チェーン本部をサポートする 飲食業の技術革新(商業界 飲食店経営2001年12月号)

「食品の品質管理 ISO9001」

先月号別項では狂牛病への対策を述べたが、外食産業に取って食品の安全な品質管理は真剣に取り組まなくてはいけない。品質管理というと美味しさや味の管理、レシピー管理であると勘違いしやすい。また、狂牛病などの問題があると自社で解決できないので、納入業者や業界に安全性の確認を求めるという泥縄の仕事ぶりとなってしまう。飲食業としてではなく、外食産業と言われるようになるには産業として、キチンとした品質管理に臨まなくてはいけない。

企業が品質管理を行う上での規格はISO9001だ。ISOとはInternational Organization for Standardizationの略、日本語では国際標準化機構である。起源は1906年の国際電気協会IECの活動であり、第2時世界大戦終了後の1947年から本格的に標準化の活動が開始された。フィルムのISO100等の基準がその典型的な例で当初は個別の品質管理基準であった。

しかし、外食産業や、宿泊産業、サービス産業など、物の製造ではなく、製造とサービスの提供や、数多くの商品を製造する場合には個別の品質管理基準を設けることは不可能だ。そこで、製品を設計し、供給する供給者の能力を立証するISO9001が誕生した。

ISO9001では、第一に、経営者は責任を持って品質に対する方針と目標及び責務を明確にし、文書化しなければならない。次にその方針を社内全体に行き渡らせ、実践させなければならない。そして、品質管理システム、設計管理、文書管理、購買、製品の識別、工程管理、品質検査及び試験方法、不良品の管理、問題点是正の処置、取り扱い保管、包装、品質記録、内部品質監査、教育訓練、統計的手法など20項目に渡る要求基準に明確な答えを出す。

従来の日本の品質管理のシステムは任意のQC活動に見られるように、人的な品質改善活動に依存した結果主義の品質管理であった。そのため、人が変わったり、異動したり、任意のQC活動がおろそかになると、品質が低下しまった。そして、その問題点を発見や改善の手法を明確に決めていないという問題も抱えていた。

ISOを生み出したヨーロッパ共同体では言語、風習の異なる民族の國を融合させて、統一させた品質管理を明確にするために、職人の阿吽の呼吸であった品質管理を誰でも出来るように、わかりやすい基準にする必要にせまられた。そこで、結果だけでなく、工程でどのように管理しているかを外部から見えるようにした。同時に、問題が発生したときにその工程毎に基準、改善行動を明確に定め、その時点で問題点を除去するというゼロディフェクトの考え方を定めた。ISO9001の良いところは取得したらその資格は永遠に続くのではなく、年に2回ほどの定期的な監査が監査官によって行われ、問題があれば改善報告をだされ、それが何回も改善されないとISO9001の資格を失うという、継続性のある品質保証制度であると言うことだ。

最近では、品質向上の為に、旅館やホテルなどが取得し、外食産業では今年になって居酒屋チェーンが初めて取得した。しかし、取得した幾つかの企業のマニュアルを拝見したが、調理や調理上の品質管理についての明確な基準をうち立てている企業は少ない。これはISO9001の歴史がまだ浅く、ホテル旅館や外食企業に対する審査官の知識が不足しているからだ。しかし、今後、ホテル旅館や外食企業がISO9001を積極的に取得するようになると審査官の知識レベルが向上し、監査時点でよりシビアーな指摘をされるようになるだろう。また、品質管理という点では、調理や調理人の教育と言うマニュアル化の難しい分野があり、その分野での知識と経験不足が大きな問題となっている。

そこで、今回は食品の品質管理の上でのポイントをまとめてみよう。狂牛病のように単なる保証書を要求するのではなく、詳細な品質管理と、どの様に管理するかを明細に述べた書類を提出させ、定期的にそれに基づく監査を実施なくてはいけないからだ。

では、その実例を紹介してみよう。

<<仕入れ商品を製造する工場やメーカーに要求する資料と安全確認内容>>

セントラルキッチンや食品製造メーカーに、購入原材料毎に以下の資料を用意させ、重要管理項目を明確にしなければならない

1) 原材料管理

<1>製造日付

製造メーカーが仕入れて加工する場合にも、全ての購入食材に製造日付が付いており、先入れ先出しを守っているか確認する。工場や倉庫内は整理整頓され、日付確認が容易になっていなくてはいけない。

<2>供給業者又は輸入業者

使用する原材料の供給業者、または、輸入業者を明確にさせ、それぞれの業者の信頼性、過去の実績、衛生管理に対する取り組み、工場や加工上に対する査察を実施しなくてはいけない。仕入れ原材料の品質をチェックする場合は、直前の仕入れ業者の品質保証だけでなく、原材料の元になる農場、牧場、漁場などの栽培、飼育、船内加工に至るまでの詳細な品質保証を確認する作業が必要になる。農場、牧場などでは今回の狂牛病で問題になったように飼料、農薬に至るまで安全性と散布状況の確認が出来るようにする。

<3>原材料原料製品規格

それぞれの原材料に会った、公的な製品規格またはそれ以上に厳しい業界または自社企画による厳正な製品管理を行っているかを確認する。日本製の食品に関してはJAS(日本農林規格や、業界団体による自主規格を守っているか。海外の物であれば、ISO、またはHACCP、、米国食肉であればUSDA(米国農林規格)、FDA(米国厚生省)などの規格を取っているか確認する。輸入物の食肉であれば、部位、原産地、プランド(パッカー)、等まで詳細に記録を提出させる。米国産牛肉などは問題があれば、CDC(米国中央疾病センター)やUSCDなどから商品の流れや問題点が直ぐ分かるようになっているからだ。

<4>原材料使用食品添加物化学合成品明細

食品添加物に関しては、化学合成品を使っているかどうか、使っている場合には何をどのくらい使っているかを明確にさせる。仕入れた商品だけの添加物でなく、その商品を製造する上で使用した原材料の添加物まで厳格にチェックをする。<5>原材料の製造手順と配合成分の明示 食品製造安全管理の一手法であるHACCPに基づき、どの様な温度や時間、加工方法を採っているか明確にし、どの時点で細菌や異物管理を行っているか一目瞭然にする。また、品質管理の基本である、配合成分も明確にすれば、完成品になってから規格に適合しないとクレームを言う必要もなくなるからだ。

2) 製品製造フローチャート

製品を製造する工場では製造の工程を明確にして、平面図と原材料がどの様に流れて、どの機械によって加工されているかを明確にする。そうすれば、食中毒や異物混入の際に何処に問題があるか直ぐに発見できるのだ。

<1>工場製造ライン平面図とその流れの明示

商品で問題が発生した際に調査を行うと、当初決めた通りの手順や、加工方法、加工機械、検査を、省略したり変更したりして問題を起こすことが多い。そこで、平面図と流れ、使用機器を明確にして、定期的な監査を行うことが必要になる。加工工場がレイアウトや調理機器を変更する場合には、書類による事前承認を要求し、工場が新設備で稼働するに当たっては慎重な検査、検証を行う。

<2>原料検査法

スペック通りか、安全か、衛生的かを検査する方法を明確に定める。

<3>製品異物混入対策

食品加工の現場では食中毒に至る重要な危害よりも、髪の毛や金属、異物などの混入に夜クレームの方が遙かに多い。特に金属片が混入すると命に関わるクレームとなるので、金属探知器などの設置や、異物の出ない調理機器や加工法を採用する。また、金属探知器も感度の設定によっては正しくチェックできないので、テストピースのサイズを決め,日に何回作動チェックをするか、また、定期的なメーカーによる作動テストなども定める。

<4>工場清掃殺菌指示書

当たり前のことだが、食品製造工場に置いて基本的な衛生対策である。調理機器、天井、床などの、清掃と殺菌マニュアルを作成させておく。その際に重要なのは使用する清掃用具、洗剤、殺菌剤の種類を明確にし、清掃時間、清掃器具の保管まで厳重に定めておく、殺菌と言っても殺菌剤や、希釈水の温度、浸漬時間により効果は大幅に異なるからだ。また、異物のクレームなどで発見されることが多いのは、清掃用の道具の破片屑や研磨用の金束子などだ。異物を発生しやすい清掃用具を使わないようにすることが重要だ。また、劇物の洗剤や殺菌剤はうっかり食品に混入すると、大きな事故に発生する。清掃終了後は鍵のかかる専用保管庫にしまうなどの配慮をチェックする。

<5>始業、終業、作業指示書

店舗や工場でクレームや問題が発生する場合には、従業員のコミュニケーション上の問題が原因となっている場合が多い。始業時には昨日までの商品製造の問題点や、品質に関するクレームの内容を説明したり、当日特別の作業や注意点があれば始業前に注意を促したり、従業員からの問題提起をしてもらい作業に当たるようにする。また、口頭だけでは当日休暇や、シフトが異なる従業員に連絡が行き届かないので、当日の作業指示を文書の形で掲示したり、連絡ノートに記入する。 終業時も同じく、本日の作業を分析反省し、翌日には改善できるように従業員一同で検討する。始業や終業は仕事のけじめを付ける意味で重要であり、形式的な挨拶や標語を唱えるだけでなく、意志疎通を図るように心がける。

<6>工場内、製品加工工程、製品保管、製品流通の温度管理

工場内においては食材加工工程だけでなく、原材料の受け取りから始まり、保管、トラックへのローディングに至るまで明確に管理しなくてはならない。工程の管理に置いては流れと時間、その間の食材温度を記録しておき、万が一に問題が発生した際に何処に問題があるか追求できるようにする。

3) 製品検査

<1>細菌検査法

細菌検査では検査する細菌の指定、どの様に培養するか、どの様に検査をするかを明確にしておかないと、新型の食中毒菌などが発生した際に対処できなくなる。

<2>官能検査法

食材の判断は検査の数値だけではなく、人間の五感を使った検査が必要になる。人間と言っても味や香り、食味等を正確に判断できる訓練を受けた複数人、通称パネルテストで判断する。

<3>栄養学的成分分析

どんなに衛生的でも食品の場合は栄養価が落ちては価値がなくなる。特に野菜などの場合にはビタミン類の減少率をチェックし、加工方法に問題ないかを確認する。

<4>製品保存可能期間データ

古い食材を発見する方法は色々あるが、例えば、新しい食材と、期限が過ぎた食材の含有脂肪の酸化度合いを比較し、安全性を検証するなど食材別に最も適した賞味期限の検査法を決定する。

4) 機器

<1>工場製造機器明細

工場で使う機器は何でも良いわけではなく、その食材加工に最も適した機器を選定、指定して、常に同一の品質で仕上がるようにしなくてはいけない。加工工程や配合成分だけでなく、機器メーカーや、種類も明確に指定し、指定した機器以外の機器を使用させる。

<2>機器メンテナンス指示書

調理機械と同様に工場における加工機機も正しく作動するようにメインテナンスや定期的な部品交換が必要になる。始業の洗浄殺菌、安全確認、温度時間確認、から、途中の点検方法、頻度、終業時の分解清掃殺菌作業まで詳細に定めなくてはいけない。メンテナンス指示書には1日、週、月、年間、の詳細な予定を明記し、忘れないようにさせる。

<3>工場内緊急連絡体制表

工場を動かしているのは人であり、何かあった際に対処するにはそれぞれの専門家が必要になる。特に、異物混入や食中毒発生の際には緊急を要するので管理者及び各部署の責任者は常時連絡が出来るようにする。また、火災や地震、洪水などの災害に対応できるように常に連絡方法を明確にしておく。

5) 工場建物規格

<1>外観

異物混入のクレームで一番多いのは髪の毛の次に昆虫類である。窓等は虫除けの網を必ず設置し、工場内の空気の圧力をかけ、ドアーも2重ドアーにして、どんな場合にも昆虫類が空気と一緒に工場内に入らないように気をつける。

<2>内装

特に天井、壁、の材質はかびが生えにくく、ゴミや埃などがたまらないようにする。ゴミや埃がたまり食材に落下すると細菌汚染や異物混入となる。照明器具などの場合には破裂しない器具を使用し、万が一破損しても食材を汚染しないようにする。床の材質にも注意を払い、作業性が良いようにする。一定以上の照明の照度を保たないと、食材の品質以上や汚れ、汚染に気がつかないし、作業効率も悪いので、作業場所により必要な照度を明確に設定する。

<3>空調

空調を効かすことは作業者の効率を上げるだけでなく、工場内天井に結露しない為にもひつようである。

<4>内部経路

外部の汚れを内部に持ち込まないレイアウトにする。工場が一階の場合には従業員はまず、一階入り口で靴を脱ぎ、2階の着替え室で着替える。そして、靴を洗浄殺菌した作業靴に着替え、手洗いと殺菌をしないとドアが開かない手洗い室を通過し、次にエアシャワー室で体の汚れを除去し、粘着テープで髪の毛等を丁寧に取り去ってから、食品加工室に入るようにする。

6) 従業員規則

<1>服装

特に制服、帽子の洗濯頻度、長靴の洗浄殺菌、手の洗浄殺菌方法を明確に定める。手洗いに関しては衛生管理の基本であり、どの様な場合に再度手洗いをしなくてはいけないかを定める。

<2>健康管理と報告義務

下痢などの症状がある場合は作業に従事しないように告知し、定期的に検便を実施する。

<3>作業従事の注意

手に怪我がある場合はブドウ球菌の発生の恐れがあるので、食材の加工作業に従事させない。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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