南イタリアプーリア便り イトリアの谷の食卓から 第268回
南イタリアのクリスマスに欠かせないお菓子が、ペットレです。プーリア、バジリカータ、カラブリア、カンパニア、の各州それにシチリアの一部でも広がる習慣で、その由来は諸説あり。地域によってピットゥレだったり、ペットゥリだったり、呼び名も様々。ナポリではゼッポレと呼ばれたりもするこのお菓子は、長時間イースト発酵させた小麦粉の生地を一口大の丸もしくは涙型に成形して熱い油で揚げたもの。
もっちり食感の一口揚げドーナツです。
生地は甘くせず、揚げ後砂糖や蜂蜜、ブドウ液を煮詰めたヴィンコットやイチジクを煮詰めたコットディフィキをかけて食べます。 ヴィンコットやコットディフィキはブドウやイチジクの生産量が多いプーリアらしい甘味料です。大量の果物を長時間かけて煮詰めて作るのでむしろ今では貴重で高価な食材です。
ベビーカステラならぬ一口揚げドーナツという極シンプルなお菓子で定番のおやつとして一年中いつでも手に入っても良さそうですが、そうではないところが、イタリア的かなと思います。
チステルニーノではペットレは12月7日、つまり聖母マリア様の無原罪の御宿り(処女懐胎)の祝日の前夜祭に食べるものなのです。コロナ禍でこの2年は中止になっていますが、クリスマスのイルミネーションに飾られた旧市街地中心にある広場では、クリスマス募金を集める地元の教会ボランティアが運営するペットレの屋台が出て、寒空の元地元民で賑わいます。ペットレと同じ生地を使って揚げる塩鱈のフリットも定番で、海が荒れがちな冬にはよく食べられる魚です。
イタリアの食文化はカトリック教と深いつながりがありますが、カトリック教の祝祭日は実は季節や自然の変化と人々の暮らしのリズムをうまく取り入れたものであることにも気づきます。賑やかな乾いた暑い夏とは対照的なジメジメとした暗い冬に、クリスマスの華やかなお祝いを心待ちにしながら食べる熱々のペットレは、素朴でほっこりするお菓子です。