ロコロトンドの農業高等専門学校

南イタリア美食便り

イタリア随一の農業生産地プーリア州内でもナンバーワンの設備と教育内容を誇る農業高等専門学校が我が家近くのロコロトンドという町にあります。日本との高校生国際交流の可能性を探る目的で校長先生と面談、施設を見学させていただきました。

基本的な教育に関する考え方や制度は、国民性の基礎であり相互理解を深めるためには非常に興味深い分野です。私はイタリア人の自己アピール力の強さやおしゃべり好き、議論好きなところは、個別の口頭試験を尊重する中学、高校で培われたものに違いないと思っています。

イタリア人の特徴と言える郷土愛の強さも優れた色彩感覚やデザイン力も全て学校教育の内容にその理由があると思っています。

農業生産、加工の分野でも世界に名を馳せる「メイド・イン・イタリー」ですが、高校レベルでこれほど実践的で広範囲に渡る知識が得られる設備と授業内容に驚きました。今年で創立102年を迎えるこの学校は5年間の基礎課程と1年の専門課程があります。現在の在籍生徒数は約950名。プーリア各地から学生が集まっており100名の生徒が暮らす寄宿舎もあります。

また、畜産を含む実験農場と主に生物多様性とオリーヴとブドウの土着品種保護を目的とする農業研究所と実験的ワイナリーが併設されており、観光地として有名は隣町のアルベロベッロの調理やサービスを学ぶホテル専門学校と合併したことにより畑からテーブルまで第1次から第6次まで食に関する全てを学ぶことが出来る教育機関です。

イタリアの主たる食品見本市や生産品コンクールなどにも参加していますし、国際化やデジタル化への対応も積極的に取り組んでいるとのこと。公立学校なので税金で運営されていますが、EU、国、州、からの補助金、地元企業からの寄付金などが財源です。学生は教科書代や実習費などの負担がありますが、授業料はかかりません。

創立100年記念に刊行されたこの学校の歴史を綴った分厚い本のタイトルは、「貧しい農民からヨーロッパ市民へ」。プーリアの農民文化の現代史とも言える資料が集められています。これだけ見てもプーリア人の農民魂の誇りを強く感じます。

この学校は食と農業の高等専門学校ですが、経済や人文を学ぶ日本でいうところの文系の高校でも専門分野としてまさに「メイド・イン・イタリー」科という名称を掲げたコースが新設されるとのこと。プーリアの田舎では人口減少問題は都市部に比べるとそれほど深刻ではないにしろ、生徒数が減っていく中で、公立高校の合併や閉鎖も起こっています。学校も教員も切磋琢磨しないと自らの生存競争問題です。

私たちも将来を担う高校生の国際交流を通じて、イタリアと日本両国で時代に合った専門性のある教育の方向性を考えていきたいと思っています。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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