世界文化遺産の情景

南イタリア美食便り

世界で一番ユネスコの世界文化遺産に登録されている場所、地域が多い国はイタリアで、全部で58ヶ所あります。その多くは都市の歴史的旧市街地や城、教会などです。

プーリアには、アルベロベッロのトゥルッリ住居、カステル デルモンテ(モンテ城)、「イタリアにおけるロンゴバルド族の影響力を示す場所」の括りにおいてモンテ・サンタンジェロにあるサン・ミケーレ教会の3ヶ所があります。

日本人団体旅行の訪問地として一番馴染み深いのはアルベロベッロのトゥルッリ住居群だと思います。アルベロベッロという町は、領主が王への納税を避けるために住居を取り壊しと建て直しのきくトゥルッリという分厚い石の壁と薄い石を円錐形に積み上げた屋根をもつ家に強制的に住まわされたという、民衆の苦難の歴史が結果として現代では観光資源となっています。

1000棟以上ものとんがり屋根のトゥルッリが集中している様は小人でも住んでいそうなおとぎの国を思わせるビジュアルインパクトが強くアルベロベッロが観光地として人気が高いことも頷けます。

トゥルッリはアルベロベッロから半径30kmほどの地域に点在しており、我が家も300年前代々か受け継いたトゥルッリを今ではゲストハウスにしています。

実はこのトゥルッリ夏は涼しく、冬は暖かいという優れた特徴があり円錐形の屋根の内側はトライアングルパワーを感じる伝統建築として住んでみて初めてその素晴らしさが実感できるのです。

日本の世界文化遺産では2018年に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」も民衆の苦難の歴史という面では共通しています。こちらは長崎県と熊本県の合計12の地域や城、教会で構成された日本独自の宗教的伝統という括り認定されています。

キリスト教の中でもカトリックの伝統が文化として根強く生きているイタリア。その中でも中世以降主に農業地域として近代化から取り残された感があり第二次世界大戦後から数十年前までは貧しさが強調されるイメージの南部では人々の信心深さは工業化が進んだ北部に比べて強く残っています。

私たちの周りにも集落の小さな教会へ毎週欠かさず通う人々は多くいます。ただ信者の高齢化も大きな問題ではあります。リタイアしてお金と時間に余裕のある元気な世代のカトリック信者の方々にゆっくりとこの長崎、天草地方の潜伏キリシタン関連の世界遺産を周っていただくツアーというのは良いアイデアだと思います。

天草の崎津集落の神社の鳥居と教会の屋根が同居する情景は、その土地の歴史を知ってこそ心に響くもの、そして潜伏してまで信心を守り抜いた人々の思いは同じ神を崇める人々の心にこそ大きく響くものだと思います。

事実、物証、史跡を知見するだけでも感じるものはあると思いますが、そこに受け取る側に寄り添った分かりやすいナレーションというのがあると感動は倍増すると思います。そこがただの翻訳ではない、相手の文化を理解した上で書かれた解説です。さらに録音ではなく生の声であればなおさら伝わると思います。

海外生活が長い日本人の私からみても宗教的伝統だけではなく「独自」の感性だったり、習慣だったり、精神性だったりが多いように感じる日本。だからこそ日本人以外のそれぞれの人々の立場に立った解説が必要なことだと思います。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

関連記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

ランキング

  1. 1

    「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

  2. 2

    マックのマニュアル 07

  3. 3

    マクドナルド 調理機器技術50年史<前編>

アーカイブ

食のオンラインサロン

TOP