しいことだなと思います。
歴史書を読み解き、舞台になった土地を歩き、新しい物語を紡ぎ出す。多作の裏には、相当な努力があったと思います。折をみて他の小説も読み進めてみようと考えています。
古都再見 葉室麟 新潮社