私が収集した膨大なマニュアルを整理しながら振り返りながら、色々な企業のマニュアルをご紹介しました。私の経験上のものから、私が企業向けに製作したものなど雑多でした。最後にマニュアルをまとめてみましょう。
私の経験では一番精巧で種類の多いマニュアルは、もちろんマクドナルドです。しかしマクドナルドの営業は特殊です。販売している商品は限定しており、供給されるサプライヤー(原料加工・納入・企業)で完成品の一歩手前まで加工され、店舗ではそれを最終調理し、組み合わせるだけです。
基本的にプロの調理人が不要で、料理なんか家でもしたことのない、初めてアルバイトで働く幼い高校生でも調理ができるようになっています。そのため、サプライヤーの製造工場で、一次処理し、店舗では自動調理機器で最終加熱だけで済むようにします。
例えば子供に大人気のフレンチフライを見てみましょう。
家で生のジャガイモから作るには、まず、ジャガイモの種類を選びます。ジャガイモにはいろいろ種類があるので、揚げ物に向いた種類の米国製、できればアイダホのラセットバーバンク種を選びます。
次に皮を丁寧にむき、カットし、水に数時間さらします。それから水を切って、軽く揚げます。冷めてから、もう一度揚げます。そうするとカラッと、ゴールデンイエローの色に揚がります。
マクドナルドも創業当時には店舗でその複雑な作業をしていました。多店舗展開にむけて、その手間を省くために加工工場で皮むきカット後水洗いし、一時揚げ後、ポテトを急速冷凍します。店舗では冷凍または解凍後必要に応じて揚げればよいのです。
少量の冷凍ポテトであればどんなフライヤーでも良いのですが、大量の冷凍ポテトを揚げるにはフレンチフライに向いた火力の強いフライヤーを使います。
油層が大きく冷凍ポテトを上げても、温度が大きく下がらない専用のフライヤーを、効率よく燃焼させる機構で火力の強いものを使います。火力という意味では、リカバリータイムと言って、一定の温度から一定の温度までの回復時間で設定します。
次に大事なのは、揚げ時間ですね。タイマーでなく、揚げる量と油温によって最適な状態になるようなコンピュータを使います。一度に揚げる冷凍ポテトの量のコントロールも大事です。あまり量が多いとカリッと揚がらないからです。
また、冷凍のポテトはガラスのようにデリケートです。乱暴に取り扱うと折れて形の悪いポテトになるし、歩留まりが悪くなります。揚げ用のバスケットに入れるときに、一定量で均等になるようにします。以前は手作業でしたが、アルバイトの訓練が難しく、現在では、冷凍ポテトを冷凍庫から取り出しバスケットに入れる作業を専用のフレンチフライ用のロボットで行います。
顧客の注文後に揚げだすと時間がかかるので事前に揚げ、温度とカリカリの状態を保つように、ヒートランプの下で保管します。7分以上たつとシナシナになるので、廃棄をします。
このようにたかがフレンチフライでも、調理未経験の若い高校生が調理できるようにしておくのです。
人気のビッグマックを見てみましょう。ビッグマックの構成材料は、ビッグマックバンズというちょっと厚めの3枚切れのゴマ付きバンズを使います。
具材は2枚のミートパティ(1/10ポンド、45g)、2枚のピクルス、水で戻した乾燥オニオン、2ショットのビッグマックソース、スライスレタス、1枚のチーズ、焼き上げて塩コショウをしたミートパティ2枚です。ミートパティは焼けが早く、形が良いように専用の成型機を使います。味がよく焼けが均等になるように一定の脂肪率(20%前後)にしています。
ミートパティは専属の工場で製造します。レギュラーのミートパティは標準品と同じ重量の1/10ポンド。約45グラムです。冷凍の塊肉を工場で2度挽きにして均等になるようにします。
この時に重要なのは、挽肉の温度です。あまり温度が高いと雑菌が増殖しますし、低すぎると成型後のミートパティがでこぼこになります。でこぼこになると鉄板で焼くときに焼けムラができて危険です。また成型時に挽肉がこねすぎると形が悪いので、特殊な成型機で空気を含んだ柔らかい状態にさせます。成型後は、急速冷却し箱詰めします。
バンズはクラブハウスサンドイッチのようになるように、厚く焼き上げたゴマ付きバンズを3枚切りにします。
そしてピックルス2枚と、戻しオニオン、プロセスチーズ1枚、ビッグマックソース2ショット(約20グラム)を入れます。ピックルスは均等な厚さにスライスできるように専用の鋭い刃を使う機械を使用します。この機械でスライスしないと厚さが不揃いでロスが多いのです。
さてビッグマックは創業時にはありませんでした。カリフォルニアで大人気だったファミリーレストランのビッグボーイの人気サンドイッチ、ビッグボーイダブルデッカーバーガー(パテが2枚入った大型ハンバーガー)をもとにマクドナルドのフランチャイジーが作り上げたのです。
ビッグボーイダブルデッカーバーガーは米国人の大好きなクラブハウスサンドイッチを基に作りました。クラブハウスサンドイッチは数枚のトーストしたパンに、ベーコン、野菜(主にレタス)、ピックルス、焼いた肉、を挟んで、味付けはサウザンドアイランドソースです。
ビッグボーイダブルデッカーバーガー
ビッグマックはビッグボーイダブルデッカーバーガーを基に、サウザンドアイランドソースをヒントに、ちょっと粘度を上げるためにマヨネーズを増やしたものです。
ではちょっと脱線して、ビッグマックソースを見てみましょうね。日本マクドナルド創業当初は店舗でビッグマックソースやタルタルソースを仕込んでいたので、そのころの作り方とネット上の情報を見ていきましょう。
HP上のビッグマックソース の作り方。
BIG MAC SAUCE レシピー
1 cup (300g) mayonnaise
1 tbs gherkin relish
2 tsp white vinegar
Pinch of white pepper
2 tsp mild mustard
1 tsp onion powder
1 tsp garlic powder
1 tsp sweet smoked paprika (pimenton)
Mayonnaise
pickle relish
onion
mustard
white vinegar
sugar
garlic powder
onion powder
salt
paprika.
好みにより
ketchup
barbecue sauce
サウザンアイランドドレッシングレシピー
マヨネーズ
大さじ3
ケチャップ
大さじ3
オリーブオイル
大さじ1
レモン汁
小さじ2
ウスターソース
小さじ1
酢
小さじ1
マヨネーズはキューピーのものより酸味の少ないベストフード マヨネーズやキューピープロユースを使いましょう。
これでビッグマックソースは出来上がりです。以前はこのように店舗で作っていたのですが、衛生上の観点から、今では工場で作り、ディスペンサー用のカートリッジに詰めています。店舗ではそのカートリッジを専用のディスペンサーに挿入し、2ショットするだけです。
後はバンズとミートパティーですね。米国ではどこのスーパーも売っていますが、日本ではコストコで売っています。コストコでは1/4ポンドのミートパティを売っています。マクドナルドのクオーターパウンダーですね。メーカーはマクドナルドのミートパティを作っている、オレンジベイフード(米国最大のミートパティ製造会社のO.S.I.子会社)です。マクドナルド向けとの違いは肉の焼けを早くするスパイクがないことです。
バンズはレギュラーよりちょっと大きいだけですが2枚にスライスです。これらを組み合わせればビッグマックにかなり近い味になります。
コストコHP
ミートパティ
バンズ
夏休みにチャレンジしてみましょうね。
参考までに、以下にマクドナルドの工業化した ビッグマックソーススペックをご紹介しましょう。
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|INGREDIENT 名称 DESCRIPTION 商品名 % by WEIGHT
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White Vinegar ホワイトビネガー HA-300 Ha-300 0.787%
Water 清水 Water 清水 3.972%
Salt 食塩 Salt 食塩 0.100%
Sugar 砂糖 Granulated グラニュー糖 0.300%
Corn Syrup 液糖 Sanfruct s-40 サンクラフトs-40 1.006%
Mustard Flour 辛子粉 Mustard Flour 辛子粉No.39 0.0940%
Egg Yolk 卵黄 Egg Yolk 卵黄(加塩10%) 5.828%
Oil Mastard オイルマスタード Oil Mastard オイルマスタード 0.006%
Soybean Oil 大豆油 Soybean Oil 大豆油 50.367%
Sweet Relish スイートレリッシュ 30.000%
Mustard Flour 辛子粉 Mustard Flour 辛子粉No.39 0.1000%
Xanthan Gum キサンタンガム Echo Gum エコーガム 0.060%
Dusseldorf デュセルドルフ デュセルドルフ 7.3000%
Mustard マスタード マスタード
Oil Paprika オイルパプリカ Oleoresin オレオレンジパプリカ 0.0800%
続く