立教学生インタビュー 熱血サステイナブル板前 伊勢すえよし 田中佑樹様

立教大学生インタビュー

「コーンフレークは生産者さんの顔が浮かばない」

2019年 M-1グランプリチャンピオンのミルクボーイの代表的な「コーンフレーク」のネタ中のセリフです。
テレビでこの漫才を見ていて、ほっぺが痛くなるくらい笑ったのを覚えています。
確かに浮かばないし、周りの人も笑っているから、みんなそう思っているのでしょう。
でも、よーく考えてみると、生産者さんの顔が浮かばないというのは、何もコーンフレークに限ったことではないように思えます。さっき食べたご飯、生産者さんの顔が浮かびますか?
自分は浮かびません。しかも、生産者さんだけでなく、料理した人、運んだ人の顔も見えないこともあります。しかし、もし食べている料理に、色々な人の思いを馳せることができれば、毎日の食べるという行為が、もっともっと豊かなものになる。今回のインタビューで実感しました。

生産者と消費者をつなぐ熱血サステイナブル板前

こんにちは、立教大学3年の山下佳也と申します。今回インタビューさせていただいたのは、西麻布にある割烹(かっぽう)料理店「伊勢すえよし」店主の田中佑樹さんです。「伊勢すえよし」はトリップアドバイザー、2021トラベラーズチョイス、レストラン(高級店)部門で日本1位を獲得しています。田中さんは熱い思いと取り組みから、「熱血サステイナブル板前」という肩書きがついています。

美味しいものを未来に残すプロジェクト

田中さんは、美味しいものを未来に残すため、「三重の恵み」というプロジェクトを行なっています。コロナ禍で行き場を失った魚の活用からスタートした取り組みで、海の社会課題の解決などにも取り組んでいます。そのうちの一つが、未利用魚の活用。美味しいけど何かしらの理由で市場で取引されない魚。加工品にして消費できるようにする取り組みをしています。未利用魚を使ったアヒージョ「三重のサチージョ」インタビューの時にいただきましたが、とてもおいしかったです。しかも「三重のサチージョ」は美味しいだけでなく、食育の役割も担っています。商品開発や作成には三重県の高校生が関わっていて、魚の調理方法、海に関する課題などを学びながら調理しています。また、その様子がnoteで発信されており、食べた私たちも学ぶことができます。

詳しい内容は三重の恵みWEBサイトをご覧ください。

三重のサチージョ

未来に美味しいものを残すことについて、詳しくお話をお聞きしました。

全人類が経験すべき白菜収穫

ー 美味しいものを未来に残すため、生産者、料理人、消費者が一緒に考える必要があると思うに至った経緯を教えてください。

自分は料理人だけど、生産者さんの現場を知らないので、生産者巡りを始めようと思いました。白菜の収穫に行ったことを鮮明に覚えていて、それが一番最初のきっかけです。そこでは、生産者さんが、天気レーダーをずっと追いかけていました。料理人の修行中は、外に出る機会が少なく、それほど天気を気にすることがなかったのですが、その様子をみて、生産者さんは自然の中で仕事をしているというのを感じました。また、白菜はずっしりと重みがあるため収穫しているうちに腕が筋肉痛になりました。この時の経験が衝撃的で、人類全員が経験するべきだと感じました。この時感じた気持ちは、根本的には今も変わっていないと思います。生産者さんに思いを馳せることで、感謝の見える化をしー、そしてその感謝の循環化ができれば社会が変わると思います。

知ってる人から買えば食が豊かになる

ー 「伊勢すえよし」の理念 ”心の流通” について詳しく教えてください

現在の物流では生産者さんの気持ちが運べていないと思います。
作られた野菜の流れは、生産者→農協→卸売市場→小売店 というのが一般的です。そこでは、お金や野菜は運ばれますが、生産者さんの気持ちや心は運べていないと思います。
そこを、料理人が間に入ることで改善できると考えています。例えば、料理を食べてもらったお客さんと会話しながら、生産者さんの想いを伝えることができます。
また、逆に、消費者さんの気持ちを、生産者さんに伝えることも必要です。食べる人の気持ちが伝われば、作る側にも影響があります。自分が作った野菜を、どのような人が食べるのか知らずに、ただお金で取引されるのと、自分が作った野菜を食べる人の顔を浮かべながら生産するのとでは、全く違うと思います。こちらも、料理人が間に入ることで伝えることができます。お客さんに頂いた感想や、感謝の気持ちを生産者さんにフィードバックして伝えます。生産者さんと消費者が相互に作用することで、食事がより豊かなものになると思います。
例えば、もらったお米を、子供が離乳食にして食べている様子を伝えることで、生産者さんも豊かな気持ちになります。また、食事をするときに、農家さんの顔や生産している様子を思い浮かべながら食べることで、消費者の食も豊かになります。

思いを馳せるために必要な視点や行動

ー 数十年後には今と同じ食生活ができないと言われています。しかし、実感が湧きません。どのような視点を養えば、未来の視点からの行動につながるでしょうか。

今までのことと共通して、思いを馳せるということ、また、そのためにコミュニケーションに時間を割くことだとおもいます。
実際現場に行けば、そこでの状況がどういうのもかがわかります。現場の人の声を聞くことが、思いを馳せることには大事だとおもいます。例えば、飲食業がコロナ禍で酒類の提供を停止しています。そうなると、お酒を作るための酒米が売れ残ってしまいます。これらのことは、生産現場に行けばわかることです。生産現場に行き、現地の人の声を聞くことで、思いを馳せることができるとおもいます。

ー 田中さんが、生産者さんの現場を巡ることに至った経緯は、先ほどの白菜農家さんでのエピソードからなのでしょうか。

そうですね、あとは昔放送していたテレビ番組「キッチンが走る」も影響しているとおもいます。料理人の修行中では、料理を作るときに作業だと感じてしまい、食材に感謝しきれない面がありました。「キッチンが走る」で放送された、生産者さんが自分の作った食材を使った料理を食べて涙しているシーンを見て、自分はこういうことがしたいと思いました。その気持ちがあり、生産者巡りに繋がったと思います。

見えにくいが、すぐそこまで来ている海の課題

ー 農作物と違って、海の幸について知るためには何をされたのでしょう。

漁師さんや流通関係の方に話を聞きました。海の課題は見えにくいですが、現場の声を聞くと、魚がどれだけ減っているのかがわかります。 
流通が整い、魚を大量にとれば儲かる時代がありました。当時は魚が減るといった環境への影響を想像することなく、大量にとっていました。このときにいい思いをしたため、50代や60代の漁師の方は、保守的に考える人もいます。しかし、このままではまずいということを現場の30〜40代の中間管理職立場の人は知っています。そういった方から聞くと、危機はもうすぐそこまで来ているとわかります。例えば、カツオや昆布は取れる量がとても減っています。私たちが普段当たり前にとっている出汁も、もしかしたら一杯1000円なんてことになるかもしれません。

ー 海産物が取れなくなるなどの情報は知ることができますが、実感が湧きません。どうすれば実感が湧きますか。

行動力が大切だと思います。インターネットで調べることも大切なアクションでいいことだと思いますが、そこで満足せずに、違ったアクションをするといいと思います。現地に行って生産活動を体験したり、現場の人にコミュニケーションをとったりすることで、分かることがたくさんあります。また、そのように、気持ちはあるけど動けない人は多いと思うので、そういった人も巻き込めると思います。

インタビューは以上です。

インタビュー感想
今回のインタビューでは、終始田中さんの熱い気持ちに圧倒され、感銘を受けるばかりでした。伝えたいという思いから、声量も力強かったです。
インタビューを通して、今までの自分の食に対する態度を見直さなければいけないと実感しました。インタビュー前まで私は、楽に安く美味しい食事が取れればそれで十分だと考えていました。しかし、生産者さんと顔を浮かべながら食事ができれば食が豊かになるというお話を聞いて、今までの自分には、食を豊かにするという観点がなかったと気づきました。豊かにすることを意識し、まずは家族や知り合いと料理を作る、知っている人がやっている飲食店で食べるなどすぐにできることをやってみます。 
美味しいということで興味を持つということも実感しました。今回、インタビュー後に「三重のサチージョ」「伊勢まだいのかぶせ茶漬け」などをいただきました。自分が美味しいと感じたものがどのような過程でいただけるところまできたのか、そういった過程を知ることで、全く知らないよりも食が豊かになることも実感しました。三重で獲った魚を三重の高校生が作って、それを今食べているんだと意識しながら食べるというのは、新鮮な体験でした。行動力についてもお話をいただきました。インターネットで情報を得るだけで満足せずにもう1アクション増やせるように努めようと思います。具体的に目標とする次のアクションは、今回いただいた鯛を養殖している漁師さんのところへ、インターンをし現場での様子をみに行くことです。
田中さん、お忙しい中、貴重なお話と美味しいお食事ありがとうございました。そして、三重の恵みプロジェクトに関わっている漁師の方、高校生の方々、とても美味しく豊かな食事ができました、ありがとうございました。

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