佐伯市の市民団体「地元学の会」が運営する佐伯市民大学「令和四教堂」の活動から発生した「僻南のまほろばを歩く旅」プロジェクトが企画した「龍の背に乗る旅 シシガギをたどる道」と言うウォーキング+お茶会イベントがありました。佐伯市の鶴見半島の尾根古道を歩き、そこに眠っている日本有数のシシ垣を訪ね、先人の暮らしに思いを巡らし、素晴らしい展望の海抜200m程の尾根付近でお茶会をすると言うのです。私は「龍の背に乗る旅」と言うネーミングに惹かれて参加しました。
今回歩いた地域は佐伯市の鶴見地区と米水津地区の境界線になっていて尾根の両側には佐伯湾と米水津湾が見えます。豊後水道に突き出た鶴御岬を龍の頭になぞらえるとちょうど首の部分にあたります。その尾根付近に高いところでは2mほどの石垣が断片的に連なっています。それが龍の背骨にも喩えられるといる訳です。
江戸時代後期に作られた石垣は、平地に耕す場所がないため山に入って畑を切り開き芋を植えた村人が猪や鹿から畑を守るために作られたもの。特に九州、四国地方にはシシ垣として残っていますが、佐伯市鶴見のシシ垣はその長さや保存状態の良さから地域の財産であり歴史や文化を伝えるものとしての活用が期待されます。昭和20年ごろまでは畑として耕されていたと言う土地は今では自生の椎木などの林になっていて、説明を受け、想像力を働かせなければどうして山の中腹に立派な石垣があるのかわかりません。だからこそスロートラベル、ウェルネスツーリズムと言える「歩く旅」のブログラムとしてのポテンシャルは高く、このプロジェクトのメンバーは今後事業としてこのルートを含む佐伯市を歩く3つのルートの開発を進めたいと考えています。
「歩く旅」はアッピア街道、フランチージェナ街道、カミーノ・ディ・サンティアゴ然り、ヨーロッパでも年々注目され盛んになっています。
欧米からの旅行客をターゲットとしたセルフガイドツアーを企画する奥ジャパン社の九州横断のプログラムに今年9月から佐伯市の大入島が加わりました。オーバーツーリズムを避けてまだあまり知られていないルートを選ぶ旅人も増えて来たのだろうと思います。
ギザギザのリアス式海岸が続く佐伯市の海辺はその凹凸の一つ一つが〇〇浦と呼ばれる地名になっています。その浦々にそれぞれ神社仏閣があり独自の歴史があります。平地が少なく海と山の距離が近いところはプーリアよりも隣のバジリカータ州やカラブリア州に似ています。長靴型のイタリアのちょうど「土踏まず」の部分です。バジリカータやカラブリアもまだまだ観光地化していない隠れた魅力のたくさんある地域です。洋の東西を問わず自然の環境が厳しいところにはそこに住む人々の心の支えとなる文化的な伝統や建造物も多くあるように思えます。容易く行けないから残っている自然やそこに残る文化や伝統が観光資源になる流れを感じます。