来年のG7会議幹事国はイタリアで会場はプーリア州になる予定。メローニ首相がその下見を兼ねて夏季休暇に訪れているとのことです。プーリアにはまた35℃越えの暑さが戻ってきました。
イタリアに関してのご著書も多い建築史家で、我が町チステルニーノを1970年代に初めて日本に紹介してくださった陣内秀信法政大学名誉教授と一緒にイオニア海にあるターラントの町を探索してきました。
ターラントは古代ギリシャ、マグナ・グレーチャ時代、スパルタ島から移り住んだ人々によって築かれたつプーリアの中でも重要な都市です。
現在はプーリアの中で唯一と言える工業都市であり、イタリア海軍の拠点で海運も盛んな港があります。1970年代には製鉄業で栄え、日本の大企業との提携もあり200人以上の日本人が住んでいて、お抱え寿司職人もいたと聞きました。今は製油所、アルミ工場の煙突が並び長らく環境汚染問題が大きく取り上げられてもいます。
大企業のお膝元であることが原因の一つかも知れませんが、歴史的価値の高い遺跡や建造物が多数あるにもかかわらず旧市街修復など観光業への投資は遅れています。
今は復興の過渡期で足場が組まれている建物も多く、空き家の壁にはアーティストが壁画を描いたり、決してきれいとは言えない生活臭に満ちた一角があったりします。
もう少し時間はかかるのかと思いますが、ポテンシャルは高く、この先どう進化していくのか、興味深いところです。表面的に小綺麗になり過ぎず、この町の個性を残しながら観光によってもっと元気になると良いと思います。
環境問題の焦点は空気汚染であり、海の水は港近くでも透明度が高く岸壁から釣りをする人もいます。イオニア海へ面したマーレ・グランデと入江になっているマーレ・ピッコロの二つの海辺を持ち地形的な美しさもあります。
マーレ・ピッコロの海底からは真水が湧き出ていて海水の塩分が低いことがここで養殖されているムール貝の特別な美味しさだと地元の人々は言います。生でムール貝を食べる習慣もあります。ターラントの名物はムール貝とフレッシュトマトをクベッティと呼ばれるショートパスタと一緒に食べる一品。
歴史好きな地元の元医師が私財を投じて博物館にしたスパルタ人が造った地下の石切場の遺跡を案内してもらいました。いにしえの古代ギリシャを身近に感じることが出来るのは、石の文化だからこそのものですね。木の文化の日本でそうはいきません。
石の屈強さと木のしなやかさ。建造物の基盤となる素材の特徴にヨーロッパと日本の文化の違いに通じるものを感じました。この博物館を作った方もとても情熱的で頑固者とも言えるような個性の強い方でした。
この方のおすすめ料理はもちろんムール貝のクベッティパスタで、彼曰く、「レストランで食べる時は必ずターラント産のムール貝かどうかちゃんと確認するように!ターラントに来て他の地方のムール貝を出すような店には行ってはいけない。もとい、そんな店あってはいけないのだ!」とのこと。
この方のように、カリスマ的な情熱とこだわりのある個人の力が地方再生の原動力として重要なのだろうなと感じたのでした。