「食品衛生法が2021年に改正されて6月から、手作りの漬物全般が市場から消えることになりました。」
という大きいフォントの書き込みがSNSで流れてきて、それを良識があると思っていた方がフォローしていたので驚きました。
要点は法改正によって、伝統的な漬物の製造販売に許可届出が必要になった。HACCPに基いた衛生管理が義務化されたことを言いたいようで、さらに次亜塩素酸による殺菌についてもミスリードのある書き込みがありました。
一見、生産者を守るような書込みですが、不安を煽るばかりで誤解を生みかねない内容なので正しい情報を伝えて欲しいと思います。
『今回の法改正は生産者、国民を守るためのものである。
国際的協調のためには必須であった。
中小零細にもできるように仕組みが出来ている。』
確かに今回の法改正は、国際的な衛生管理基準であるHACCPを土台にしています。HACCPは仕組みの開発が宇宙食の製造からスタートしているので、難しいとか大企業向けのものだという印象を持たれていると思います。その時代から数十年がたち、国連の外郭団体であるCodex委員会が推進して国際的な食品の流通の基本になっています。
法改正のポイントの一つに、国際ハーモナイゼーションの確立という言葉が入っています。
簡単な例を挙げると、日本向けに海外から食品を輸出する国、企業に対して「安全・安心」な物しか輸入を許可をしません。この基準になるのがHACCPとした場合、輸出側の国からすれば、日本国内でやっていないのに輸出側に強いるのは障壁だと言う話になる訳です。
中国産の食品はヤバいなどと一括りではね除けるのは問題があり過ぎます。HACCPをはじめとしたマネジメントシステム下で製造された食品は安全なのです。
HACCPの基本は、食品の原材料、または製造中に入り込む危害要因を予め予測して、ポイントを絞り徹底的に取り除く仕組みです。そうした仕組みの記録を残すことも大切です。
漬物の場合、原材料を洗い、たっぷりの塩に漬けることで脱水、その後、発酵して独特の風味を生みます。目的は野菜を年中食べるため保存性を高める工夫でした。乳酸菌が優勢なので腐敗菌などを寄せ付けません。保存性を担保するのは、水分活性とph。塩漬け、酢漬けには理由があるのです。天日干しで水分を抜く、日差しの少ない東北では囲炉裏の煙で燻すのは自由水を減らして細菌の繁殖を抑えるためです。これらを古来から経験を積み重ねて続けて来たのです。
今、必要なのは保存性を説明すること、続けて来た技術を守ることです。それは消費者を守ることであり、生産者を守ることでもあります。
北海道で起きた浅漬けの殺菌が不足して病原性大腸菌により死者が出た事件が、この度の規制強化に繋がったと言われます。確かに古来からある漬け物と、浅漬けは製法も保存性の根拠も違っているので管理点は違います。浅漬けなどは、ほぼサラダですからね。一緒にして欲しくないという生産者もいそうです。
梅干しでも、天日干しして塩に漬けた物と、調味液に漬けた物と同じく梅干しと呼ばれて流通しています。この違いを理解して購入している消費者がどれほどいるでしょうか。消費者側から見ると、野菜を保存するために加工した食品として、ほぼ同じ物なのです。
そうなると作り手側で出来る限りの手段を持って安全性を担保する必要がある訳です。
そのために、製造する現場は衛生的な環境で、清掃が行き届き、異物混入対策が取られるのは当然。製品に触れるのはしっかり手洗いをした手でというのも当たり前のことなのです。
間際になっても、何百万も掛かるなら無理だからと廃業を決めたと、ニュースに取り上げたりしています。
本当に求められているのは、完璧に整った設備では無いのです。製品に及ぼす危害要因を取り除く仕組みです。
猶予期間が3年もあったのに手を打たず、販売に影響が出るなどと道の駅の担当者が言うのはお門違い。個人で無理なら集会所などで共同の作業場を作るなど工夫するところはあったはず。
今後は、これをチャンスに、売上げを伸ばす業者も出て来るでしょう。
浅漬けはサラダと同じだと考えて、衛生的な環境で製造して冷蔵流通する、保存期間も2週間程度などの製品設計をすると、瑞々しい食感のものが食べられます。
泉州の水茄子などは、全国流通などはやめて、時期になったら食べに行く。という方が良いのかもしれません。
いつでも、どこでもと言って始まった漬け物も、切り口を変えるとビジネスチャンスになります。
漬物の衛生規範の改正(浅漬け)厚生労働省