手作りのトマトソース

南イタリア美食便り

今年のトマトソース作りが完了しました。270Kgのトマトで約4軒が1年間使う分量です。

果肉部分が厚くトマトソース作りに適したダッテリーニという細長い品種とプーリア中部我が家に違いアドリア海沿いが特産のフィスキエットという先端の部分が笛のように細くなっている品種、両方ともミディアムサイズのトマトを使います。

手順としては、まずボトルを煮沸消毒します。トマトはヘタを取り何度も水洗いし傷んだものは取り除き、バジリコを入れた大きな鍋で軽く茹でます。水分をきって電動濾し器にかけ、種と皮を取り除きます。出てきたトマトソースに少量の塩を入れボトリング、その後ボトルを煮沸して真空状態にして出来上がりです。ここまで朝早くから1日仕事です。南イタリアの食に対する思いとこだわりも一緒に詰まった一年に一度の大事なイベントです。一昔前まではどこの家でもやっていたことですが、最近はする家がめっきり少なくなってしまいました。

スーパーに並ぶトマトソースは味も値段もピンキリです。安いものは720ml1ユーロ程度で買えます。高価なものでは無農薬や無添加を謳った7-8ユーロのものもあります。

ホームメイドのものには、保存料などはもちろん入っていませんし、材料費、燃料費、人件費といった原価以外に、家族や繋がりのある人たちとの絆やアイデンティティーを再評価する機会という意味の価値があると考えます。食べるものに対しての安全と美味しさ以外の意味合いがあるのです。子供の頃は祖父母が中心になって行っていた作業の主導権が親の世代に移り、そして自分の親が祖父母になって、今度は自分たちが子供に受け継いでいく伝統です。

今年我が家の分は720mlと500mlの瓶を合わせて104本です。従姉妹の家の分はイタリア北部で大学に通う息子に送る1食分用の小瓶と家族5名分用の大瓶の両方を詰めます。実は、我が家でも娘が秋から大学生になる予定なので、その娘用に小瓶も必要だったかと、後になって気づきました。イタリアの大学生は、共同キッチンのある寮のような施設や2、3人でのルームシェアをするのが一般的です。まだ娘がどういう環境で生活するようになるのかわからず、自炊用の食品の仕送りにまで頭が回っていませんでした。イタリアのマンマとしては失格です。

これから多分孤食の侘しさや親の手作りの料理の有り難味を感じながら、大人になっていく娘が将来親になる時が来るとしたら、私はトマトソースを手作りするお祖母さんになっているかなと想像してみるのもちょっとした楽しいです。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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