日本企業のマニュアル まとめ 3回目

レストランチェック

 マクドナルドのマニュアルは特殊なので、他の外食産業では参考になりにくいのですが、最も参考になるのは前回ご紹介したアルバイトの短期育成で、次は社員の階層別人材教育の手法です。

現在のマクドナルドの2/3の2,000店舗がフランチャイジーですが1,000店舗は直営店です。以前は創業者の故・藤田田が他人が設けるのを嫌がりほとんど直営店舗で最盛期には4,000店舗のほとんどが直営店舗でした。そのためマニュアル以外に社員教育の緻密なシステムが作られました。

<店長までの教育システム>

店長の仕事は大変な量がある。これだけの業務を行えるようになるには、しっかりとした系統だったトレーニングコースと組織作りが必要になる。

 私が入社したころは人材が少ない中で急速な店舗展開したので、私は1年で店長、2年でSVと短期間で出世した。その代わり、店舗のオペレーションを習熟しておらず、統括SVになってからハンバーガーの作り方を習得するという、未熟な幹部生でした。それでは困るし、従業員も潤沢になり、漏れがないように緻密な教育システムを作り上げたのです。

 入社後、まずマネージャートレー(マネージャー見習い)として店舗に配属される。入社後店舗に配属されると同時に、MDP#1(マネージメント.デベロップメント.プログラム)に基づいて、トレーニングが開始される。MDPそのものはマニュアルでなく、研修期間のカリキュラムを日別に書いてあり、毎日実習する項目と、勉強するマニュアル、VTR教材などを明確にしてある。

店長やトレーナーはそれに基づいて毎日指導していく。この終了予定期間は個人差があるが、3-6カ月で終了するようになっている。内容は開店業務、営業中の店舗運営、閉店業務、アルバイトの業務、QSCの管理を一人で具体的に出来るようになるまでである。

 マネージメントシステムの基本は、米国軍隊のMTP(マネージメント・トレーニング・プログラム)を基本にしており、各職種に合わせてトレーニング項目を明確にしておき、各職種に合わせたMTPプログラムでトレーニングを進める。

一定の能力が付いたら、その職種に合わせた集合トレーニングを実施する。トレーニング内容はあくまでも現実的な内容で、日本の会社が行うような社会人としての常識とか、社内の報告方法などの幼稚園的な内容は教えない。

 米国と日本で最も異なるのが学生の常識であろう。日本の場合大学を卒業した新入社員であっても、電話の受け方、挨拶のしかた、手紙や報告書の書き方、欠勤や遅刻の場合の連絡などの社会人としての最低限のマナーを教育しないと使い物にならない。

米国の大卒の社員は社会人としての基本的なマナーを教える必要がない。大学生だけでなくても中学生の頃から基本的な時間管理を厳しく指導される。中学での授業の合間の休憩時間は5分間くらいと短く教室に走って行かなくてはならない。授業に遅刻すれば成績に影響し、2回も遅刻すれば(朝でなく授業の合間であっても)親が呼び出され厳しく叱責される。

時間管理などの基本的なマナーを学校、家庭の両方で厳格に教育されているのだ。

 MDP#1を終了すると、B・O・C(ベーシック・オペレーション・コース、基本トレーニングコース)という地区本部の主催するトレーニングコースを受講する。このコースを終了後、更にMDP#1の項目を全て満足すると、セカンド・アシスタント・マネージャー(第二店長代理)に昇進し一人前のマネージャーとして一人で店舗の運営をまかされるようになる。

当然の事ながら昇進により、給料、ボーナスの額が上がる。各タイトルが上がるごとに給料、ボーナスの額が上がることにより仕事に対する意欲を具体的に高めるようになっている。

昇進はあくまでも実力主義であり資格試験などというペーパーテストではなく店舗運営での実績に基づく。昇進は日本の一般的な会社のような年功序列ではなく、場合によっては年齢が上の社員を指導することは当たり前である。

 セカンド・アシスタント・マネージャーに昇進後さらにMDP#2を渡され、3-6ヶ月で終了する。内容は店舗の高いQSCを実現するために、人物金の具体的な管理方法を学ぶ。

これを終了後、I・O・C(インターミーディエイト・オペレーション・コース、中堅マネージャートレーニングコース)というコースを受講し、MDP#2の項目を満足すると、ファースト・アシスタント・マネージャー(第一店長代理)の試験への挑戦資格をもらえる。

試験と言っても書類の試験ではなく、実際に店舗を運営しているところをスーパーバイザー(SV、店長の上司で複数の店舗を担当している、QSCと店舗の売上、利益の管理と、人事評価を行う、店舗のQSCの監査も担当する)がチェックし、店長と同等の能力があるとみなされたら合格する。あくまでも実務面の能力をチェックする。

 ファースト・アシスタント・マネージャーに昇格するとMDP#3-1を受け取り、店長になるための、具体的なQSCの実現方法、人物金の管理手法についての具体的な勉強をする。

このコースを終了後、A・E・C(アドバンス・エクイップメント・コース、上級機器メインテナンスコース)を受講する。米国式の考え方は全ての店舗の機器、建物は自分たちでメインテナンスするという物だ。建物や機器が壊れてから直すのではなく、定期的な清掃、調整、部品交換をして壊れるのを未然に防ぐ、プリベンティブメインテナンスの考え方である。

しかしながら多くのマネージャーは文化系の学部を出ており、機械の知識はほとんどない。その為機械を恐がり、さわろうとしないという問題がある。そこで授業を通じて、機械の作動原理、冷却原理、等の基本を教え、さらに店舗の各機械の構造を理解させる。そして、簡単な修理を実習させ、店舗で実際に行えるようにする実用的な授業である。

 私の調理機械の知識は全てこの授業を通したものであり、完全にマスターすれば調理機器メーカーの設計担当者とディスカッションを出来るくらいレベルの高い、具体的なトレーニングコースである。

 これを終了すると、MDP#3-2を渡され次の勉強をする。内容は更に店長の業務を出来るようにする物だ。この過程で、シニアー・ファースト・アシスタント・マネージャー(上級第一店長代理)の資格を満たせば昇進する。

この後、A・O・C(アドバンス・オペレーション・コース、上級マネージャートレーニングコース)を受講する。この授業から本社のハンバーガー大学が担当し、全国のマネージャーは本社のハンバーガー大学で受講する。このコースでは店長になるための全ての知識と手法を学ぶ。更に、広告宣伝、人事管理、目標管理、人事管理、機器メインテナンス、利益管理、等を具体的に学ぶ。

 米国のハンバーガー大学のAOCを受講すると大学の単位にもなる位の、レベルの高い内容である。

 これを終了後新店舗の開店に伴い、ストアーマネージャー(店長)に昇進する。店長昇進で勉強は終了ではない。これから更にMDP#4をもらい、新人店長の勉強を開始する。内容は具体的な業務と同時に、店舗のマネージメントをどうやって行うかという物になる。

 MDP#4の途中でS・M・C#1(ストアー・マネージメント・コース、新人店長トレーニングコース)を受講する。ここでは店舗のQSCの維持と売上と利益の管理と更に店舗におけるリーダーシップの取り方を学び、多くの人の前で話すプレゼンテーションスキル等を修得する。

 以上大変緻密な教育カリキュラムで、この考え方を先回紹介した加賀屋の調理人教育の際に応用した。その職人育成においてはダンキンドーナツのシステムも役に立った。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

関連記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

ランキング

  1. 1

    「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

  2. 2

    マックのマニュアル 07

  3. 3

    マクドナルド 調理機器技術50年史<前編>

アーカイブ

食のオンラインサロン

TOP