プーリアの食肉文化

南イタリア美食便り

5月27日、イノシシの獣害に対する政府の法整備欠如に抗議するデモがローマで行われました。害を減らすために狩猟シーズンを長くすることなどを求めています。

昨年は首都ローマの住宅地にも野生のイノシシが現れて住民が怖がっているというニュースがありましたが、このデモの主催者であるColdiretti(中小規模農業生産者組合)のリーダーは、これでやっとローマの政治家たちも野生のイノシシ被害が現実のものであると信じてくれたのだろうと皮肉混じりに抗議しています。

イタリアではイノシシの獣害は農作物が荒らされることが第一ですが、それ以外にも交通事故の原因になったり、豚がイノシシ起源の伝染病に感染するなど年々増加しているとのこと。日本は食肉加工品の輸入が他国に比べてとても厳しいのですが、イタリア産イノシシ肉、及び加工品は禁止されています。

我が家のあるプーリア中央部では農地となっている平野部が広がっておりますが、幸い山から野生のイノシシが降りてきて農作物を荒らすという被害はあまり聞きません。しかしプーリアでも他の地域ではコロナ禍になって被害が増えていると聞きます。

イノシシの被害、日本ではどうなのかと気になりました。農水省の「野生鳥獣による農作物被害状況の推移」という資料によるとイノシシに関してはこの20年ほどで4分の1の規模まで減っています。一方シカの害は増えたり減ったりしながら現在は20年前と同じレベルのようです。この違いは何故なのか興味深いところです。

プーリアの食肉文化で特徴的なのは、脂身の多い肉より赤身の方が好まれるというところです。牛肉では成牛より仔牛の方が一般的です。羊肉では仔羊(ラム)肉です。その他馬肉もよく使います。そう考えるとイノシシ肉が好まれてもおかしくはないとも思えます。

しかしサラミ以外でイノシシ肉を使った料理というのは知りません。肉屋でもイノシシ肉を精肉として扱っているのも見たことはありません。個人的には美味しいボタン鍋をイタリアでも食べられたら嬉しいと思うのですが、駆除される量が増えてもそれが有効活用されるのは難しいでしょう。

日本ではジビエとしてPRする動きもありますが、イタリア人は食に関して日本人よりももっと保守的なのでどんなにPRしてもブームになることはないと思います。

一方、ここ最近注目されているのはロバ肉です。昔は労役を終えた後食肉として利用されていたのでしょうが、今入手できるのは専用牧場で飼育されたものです。

肉質は柔らかく、甘みのある肉で火入れの上手なシェフの手によるロバ肉のグリルは唸るほど美味しいものでした。

ロバは肉だけでなくミルクも珍重されています。牛乳に含まれるラクソースが入っていないため人間にも消化しやすく栄養価も高いことから健康志向の強い消費者に好まれています。また性質の穏やかなロバは触れ合うことによって心を落ち着かせる効果があるとして自閉症治療のためにロバセラピーというものもあります。

我が家から10kmほど離れたマルティナフランカという町には町名が種名となっている大型のロバが保護指定地区表示に登録されています。美味しさに加え、食の安全、健康志向をアピールしたブランド化が上手くいっている例かと思います。

イノシシにしろロバにしろ人間の都合良く扱われ、害獣にされたり益獣にされたりいい迷惑だと思っているに違いありません。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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