プーリアにおける食・農・観光の変化

南イタリア美食便り

イタリアは4月25日の解放記念日の祝日から5月1日のメイデーまで日本より一足先に春の連休が終わりました。プーリアでも最低気温が連日10-13度で雨模様のお天気でしたが、街には観光客が溢れていました。夏の観光シーズン到来を感じさせる賑わいです。

とは言え、我が家では5月だというのにまだ夜は暖炉に火を入れる寒さ。初夏の野菜のそら豆やグリーンピースを食べながら暖炉に火を焚べるという経験は初めてです。

例年は6月頃に咲くオリーヴの花も今年はすでに蕾が膨らんでいますが、急なこの寒さにびっくりしていることでしょう。天候不順は家庭菜園及び果樹園には致命的。今年の収穫はどうなることやら、です。

プーリアのチステルニーノ郊外の田園の真ん中に移り住んで16年めになりますが、この期間で私が実感している食、農、観光に関わる当地での変化についていくつか書きます。

まず、日本食ブーム。もともと食に関して保守的なイタリア人ですが、日本食は着実に浸透してきている感じがします。

中国人経営の食べ放題スシ屋がタケノコのように出店ラッシュだったのは5、6年前からコロナ禍前ぐらいでした。今ではその多くは閉店し、価格帯が高めの居酒屋風だったり、創作和食の店が目立つようになりました。

スーパーマーケットの魚売り場にもパック入りのスシが並んでいます。日本食材コーナーも拡張を続けています。インスタント麺も増えています。購買層は40歳代が分岐点です。それ以上年齢が上がるいまだに手にも取らない人が多いようです。

イタリア随一の農業生産地であるプーリアですが、加工品工場などは多くありません。その中でワイナリーの数はこの15年で目にみえて増えています。もともとワインの原料であるブドウ液をバルクで北部イタリアやフランスに売る商売が一般的でプーリアで初めてボトリングされたワインの歴史は第二次世界大戦後からでした。

それがここに来て主に国外輸出用にワインを作るワイナリーが増えました。イタリア国内でのワインの消費量は減っていますが、日本以外のアジア市場にはまだ開拓の余地がありそうです。醸造技術やマーケティングの部分で出遅れたプーリアですが、ポテンシャルの高いブドウ生産地であることは変わりないので、今後も目が離せないと思います。

ワインツーリズムにも関心が高まっており、設備投資の補助金を利用してテイスティングルームを増築したり、ワインリゾートと銘打った宿泊施設を作ったりということも増えて来ました。

ただプーリア人だけに限らずイタリア人気質とも言えると思いますが、個人主義が強く、観光業を街を上げて盛り上げるとかみんなで協力して何かをするといったことがなかなか成立しないので、観光客目線で見ると不便だったり、チグハグ感があったりという点は否めません。

ただ一番多い北ヨーロッパからの観光客も自分達で情報を選び能動的にバカンスを楽しむスタイルの個人旅行者なので、そこまで至れり尽くせりのおもてなしを期待していないとも言えるでしょう。ある意味「南イタリアらしさ」を求めて来る人々の期待を裏切らないとも言えると思います。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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