南イタリア プーリア便り- ポモドーロ・レッジーナ

南イタリア美食便り
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また寒さが戻りまだもう少し暖炉にお世話になりそうです。
南イタリアは太陽燦々の常夏に近いイメージがあるかと思いますが、気温は東
京と変わりません。ただ違うのは夏が乾燥していて冬はジメジメしているとこ
ろです。田園の真ん中にある家はどこも暖炉があります。

毎朝暖炉の掃除をするのも、今年は後どの位だろうと考えると、暖炉で焼いた
肉やトーストしたパンを食べたくなります。屋外でするバーベキューとは違っ
た密かな楽しみというか、火の暖かさを感じながら食卓に近いところで調理す
る楽しさがあり、美味しさが倍増される感じがします。そう言えば日本の鍋料
理などにも通じる感覚かも知れません。

スライスしたパンの上に細かく切ったトマトがのったオープンサンドはブルス
ケッタと呼ばれ日本でもイタリア料理店などではよく見かけるかと思います。
本来は炭火でトーストしたパンの事を指すのがブルスケッタという言葉です。
上にのせるものはお好みで良いのです。

プーリアではこの暖炉の炭火であぶったパンの食べ方に独特のこだわりがあり
ます。材料はトマト、オリーヴオイル、塩、そしてリコッタフォルテというチ
ーズです。中でも欠かせないのプーリア土着品種のポモドーロ・レッジーナと
いうトマト。プーリアの中でも我が家のあるブリンディジ県の中央部の特産で
スローフード認定されています。これは夏に収穫した完熟のものが冬まで腐ら
ない優れもの。厚い皮に守られて中身はジューシーさを保つことができるので
す。へタの部分を糸で絡げて房にし、天井の梁から下げて保存します。この情
景もプーリア独特のもの。
このトマトを半分に切って切り口を炭火であぶったパンに擦り付けます。そし
てそこにオリーヴオイルをたっぷりかけます。塩で味を整えればこれだけでも
美味しいのですが、ここにリコッタフォルテという、沖縄の豆腐窯にも似たこ
れまたプーリア独特のリコッタチーズを熟成したペースト状のチーズを加える
とトマトの凝縮された旨味とチーズの濃厚なコクと辛みがマイルドなプーリア
産のオリーヴオイルと相まって唯一無二の味になります。

シンプルなコンビネーションでありながらこのトマトもチーズもそれだけで食
べるのとは比べものにならない程バランスの良い美味しさになるのが伝統食の
底力というか、長年受け継がれてきた味の奥深さですね。

トマトの品種として栽培するのに必ずしも効率が良いとは言えず一般的な美味
しさの基準からは外れているとしても、このトマトでなければ出せない味とい
うものにこだわる。チーズもそのまま食べるだけではなく長持ちさせて調味料
として使うために工夫されている。地質や天候、歴史など伝統食というコンテ
クストを外れたところからは生まれてこなかったであろうこれらの食材に陽の
目を当てるのがスローフード運動や原産地保護呼称(DOP)の制度です。プーリ
アでは今まで保護するまでもなく当然として受け継がれてきた食生活ですが、
若い世代への食育の必要性の声も上がっています。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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