香椎の邸宅レストラン「颯香亭」が宮若市に移転して大幅にリニューアルしています。
コロナ禍前の2021年に開業していたのですが諸々あって、このたびやっと訪問することが出来ました。
移転前の料理も、超絶技巧に唸ったレポートを書きましたが、今回も同行した友人たちが歓声をあげるか、寡黙になり、のち溜息をつくという心震える料理の数々でした。
移転した先は、福岡市の東部からひと山越えた宮若市にあります。博多駅から車で1時間くらい。トヨタ自動車九州工場があり、関連企業の多いインター付近から、もう少し山手に入った、住宅も少ない里山にあります。つい先日、東証グロース市場に上場したトライアルHDが宮若市と協定を結んで設立したIoTの開発拠点はMusubuAIとしてシェアオフィスになっていて、全国から流通業向けのソフトウェア開発企業が集まっています。IoTの実験を行う店舗や、廃校になった小学校の体育館を改装したレストランもあります。この開発拠点の関連施設として温泉や宿泊施設が並んでいます。「宮若颯香亭」は、その中のアイコンとして存在しています。
颯香亭の金丸シェフは、香椎時代も様々な食材を深掘りして料理を仕上げていましたが、宮若ではさらに深化していて、近隣の生産者から最高の食材を分けてもらうことはもちろん。店周辺の野山から、山菜や花、木の実などを集めて、ピクルスや塩漬けを作っています。店の庭に畑を作り、様々なハーブや野菜を作っています。それらを使った料理がテーブルに並びます。
春の野菜やハーブを使ったアミューズから、ふき、アスパラ、たけのこ、わらび、ピース、玉ねぎ、クレソンを中心とした料理が一皿ずつ登場します。素材を一度分解して再構築します。同じ野菜でも、茹でる、揚げる、生のままと食感を変えてみたり。食材の持つニュアンスを強化するために香りをスプレーします。クレソンは葉っぱはソースやジュレにしてイカに絡め、茎の空洞にはソースを詰め、根っこは炒ってクルトンの様に振りかけると、余すことなく使います。玉ねぎは、厨房の真ん中に据えた薪のグリルで、表面を焼いたもの、炭火の中で真っ黒に焼いたものを、目の前で切り分け、中心部だけソースに和えます。この時に剥がした部分は、残しておいてレース状のチュイルとして再登場します。ここまでの7皿は野菜が中心でした。
魚料理はヒラスズキの薪焼き、様々なハーブが複雑な味を奏でます。お肉は地元の宮若牛のグリル、トレビスをこれまた、葉、茎、根で調理法を変えて添えてあります。
デザートは米のアイス。ビーツで造った花びらでチューリップを形取ったミルクアイス。
席を移して、ウェイティングバーで小菓子とコーヒー、食後酒。敷地内の宿を取れば、ゆっくり強いお酒も飲めそうです。
金丸シェフが掲げるfarm to Tableを形にした料理の数々でした。この場所で最高のもてなしと料理を提供することと、地域の生産者さんを発掘し、共創することで若い生産者さんたちを育てることになっているようです。またレストランの若いシェフたちには、調理技術だけでなく、素材への興味と知識、食材を無駄にしない、一年を通じて料理を提供するために保存する技術。出来あがった保存食が、料理に豊かなニュアンスを与えることへの気付きを伝えているようです。
僕の拙い記述では、伝えきれない料理と環境です。ぜひ体感していただきたい名店です。
その料理を食べるために、わざわざ旅をする、そんなお店です。
宮若颯香亭 公式
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