ご意見番 業界ニュースを斬る「老舗居酒屋の変身」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年8月16日)

老舗居酒屋の変身
「つぼ八」「村さ来」の新業態戦略について
接待から個人まで吸引
職人や食材の調達容易に
居酒屋業態全体で最近、アップグレード化が進んでいる。村さ来やつぼ八が創世した若者向けのジャンルから、ビジネス街でサラリーマンをターゲットに狙い、客単価をアップしたジャンルへと発展している。
従来の居酒屋よりワンランク上のゾーンで、宴会用の個室を備えるなどしてビジネス客の取り込みに成功したラムラは、さらにアップグレードした業態「土風炉」で4,000~5,000円の客単価を狙っている。

今なぜそのゾーンが狙い目かというと、景気の低迷で接待需要が落ち込んでいる。会社によっては接待費を営業マンが自腹で払わなくてはいけないところも増えている。接待需要自体はなくならないが、払える上限が下落している。

そうしたビジネス需要の変化に、5,000円前後で接待に使え、個人でも楽しめる新しいマーケットが発生してきた。村さ来なども「海宴丸」でこの市場に参入してきたということだろう。個人需要についても個人で行ける落ち着いた居酒屋へのニーズが高まっている。

若者系の居酒屋ではワタミフードがいまアップグレードしているが、今までフレンチなどの専門店で1~2万円を使っていた層を取り組もうとしている。可処分所得の減少で、財布と身の丈に応じた外食をせざるを得ないが、贅沢は忘れられないという、上から落ちてくる層をうまくキャッチしている。ビジネスでも個人でも新しいすき間のジャンルだろう。

6月にオープンした海宴丸は、武蔵小杉駅(川崎市)のオフィス街側のビルに立地している。個室もあり、ビジネス需要に十分応じられる質とサービスといえるだろう。土曜日の客層は、年輩や子供のいない家族連れなどだったが、食べることを目的に来店している点では、もくろみは当たっているのではないか。

特徴として刺身や寿司のよいものを出しており、厨房のオペレーションもこれまでの村さ来と全く違う。板前を使い技術者の世界になっている。

高級居酒屋のすう勢として職人を使うところが増えている。ホテルや料亭がつぶれて和食の板前が余り、今は買い手市場だ。給料面でも和食の板前の年収が600~700万円と相場が大分下がっている。

料亭の不振は、職人の余剰だけではなく、食材のよいものが比較的手に入りやすくなった。社会のニーズに加え、人・食材の調達が容易になったことも、高級居酒屋出店の動きをスムーズにしている要因だろう。

これまでの村さ来は職人否定だった。海宴丸は、その内容から本社の意気込みが十分感じられるものだ。ただ、こうした高級居酒屋は、老舗居酒屋チェーンの基幹業態にはなり得ないだろう。フランチャイズには向かない。コストの面や職人のコントロールなど村さ来の3倍くらい大変だと思う。また高級居酒屋はロケーションを選ぶ。イメージアップの一環という位置付けではないか。

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

関連記事

特集記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

食のオンラインサロン

TOP
CLOSE