宮崎市内のお気に入りの店の常連さんで、この春に定年を迎えられ東京に戻られた、上野敏彦さんの新著を読んでいます。
共同通信の記者で宮崎支局長の経歴をお持ちの上野さんは、とにかくお酒がお好きなようで、SNSを見ると酒にまつわる話がつきません。宮崎時代に出された本も、都農ワインの歴史を紐解くものでした。
その上野さんが、泡盛のことを書く。読み進めると、内容が、呑まないと分らないことばかり、深く広く実地調査をされたのだろうことが伝わってきます。
泡盛が生まれて600年らしいこと、遡って歴史や製法、長期熟成させるための仕次ぎを経て生まれる古酒のこと、沖縄本島に47もある蔵元のことなどを著せば完成したのかもしれない原稿ですが、さらに踏み込んで、琉球から沖縄へ変り、沖縄戦での壊滅的な破壊によって沖縄が受けた傷、また現在も続く基地問題、在留米軍の問題などにも筆は進みます。
古酒を守ることはすなわち文化を守ること、深い人間愛に満ちた調査と考察による成果の一冊だと感じます。
『沖縄戦と琉球泡盛 百年古酒の誓い』
上野敏彦著
明石書店
「鉄の暴風」と呼ばれた沖縄戦は、文化の破壊行為でもあった。永く伝わる古酒には100年をこすものもあったというが、すべては灰燼に帰した。大切な文化を残すためにも平和を守らなければならない。沖縄の人びとの文化に対する愛着を平和な時代に託す試みとは。
上野敏彦さんプロフィール(同書より抜粋)
記録作家、コラムニスト、文芸誌「新・新思潮」同人。1955年神奈川県生まれ。横浜国立大学経済学部を卒業し、79年より共同通信記者。社会部次長、編集委員兼論説委員、宮崎支局長などを務める。民俗学者・宮本常一の影響を受けて北方領土から与那国島までの日本列島各地を取材で歩く。酒や食、漁業、朝鮮、沖縄、近現代史をテーマに執筆。
共同通信では戦後70年企画『ゼロからの希望』『追想メモリアル』などを担当。宮崎日日新聞にコラム『田の神通信』『新日向風土記』を、高知新聞に大型連載『黒潮還流』をそれぞれ執筆した。
〈著書〉
『千年を耕す――椎葉焼き畑村紀行』(平凡社、2011年)
『闘う葡萄酒――都農ワイナリー伝説』(平凡社、2013年)
など多数