食品スーパー 夏の衛生管理の急所(商業界 食品商業2008年)

食品商業

SMの目玉の持ち帰り惣菜は調理後、顧客が口に入れるまで時間がかかるので、大変衛生管理に気を遣わなければならない。現在は大手小売業の子会社となった大手惣菜弁当チェーンのA社はその危険を熟知して厳格な衛生管理をしていたが、2003年3月11日に販売するおにぎりがノロウイルスに汚染され、47名の食中毒患者を発生させたのは惣菜を取り扱う食品スーパーにとって人事ではない。
食中毒以外で怖いのは食品に起因する伝染病だ。2008年の4月には埼玉で日本料理店で刺身などを食べた男女10名がコレラ菌により10人が食中毒症状を引き起こした。輸入食品や海外渡航が多い現在は危険な菌が日本に侵入する可能性が高いのだ。

米国の食品スーパーも衛生管理では大きな問題を抱えているようだ。2006年に米国テレビ局のNBCが番組のNBC デートライン で食品スーパーの衛生管理の番組を放映した。その番組の中では保健所の立ち入り検査の報告書を元に食品スーパーのランキングを発表し、各店舗の状況を映像で報道したショッキングな内容であった。

NBC デートライン HP
http://www.msnbc.msn.com/id/10976595/
NBC デートライン映像
http://www.msnbc.msn.com/id/21134540/vp/10980823#10980823

以下は各チェーンに保健所が立ち入り検査を行った結果から10件をまとめ、その合計の違反点数をまとめてランキングにした。数値が多いほうが問題が多いということだ。
一番成績が良かったのはFood Lion だが、同社は以前覆面取材のテレビ番組で店内バックヤードなどの不衛生な状態を放映され、経営危機に陥ったのを機に改善を図ったようだ。
米国では消費者の目が厳しく、マスコミによるこのような告発映像が流されることがおおい。外食では昨年、大手のKFCのニューヨークの店舗で閉店後の深夜にネズミが店内を駆け回っている様子をテレビ局が映像で流し大問題となり、同社の売り上げが急降下したことがある。食を扱う企業にとってイメージが以下に重要かわかるだろう。問題が発生してから対策をするのではなく問題が発生しないように普段から心がけるべきだろう。

ワースト順位 チェーン名 違反の合計点数
ワースト
1位 Safeway     25
2位 Albertsons   24
3位 Publix 22
4位 Kroger 17
5位 Winn-Dixie 14
6位 Sam’s Club 12
7位 Costco 12
8位 Wal-Mart 9
9位 Save-A-Lot 9
10位 Food Lion 8

1)食中毒の傾向を常に把握する
食中毒関連の本では食品衛生事故の実状を把握するには間に合わない。インターネットの情報を常に把握する。
労働厚生省のHPでは食中毒�食品関連情報を発信。http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/
これによると平成7年までは減少気味であった食中毒患者が8年の堺市の腸管出血性大腸菌o-157による集団給食による大規模な食中毒発生以来、増加現象に転じている。それ以降も、鳥などに起因するカンピロパクターによる食中毒が急増し、その次はノロウイルスが登場している。このように、毎年主な食中毒菌は同じではなく、どんどん新しい種類が増えてくるので、常に動向を見なくてはいけない。ノロウイルスの場合は食品経由だけではなく、空気感染もあるので十分な注意が必要だ。手洗用殺菌洗剤も従来のものでは効果がない可能性もある。
また、新型菌だけではない。海の魚に存在する腸炎ビブリオ菌は昔から知られている。平成4年には99件まで減少していたのだが、平成10年には839件とピークを迎えた。その大きな原因は腸炎ビブリオ菌は7℃以下で保管すれば菌が増えないと言われていたが、新型菌は4℃以下に保管しないと菌が増殖するようになっているからだ。昔の知識の7℃で保管していると危険だと言うことだろう。情報を常に得て管理知識も最新にしなくてはいけない。
愛知県衛生研究所のHPでは4℃以下に保存するように述べている。
http://www.pref.aichi.jp/eisei/tudkbiseibutu.html

食中毒菌の種類については社団法人食品衛生協会の以下のHPを参考にする。
http://www.n-shokuei.jp/
日本医師協会もHPで注意を呼びかけ、最新の食中毒情報を発信している。
http://www.med.or.jp/kansen/index.html

2)食材の危険性
2007年12月28日から2008年1月22日にかけて、安全な食を売り物にしていた生活協同組合で販売した中国製冷凍餃子を食べて、混入していた有機リン系農薬「メタミドホス」による食中毒症状が日本の食品メーカー、食品スーパー、外食産業に与えた影響はいまだに記憶に新しいはずだ。仕入れる食材の安全性も十分に注意しなくてはいけない。
さて、食品スーパーが仕入れる生鮮食品の安全性はどうであろうか?厚生労働省では
厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長名で、平成19年度の食品の食中毒菌汚染実態調査の結果を発表している。この調査は、汚染食品の排除等、食中毒発生の未然防止対策を図るため、流通食品の細菌汚染実態を把握することを目的として、中央卸売市場等を管轄する16自治体の状況を調査したものだ。
調査品目は野菜8品目、食肉12品目、魚介1品目、加工品1品目、である。調査をする細菌は大腸菌群、サルモネラ、腸管出血性大腸菌0-157、カンピロパクター、赤痢、である。その結果、調査対象食品2620品目から、対象の菌の発見数は872件であり、33.3%もの高い汚染度であった。
この調査結果からわかることは、生鮮食品は食中毒菌に汚染されているので、店内調理の際には十分な取り扱い注意が必要であるということだろう。

3)従業員教育
食中毒を防ぐ基本は「食中毒原因菌などを、つけない、増やさない、殺す」と言う考え方に「具体的な温度と時間管理」を加味したものだ。簡単なチェック項目を以下のようにまとめた。店舗の衛生状態をチェックし、従業員の教育をしっかり行うようにする。

4) 衛生管理の3つのチェックポイント、つけない、増やさない、殺す。を守る。
(1)つけない

<1>手洗いがつけない基本
<手洗い>
先ず手に着いた汚れや菌を落とし、次に殺菌剤で手を殺菌する。手洗いの殺菌剤というと一般的には塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸を使用する。最近は洗剤自体の洗浄力が強く洗浄と殺菌を同時に行え、手荒れがし難いこと等の条件を満たした、化粧品などに使われるイルガサンDP300と言う薬品を使う優れた洗剤もある。ノロウイルスの場合はヨード系の殺菌剤が効果があるようだ。用途に応じて使い分けると良いだろう。

<2>食品の交差汚染を防ぐ
生鮮食材は3割が汚染されており、食材同士の交差汚染を防ぐには食材ごとに手,包丁,まな板,調理機器を洗浄殺菌してそれぞれの食材に固有の菌が他の食材に移らないようにする。特に火を通さない食材の取り扱いには細心の注意を払う。

<3>信頼のおける仕入先
仕入れをする際には値段だけで決定するのではなく、衛生管理がしっかりしていることを確認し、配送業者の食品の取り扱いまで丁寧な業者を選ぶ。

<4>受け取りの確認と正しい保管
どんなに良い食材メーカーや問屋であっても資材を受け取る際には正しいチェックが必要となる。品物の破損や損傷のチェックだけでなく、冷凍品はマイナス18ー22℃,冷蔵はプラス1ー5℃と言う温度で搬入されていなくては行けない。

(2)増やさない。
細菌が繁殖する温度は5℃から60℃の間だ。この温度帯に食品を4時間以上おかないと言うのが原則。
調理後の食材は60℃以上で2時間以内の保管が可能。冷却して翌日使用する場合には2時間以内に5℃以下に下げる。そして翌日再加熱して使う場合には75℃まできちんと再加熱する。

<1>冷蔵庫冷凍庫の温度管理をしっかり行う。
冷蔵庫の温度は1-5℃、冷凍庫はマイナス18℃ーマイナス22℃の温度帯だ。定期的に正確な温度計を用意して冷蔵冷凍庫の温度計が正しく作動するか確認をする。

<2>庫内に余裕があり冷気が循環するか
冷蔵庫冷凍庫の設定温度ではなく、保管中の食品の中心温度が冷凍や冷蔵の温度帯になるようにする。

<3>冷蔵冷凍庫の環境と手入れ
冷蔵冷凍庫は風通しが良く、室温が高過ぎない場所に設置する。コンデンサーを冷却する空気の温度が高ければ十分に冷媒を冷却できないので,庫内の冷却を十分に行えないからだ。

<4>保温管理
調理後の保温は60℃以上で2時間までが安全な保温時間だ。保管する場合は60℃以上か、冷却して5℃以下で保管する。保管している場合には途中で温度が正しいかどうか、時々温度計で計測して確認する。

<5>調理後冷却してから冷蔵保管
大鍋の寸同で調理する場合には、食材の中心温度が75℃まで十分に加熱調理したあと、寸胴をシンクで攪拌しながら流水で急速に温度を10℃以下まで冷却し、それから冷蔵庫に入れる。夏場などはアラ熱をとった寸胴をさらに氷を入れたシンクで十分冷却をする。
翌日再加熱をして提供する場合には寸胴を攪拌しながら食材の中心温度が75℃になるまできちんと再加熱をする。冷蔵庫の中で繁殖した菌も再加熱をきちんとすることにより死滅し安全に食べることができるからだ。

(3)殺す
<1>加熱調理
平成9年3月17日に「大規模食中毒等対策についての食品衛生調査会食中毒部会検討結果等について」が発表されている。中心部が75℃で1分間以上又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認するとともに、温度と時間の記録を行うことと、定めている。
この基準は一般には適用されないのだが、それに準じた温度で安全に調理することは心がけなくてはいけないでだろう。
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0903/h0317-3.html

<2>調理機器を過信するな

(a)温度を一定に保つサーモスタット付きの調理機器
調理機械は使っているうちに狂いがでる。毎日、正確なデジタル温度計でサーモスタットの設定温度と実際の温度が合っているか確認する。

(b)温度の安定性
サーモスタットが付いている調理機器でも、サーモスタットの温度関知センサーの位置、感度により温度のばらつきや、応答性が悪いと一定の時間がたっても食材の温度が上がらず、食中毒の危険がある。各調理機器の特性を理解しなければいけない。

(c)調理機器能力と食材量のバランス
いくら性能の良い調理機器を購入しても、調理能力以上の食材を投入したら温度が下がりすぎて、一定の時間内に規定の温度まで上がらない。

(d)温度の回復力
生食用と冷凍食用では調理機器に要求される火力が異なる。元々の火力が弱い生食用の調理機器で大量の調理を連続したり、冷凍食品を調理すると温度が下がってしまう。売り上げや食材に適した調理機器を使うようにする。調理機器は電気でもガスでも長く使っていくうちに熱交換機にカーボンが付着し、熱を伝達しなくなる。定期的にそのカーボンを洗い落とす等の手入れが必要だ。

<3>水質の安全性
普通の水道水は浄水場でろ過殺菌をされていますから安全なはずだが、それでも年に1回の水質検査が必要。安全なはずの水道水でも、屋上の高架水槽や受水槽に水を貯めてから配水する場合は、そのタンク内で汚染が進む可能性がある。タンクにひび割れが入っていたり、動物が侵入したり、点検口が開いていたりすると食中毒菌が混入する恐れがある。

<4>殺菌剤
中性洗剤などで汚れを洗い流し、その後に殺菌をする。次亜塩素酸ナトリウム溶液を厨房の殺菌剤として一般的に使用する。希釈濃度をキチンと守って試用する。

以上

<詳細な資料>

なお、厳格な衛生管理手法については筆者の執筆した、「有害微生物管理技術 第2巻 製造・流通環境におけるエンジニアリングとHACCP」第6章 ホテル・レストランの衛生管理システムの実像 共著 (2000年 株式会社フジ・テクノシステム)を参考にしていただきたい。また、食関連の危機管理と人材教育については 「給食マネジメント論」 共著(2008年第一出版)を参考にしていただきたい。

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