新しい衛生管理HACCP 第8回「HACCPの応用編:焼肉店」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年8月2日)

3年ほど前より、食中毒が減少傾向から一転して増加に転じている。原因はサルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、カンピロパクター、小球形ウイルスなどの新型菌(ウイルス含む)の登場と、食生活の変化だ。

焼き肉も従来は薄切りの肉を十分に火を通して食べるのが主流であったが、生の内臓肉や食肉も生焼きで食べる美味しい食べ方が増えてきており、危険度は高まっていると言える。

HACCPというのは危害分析(予測)と重要点管理項目の2つのステップで成り立っている。焼肉店の危害分析をしてみよう。焼き肉で使用する食材を分析してみると、ロース、ヒレなどの食肉。ハンギングテンダーなどの食肉に近い内臓肉。胃袋、大腸、心臓、肝臓、等の内蔵に分かれてくる。内臓肉といえどもハンギングテンダーなどは食肉と同様の扱いを受けているから比較的に安全であると言えるが、注意をしなくてはならないのは内蔵だ。内蔵は生の鮮度の高い物でないと味が落ちるので、その入手、管理には十分な注意が必要で、信頼の置ける業者からの購買が必須条件だ。

さて、それらの食肉の危害を分析してみると細菌による汚染だ。牛肉に関連する細菌というと大腸菌o-157だ。この菌は1982年に米国ハンバーガーチェーンを原因とする大規模な食中毒で始めて発見された新型の菌だ。その後1993年に米国ハンバーガーチェーンのジャックインザボックスの生焼けのハンバーガーを原因として大規模な食中毒事件を引き起こしたり、日本でも埼玉県の白鷺幼稚園の井戸水を原因とする食中毒や、堺市の大規模な学校給食食中毒を引き起こしたことで有名になった。少量の菌数でも発症し、場合によっては死亡する危険性もあり、食中毒の分類から指定伝染病に格上げになったくらいだ。この菌は牛の大腸中に一般的に存在する菌で、米国などの農業国では農場等の牛を飼っている周囲では糞便による河川にたいする汚染が進み,農場そばのリンゴ園などで落下したリンゴをジュースに加工する際に汚染されて,大規模なジュースの回収騒ぎがあったりする。

その他に注意しなくてはならない菌はサルモネラ菌だ。取り扱う牛肉はo-157やサルモネラに汚染されていると思って扱うのが基本だ。

大腸菌o-157の事件が大きな問題になって以来、焼き肉であれば火を十分に通して食べるし、体の弱い人は内蔵を生で食べることはなくなった。注意しなくてはいけないのは交差汚染だ。生肉などをカットした同じまな板で野菜などの火を通さない食材を加工することにより病原菌を付着させてしまうことだ。生肉と野菜などのまな板は色分けして区別したり、使用後にはすぐに洗浄殺菌をするなどの注意が必要だ。中性洗剤と温水を使用し油汚れなどを十分い落とし、次に次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度100PPM以上)に10分間つける。まな板や包丁などを拭く布巾も定期的に洗浄殺菌したり、食用アルコールなどを噴霧して消毒に気を使う。閉店後にはまな板、包丁、布巾などは次亜塩素酸ナトリウム溶液に漬けて消毒後、80℃以上の高温の湯に漬けてさらに殺菌を十分に行う。殺菌を行った後は自然乾燥させる。冷蔵庫内部や作業テーブルの上も毎日次亜塩素酸ナトリウム溶液をつけた布巾で拭いたり、アルコールを噴霧して綺麗に殺菌する。

生肉の保存も注意が必要だ。本来は肉と野菜は別々に保管するのが望ましいのだが小規模な店では同じ冷蔵庫に保管する必要がある。その場合には火を通さない食材は上に置き、肉などの食中毒菌が付着している可能性がある物はなるべく下に置き、交互汚染がおきないようにする。

焼肉店で調理をするのは客自身だが、焼き台の火力が十分にあるよう整備が必要だ。ガスバーナーの目詰まりを定期的に清掃したり、排気ダクトや排気ファン、フィルターの清掃を常に心がけ、火力が十分あるようにしなくてはいけない。

次に網だ。金網のタイプとグリッドのタイプがあるが、グリッドのタイプは綺麗に掃除してカーボンを落としていないと火が十分に通らないので,十分なスペアーを用意して、何時も綺麗な状態の網を提供できるようにする。最近は使い捨ての金網も出てきているので、手間と費用を考えて使い分けると良いだろう。

焼き肉などは火を通して食べるから安全なようだが、生肉には細菌が付着している可能性がある。各人の箸で直接生肉をつかみ焼くのでは衛生的でない、生肉を載せるのと焼くのと別々の菜箸を用意するなどの注意が必要だろう。ここまでの気配りがあれば女性客も安心して訪問してくれるはずだ。

働く従業員、経営者の身だしなみも重要だ。爪や髪の毛は短く切り,仕事前や30分おきに手を洗浄殺菌する。手などに切り傷があればブドウ球菌が存在するから、調理の作業をしてはいけない。もしどうしても作業をする場合には使い捨ての手袋などを使用する。焼き肉などの美味しい食材を扱っていると、味見等でつい生の食材を食べてしまう。そしていつの間にかサルモネラやo-157の保菌者となってしまうことがある。体力のある人が食べても軽い下痢程度で収まり、風邪だと思って抗生物質などをうっかり服用すると,体内にサルモネラ菌などを保菌するようになる。本人は至って健康なのだが、その菌が他の人に移ると発症するという健康保菌者となるのだ。従業員は経営者も含めて定期的な健康診断と検便を実施しなくてはいけないのだ。

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