日米の1ドルショップの違いとセブンイレブンのプレミアム冷凍食品(商業界 月刊コンビニ2009年2月号)

米の1ドルショップの盛衰と 「国内100円市場の」可能性
100円ショップは、米国のダラーショップを日本に取り入れられた業態といわれているが、日米の消費者行動の習慣、経済事情による消費者行動の動向、品揃えはどう違うのか。そして、日本のコンビニで多く品揃えられている、100円商品の今後の動向を検証する。

1)米国の1ドルストアーの歴史と現在
米国の1ドルストア(ダラーストア)の元祖は1878年に開業したウールワースだといわれている。当時の名称はfive and tenとかnickel and dimestoreなどと呼ばれていた。fiveとnickelは米国の5セントのことで、tenとdimeは10セントのことであった。この当時の5セントはインフレを加味すると現在の1ドルに当たるといわれており、現在は1ドルストア、とかダラーストアと呼ばれるようになった。安いものを売っている店というキャッチフレーズとして使われている。
ウールワースの成功を見て、このfive and tenのカテゴリーに参入する企業が増加した。そして後にインフレーションに合わせて1ドルストアになっていったが、それらの企業は表①の通りである。

表①(ヨコ組み)
Ben Franklin Stores
Butler Brothers
W.T. Grant
Kresge’s
Kress Stores
McCrory Stores
J.J. Newberry
TG&Y
McLellan’s
H.L. Green
G.C. Murphy
Woolworth’s
Walton’s Five and Dime
Duckwall-ALCO

また、表①の中で、現在でも1ドルストアとして店舗展開しているのはDuckwall-ALCOとBen Franklinだけである。
そのほか、1ドルストアを展開しているのは、表②である。チェーンではないが、地域で展開する小規模な1ドルストアが多く存在している。

表②(ヨコ組み)
Dollar Tree
Dollar General
Family Dollar
Deal$
Fred’s
99 Cents Only Stores

そして、Kresge’sはKmartになり、Walton’sはWal-Martという巨大なディスカウントストアに成長した。
Wal-Martの創業者Sam Walton氏は、J.C. Penneyで40才で職を得て小売業に入り、45年にfive and tenストアのBen Franklinのフランチャイジーとなり、Walton’s Five and DimeストアをArkansas州のBentonville 市に開業し、後に世界一の小売業のウォルマートに成長させた。
five and ten はバラエティストアとも呼ばれるように調理道具、工具、洗剤などの衛生製品 、文房具、クリスマスなどの装飾、電池やコードドなどの電気部品、園芸用品、玩具、ペット用品、DVDや VHSテープ、自動車部品などで、店舗によっては食品も置いている。

2)米国のコンビニエンスストアー
さて、米国のコンビニエンスストアーを見てみよう。コンビニは米国から日本に入ってきた業態だが、米国のコンビニの形態やイメージは日本とは異なっている。
米国のコンビニチェーンのイメージはスナック、清涼飲料水、ビール、プレイボーイクラブなどのアダルト向け雑誌、そしてガソリンである。ホットドックやポップコーンなどの食品も製造販売しているが、決して高品質のイメージではない。保守的で慎重、価格志向、そして厳しい衛生基準の米国ではコンビニで冷凍食品や弁当惣菜などの中食を買う消費者は少ない。そして、Kマートやウオールマート、コストコなどの大型ディスカウント店の台頭により、米国コンビニの業界は低迷を始めるようになり、米国セブン-イレブンは日本のセブン&アイ社の子会社とならざるを得なかった。

3)消費者の変化と1ドルストアーの回復
1ドルストアーの1ドルの意味は低価格なお店だと言うイメージを浸透させるためだ。外食業界のマクドナルドは高単価のメニューを販売する一方、1ドルの価格帯の商品を前面に出し、低価格を訴求している。1ドルの低価格につられて店舗に入った顧客に高単価の商品を買わせる作戦だ。これが大成功し、外食業界総崩れの中既存店の売上高は前年を上回っている。このように1ドルストアーの1ドルと言うキャッチフレーズは低価格のお店だよと訴える上で大変重要なマーケティングツールであり、不景気の現在、再認識をされている。
Chain Drug Review誌2004年6月21日号でACNielsenの調査を紹介している。それによると「1ドルストアーは小売業のジャンルでは最も成長を続けており、2000年から2003年は2000年に比べ店舗数を3200店舗増やし、増加率は44%と急成長している。」
Display and Design Ideas誌January 2006年1月30日号のACNielsen,の市場分析によると。「2006年には1ドルストアーは1ドルと言う価格にとらわれることなく、食品の販売も開始し始め、便利さよりもサービスの向上に力をおき始めている。1ドルストアーは成熟をしており、その伸び率がやや停まっており、どの方向に行くかを検討する時代となっている。その答えは従来の1ドルストアーが対象としている顧客が低所得層であったのに対して、今後は中間所得層と高額所得層へのシフトである。そして、他の小売業から売上を獲得するために1ドルと言う価格にこだわらない商品と、商品の品揃えの増大だ。
2005年にディスカウントストアーでの消費者の平均購入単価は43ドルであったのに対して、1ドルストアーでは12ドルであった。消費者は1ドルストアーに対してミニ・スーパーセンターの役割を期待し、従来の商品とは異なる新鮮な食品や冷凍食品を求めるようになっている。これは従来の1ドルと言う商品単価を上回る商品の販売が必要であることを物語っている。」と述べている。
このように米国の1ドルストアーは低価格を訴求しながらも、中間から高所得者層を狙い、生鮮食品や冷凍食品への品揃えを開始し、業態の多様化を図りだしている。
この背景には2007年末に始まった米国サブプライム問題による景気低迷とガソリン価格高騰、そして老齢化による消費者の行動パターンの変化がある。
消費者の老齢化現象はリージョナルショッピングセンターやスーパーリージョナルショッピングセンター、スーパーセンターなどの大型の施設に不満を持たせ始めた。大型のショッピングセンターで駐車場から目的地まで距離がありすぎて不便だというものだ。そこで、出てきたのが従来のショッピングセンターの半分の規模のライフスタイルショッピングモールである。
この消費者の行動変化により、1ドルストアーは価格優位性と利便性が見直されている。1ドルストアーは低価格の商品を開発輸入した問屋がその販路を求めてフランチャイズ展開をしている。これは景気低迷時に多店舗展開するに際しては大変有利である。1ドルストアーは標準フォーマットで店舗展開をしているのではなく、地方の小売店の既存店を加入させると言うフレキシブルな展開をしている。それが景気低迷時にも店舗展開を継続できる理由であろう。

4)コンビニの回復
不振が続いていた米国セブン-イレブンは日本セブンイレブンの傘下に入り、サンドイッチや惣菜などの中食の強化を開始している。日本のようなベンダーから少量多頻度配送の実現を目指しているが、運転手の人件費の高さや、惣菜を売る温度規制(HACCP)等の問題にぶつかって苦労していた。
シカゴにある老舗のコンビニのホワイト・ヘン・パントリーは店内で注文してからオーダーメードのサンドイッチを作る店内調理で人気がある。その人気に注目した米国セブンイレブンは同社を買収し、店内調理のノウハウを吸収しようとしている。
また、日本セブンイレブンの得意技である、POSを通じた売れ筋の見極め方を導入し、昨年の末には商品構成を大幅に変更した。C-Store News 2009年1月4日号によれば「米国の消費者はクリスマスシーズンに日本のお歳暮のように親戚や家族へのギフトの買い物に神経と労力を費やさなければならない。しかし、昨年の米国景気の悪化は予算の削減を迫られた。そこで、セブンイレブンは従来置いていなかったクリスマスギフトを取り揃え、セブンイレブンで全てのギフトが完了すると消費者に訴えかけた。20種類のギフトカード、ゲーム類、電化製品、ビデオゲーム、プレイステーション、Xbox、等、通常はディスカウントショップで販売している商品を取り揃えた。」と述べている。
このように米国セブンイレブンは大変身を開始しており、今後は日本のように惣菜弁当類やプレミアム冷凍食品をどのように導入するのかが注目されるだろう。

5)小型食品スーパーの登場
食品の買物では大きな変化がおきている。ウォルマートやコストコのような巨大な店に買物に行くのは、まとめ買いをしなければならず、体力が必要だし、一度に支払う金額も大きくなる。それよりも、近隣の小型店で吟味して商品を購入したい、という要望がでてきた。そして、ちょっと所得層の高い消費者に受けているのがトレーダージョーズである。そのトレンドを見た英国のTescoは小型(300坪弱)の食品スーパー、フレッシュ・アンド・イージーという業態をカリフォルニアとネバダに74店舗展開し、数年以内に1000店舗の展開を目指している。このフレッシュ・アンド・イージーの素晴らしさは、PB商品が多いことだ。世界に展開するTescoのPBの比率は60%だが、フレッシュ・アンド・イージーは70%と高い。ウオールマートやカルフールのPB比率は35%であるのに比べるとはるかに高いのがわかるだろう。
しかも、そのPB商品は必ずしも安いわけではなく、通常のNB商品よりも50%以上高い高品質のプレミアム商品のPBが多く見られる。
このテスコの進出に脅威を覚えたウォルマートもアリゾナ州のフェニックス地区で4店舗の小型食品スーパー(400坪)のMarketsideを今秋に開店した。この店舗の売り物は惣菜などの便利さ「easy meal solutions」と素早く食品を買える「quick grocery trip」ことである。このウオールマートの動向に他の食品スーパーもより小型の店舗の開発を開始している。

6)日本の100円ショップとコンビニ
日本のマクドナルドも米国の1ドルメニューの成功を見習って、100円メニューを訴求し、ファミリーレストランが総崩れの中、好調だ。そして、100円メニューで顧客を店舗に引き入れながら、クオーターパウンダーのような高額商品を販売し、かえって客単価をあげると言う緻密なマーケティング戦略を実施し、既存店の対前年の売上を大幅に伸ばしている。
では日本の100円ショップの動向を見てみよう、生鮮コンビニが急成長した影響でコンビニが追随していたが、現在はそのブームが一巡したと見られている。今後の動向を考える上で重要なのは、この不景気と健康志向だ。不景気により、外食を控えて家で食事をする人が増加している。若者単身者はコンビニや弁当屋の弁当を食べるのが多いと思われているが、実は内食の単身者が多い。
2005年の味の素の調査「若年一人暮らしの食生活」調査によると、「20?39歳の単身生活者で,ほとんど毎日自宅で夕食をとるとの回答は、約4割に上った(男性34%、女性45%)。また、週3?4回自宅でとるとの回答は、男性31%、女性35%。両者を合わせると、7割強が、夕食の大半を自宅でとっている計算になる。なお、夕食の用意の方法については、自分で料理したものと市販のもの(おにぎり、コロッケなど)を組み合わせるとの回答が男性48%、女性58%で最も高かった(複数回答)。また、1999年に行った調査と比べて大きく比率が上がったのが、冷凍食品やレトルト食品、カップ麺などを作る(男性 41%、女性36%)。調理の簡便さや安上がりで済むこと、そうした食品の質の向上などが背景にありそうだ。」と報告されており、若者単身者は意外と家での調理をすることがわかる。
若者単身者はコンビニで弁当や惣菜を買って家で食べていると思われるが、案外体のことを考えて、家で調理した料理と惣菜弁当の組み合わせをしている。2004年の東京ガスの、「都市生活レポート20~50代単身者の食生活」によれば、「単身者の食は健康がキーワードであることが明らかになった。
・単身者の食は「家」が中心。
・家では素材から調理したものと市販の両方を食べている。
・中食の利用に抵抗はない
・一人分の食材を用意することが調理をする上での悩みの種になっている。
・食の質へのこだわり、特に食で健康を維持したいという意識が強い。
そして、単身者の調理形態を見てみると
・単身者がしない調理は「揚げる(65.9%)」「蒸す(54.9%)」であり、週一回以上よくする調理は「炒める(74.2%)」�茹でる(73.4%)�「焼く(65.4%)」と簡単な料理であり、最も使う調理器具はフライパンで53.1%、続いて片手なべが30.9%。 月一回以上作るメニューは、ごはん、野菜炒め、パスタ、味噌汁、サラダとなっている。しかも20代の男性は食の質こだわりあり・たまに調理タイプ(30.3%)が最も多い。」と報告している。
つまり、若い単身者は案外体のことを考えて家庭で調理をしているが、その調理はフライパンや鍋などを使う、簡単な料理であり、100円ショップで販売しているようなキット食材の利用度が高いと推定される。しかも100円と言うわかりやすい価格は、予算を考えて買い物をする若者にぴったりであり、不景気の中で単身家庭が増えることを思うと、100円ショップだけでなく、コンビニにおいても健康的な料理キットやプレミアム冷凍食品のマーケットは確実に広がっていくだろう。
勿論、現在の消費者マーケットの冷え込みを考えると、100円以下の訴求も考えられるが、わかりやすい価格帯の100円を訴求しながら、その中で、商品の品質をあげることがより重要であろう。そのような意味で、米国の1ドルショップやテスコのフレッシュ・アンド・イージーのPB商品戦略に目を離せないと言える。

著書 経営参考図書 一覧
TOP