「南イタリア」と言うとイタリア国内ではアブルッツォ、バジリカータ、カラブリア、カンパニア、モリーゼ、プーリア、サルデニャ、シチリアの8州を指します。世界共通の一般的なイメージとしては海辺のリゾート地、レモン、ピッツァなどが思い浮かぶ人が多いかと思いますが、これらはナポリやカプリ島、アマルフィ海岸周辺の観光地としての知名度が他の地域と比べて圧倒的に高いからですね。
私は南イタリアと九州を比較して相違点を見つけるのが楽しみなのですが、九州のイメージとして一番先に思い浮かぶのが火山と温泉、辛子明太子、豚骨ラーメンというレベルの話です。
南イタリアの中でも地域によって食文化は変化に富んでいます。ブーツ型をしたイタリア半島のつま先から甲の部分に位置するカラブリア州は、ペペロンチーノの保存食文化が発達しています。なかでも辛いサラミの一種でウンドゥイアというペースト状の豚肉の腸詰めとローザマリーノと呼ばれる生白魚の唐辛子漬けが秀逸です。イオニア海沿いでは美味しいアンチョビ(カタクチイワシの塩漬け)にもペペロンチーノが入っています。オリーヴオイルにペペロンチーノを入れた辛いオイル、オリオサントもカラブリア発祥です。カラブリア州は地形的に険しい山間部が多く農耕しにくいことや交通の便が悪く流通に不利であることが保存食や発酵食品文化の発達に関係していると言えるでしょう。厳しい環境から故郷を離れ移民して行った多くのカラブリア人もそれぞれの地でレストランを開いたりしてカラブリアの食文化を継承しておりペペロンチーノの認知度がイタリア国外でも高いことに貢献しています。
ですが、これらの地方色の強い食材は都市部のグルメ食材店や全国規模の大型スーパーチェーンへ行けば手に入りますが、プーリアの地元の個人商店などでは置いていません。プーリア人は辛いものやスパイスが効いたものは余り好まないのです。プーリアは南イタリア地方の中では最も平たい土地が多く、海岸線が長い州です。農耕地にも漁場にも恵まれていて四季を通じて食材が豊富です。いつも新鮮な食材が手に入りやすいことが一番の特徴です。食材が良ければ余り手を加えずともそれだけで美味しいに決まっています。一方で、それ故調理方法やスパイスの使い方、発酵食品の文化などが発達しなかったとも言えます。インパクトの強い食材や料理が余りないのは食材の豊かさゆえと言えるのかも知れません。