私は勤務していた経験のあるダンキンドーナツやマクドナルドに加えて多くの外食企業のコンサルティングの経験から、数多くの外食チェーン大手のマニュアルを拝見しました。その中でも、マクドナルドのマニュアルは膨大で幅広いのが特徴です。
その理由は直営店舗の多さです。現在は全世界で35000店舗のうち1000店舗位が直営店ですが、一時は7000店舗ほどが直営店でした。
米国のファスト・フード企業のほとんどがフランチャイズ・チェーン中心の展開です。ファスト・フード企業で一番店舗が多いのはサンドイッチのサブウエイで37000店舗ほどがありますが、直営店舗はゼロです。これは直営店舗では利益を出せないからです。
ハンバーガーでマクドナルドに次いで多いのが、バーガーキングですが、直営店は少なく、大規模なフランチャイジー企業が多く、企業によっては1000店舗以上を経営しています。
マクドナルドの利益率は通常の外食企業の2倍もあります。この仕組みを完成させたのが、創業者の子飼いでのちに養子となった、2代目CEO(実際はソネボーンが2代目で、3代目だが、マクドナルド社内にはソネボーンの名前は残っていない)のフレッド・ターナーです。
創業者のレイ・クロックはマクドナルドの利益が出ないと悩んでいました。そのマクドナルドの利益が出る仕組みを考案したのが、ソネボーンです。土地を銀行ローンで購入し、さらにそれを担保に建物を建てて(土地と建物を担保に借り入れして資金を集め、固定金額で返済する)、フランチャイジーに売り上げが上がると変動金額で貸すのです。
それによって、わずかなロイヤリティーだけでなく、膨大な家賃収入も見込めるのです。この仕組みを気に入ったフレッド・ターナーが、全米の店舗の50%程の土地を取得し、莫大な利益をあげるようにしたのです。
詳細は以下をご覧ください
この不動産による利益をさらに増やす仕組みを築き上げたのが、フレッド・ターナーです。創業者のレイ・クロックは、マクドナルドの店舗運営の難しさを、ペニービジネスと看破していました。その利益率の低い直営店をフレッド・ターナーが米国軍隊の規律と、トレーニング方法を取り入れて利益率を高めたのです。
それが直営店舗の売却(営業権の売却)というという打出の小槌の考案です。マクドナルドは自動車の大量生産と高速道路計画、GIビル、等のお陰で、中産階級が誕生して郊外の新興住宅街に続々と進出していったのです。新興住宅街にいち早く出店することで土地取得コストは大幅に安くすることができ、自社の売り上げの伸びにより、不動産価値が上がり、変動の売り上げロイヤリティと家賃を上げることができたのです。
その安い土地でマクドナルドが大成功することで土地の価格が上昇します。マクドナルドは直営店舗で出店し、数年後に売上が一定規模に上がった段階でフランチャイジーに営業権を売却する仕組みを考案したのです。
営業権でフランチャイジーが得るのは店舗の経営権と内装と調理機器等の資産です。マクドナルド本社は土地と建物は手放さないのです。
通常営業権は売り渡す資産の額によって変わるのですが、マクドナルドは年間売上高の4割から5割で売却するようにしました。店舗内装材と調理機器の残存簿価と売却する営業権の差がマクドナルドの利益となってくるのです。
その年度のマクドナルドの利益が高すぎる場合は、逆にフランチャイジーの店舗の営業権を買取り、利益を減少させます。利益が少ない年には営業権を多めに売却し利益を確保するのです。その営業権の売買により利益操作をすることでマクドナルドは安定した利益を確保することができ、株価を高く維持させ、他社による買収を防ぐことが可能になったのです。
フレッド・ターナーが多い直営店のために作り上げたのは、実践的な米国軍隊の管理者向けトレーニングシステム MTP(マネージメント・トレーニングプログラム)を参考に作り上げたもので、当初はMTPと言って、のちにMDP(マネージメント・デベロップメントプログラム)と変えたのです。
このトレーニングシステムは実践的であり、細かく階層別に分けて進めていきます。
トレーニングシステムは階層別に作ってあるのです。
マクドナルドのトレーニングシステムは、マネージャー、クルーが店舗運営に必要な仕事を学ぶためのシステマチックな方法であり、Q.S.C.、人材育成、セールス、利益の目標達成のための手段となります。
「トレーニング・プログラムを確立する」ことを目標にはしないでください。ハンバーガーを売っている限り、何らかの形でトレーニングは行われます。その結果を見てください。
ハンバーガーは温かくてフレッシュですか? 素早く親切にサービスしていますか? お店はきれいで気持ちよくなっていますか? セールスや管理面、モラールはどうですか?
今の結果に満足していない場合は、その結果を変えていくことが目標となりますが、トレーニングプログラムの改善もそのひとつの手段となり、マクドナルドのトレーニングシステムが大きな手助けとなるでしょう。しかし、トレーニングプログラムの改善は、店舗運営の結果を改善するためのひとつのステップにすぎませんので、それを最終ゴールと見なさないように注意してください。
階層別トレーニングシステムとは
1番目が、店舗アルバイト(マクドナルドではクルーCREWと呼ぶ)向けのトレーニングチェックリストS.O.C.(ステーションオブザベーションチェックリスト)です。この目的は15時間でアルバイトを戦力にしようという実践的なものです。
2番目が運営統括本部
・複数の店舗を管理するスーパーバイザー、統括スーパーバイザー、運営部長の所属する地区本部
3番目が
・地区運営本部での教育担当のトレーニング部
です。
マクドナルドのトレーニングシステムは、
・マクドナルドの経験がほとんどない人、あるいは全くない人を育成していく上で、標準化され、システム化されたアプローチを取っています。
・トレーニングに対して教育的にしっかりしたアプローチを取っています。
・責任分担に関するガイドラインを明確に示しています。
トレーニングの方法
マクドナルドのトレーニングシステムは次の2つの方法を組み合わせて作られています。
・自分で行うトレーニング(セルフトレーニング)
・他の人に教えてもらうトレーニング
どちらの方法もトレーニングを受ける人が学ぶという責任を負うことになっています。
◆セルフトレーニング
トレーニングを受ける人が、他の人の助けを借りずにやるべきことを理解し、応用することを意味します。
◆他の人に教えてもらうトレーニング
トレーニングを受ける人が、他の人の助けを借りてやるべきことを理解し、応用することです。
このタイプのトレーニングは”マンツーマン”のトレーニングとしてよく知られています。このトレーニング方法は技術を伝えるのに最適であるということが経験からわかっています。
マネージャーのトレーニングは4つのレベルで行われます。
・店舗
・運営統括本部
・地区本部
・トレーニング部
◆店舗 クルーレベル(アルバイト)
クルートレーニング
クルートレーニングの主な目的は、クルーに各ステーションで働くのに必要なスキルをトレーニングすることですが、それだけではありません。
仕事のレベルをマクドナルドの基準以上にし、高いモラールを維持していくために、彼らのスキルを常にチェックし、適切にスケジュールに入れ、フォローアップを行うのもクルートレーニングのうちです。
クルーが実際に店舗の最前線に立つということを忘れてはなりません。お客様に直接接し、商品の取りそろえ、マクドナルドのサービスの基準を維持し、マクドナルドのイメージを伝えるのはクルーです。ですからクルーを正しくトレーニングし、常に生産性を向上させ、楽しくさせることは大切なマネージャー業務です。
このセクションでは、クルートレーニングプログラムを成功させるのに必要な要素について説明していきます。
◆クルートレーニングチーム
マクドナルドのマネージャーは仕事の全ての面でマネージメントスキルを使わなくてはなりません。人材を育成し、競合の挑戦に応え、お客様にすばらしいQ.S.C.を提供し、ターンオーバーを減らし、売上と利益を上げようというのであれば、クルートレーニングに非常に大きな注意を払わなくてはなりません。
仕事を割り当てる時は、仕事がそのクルーに合っているかどうかを考えて、ただ仕事を終わらせるだけでなく、クルーのトレーニングや育成にもつながる仕事を与えるようにしてください。
トレーニングは常に進行していく仕事ですし、いろいろなことが関わっているものなので、2人以上の人で担当しなくてはなりません。クルートレーニングチームは、次のように構成してください。
1.クルートレーニングマネージャー1人(セカンドアシスタントマネージャー以上)
2.クルートレーナー3~6人(店舗のニーズによって人数は異なります。)
◆クルートレーニングマネージャー
クルートレーニングマネージャーはセカンドアシスタントマネージャー以上としてください。
クルートレーニングマネージャーは、クルーのトレーニングに直接参加し、絶えずクルートレーニングの状況を把握していなければなりません。
クルートレーニングマネージャーは以下のスキルを身につけるようにしてください。
・フロアコントロールスキル
・リーダーシップとフォローアップスキル
・オペレーションスキル
・コミュニケーションスキル
クルートレーニングマネージャーの業務のポイントは以下の通りです。
・クルートレーナーの任命
・トレーニングの4ステップを使ったトレーニング
・クルートレーニング時間のコントロール(レーバーコントロール)
・スケジュールマネージャーとのスケジュール調整
・クルートレーニングマネージャーの責任者としての役割
-クルートレーナーにS.O.C.の基準を教える。
-クルートレーナーにトレーニングシステムを理解させ効果的なトレーニング方法を教える。
-S.O.C.、クルートラッキングカード、マニュアル、V.T.R.などの利用方法をトレーニングする。
-クルートレーナーミーティングを開催する。
-クルートレーナーのスケジュールを調整する。
-ネームバッジの利用方法をトレーニングする。
・書類の管理
-S.O.C.(個人別ファイル)
-クルートラッキングカード
-ネームバッジ
-シール
-E.I.F.
-雇用契約書
-写真
-印鑑
-年齢証明書または住民票
-同意書(高校生または18才未満の者のみ)
・マネージメントチームとの協力
-マネージメントチームのメンバーにS.O.C.、イニシャル、スロー、ピークのチェック を行ってもらう。
-トレーニングプログラムの現状、進行状況、必要な点などをマネージメントチームに 常に報告する。
-マネージメントチームとトレーニングチームとのコミュニケーションを図る。
-クルーとマネージャー間の良いコミュニケーションが維持できるようにする。
・クルーミーティングの開催
◆クルートレーナーの仕事
クルートレーナーの仕事は、マネージャーがトレーニングを行うのを手伝うことです。クルーはクルートレーナーにトレーニングしてもらった方が気楽に感じますし、間違えることも恐れないでしょう。
また、このシステムはクルーのモラールを高め、トレーニングの効果を上げるのに役立ちます。但し、全員がよいトレーナーになるとは限りません。クルートレーナーを選ぶ時は以下の点を考慮してください。
・正しい手順に従い、高い基準を持っている誠実な人
・クルーの中でリーダーとなれる人
・Aランク以上の人
・自己管理のできる人
-時間管理、責任感、アピアランス、モラール
クルートレーニングの仕事には以下のものがあります。
・クルートレーニングマネージャーから割り当てられた仕事を全て終了する。
・新人クルーのトレーニングを実施する。
・クルートレーナーミーティングに出席する。
・決められた時に、クルーのイニシャル、スロー、ピークのトレーニングを行う。
◆クルートレーニングのツール
クルートレーニングで必要な教材は、第26章”トレーニング教材”に出ています。使用する主なツールには、以下のようなものがあります。
・ビデオテープ
・S.O.C.
・クルートラッキングカードとトラッキングファイル
・S.O.C.ネームバッジ
・クルースタッフィング/トレーニングニーズ分析表
各トレーニング教材の適正な在庫があるかどうか確認してください。
S.O.C.(ステーションオブザベーションチェックリスト)
S.O.C.とは、以下の言葉の頭文字をとったものです。
Station(バンズ、グリル、ポテト、カウンターなどのオペレーションセクションのこと)Observation(観察)Checklist(チェックリスト)
・S.O.C.は各ステーションの最低基準のガイドとしての役割を持っています。
・各ステーションの作業手順がステップごとに明確に記してあるので、クルーがすべきことが具体的かつ正確にわかります。
・作業手順が全て揃っているので、トレーナーがステーションの仕事を教える時、または フォローアップを行う時に使うチェックリストとして機能し、トレーナーが大切なステップをもらさないようにすることができます。
・このS.O.C.は、クルーにとっても、どこを改善すべきなのかすぐ理解できるようになっており、トレーナーとクルーとのトレーニングでのコミュニケーションに一層役立ちます。
・基準を満たすため、いつでも使えるガイドです。イニシャル、スロー、ピークそれぞれのトレーニングのチェックで使った後も、フォローアップで使えます。
ステーションのトレーニングは4つのエリアから成り立っています。
1.グリル・フライエリア(G)
2.カスタマーエリア(C)
3.ブレックファーストエリア(B)
4.サポートエリア(S)
これらのエリアで学ぶべきS.O.C.は次の通りです。
1.グリル・フライエリア(G)
G-1 ドレス
G-2 グリル
G-3 バンズ
G-4 フィレオフィッシュ
G-5 チキンマックナゲット
G-6 エッグマックマフィン
G-7 ホットアップルパイ
G-8 てりやきソーセージ
G-9 てりやきマックバーガー
2.カスタマーエリア(C)
C-1 フロントカウンターサービス
C-2 マックシェイク
C-3 サンデー
C-4 ドライブスルー
C-5 ラウンド
C-6 ポテト
3.ブレックファーストエリア(B)
B-1 ソーセージエッグマフィン
B-2 ソーセージブレックファースト
B-3 ホットケーキ
B-4 ハッシュポテト
B-5 ソーセージマフィン
B-6 ソーセージ
4.サポートエリア(S)
S-1 プロダクションコントロール
S-2 プロダクション/サービスエリアセットアップ
S-3 シェイク、サンデー セットアップ
S-4 チェンジオーバー セットアップ
S-5 メインテナンス(インサイド・アウトサイド)
S-6 搬入
S-7 グリルエリア プレクローズ・クローズ
S-8 フライエリア プレクローズ・クローズ
S-9 サービスエリア プレクローズ・クローズ
S-10 シェイク、サンデー クローズ
S-11 シンク クローズ
S.O.C.は単なるトレーニングツールではありません。S.O.C.には各ステーションの最低の基準が詳細に書いてありますし、基準を満たすのに必要なステップも明確に書いてあるので、チェックをする時に使うこともできます。
各ステーションの作業はS.O.C.のプロシージャーを100%満たしていなくてはなりません。
S.O.C.が本当に意味しているのは、自分が観察していることを常にこの基準に当てはめてみるということです。
あるステーションの横を通って偶然気づいたことでも、頭の中でS.O.C.のガイドラインに沿っているかどうかチェックしてください。これを行うことによってS.O.C.のガイドラインやお客様に対するあなたの気遣いをクルーにいつも思い出させることができます。
このことはクルートレーニングマネージャーやその他のマネージャー達もいろいろなS.O.C.について熟知しておく必要があるということを意味しています。
S.O.C.を熟知するまでには時間がかかりますが、S.O.C.はマクドナルドの基準を守る一番良い方法なので、時間をかけて必ず行わなくてはなりません。
◆スケジューリング
S.O.C.を効果的に実施する上で、クルーワークスケジュールは重要なファクターとなります。クルーのトレーニングをいつ、誰が、何をトレーニングするのかを明確にすることによって、S.O.C.は初めてスタートすることになります。ワークスケジュール作成時には、下記の内容を考慮します。
・誰がトレーニングを受けるのか確認する。
・クルーをトレーニングするクルートレーナーを確認する。
S.O.C.のパフォーマンスレビューを、即、時給評価につなげるようなことは絶対しないようにしてください。S.O.C.は時給評価の対象の一部にすぎません。
トレーニングを行う時は、いつ行うかを決め、スケジュールに明記してください。
*クルートレーニングを実施する上で、クルースケジュールに明記することは重要なポイントになります。
◆S.O.C.の記入方法
イニシャル スロー ピーク
日付
トレーナーのサイン
*チェックが終了した日付とチェック者のサインを記入すること。
店名
クルー氏名
最終責任者名
STEP カスタマーファーストの原則に従う。(スマイル、アイコンタクト)
<挨拶>
1.笑顔でお客様の目を見て挨拶する。
<注文品の承り>
2.話し方は早口、機械的にならないように注意し、正しい商品名で復唱しながらP.O.S.に打ち込む。
3.必要であれば効果的なサジェストを行う。
イニシャルトレーニング
スロートレーニング
ピークトレーニング
S.O.C.ではトレーニングの段階がイニシャル、スロー、ピークの3段階に分かれていますが、スロー、ピークのチェックでNGの場合、またピークの終了者にはフォローアップのトレーニングがあります。フォローアップトレーニングの方法、チェックの仕方については、トラッキングシステムの節で説明します。
S.O.C.の記入手順は以下の通りです。
1.S.O.C.はいくつかのセクションに分かれて、タイトルが太字のタイトルの上にいろいろなプロダクションモードが書かれているので、トレーニングにあったS.O.C.を選んでチェックしていきます。
2.S.O.C.を行う時に店名、クルーの名前を記入します。
3.トレーニングやフォローアップの間に、クルーが正しく作業を行っているかどうかをトレーナーまたはマネージャーがチェックし、チェック欄に上記の記入例の通りに記入します。
4.S.O.C.終了後、クルーに対する説明やアドバイスは全てS.O.C.に書いておきます。
5.イニシャル、スロー、ピークのチェックでOKの場合は、日付・トレーナーサイン欄に日付とトレーナーの名前を記入します。
6.ピークチェックを終了したら、最終責任者を記入します。
◆サポートエリアのS.O.C.の記入方法
イニシャル スロー ピーク
日付
トレーナーのサイン
*チェックが終了した日付とチェック者のサインを記入すること。
店名
クルー氏名
最終責任者名
グリル・フライエリアセットアップ――次の作業手順に従う。
1.分電版の青色ドットの電源を入れる
2.1名で行う時はサービスエリア1~4の手順で行う。]
3.シンクの清掃状態を確認し、スモールエクイップメントの洗浄殺菌を行う。
イニシャルトレーニング
スロートレーニング
サポートエリアのトレーニンニングの段階は、イニシャル、スローの2段階ですが、スローのチェックでNGの場合、またスローの終了者にはフォローアップのトレーニングがあります。
フォローアップトレーニングの方法、チェックの仕方はクルートラッキングシステムの節で説明します。
◆S.O.C.のファイリング
1.個人別にS.O.C.ファイルを作成する。(A4サイズのS.O.C.専用ファイル)
2.使用が容易になるよう、保管場所、方法をよく考慮する。
・トレーニングの目的に合わせS.O.C.専用ファイルに、各ステーションをホチキスでまと め、個人別ファイルを作成する。
例:キャビネット使用の場合
・専用S.O.C.ファイルにインデックスで連番をつける。
・別表に連番早見表を作成する。
*ファイリングシステムを確立することは、S.O.C.の運用を容易にする第一歩です。
◆クルートラッキングシステム
クルートラッキングシステムは、クルーがトレーニングを必要としているステーションが一目でわかり、スケジュールマネージャーにとってはスケジューリングの手助けとなります。
また、トレーニングを段階ごとに進めていくことにより、Cランク、Bランク、Aランクの進行状況もすぐわかります。更にクルーパフォーマンスレビューの手助けにもなります。
クルートラッキングシステムは以下のものからできており、S.O.C.と共に用います。
1)クルートラッキングカード
2)トラッキングファイル
3)S.O.C.ネームバッジ
1)クルートラッキングカード
クルートラッキングカードとは、ステーションごとにS.O.C.を使用してトレーニングを行い、その進行状況を段階ごとに書き込むカードのことです。
これによってそのクルーがトレーニングを必要としているステーションが一目でわかり、スケジュールマネージャーにとってはスケジュール作成の手助けとなります。
また、トレーニングを段階ごとに進めていくことにより、Cランク、Bランク、Aランクの進行状況もすぐにわかるようになっています。
トラッキングカードとその記入方法は以下の通りです。
1.ステーションエリアの区分
2.ステーション名
3.各ステーションのリファレンスコード。これは12に出ているアルファベットと数字の組 み合わせです。
4.イニシャルトレーニング欄。イニシャルトレーニングがOKであれば、左上半分にチェックの日付を記入し、右下半分にトレーニングを行った人のサインを記入します。
5.スローのチェック欄。左上半分にはチェックの日付を記入し、右下半分にはトレーニングを行った人のサインを記入します。プロシージャーが100%OKでなければスローの欄には何も記入しないで、⑦のフォローアップの欄の左上半分にチェックの日時を記入し、右下半分にトレーニングを行った人のサインを記入します。再度、スローのチェックを実施し、OKであればスロー欄に日付とトレーナーのサインを記入します。
6.ピークのチェック欄。左上半分にはチェックの日付、右下半分にはトレーニングを行った人のサインを記入します。プロシージャーが100%OKでなければピークの欄には何も記入しないで、7のフォローアップの欄の左上半分にチェックの日時を記入し、右下半分にトレーニングを行った人のサインを記入します。
再度、ピークのチェックを実施し、OKであればピークの欄に日付とトレーナーのサインを記入します。
7.フォローアップのチェック欄。この欄の使い方は二通りあります。
・スロー及びピークのチェックでNGの場合、日付とトレーナー名を記入し、小さい四角に は何も記入しません。
・ピークチェックOK以降にフォローアップを実施した場合、日付とトレーナー名を記入し、OKの場合は小さい死角の部分に黒丸を記入します。NGの場合は、小さい四角には何も記入しません。
8.ランク達成時にそのランクに○をします。
9.クルーの名前を記入します。
10.イニシャルオリエンテーションを行った日付を記入します。
11.フォローアップオリエンテーションを行った日付を記入します。
12.イニシャル、スロー、ピークが終了した時に記入する欄。(この欄はそのクルーがどのステーションをどのレベルまで終了しているかを一目で見ることができるものです。)
この数字は各ステーションのリファレンスナンバーです。
例えばG1というのは、ドレス を指します。上記2と3を参照してください。
記入方法を統一するために次のコーディングシステムに従ってください。
2)トラッキングファイル
トラッキングカードは、特別なバインダーに入れられるように作られており、きちんと入れるとカードの下段が見えるような形で重なることになります。
こうなっていると、カードの下段にある情報を素早く読むことができ、誰が、どのステーションまでどのランクで消化しているのか、またそのクルーのトレーニングやフォローアップはどのくらいの頻度で実施されているかがわかるようになっています。
トラッキングカードは、スケジューリングをしやすい方法でファイルするようにしてください。
ひとつのアイデアとしてはシフト順に並べるとういうものがあり、オープン、ブレックファーストに入れるクルーのカード、チェンジオーバー、ランチタイム、午後の時間に入れるクルーのカード、ディナータイムに入れるクルーのカード、プレクローズ、クローズに入れるクルーのカードというように分けます。トラッキングカードは必ずアップデートするようにしてください。
クルーがお店を辞めた時は、トラッキングカードをクルーファイルに移してください。
3)S.O.C.ネームバッジ
S.O.C.ネームバッジ
タイトルシールの貼付
ダイモテープによる氏名記入
エリアシールによるランク分け
S.O.C.ネームバッジシステムは、S.O.C.導入によりABCクルーのランクが明確になるので、ABCクルーのシールをネームカードに貼付することにより、各クルーのキャリアと能力を明示することができるシステムです。
(1)タイトルシール
これには3ヶ月、6ヶ月とTRAINERの3種類のシールがあります。このシールは勤務月数を表すものです。
(2)ダイモテープによる氏名記入
クルー採用のオリエンテーションで、S.O.C.について説明する時に、ダイモテープで名前を作成し、バッジを渡してください。
(3)3エリアシールによるランク分け
クルートラッキングカードで区別された3つのエリアより成り立ちます。
・グリル・フライエリア
・カスタマーエリア
・ブレックファーストエリア
シールには金・銀・銅の3種類があります。
・金シール――Aクルー
そのクルーのイン可能時間帯においてエリアのステーションのピークを100%達成
・銀シール――Bクルー
そのクルーのイン可能時間帯においてエリアのステーションのピークを50%達成
・銅シール――Cクルー
そのクルーのイン可能時間帯においてエリアのステーションのうち1ステーションのピークができる。
上記のように区別し、クルーの能力に応じてバッジを貼っていきます。
(銅)(銀)(金)
1.グリル・フライエリア C B A
2.カスタマーエリア C B A
3.ブレックファーストエリア C B A
*サポートエリアにおけるトレーニング状況はトラッキングカードで把握してください。
このS.O.C.ネームバッジシステムと、S.O.C.トラッキングカードをうまく連動させれば、店舗でのクルーのレベルアップ、生産性の向上につながるばかりでなく、クルーへの大きなモーティベーションとなります。
<特定のエリアしかインできない場合>
グリル・フライエリアにしかインできない場合は、Cクルーになったら左端に銅、そしてBランククルーになったら中央に銀を貼るようなこともできます。
店舗のニーズに合わせて店舗で工夫してください。
◆クルートレーニングシステム
<イニシャルトレーニング>
1.トレーニングマネージャーはトレーニーにオリエンテーションを実施する。
2.トレーナーは該当するステーションのV.T.R.をトレーニーに見せる。
3.トレーナーはスロー時間帯にトレーニングを行う。
*単にS.O.C.プロシージャーに沿って説明するのではなく、トレーナーが実際にやりながら作業を説明する。
4.トレーナーがS.O.C.に沿って実際にオペレーションをやってみせる。
5.トレーナー自信がオペレーションを行う。(トレーナーがフォローしながら行う。)
6.もれがあればその場でトレーニングを行う。
7.もれがなければイニシャルは終了したことになる。(トレーナーがフォローしながら、トレーニーがS.O.C.のプロシージャー通りにオペレーションができればOKとなる。)
8.S.O.C.にイニシャル終了を記入する。
9.クルートラッキングカードに記入する。
10.スローに進む。
◆スロートレーニング
1.トレーナーはスロー時間帯にS.O.C.プロシージャーに沿ってチェックを行う。
2.100%OKの場合は8以下の作業を行う。NG項目がある場合は3以下の作業を行う。
3.トレーナーはNG項目のトレーニングを行う。
4.トレーニーはセルフトレーニングを行う。
5.トレーニーはスロー時間帯に十分できると判断したら自己申告する。
6.トレーナーはスロー時間帯にフォローアップチェックを行う。
7.NG項目がある場合は3~6の作業を繰り返し行う。
8.100%OKの場合はスローが終了したことになる。
9.S.O.C.にスロー終了を記入する。
10.クルートラッキングカードに記入する。
11.ピークに進む。
◆ピークトレーニング
1.トレーナーはピーク時間帯にトレーニングを行う。
*トレーニーはスロー時間帯に経験済みですので、基本的なプロシージャーは理解しています。ここでは、ピーク時間帯のポイントを強調し、よく手本を示すことが大切です。
2.トレーナーはピーク時間帯にS.O.C.プロシージャーに沿ってチェックを行う。
3.100%OKの場合は9以下の作業を行う。
4.トレーナーはNG項目のトレーニングを行う。
5.トレーニーはセルフトレーニングを行う。
*ピークの時間帯をこなすには熟練することが必要です。
このセルフトレーニングにはトレーナーやマネージャーのフォローアップが大切です。
6.トレーニーはピーク時間帯に十分できると判断したら自己申告する。
7.トレーナーはピーク時間帯にフォローアップチェックを行う。
8.NG項目がある場合は4~7の作業を繰り返し行う。
9.100%OKの場合はピークが終了したことになる。
10.S.O.C.にピーク終了を記入する。
11.クルートラッキングカードに記入する。
12.ピーク時に1ステーションOKのため、トレーニーはCランククルーとなる。
13.その他のステーションのトレーニングを行う。
トレーニングの4ステップメソッド
最も有効なトレーニングメソッドのひとつは、4ステップメソッドで、これは従いやすく、覚えやすい方法です。このトレーニングは投資効率を最大にするため、できる限りオンザフロアで実施してください。
4ステップトレーニングを実施する前にトレーナーが準備しなければならないことをあげます。
・トレーニングプランの準備
-誰がトレーニングを受けるのか確認します。
-クルーをトレーニングするクルートレーナーを確認します。
-いつトレーニングを行うかを決めます。
-トレーニング時間をどれくらいにするか決めます。
-トレーニングのスケジュールを立てます。
・トレーニングエリアの準備
-トレーニング教材が利用できるよう確かめます。
-エクイップメントが利用でき、整備してあるようにします。
-トレーニングエリアを整備します。
・自分自身の準備
-S.O.C.を見直します。
-必要なビデオテープを見直します。
-トレーニングの主なポイントについて考えます。
-クルーが仕事に関して抱いている問題とその解決方法について考えます。
-やり方を示し、同時に説明する準備をします。
これらの領域が準備できましたら、4ステップトレーニングを行う用意をします。
◆ステップ1:準備
・トレーニーの緊張と不安を軽減するように、リラックスさせます。
・仕事とその重要性を関連づけてトレーニーに説明します。
・仕事を知ること、理解すること、行うことに興味を抱かせます。
・トレーニーに準備をさせる秘訣
-その主題に対する興味を抱かせます。
-手短に、納得がいくようにします。
-あなたのトレーニーに対する関心を伝えます。
-何を学ぶかを知らせます。
-学ぶ理由を教えます。
-他のステーションでのプロシージャーと関連させます。
-マクドナルドの一員であるという気持ちを抱かせます。
-S.O.C.を渡します。
◆ステップ:2提示(やってみせる)
・一度にワンステップずつ説明し、やって見せます。
・明確に忍耐強く教えます。
・仕事をやってみせる際の秘訣
-始める前にトレーニーの注意を集中させます。
-必ずあなたの声が聞こえるようにします。
-はっきり、正しく発音します。
-打ち解けた口調で話します。
-トレーニーの顔を見ながら、直接話しかけます。
-弁解はしません。
-言葉やセンテンスを相手に会わせ、慇懃無礼な話し方を避けます。
-適切なビデオを見せます。
-S.O.C.を読ませながら作業をやって見せます。
◆ステップ3:実行(トライアウト)
・トレーニーに仕事をやらせます。
・トレーニーに何故その仕事をするのか、そして、どのように行うのか言わせます。
・悪い癖がつかないよう間違いを訂正します。
・指導者としてではなくコーチとして振る舞います。
・トレーニー自身のスキルを完全なものにするように助けます。
・直接、そばで監督しなくても仕事ができるようになるまでついています。
・仕事をやらせる場合の秘訣
-詳しい指示を与えます。
-必ず「やり方」と「理由」を理解させます。
-期待している基準を知らせます。(S.O.C.を使う。)
-基準を達成するために十分な時間を与えます。
-近くで常に監督をします。
-トレーニーが正しいパフォーマンスを行うように気をつけます。
-次に進む前に各ステップを教えます。
-必要ならばもう一度教え、もう一度やって見せます。
-プロシージャーを学ぶ際に、正確に行うことを強調します。
-実習の間に妥当な質問をします。
-忍耐強く励まします。
-安全に対する注意が、全て守られているように気をつけます。
◆ステップ:4評価(フォローアップ)
・トレーニーに自分だけで仕事をやらせてみせます。
・質問をさせます。
・たびたびチェックします。
・トレーニーに仕事の出来を知らせます。
・トレーニーを誉めます。
・フォローアップの秘訣
-トレーニーの進歩を誉め、自分でやらせます。
-最初のうちは頻繁にチェックします。
-チェックの回数を徐々に減らします。
-良くできた仕事を誉めます。
-該当するS.O.C.をたびたび見るようにさせ、基準を守らせます。
<その他の秘訣>
マネージャーは、新しいクルーはマクドナルドについてほとんど知らないのが当然と考えているので、トレーニングをする時には、徹底して細かいところまで説明します。
ところが経験のあるクルーはクルーステーションでの仕事についてよく知っているものと思いこんでしまい、トレーニングの時、必要な細かい部分を説明し忘れてしまうことがあります。
このようなマネージャー自身の問題もありますので十分に気をつけてください。
クルーを効果的に扱う
クルーを効果的に扱うには次の3つのことが必要です。
1.クルーのニーズが何かを知ります。
2.常に何人かのクルーがいることを知ります。
3.クルートレーニングがどのようにスケジューリングプロセスに結びつくかを知ります 。
クルースタッフィング/トレーニングニーズ分析表
クルースタッフィング/トレーニングニーズ分析表はトレーニングを計画するのに役立つよう慎重に考案されたもので、具体的にいうとこの分析表はセールスボリュームの見地から、日中及び夜間のスタッフィングニーズ、そしてクルーステーションを運営するために何人のクルーが必要か、現在何人いるのか、またどの部分に力を入れてトレーニングすべきかを考えるのに役立ちます。
1.予想を立てる期間
このワークシートは、1ヶ月ごとに作成しなくてはなりませんが、スタッフィングのニーズや予算のことを検討するだけの時間が十分とれるよう、できれば四半期単位で考え、3ヶ月分ずつ行っていくとよいでしょう。(例:11月の末に1月-3月分をまとめて行う。)
また、季節的な変化やプロモーションキャンペーンなどで、セールスが大きく変動することが予想される場合にワークシートを作成してもよいでしょう。
すぐに具体的なトレーニングニーズがわかりますが、トレーニングを完全に行うだけの時間は必ず十分とらなくてはならいので、少なくとも8週間前には作成してください。
2.分析表を作成した人の名前
3.マンスリーセールスボリューム予想(P/L予想額から)
4.予想クルー人数
自店舗の特徴に合わせてクルー人数を出すようにしてください。
例:15,500,000(セールス)÷250,000(クルー1人当たり25万円)=62人
5.レーバープランニングガイドで(1週間の)日中の最も高いアワリーセールスを見て、そのセールスで必要なデイクルー、ナイトクルーの人数を計算して出し、それを2で割った数を足します。
デイクルーの数が出たら、それをトータルから引いてナイトのクルーの数を出します。(この数字には週末の必要数も入っているので高くなっています。)
6.マネージメントチームは、デイクルーやナイトクルーの最低何%があるステーションの トレーニングを受けておくべきかを判断しなくてはなりません。このパーセントは6の欄に記入されており、これを出発点として店のニーズに応じて数字に変更を加え、その欄に新しい数字を記入することもできます。
7.(5から)日中及び夜間の必要クルー人数を転記します。
8.マネージメントチームがクルーステーションでトレーニングされるべきであると認めた デイシフト及びナイトシフトのクルーの数は「デイシフトの予想クルー数」または「ナイトシフトの予想クルー数」に「必要最低%」をかけて算出します。(6×7)
9.この欄には、トラッキングシステムを基にした情報を記入します。各ステーションについて、スローまたはピークレベルで、デイシフトまたはナイトシフトのクルーが何人チェックを受けたか確認します。
10.この欄に記入された数字を見ると、トレーニングをどこで行う必要があるかがわかりま す。数値はプラス(+)とマイナス(-)で出てきますが、プラスはそのステーションに関してトレーニングを受けているクルーが必要最低人数より多く出ているということであり、数値が高いほどクルーがいろいろなステーションで働けるということです。
但し、プラス(+)があまり多すぎないように(トレーニングする人が多くなりすぎないように)してください。マイナスは必要最低人数を満たしていないということです。
クルーモラールの改善
クルーがいつも高いモラールを維持し、楽しんで仕事できるようにしてください。クルーのモラールは次のような場合に最も高くなります。
1.クルーが自分の仕事を重要だと感じている時
2.クルーが自分の仕事ぶりを認められていると感じている時
3.クルーが自分たちは公平に扱われていると感じている時
4.クルーが自分たちは人間らしく扱われていると感じている時
5.クルーが自分たちは店舗のオペレーションに貢献していると感じている時
6.クルーが自分たちは進歩していると感じている時
以上がマクドナルドのアルバイトトレーニングシステムです。
ちょっと膨大な内容ですが、マクドナルドは売り上げが高くアルバイトも多いのでこうなります。
小規模な店には、過去コンビニエンスストアー向けに簡素なシステムを作成していますのでご参考ください。
ポイントはアルバイトの担当部署別に作業基準を明確にしておくことです。
作業手順書はA4の紙に書けるくらいにします。あまり基準を高くしないで、最低限の基準を決めます。アルバイトに簡単な仕事をやれるようにして、自信を持たせることです。
そうすると、自ら仕事を覚えようと積極的に取り組むようになります。
・運営統括本部
・地区本部
・トレーニング部
については次回も続きます
続く