外食産業基礎コース 第4回目 人材教育その3

レストランチェック

人材管理:管理者及び店長の役割と時間管理

過去3回ほど、マニュアルやトレーニングカリキュラムのない時の、アルバイトや社員の教育を私の経験談でご紹介した。これからマクドナルド最盛期の完成したマニュアルとトレーニングカリキュラムをご紹介しよう。

1)店舗組織を見てみる

 社員とアルバイトに分かれる。

<<社員>>

 各店舗は社員とアルバイトで構成される。店舗の責任者は店長である。店長の下には社員が数名いる。一般的には2名から3名の社員で構成される。最近では経費的な面から一店舗当たりの社員数を削減する傾向にある。

書類作成の業務を減らすため店舗へのコンピューター(従来は特殊なコンピューターであったが最近ではウインドウズベースのパソコンが使用されるようになってきた)、POS(コンピュータ化したレジスターで、データーの分析が容易で、売り上げや、料理構成、労働時間などのデーターを本社のコンピューターに自動送信できる)の導入が行われている。

また、店舗の調理をアルバイトによる調理を可能にしている。アルバイトが調理するためには、調理機器の自動化が必要になる。

 店長の他の職位は、副店長などである。

<<アルバイト>>

 チェーンの現場で働いているのは殆どアルバイトである。アルバイトというと普通、現場の作業のみ従事するように思われるが、最近では社員と同じ権限を与え、店長業務まで任せている。

2)人の管理

 外食業はサービス業であり、人的なサービスが最も重要になる。人が不足すると素早いサービス、完璧なクレンリネス、おいしい料理を出すことはできないのだ。外食店の店長にとって人の管理は最も重要な業務であり、十分な数のアルバイトを集められるかどうかで、店舗のQSCは大きく左右される。

よく勘違いしやすいのだが、人がいなければロボットを使って調理すれば良いではないかということだ。ロボットというのは、定型的な単純作業を機械に置き換えることにメリットがある。調理作業というのは料理の種類が多く、一日の売り上げの繁忙の差が大きいので、人間より作業スピードは遅くなるのだ。

また、全ての作業をロボット化することは難しいので、人間の作業と共生しなければならないが、ロボットの作業と共生するのは大変危険であり、十分な作業スペースが必要で、せまい調理場とは相いれない場合が多い。

最大の問題は投資コストだ。外食店の厨房の調理機械の投資はどんなに高くても普通のファミリーレストランやファーストフードでは2,000万円前後だからだ。チェーンで要求している調理機器とは、アルバイトでも簡単に扱え、メインテナンスも最低限度でよく、かつ安い物なのだ。

 人の管理とはアルバイトの募集、面接、採用、オリエンテーション(初日に行う店舗業務の説明)、トレーニング、評価(仕事により時給を上げてやる気を出す)、給料支払い、等、正社員を採用する場合と殆ど変わらない業務だ。

 人を採用したらそのトレーニングをするのは社員やベテランのアルバイトの仕事だ。チェーンにはVTR、トレーニングチェックリスト等のトレーニング教材が揃っているから、それを使用し短時間にトレーニングする。

トレーニング教材の開発は大変重要で、毎年新しい手法のトレーニング方法を開発している。マクドナルドでは15時間でアルバイトを育成するようになっている。15時間というと短いようだが、大手ファーストフードでは年商2億円もいく場合があるから、アルバイト人数だけでも100人もなる。

平均的なアルバイトの定着期間は6カ月であるから、年に200人のアルバイトの採用とトレーニングが必要だ。200人のトレーニングには3000時間、社員が担当していたら1.5名の社員が必要になるような負担なのだ。

その為に如何にアルバイトの作業を簡単にするかということが重要になり、調理機器は全て時間と温度の自動管理となっていなければならない。

 次に採用しトレーニングしたアルバイトを売り上げと作業に応じて時間配分をする必要がある。以前であると、アルバイトであっても1日8時間労働させていたが、現在の様に時給が高くなって来て、原材料費よりも人件費コストの法が高くなると、必要な時間帯だけアルバイトを配置する必要がある。

その為、アルバイトの労働可能時間と店舗の必要時間を売り上げと対応させ、週間、月間の細かい労働スケジュールを作成する。この作業はかなり大変であり、熟練が必要だ。この作業のうまい下手により、人件比率を低く押さえながらQSCを最高に保つことができるので、店長の腕の見せ所である。

最近では、POSと店舗のコンピューターを組み合わせて、スケジュール作成作業を自動化するようになってきている。

3)社員マネージャーのキャリアプラン(会社での昇進の段階)とトレーニングコース

(1)店長までの教育システム

 店長の仕事は大変な量がある。これだけの業務を行えるようになるには、しっかりとした系統だったトレーニングコースと組織作りが必要になる。マクドナルドを例にとってその内容を見てみよう。

 入社後、まずマネージャートレー(マネージャー見習い)として店舗に配属される。入社後店舗に配属されると同時に、M.D.P.#1(マネージメント.デベロップメント.プログラム)に基づいて、トレーニングが開始される。MDPそのものはマニュアルでなく、研修期間のカリキュラムを日別に書いてあり、毎日実習する項目と、勉強するマニュアル、VTR教材などを明確にしてある。

店長やトレーナーはそれに基づいて毎日指導していく。この終了予定期間は個人差があるが、3-6カ月で終了するようになっている。内容は開店業務、営業中の店舗運営、閉店業務、アルバイトの業務、QSCQSCの管理を一人で具体的に出来るようになるまでである。

 米国マクドナルドのマネージメントシステムの基本は、米国軍隊のMTP(マネージメント・トレーニング・プログラム)を基本にしており、各職種に合わせてトレーニング項目を明確にしておき、各職種に合わせたMTPプログラムでトレーニングを進める。

一定の能力が付いたら、その職種に合わせた集合トレーニングを実施する。トレーニング内容はあくまでも現実的な内容で、日本の会社が行うような社会人としての常識とか、社内の報告方法などの幼稚園的な内容は教えない。

 米国と日本で最も異なるのが学生の常識であろう。日本の場合大学を卒業した新入社員であっても、電話の受け方、挨拶のしかた、手紙や報告書の書き方、欠勤や遅刻の場合の連絡などの社会人としての最低限のマナーを教育しないと使い物にならない。

米国の大卒の社員は社会人としての基本的なマナーを教える必要がない。大学生だけでなくても中学生の頃から基本的な時間管理を厳しく指導される。中学での授業の合間の休憩時間は5分間くらいと短く教室に走って行かなくてはならない。

授業に遅刻すれば成績に影響し、2回も遅刻すれば(朝でなく授業の合間であっても)親が呼び出され厳しく叱責される。時間管理などの基本的なマナーを学校、家庭の両方で厳格に教育されているのだ。

 MDP#1を終了すると、BOC(ベーシック・オペレーション・コース、基本トレーニングコース)という地区本部の主催するトレーニングコースを受講する。このコースを終了後、更にMDP#1の項目を全て満足すると、セカンド・アシスタント・マネージャー(第二店長代理)に昇進し一人前のマネージャーとして一人で店舗の運営をまかされるようになる。

当然の事ながら昇進により、給料、ボーナスの額が上がる。各タイトルが上がるごとに給料、ボーナスの額が上がることにより仕事に対する意欲を具体的に高めるようになっている。昇進はあくまでも実力主義であり資格試験などというペーパーテストではなく店舗運営での実績に基づく。昇進は日本の一般的な会社のような年功序列ではなく、場合によっては年齢が上の社員を指導することは当たり前である。

 セカンド・アシスタント・マネージャーに昇進後さらにMDP#2を渡され、3-6カ月で終了する。内容は店舗の高いQSCを実現するために、人物金の具体的な管理方法を学ぶ。

これを終了後、IOC(インターミーディエイト・オペレーション・コース、中堅マネージャートレーニングコース)というコースを受講し、MDP#2の項目を満足すると、ファースト・アシスタント・マネージャー(第一店長代理)の試験への挑戦資格をもらえる。

試験と言っても書類の試験ではなく、実際に店舗を運営しているところを他地区のスーパーバイザー(SV、店長の上司で複数の店舗を担当している、QSCと店舗の売上、利益の管理と、人事評価を行う、店舗のQSCの監査も担当する)がチェックし、店長と同等の能力があるとみなされたら合格する。あくまでも実務面の能力をチェックする。

 ファースト・アシスタント・マネージャーに昇格するとMDP#3-1を受け取り、店長になるための、具体的なQSCの実現方法、人物金の管理手法についての具体的な勉強をする。

このコースを終了後、AEC(アドバンス・エクイップメント・コース、上級機器メインテナンスコース)を受講する。米国式の考え方は全ての店舗の機器、建物は自分たちでメインテナンスするという物だ。建物や機器が壊れてから直すのではなく、定期的な清掃、調整、部品交換をして壊れるのを未然に防ぐ、自動車の定期点検と同様のプリベンティブメインテナンスの考え方である。

しかしながら多くのマネージャーは文化系の学部を出ており、機械の知識はほとんどない。その為機械を恐がり、さわろうとしないという問題がある。そこで授業を通じて、機械の作動原理、冷却原理、等の基本を教え、さらに店舗の各機械の構造を理解させる。そして、簡単な修理を実習させ、店舗で実際に行えるようにする実用的な授業である。

 筆者の調理機械の知識は全てこの授業を通したものであり、完全にマスターすれば調理機器メーカーの設計担当者とディスカッションを出来るくらいレベルの高い、具体的なトレーニングコースである。

 これを終了すると、MDP#3-2を渡され次の勉強をする。内容は更に店長の業務を出来るようにする物だ。この過程で、シニアー・ファースト・アシスタント・マネージャー(上級第一店長代理)の資格を満たせば昇進する。

この後、AOC(アドバンス・オペレーション・コース、上級マネージャートレーニングコース)を受講する。この授業から本社のハンバーガー大学が担当し、全国のマネージャーは本社のハンバーガー大学で受講する。このコースでは店長になるための全ての知識と手法を学ぶ。更に、広告宣伝、人事管理、目標管理、人事管理、機器メインテナンス、利益管理、等を具体的に学ぶ。

 米国のハンバーガー大学のAOCを受講すると大学の単位にもなる位の、レベルの高い内容である。

 これを終了後新店舗の開店に伴い、ストアーマネージャー(店長)に昇進する。店長昇進で勉強は終了ではない。これから更にMDP#4をもらい、新人店長の勉強を開始する。内容は具体的な業務と同時に、店舗のマネージメントをどうやって行うかという物になる。

 MDP#4の途中でSMC#1(ストアー・マネージメント・コース、新人店長トレーニングコース)を受講する。ここでは店舗のQSCの維持と売上と利益の管理と更に店舗におけるリーダーシップの取り方を学び、多くの人の前で話すプレゼンテーションスキル等を修得する。

 米国的ではマネージメントの長となると必ず人前で話したり、説得する必要が生じる。日本では各人が自分でプレゼンテーションスキルを学ぶのだが、米国では必要な職位になると必ずプレゼンテーションスキルの受講をさせる。

米国マクドナルド社では色々なコースがあるが、各国のハンバーガー大学や地区本部のトレーニング担当者へのプレゼンテーションスキルのクラスがある。ここでは参加者の理解する言語は異なるにもかかわらず、全て英語で行う。

面白いことに、お互いに相手の言語を理解しなくてもコース終了時には相手の言い分の80%位は理解できるようになる。プレゼンテーションの80%はボディーランゲエージ(身ぶり手振り)と表情だからなのだ。

例えば、聴衆の目を見るトレーニングでは、生徒に目を書いた紙を渡し頭の上に掲げさせる。プレゼンテーション実習を行っている生徒が、自分の目を十分見たと判断したらその紙をおろすのだ。これにより、プレゼンテーションをしている生徒は全員をまんべんなく見る習慣を身に付ける。

このように大変具体的なのが米国式のトレーニング方法だ。米国式トレーニングは具体的で、参加者に自信を持たせるポジティブな研修方法である。

 日本の幹部社員トレーニングというと地獄の研修などといって、参加者を肉体的、精神的に苦しめるタイプが多い。日本ではチームワークを重んじ、幹部研修会では殆ど反省会と協調性を養うことに重点を置く。大抵の研修会では最初に参加者の自信を打ち砕き、それから講師の言うことを素直に聞かせる姿勢を作る。この段階で反抗しようものなら、会社に報告するなどとまるで脅迫だ。脅迫と自信をなくさせることにより、反省させ素直にさせる。研修会を終了した人に聞くと大変参考になったという。

しかし、実際の成果には殆ど反映しない。それは研修会では具体的な業務の進め方、改善方法などのマネージメント手法を何も教えないからだ。さらに従来の自分のマネージメント方法にも自信を失いこれから何をして良いのか茫然自失とさせるからだ。

 米国式の教育の優れているのは、参加者そのものをまず肯定することから始める。そして、参加者が会社で成功するにはどうすればよいのか、現状の問題点は何なのかを見つけだせるようにする。

本人のマネージメントスタイルに問題があれば、何が問題なのか論理的に説明する。対人関係でも単に素直に相手の言うことを聞くと言うのではなく、精神分析の手法に従い、こちらの態度がどのように相手に反応するかを分析説明する。

現場に戻ってから、色々なタイプの人間にも対応できるように、分析手法、対応方法を具体的に分かり易く体系立てて学習させる。つまりどんな事柄でも具体的に分かり易く教えるのである。米国マクドナルド社のトレーニングシステムが優れているのはこの人間関係の手法をしっかりとトレーニングするシステムを作り上げたからではないかと思われる。

 米国ではトレーニングシステムを開発する専門の教育機関があり、そこでそれぞれの会社の業務にあわせたシステムを開発している。各企業は数年毎に最新の理論に基づくトレーニングシステムを再構築し常にベストになるようにしている。

最近日本でも行われ出したリエンジニアリングなどもいち早くトレーニングコースに取り入れるなど、社員の教育特にマネージメントの教育に力を入れているのが米国企業の特徴だろう。最近の日本の産業の衰退はこの社員教育システムの欠如があるからではないかと思われる。

 SMC#1を終了すると更にMDP4を継続して学びそれを終了すると、シニアストアーマネージャー(上級店長)に昇進する。数年の上級店長経験を経た後にSMC#2を受講し、次に職位であるスーパーバイザーを目指すのである。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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