搾りたてのオリーヴの輝くような緑色と、豊かな香りは手摘み作業の疲れを癒すには充分な満足感を与えてくれます。
細い枝に鈴なりに実った実は手の届くところは手でしごき、届かないところは長い柄のついた電動熊手を使ってはたき落とします。ネットの上に落ちた実を集め、一緒に落ちた葉や小枝を選別し、1日の成果を圧搾所に持ち込むと翌日にはオイルとなって戻って来ます。圧搾所ではそれぞれのクライアントのオリーヴが混ざらないようロットごとに機械を洗浄します。最少ロットは200kg。我が家のオリーヴの場合、ジョヴァンニと私の二人の作業では一日300-400kg程のオリーヴを収穫することがで来ます。お天気やそれぞれの木の熟し具合を見ながら、時には作業を手伝ってくれる人を雇ったりもして、数日間この作業が続きます。
搾りたてのオリーヴの鮮やかな緑色は空気に触れることで黄金色に変化します。ちょうど緑茶の色が入れたての緑から黄色に変わるような具合です。この緑色は搾りたての印でもありますが、この色を保とうとすると酸化防止剤なり、着色剤なりを加えない限り無理です。空気になるべく触れることなく圧搾後すぐに真空状態で容器に注入する新しい機械を導入している生産者もあります。
そのまま飲むと喉越しにピリッと感があるのが良いオリーヴオイルだと言われていますが、これはポリフェノールのせいで確かにこれは酸度が低く新鮮な証拠です。このピリッと感が強ければ強い程良いオイルなのかと言えば、それだけが良いオイルを評価する基準ではありません。プーリアの地元ではこのピリッと感が嫌だという人も少なくありません。確かにこれは味ではなく刺激で美味しいと感じる感覚ではありません。こればかりを有り難く喜ぶと言うのもちょっと変な感じです。
世界的なオリーヴオイル人気にあやかって、プーリアでも目新しい商品の開発が盛んになって来ています。添加されるフレーヴァーのヴァラエティーもどんどん増えています。通常は一緒にペースト状にされる種を、先に抜き取って実だけを圧搾して作ったもの、またペースト状のオリーヴから滲み出てくる水分と油分を分離する前の上澄の液体のみを集めたものなど、それぞれの特徴と効果をアピールしています。私個人的には、視覚と論理性に頼りすぎているような気もします。ワインティスティング同様オリーヴオイルテイスティングも知識や見識を広めるツールとして一般的になってくると良いと思いますが、どちらかと言うと数値化や言語化された評価よりもその食物の歴史を含むトレーサビリティと生産地の自然環境や社会環境も重要な要素です。
ヨーロッパ文明と深い関わりのあるブドウとオリーヴという作物の恩恵にどっぷりと浸かってきたプーリア人のこれらに対する思いや感覚と言ったものを知ることによって、この20数年で、私自身の食品全般に関する認識が大きく変わりました。社会問題、自然環境問題の解決策は特に食べ物に関しての生産者と消費者の意識の違いを狭めることが鍵になるのではと感じています。