プーリアも例年以上の暑さが続いています。イタリア全土で水不足が報じられる中、川がないプーリアで普段から水道水よりも地下水に頼っている我が家でも水の値段が気になるところです。
年配者層は水の大切さを子供の頃からしっかり教え込まれているので、野菜や食器などを洗う際にもできるだけ節水してすすぎに使った水を草木にまくなど日常的に行うクセがついています。非常事態になるとそんな昔の習慣の有り難みを感じます。蛇口をひねれば温水も冷水もふんだんに出てくるのが当たり前ではない事を今更のように思い知らされます。
今日は近くの牧場から生乳を分けてもらい、チーズ作りをしました。コロナ禍の2年半、待ちに待ったプーリア好き日本人料理人の方がプーリア独自のチーズ作りに触れたいとのご希望で御来訪中なのです。
プーリアの郷土料理同様、素材の新鮮さとシンプルさが特徴のプーリアのチーズ。モッツァレッラチーズのヴァリエーションであるブッラータはプーリア独自のチーズの代表格で日本でもこのところ人気も知名度もぐんと上がっています。
しかし、私が個人的にプーリア料理に欠かせないと信じているのは、カチョリコッタというチーズと、当地ではシンプルにフォルマッジョと呼ばれる粉チーズとして使われるハードタイプのチーズ。フレッシュチーズよりも乾燥、発酵、熟成のプロセスを経る分、複雑な工程になり上手く作るためのハードルはぐんと上がります。
ブッラータがメインディッシュにもなる花形チーズであるとするとカチョリコッタやフォルマッジョはプーリア料理の核となる味のある重要な脇役とでも言いましょうか。
この20年以上日本でプーリア料理を広める活動を続けてきた私たちにとって、カチョリコッタの良さが広まるようになることはプーリア料理の浸透度の重要なレベルアップを意味します。
プーリアには独特の伝統的な農園制度があり、管理・運営を任された農民の数家族が広い敷地内に住み込み農業や畜産をしていました。その仕事はチーズなどの保存食、加工品作りまで多岐に渡りほとんどが手作業で行われていました。
そんな農園をマッセリアと呼びますが、今ではそのマッセリアの多くが母屋の建物をホテルやB&Bなど宿泊施設として改築し観光客に人気を博しています。ただ農園の核であった農民文化の手作業のノウハウは残念なことにプーリアでも風前の灯と言っても過言ではない状況です。
マッセリアに生まれ育ち子供の頃から母親のチーズ作りを見て育った我が家のお隣の奥さんに日本人の料理人がチーズ作りを学ぶお手伝いを出来ることは本当に嬉しいことです。
コマーシャルベースに乗らなくてもパッションと信念を持ち続けることで形になってくるものがあります。「チーズは牛乳次第。急がせてはだめ。作り手は牛乳の変化を感じてサポートするのが仕事」という彼女の言葉に深く頷いてしまいました。