マックの裏側 第12回目 マクドナルド創業メンバーが語る秘話

マクドナルド時代の体験談

 日本マクドナルドは過去の異物混入などのトラブルを乗り越えて、順調に回復しているように見える。そして、「2019年3月27日付で、日色保上席執行役員CSOが代表取締役社長兼CEOに就任。サラ・カサノバ代表取締役社長兼CEOは、代表取締役会長に就任する。」と発表した。回復から安定期に移行させようとしているようだ。

 マクドナルド社は2014年から2015年の商品品質問題から売り上げも大きく減らしたが、コロナ過でも見事に回復させた。しかし、4000店近くの店舗数を3000店舗以下まで減らし、また,HP上などから大事な情報(決算報告書の詳細)を消し去っている。同社に何があったのだろうか?マクドナルド社は勿論、同社社員や退職したOBであっても口が堅く一切取材に答えない。マスコミ各社は退職した社員や辞めたフランチャイジーに取材を行っているが、みんな口を閉ざしたままである。

 この日本マクドナルドの問題は実は欧米企業と日本(東洋)の企業との企業文化や企業倫理の大きな違いではないかと思える。経済のグローバル化の掛け声に欧米に進出したり、欧米の企業との資本提携や買収をする日本企業は多くなっている。しかし実態は、成功しているのはほんの一握りであり、多くの企業は苦しんでいる。だがその企業の外部者にとって情報が少なく実態はうかがい知れないことが多い。しかし日本マクドナルドを消費者として利用している人は多く、経営上の問題も新聞・雑誌・テレビなどで報道されることが多いので、問題点を理解しやすく、外食分野以外の方にもわかりやすいと思われるので日本マクドナルドの事件を見ていただきたい。

 先週号で申し上げたように、筆者は日本マクドナルド創業2年目に入社し、19年勤務し、その間、店舗運営や機器開発・商品開発の要職を務め米国に2年間駐在し、米国マクドナルドの経営陣と交流をし、マクドナルドの内側を熟知している。25年前に退職して、外食専門のコンサルタントとして、日米のマクドナルドを他外食産業と比較しながら外部から観察していた。さらに10数年前から大学講師や教授としてマクドナルドを学術的に研究していた(筆者の学生2名が、マクドナルドをテーマに博士論文を執筆し博士号を得た)。

 筆者がマクドナルドの異常な不振の前兆を感じたのが、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科で教授として教鞭をとっていた2008年頃だ。博士課程の大学院と、キャリアアップのためのMBA(Master of Business Administration) /DBA(Doctor of Business Administration)の大学院の学生は異なる。通常の大学院の修士課程、博士課程は大学各学部の上位に存在し、学部出身の学生が学び、将来は研究者や教授をめざす。MBA/DBAの大学院は大学各学部からは独立している。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の学生は2年以上の社会人経験者でなくてはならない社会人大学院だ。学生がMBA/DBAで学ぶ目的は、会社でのステップアップ、転職、企業などだ。多くの学生が企業における現状に満足できず学ぼうとしている。筆者は29人の卒論を指導し、そのうちの8人ほどが転職している(3名が大学教授になった)。2008年に入学した2名を見て驚かされた。1名がマクドナルドを退職して人材コンサルタント会社に転職したばかり。もう一名は何と現職の社員だ。それも筆者が在職したことのある店舗運営の中枢を担う運営統括部(オペレーションデベロップメント)だった。これは異常な状態だと認識させられた。

 もう一つの異変は、マクドナルドのアルバイトの意識の変化だ。筆者は大学院の他に立教大学観光学部でも教鞭をとっていた(学生数は年平均150人と多かった)。授業は外食産業論という外食分野の授業だ。外食企業は学生が顧客としても使って親しんでいる。そこで、ファミリーレストランやファスト・フードなどをもとに企業の仕組みをわかりやすく説明した。大学生の95%ほどはアルバイトをしており各企業の真の姿を内部から観察している。生徒に教えるだけでは面白くないので、大学生から情報を得ることにした。授業ではマクドナルドの経営手法の顧客に対して提供するQSC(品質・サービス・清潔さ)と経営に必要な人・物・金の管理をわかりやすく教えていた。単位取得の条件は出席率と、試験の代わりのレポートにした。

 授業の理解度を測るレポートのテーマは、各学生のアルバイト先の評価とした。アルバイト先を授業で教えた、QSC(品質・サービス・清潔さ)と人・物・金の管理で評価させた。学生のアルバイト先は多岐に及んでいた。一番多いのが外食企業で、その他、小売業、塾、パチンコ、テーマパークなどであった。

 立教大学の学生はたいへん優秀で、そのレポートは緻密で正確なのに驚かされた。レポートからは、従業員の扱いが悪いか大切に教育トレーニングをしているかなどの企業の経営方針がよくわかった。優れた企業でアルバイトしていると、レポートの内容がきちんとしているだけでなく、きちんとした教育内容によりアルバイトが成長し、その企業への愛着と感謝が見えるようになる。アルバイト先の企業で優れているは、東京ディズニーランド(オリエンタルランド)がダントツであった。それに次いだのが外食分野でマクドナルド、デニーズ、ロイヤルであった。ちなみにファミリーレストラン最大手のすかいらーくのアルバイトの評価は低かった。その2番目に評価の高いマクドナルドの評価が2008年に著しく低下したのだった。立教大学に近い大きな繁華街にある大型店舗のマクドナルドの評価が著しく低下したのだった。その内容は店長の資質の低下と店舗状況(人間関係)の悪化であった。

 それらの変化で異常を感じた筆者は、在籍中の社員や退職者からそれとなく事情を収集を開始した。
 筆者の経験と収集した資料や情報、日米の文献、日米マクドナルドのHPをもとにマクドナルドで何があったのかをできるだけ明確にしていこう。勿論筆者がマクドナルドを離れて久しいので、その間に何があったのか、退職したベテランOBに重い口を開いてもらった。
 まず、日本マクドナルドの最近の不振に至るきっかけとなった事故を見ていこう。発端は2014年夏であった。中国で日本マクドナルドやコンビニチェーン・ファミリーマートで使っていたチキンナゲットの『上海の食肉加工会社「上海福喜食品」で、使用期限を半月過ぎた鶏肉やカビが生えた牛肉を使っていたことが発覚し、マクドナルドは大打撃を受け
た。

 その事故の後、日本マクドナルドホールディングス(HD)が6日発表した2014年1~9月期連結決算は、売上高が前年同期比12.7%減の1722億円、税引き後利益は75億円の赤字(前年同期は63億円の黒字)。同時に都内に34店舗を展開するフランチャイジーが全店舗売却した。

 しかし当時の社長であった、サラ・カサノバ氏は事故後の記者会見で日本語ではなく英語でマクドナルドも被害者であると述べるような他人事の態度を見せ非難を浴びた。しかし、本当の問題が発生したのが2014年12月のチキンナゲット異物問題発生であった。

 青森県の1店でチキンマックナゲットにビニール片のような異物の混入が確認されたことと、2014年12月31日、東京都江東区の「東陽町駅前店」でビニール片のような異物が混入していたと店員に申し出ていた件だ。
 マクドナルドでは製造現場では、色のついたビニールを使用していると発表し、同一ロットのナゲット販売中止。でも、東京の場合は白か透明なので、同一工場で同一日に製造されたナゲットの使用中止の措置などは取らないとしていた。問題は店舗がその現物を保管もしなかったし本社に報告もしていなかったことだった。

 この異物混入問題は、社長のサラ・カサノバ氏が日本に不在で(米国に出張だとしていたが、欧米の年末年始の時期はクリスマス休暇で仕事はできないはずだ)、事故後の記者発表に出れず、役員2名がしどろもどろの記者会見を行わざるを得なかった。1名の役員は原田泳幸氏が外部からスカウトした人で、もう一名は原田泳幸氏が引き上げたたたき上げの役員であったが、マクドナルドの品質管理や、厳格な危機管理の知識がなかったようだ。それ以降マスコミやネット上でマクドナルドの事故への対応の悪さを大きく取り上げられ売り上げが急低下し、2016年には200億円近い巨額の赤字を出してしまった。

売上動向
https://www.youtube.com/watch?v=eii5U5_OQYQ

平成26年12月期上半期決算発表
https://www.youtube.com/watch?v=O3_rXN3enOU

異物混入
https://www.youtube.com/watch?v=hmCN–NzRKU

CEOサラ・カサノバ氏出張時の取締役による記者発表(マスコミは批判的)
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/354152/
http://www.j-cast.com/tv/2015/01/08224805.html

連続の事件後マクドナルドは絶不調であえいでいた。
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6146915?fr=fb_pc_tpc
http://allabout.co.jp/newsdig/c/77970?FM=fb_20150122_12&cm_mmc=FB--20150122--12-_-null

 そうすると前々社長の原田泳幸氏の功罪が話題に上り始めた。
ビジネスジャーナルで
http://biz-journal.jp/2015/01/post_8702.html
マックでは怪文書、ベネッセでは再就職斡旋パンフ…原田氏の破壊的切り捨て経営と糾弾され出した。

また
原島清司マクドナルドオーナー34店全て手放す
http://kenjunomure.seesaa.net/article/408476275.html
では原田氏時代の問題点を指摘していた。

 この原田氏の功罪を見ていこう。原田氏時代に辞めた社員などは原田泳幸氏を批判しがちすぎる。筆者はOBだが、故・藤田田氏絶好調の頃に当時の筆者の仕事上の立場から故・藤田田氏の方針に反し退職せざるを得なかった。だから、故藤田田氏の頃は良かったという考えは全くなく、マクドナルドをよく知っていながら、客観的に判断できる。

 原田氏はアップルコンピューター社の日本法人社長を務めた経験がある、日米のビジネスを熟知した優秀な経営者だ。その行動力は素晴らしく物事を徹底するようだ。

 原田氏は2004年に創業者の故藤田田氏の後継者であった2代目の八木康介氏の後を引き継いでCEOに就任。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E7%94%B0%E6%B3%B3%E5%B9%B8

原田氏の就任時のミッションは
創業者 故・藤田田色の影響一掃
フランチャイジー(FC)による店舗運営率80パーセント
ジャスダック上場廃止

と言われていた。
 上場廃止だけは達成していないし、FC 化率は60%とまだ低いが、ほぼミッションを達成したと言えるだろう。原田氏が行ったのは直営店のフランチャイズ化だ。原田氏は鋭い優秀な経営者だ。直営店舗をフランチャイジーに売却すると,莫大な売却益が出て、且つ、管理する中間マネージメントも不要になる事を一瞬に見透かしたのだろう。その中間マネージメントの社員をフランチャイジー企業に片道切符で出向さたり早期退職させた。
また、本社の監督能力を上げるため4つほどあった地区本部を廃止し、決裁権限を掌握するために社長の決済額を100万円以上とした。そして、従来は全体の30%のフランチャイズ比率を60%にした。また本社の古い役員を一掃し、経験の少ない外部の人を入れることで、故・藤田田氏の影響力を払拭することに成功した。
http://sharescafe.net/37379568-20140228.html
http://toyokeizai.net/articles/-/12862?page=3

 更に店舗のリストラを行った。PODやサテライト、ミニマックとよばれた小型店舗を閉鎖しドライブスルーの大型店舗にするという大胆な店舗網再構築だ。小型店舗は米国マクドナルドが反対する株式上場を行うための故・藤田田氏の秘策であったから、米国サイドが嫌ったのかもしれない。
 小型店は初期投資も低く、家賃もマクドナルド側の言いなりで、最初から収益が出やすい形態であった。欠点は出店先がショッピングセンターや大型小売店であったので、売上は出店先の客数に依存し、マクドナルドのマーケティング効果が出にくいのであった。また、調理機器が少なく大型ハンバーガーや新商品が販売しにくかったのだ。そういう意味では、乗降客数の少ない私鉄沿線の小型店舗も同じ問題を抱えていた。そこで原田氏は、利益のあるうちに、小型店を閉鎖するという荒療治に打って出た。
http://toyokeizai.net/articles/-/3800

国内店舗数の推移を見てみよう
http://www.t.daito.ac.jp/~t037785/zemi_12ki/tenposu.gif

 小型店を閉鎖し、初期投資額の多いドライブスルーを開店すると、利益率は低下する。
 店舗数の減少、特に直営店舗の減少は人材面で深刻な弊害を生んだ。マクドナルドの財産は、モラルの高いアルバイトだが、それは将来入社できると言う希望があったからだ。
直営店舗の減少はその夢をつぶし、従業員のモラルを大きく低下させた。

マクドナルドの人材育成
http://toyokeizai.net/articles/-/12503

 また社員の大リストラにより、競合の外食チェーンやコンビニに優秀な人材を供給して、競合を強くしてしまった。現在急成長している外食企業には必ずマックOBがいる。リンガーハット、KFC、バーガーキング、ゼンショー(すき家など)、回転寿司チェーン、コメダ珈琲等では社長や取締役。社員ではスターバックス、トリドール、モスバーガー、鳥貴族、グリーンハウス、ローソン等にも。変わったところではディズニー、USJ、ユニクロ、パチンコのマルハン、人材派遣会社のスタッフサービスにもOBが流れた。また年齢と経験の長い優秀なOBはコンサルタントとしても活躍している。人材教育、立地調査、商品開発、品質管理、広告宣伝等の分野だ。

 優秀な経営者の原田氏の行き過ぎた破壊について述べたが、その後じっくりと考えると、原田氏があそこまで徹底した破壊行為に走ったのは,米国サイドの強い要請とバックアップがあったのではないかと思える。古い従業員の行きすぎたリストラを述べたが、よく調べると、バンズや食肉加工業者の大手食材メーカー、大手物流業者、大手厨房機器メーカーまで変更している。そして故・藤田田氏の開発した店舗も閉鎖しようとしている。

 筆者は原田泳幸氏が就任した時、任期は5年ほどで、その間に故・藤田田氏の築き上げた日本マクドナルドの体質変換を予測していた。そして5年後には米国マクドナルド者から経営陣が来ると予測していた。その体質変換はお店でいえば壁紙交換や外装の改装などの外から見えるところだけと思っていた。しかし原田氏は建物を土台から破壊してから建て直すような本格的な破壊を行なった。

 ハンバーガービジネスをあまり知らない原田氏のサポートとして、米国マクドナルドサイドのベテランが常駐していたので,もし原田氏のリストラが行き過ぎであったら、ブレーキをかけられたはずである。原田氏の大リストラを見ていると、米国サイドに故・藤田田氏に対する嫌悪感以上の憎しみさえ感じる。そこで何が米国サイドをそこまでさせたのかを知るため、故・藤田田氏の功罪を見てみたい。

以上

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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