外食産業基礎コース 第7回目 物の管理 その2

レストランチェック

物の管理 科学的なアプローチ

ドライブスルーシステムの続きです。

<POSシステムの重要さ>

  ドライブスルーシステムで最も大事なシステムは,POSシステムである。POSがなければドライブスルーシステムは成り立たないのである。

  まずオーダーテークで会計が終了しない間に次々とオーダーを受付けて、そのオーダーを、キャッシングウインドーに送付し、そのオーダーをピックアップウインドーまで送付しなければならない。また、その間のオーダーの内容を店内のディスプレーに表示し、調理をする人、取り揃える人が確認できなければならないのである。

また、いったん取ったオーダーがキャッシングウインドーやピックアップウインドーで変更や追加があったときにどうするか、途中で割り込みがあったときにどうするかなどの、複雑な対処ができなければならないのである。

<コミュニケーションシステムの設計>

  POSと同様に重要なのはコミュニケーションシステムである。POSではお客様のオーダーを取り終わらないと、ディスプレー画面にオーダー内容が表示されないが、大量オーダーが入ったり、特殊な注文が入ったときにすばやく対応することができない。そこで、マイクとスピーカーでの音声によるコミュニケーションが必要になる。

<ドライブスルーレーンの設計の注意点>

  ドライブスルーの場合には、建物の配置、ドライブスルーレーンの線引き、車の出入り、看板の位置など気をつけなければならない。

  ドライブスルー店舗は看板の設置が重要である。国道などは車線が多く車のスピードが早いので、店舗の前にきてから駐車場に入ろうとしても通り過ぎてしまうのである。そのため、告知看板の設置が重要になってくるのである。

  店舗には当然回転式の大看板を設置するが、町中では高さ規制や、高層ビルの為に遠距離から見にくいという問題がある。郊外でも車のスピードが早いため大看板が見える距離では店舗に入るだけの十分な減速ができない。

そのため告知看板を設置するわけであるが、店舗からの距離は店舗のロケーション競合状態により異なる。また、車の平均速度や、前方の競合店の存在により設置場所は異なってくる。

  車の流れが安全でスムーズにするには、カウンターでの並ぶスペースが必要なのと同様に入り口からオーダーボードまで十分な距離が必要である。また、各ウインドー間に何台の車が入るかも全体のサービングタイムがスムーズにいくかに影響する。

  全体の敷地の中の建物の位置であるが、町中の店舗の設計の習慣から建物を道路際に建てる傾向があるが、それではドライブスルーレーンの長さを十分に取ることができず、日曜日の忙しいときにお客様を逃がしてしまう原因となる。また、駐車場に車を止めて店内にはいるのに、ドライブスルーレーンを通過することになり危険である。ドライブスルーレーンは敷地の周囲を回し、歩行客特に子供に危険がないようにしなければならない。

  建物が道路際にあると車から見やすいように錯覚するが、実は奥に建物があった方が車から見やすいのである。新幹線で遠くの富士山を見るとはっきり見えるが、線路の中の砂利を見てみると流れてはっきり見ることができない。スピードがある時には、距離があった方が景色が流れず見やすいのである。

  夜間に建物が目立たないと車が通り過ぎてしまうので、客席内部の照明を明るくし、建物外部の照明も明るくし、周囲の暗闇から浮き上がるようにすると店舗が目だち車が入りやすくなる。

また、駐車場の照明も十分に明るくし、家族ずれのお客様や、若い女性客も安心して入ってこれるようにする。駐車場が暗かったり、部分的な死角があると暴走族などがたまり場にし易くなるので注意する必要がある。

  また、キャッシングウインドーで品物を受け取ってからすぐに道路であると、通行料が多いところではすぐに出ることができず、待たなくてはならない。そうすると次の車に品物を渡すことができず全部の車がストップしてしまう。キャッシングブースから、何台か車をためることが出きれば比較的スムーズにドライブスルーの車を流すことが可能である。

  入り口からオーダーボード、オーダーボードからキャッシングウインドー、キャッシングウインドーからピックアップウインドー、ピックアップウインドから出口までの距離はきちんと計算しなければならない。

特に設計の際の車と車の間の距離、車のサイズの設定は重要である。最近は車のサイズが大きくなり、小型者規格を越える車が増加し、また、1ボックスカーなどの車高の高い車が増えてきたので設計には十分に注意する必要がある。定期的に来店客の車のサイズのチェックも必要である。

<ドライブスルーの安全対策>

1)照明

  駐車場の照明は十分な明るさが必要である。特に、部分的な暗がりは犯罪を発生し安いので注意が必要だ。特に店舗への入り口の照明は十分明るくし、入ってくる人が確認できるようにする。

2)速度

  駐車場内部の速度制限が必要である。一般的に5KM以下でなければならない。物理的に速度がでないように駐車場内の通路に蒲鉾上の突起物を作り速度を出せないようにする。

3)レイアウト

  駐車上に止めたお客様が店内にはいる通路と、ドライブするー利用のお客様の導線が重ならないようにする。特にドライブスルーのキャッシングブースの前方の横断歩道での事故が多いので注意が必要である。

最近では1ボックスカーや、大型の4輪駆動タイプの車両が増加しているが、それらの車の左側面に子供が立っていると全く見えないので注意しなければならない。

  特に子供の遊技場などを作る場合には、店内から直接遊技場に出入りできるようにし、幼い子供が駐車場にでないようにしなければならない。

4)犯罪への対策

  郊外型の店舗では、事故や犯罪の発生に注意しなければならないので、以下の項目に注意し店舗設計、運営基準を作成しなければならない。

・銀行納金の法

・早朝、深夜の従業員の安全対策

・店舗の鍵の掛け方、管理方法

・金庫の鍵の管理

・盗難対策

・火災対策、自動消火装置、警報装置

・駐車場における表示内容、長時間駐車対策

 以上はドライブスルーマニュアルの一部である。日本マクドナルドは基本的に米国マクドナルドのマニュアルを翻訳検討して作っている。上記のドライブスルーのマニュアルは米国マクドナルドには存在しない。日本で試行錯誤しながら作り上げたものだ。米国は車が普及したのはフォードがモデルTの高品質でありながら、低価格な自動車の大量生産に成功したからである。

 フォード・モデルTの販売開始は1908年であるから、自動車の普及後110年以上がたっている。そして第2次世界大戦後、経済復興で全国にハイウエイを建設し、ベイビーブーマーの誕生により、郊外に住むようになり自動車は生活必需品となった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%ABT

劉のファスト・フードの技術革新 大量生産方式(フォードモデルT) 修士論文

 平均的な米国人の郊外一戸建てには扉のあるガレージが2台あり、そのガレージから道路の間に、2-4台の車を止めることができる。米国では州により異なるが運転免許は15-16歳で取得できる。つまり高校生になると自分で運転して学校に通える。そのため各家庭に3-4台の車がある。子供の頃から車を運転する米国人にとって、ドライブスルーなんて当たり前でマニュアルなんて必要ないのだ。

https://note.com/potomacdeer/n/n19005b8a2573

 日本で自動車が普及しだしたのは1964年開催の第一回東京オリンピックに際しての国道整備と首都高速道路の建設からである。そして、1970年の大阪万博にあわせて作られた名神高速、東名高速などの高速道路の建設が、車の普及を加速させた。米国の車の普及に50年以上遅れており、特に大都市居住者の多い日本では自動車の運転に縁が無い人も多い。

 自動車になじみがない日本でのドライブスルーの設計は大変である。マクドナルドは1972年、環八高井戸店で始めてドライブスルーを取り入れた。設計は米国マクドナルドの天才エンジニアの故・ジム・シンドラー氏によって行われた。

笑い話であるが氏の設計は当初、米国の右側通行で行われ、慌てて左側通行にしたので、やや使い勝手が悪かった。それ以降の店舗は日本側で設計を行ったが、社内各部の部長クラスも、自動車免許を持っておらず自動車も持っていない時代で、店舗の立地選択や設計上の問題が多かった。

 当時急速に店舗展開していたすかいらーくグループは、環八高井戸店が面していた五日市街道沿いの三鷹に本社を構えていた。その立地上、社員は車で移動しており、三多摩地区の良い立地にドライブインレストランを急速に展開できた。

 それに対し、当時都心駅前型店舗中心の展開が多かったマクドナルドは、西新宿の住友三角ビル高層階に本社を構え、社員の移動は電車だった。この問題によりマクドナルドの郊外型ドライブスルーの展開が遅れた。

 店舗建物の設計も問題があった。すかいらーくなどのドライブインレストランはドライバーの視認性が高いように道路側に店舗を置き、駐車場を奥におく。ドライブスルーの場合には、ドライブスルーレーンの長さが重要で、店舗は奥に設置する。この違いを車を運転しないマクドナルドの社員は理解できなかった。

 もう一つのマクドナルドの課題は店舗設計の標準化が遅れ、店舗コストが高く利益性が低かったことである。すかいらーくは店舗の標準化を図りコストが低かった。ノウハウのなさを解決するために、米国のドライブスルー店舗を買い上げてフランチャイジーとして運営しながら勉強することになった。

社員教育のために1980年初頭にサンフランシスコ郊外のシリコンバレーの中心サンタ・クララ市に店舗を構えた。現地法人のカリフォルニア・ファミリー・レストラン(C.F.R.)という会社であった。店舗を運営する社員を統括スーパーバイザー、スーパーバイザーから3名ほどを選抜して2年間程度送るという形態であった。

 私が統括スーパーバイザー時代に、一言も英語を話せないのに2代目の現地責任者として1981年11月アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ郡サンタクララ店に統括責任者として派遣された。 英語の研修とUSのマネージメント、オペレーション、物の考え方を学ぶのが目的だった。

特に多国籍民族の使い方を修得。日常業務としては、USマクドナルド社の1フランチャイジーのオーナーとして店舗を運営した。ドライブスルー店舗で、建物を敷地に長いドライブスルーレーンを備え、車の出入りがスムーズで良かった。

ドライブスルーレーンの改善や、日本製のPOSの導入、プレイランドの導入と改善、客席改造など店舗運営のやり方や設計を勉強した。 ドライブスルーでは毎日ランチタイムにシングルブースながら常時90から110台前後をさばく経験を積んだ。

 1984年 3月帰国し、関西地区本部 統括スーパーバイザーとして、神戸地区及び 中国四国地区を担当。その時驚いたのは日本のドライブスルー店舗の設計が悪く、ドライブスルーのさばける車の台数が低いことだった。建物を道路側に建てるためにドライブスルーレーンが短く道路に出入しづらかったのだ。

 ドライブスルーレーンの設計はドライブスルーレーンにどれだけ車を並べられるかできまる。駐車場の入り口を入ってドライブスルーレーンに入って、オーダーボードまで8台以上並ばないとだめだ。

次にドライブスルーウインドウまで4台くらい並ばないといけない。ウインドウから道路出口まで3台並べないとだめだ。交通量が多い道路に面していると車が出られず、フン詰まりを起こす。交通量の少ない側道に逃がすか、ユーターンして駐車場を横切り他の出口に出れるようにするとよい。

 また駐車場内の地面に書く矢印や歩道、文字の表示も課題だった。紙に書く時の書体ではだめだ。車に座って低い位置から見て読めるためには、道路に書く読みやすい縦長の書体や形にする。これも普段車を運転していないとわからないのだ。

 こんな改善の試行錯誤に数年の歳月が必要だったが、関西地区のドライブスルーは使い勝手がよくドライブスルー店舗は大幅に増加した。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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