全社員に告ぐ

食の宝庫九州から

これは1955年(昭和30年)3月、八雲工場食中毒事件発生後に、当時雪印乳業株式会社の社長であった故佐藤 貢 が、「品質で失った信頼は品質で取り戻すこと」を誓い、全社員に対して発した言葉である。

『わが雪印がこの信用を獲得するためには、今日まで三十年の長きに亘ってあらゆる努力を続けたその結果であるはずである。

信用を得るには永年の歳月を要するが、これを失墜するのは実に一瞬である。

しかして信用は金銭では買うことはできない。

これを取戻すためには今までに倍した努力が集積されなければならないのである。

われわれ全社員がこの問題を徒らに対岸の火災視することなく、・・・・』

ところが、2000年(平成12年)6月に雪印乳業大阪工場製造の低脂肪乳などにより食中毒事件が発生します。

雪印乳業(株)は事件直後の対応に手間取り、商品の回収やお客様・消費者への告知に時間を要したため、被害は13,420人に及びました。

原因は、当時最新鋭と言われた、北海道大樹工場で製造された脱脂粉乳に含まれた、黄色ブドウ球菌の毒素が大阪工場に運ばれ低脂肪乳の原料に入り込んだためでした。

これは、1955年に東京都の小学校の給食で使用された脱脂粉乳により1,597人に被害が及んだ事件と構造はまったく同じものです。

冒頭に紹介した佐藤社長の訓示は、45年たって風化して同様の事件が発生した訳です。

その後、系列の雪印食品の牛肉偽装事件などが頻発し、雪印乳業は崩壊してしまいます。

「全社員に告ぐ」の文書は、乳業の存続会社である、雪印メグミルクのホームページに掲載され、2度と事件事故を起こさないために講習会で読み継がれているそうです。

さて、最近起きている、ステーキチェーンのハンバーグの加熱不足による病原大腸菌O157による食中毒事件、この企業は以前、結着肉の加熱不足で同様の事件を起こしています。原料に含まれる、または製造中に入り込む危害要因を推測し、取り除く、もしくは殺滅し危害を取り除くという最低限の工程を行なわずにお客様へ食品を提供してはならない。ともすればお客様の命に係わる事態に繋がることを、過去の事例を見れば容易に理解できるはずです。

信用の失墜は一瞬である。

食は命に直結する仕事です。忘れてはならないのはお客様の健康が一番だということです。

「全社員に告ぐ」|沿革|雪印メグミルク株式会社

https://www.meg-snow.com/corporate/history/popup/announce.html
上田 和久

上田 和久

スタジオワーク合同会社 代表。熊本県生まれ。厨房設備施工会社、電機メーカーで冷蔵設備の設計施工営業を担当後、食品メーカーへ転職し、品質保証の仕事を経て、2016年1月コンサルタントとして独立。安全安心な食品を提供することに日々、注力する企業に対して、HACCPに基づいた衛生管理の取り組みを支援している。 JHTCリードインストラクター

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