観光実務ハンドブック 飲食施設の業態と調理システム

外食産業が売上規模25兆円の産業規模にまで拡大したのは、ファミリーレストラン(以
下FRと省略)、ファスト・フード(以下FFと省略)、居酒屋、給食、等の業態において
チェーン企業が成長したからだ。チェーン企業が成長した原動力はFLコスト、すなわち食
材コストと人件費コストを削減し、利益率を最大限にして投資回収期間を短縮することで
あった。外食産業のFLコストは一般的に60%以下であり、急成長した企業は50%台である。
このFLコストのコントロールに大きな役割を果たしたのが食材原料の加工技術と、店舗で
の合理的な調理システムだ。
1)チェーン化に必要なFLコストの削減手法
<1>食材コスト削減の手法
 食材コストの削減には食材仕入れの価格、仕込み段階のロス,店舗調理のロス,廃棄ロ
ス,等の削減が必要になる。そこで、原材料を集中購買し、集中加工するセントラルキッ
チン方式を採用した。チェーン本部の購買部で大量に購入し、セントラルキッチンで集中
仕込みをすることにより原材料コストを大幅に下げることが可能になった。同時に店舗に
於ける味やポーションサイズのばらつきを押さえることが可能になり、顧客から見て何時
も同じ味、同じバリューを感じさせることに成功した。
野菜の皮むきやカット、食肉のカット、魚の三枚おろしなどの原材料加工を店舗で行う
ことは不衛生であるし、生産性が低い。それらの下ごしらえを購入先の食品工場に実施さ
せたり、セントラルキッチンで集中加工する。この集中加工により大量の食材を1箇所に
搬入するだけでよいので、流通コストが下がるし、下ごしらえのロスも大幅に減少する。
下ごしらえの加工は人件費の高い調理人が行うことがないので、人件費の削減にもなる。
また、年間同じ料理を出すとシーズンや季節により食材の仕入れ価格が上昇する。また
、国内の農産物だけを使用にはコストが高すぎるので、輸入農産物を使用せざるをえない
。そこで、仕入れた農産物を下拵えして冷凍保存することにより、季節変動によるコスト
アップを防いだり、コストの安い国から安定して食材を購入することが可能になる。冷凍
食材は大変便利な食材であるが、店舗で調理するには冷凍から一気に加熱調理するための
大きな熱負荷を解決しなければならない。そのためには従来の調理機器よりもより熱カロ
リーの高い高効率の調理機器を必要とする。
<2>人件費コストの削減方法
 FFやFRは家族で気軽に週に一回は気楽に訪問することができるように低価格が必要不可
欠であった。週末に家庭で食べる食事の代わりにFRなどに行き、家族全員で会話を楽しみ
ながら食事をするわけだ。そうするとフランス料理の要に高級な料理ではなく、普段家庭
で食べているよりちょっと美味しくて綺麗な盛りつけであればよいわけだ。そこで、家庭
でなじみのある、ハンバーグステーキや海老フライ、焼き肉、等を,綺麗な盛りつけで提
供しようと言うことになった。
そのために上記で述べたようにセントラルキッチンや食材工場で事前加工した冷凍冷蔵食
品使用し、店舗では温度と時間を管理できる高性能な自動調理機器でパートやアルバイト
でも調理できるようにした。このセントラルキッチンと店舗の調理機械,マニュアルの整
備により外食産業、特にFF、FRでは熟練した高級な調理人が不要になり、チェーン展開が
可能になったのだ。
以下に業態別の調理技術を述べてみる。
2) ファミリーレストランの調理技術
 ファミリーレストランの特徴は150席前後の大型の客席を備える郊外型だ。客席につい
てから、料理を注文し客席で食べる。料理は注文後15分以内に提供する。通常着席後食べ
終わるまでは1時間ほどかかるので、ファミリーレストランの1時間あたりの客数は最大で
も200人を越えることがない。また、通常の洋食や和食の食堂の人気メニューをそろえた
り、季節によりメニューを入れ替えるので、メニュー数が100アイテムほどと多いのが特
徴だ。そのため、調理場はフライヤー、グリドル、オーブン、電子レンジ、など比較的低
火力の標準品を使用する。セントラルキッチンから調理済みの冷凍食材や冷蔵食材を配送
されるため比較的大型の冷蔵冷凍庫の施設が必要となる。
<1>セントラルキッチンの役割
ファミリーレストランは一部の例外はあるが、自社のセントラルキッチンを備え前処理
や調理され、常温、冷蔵または、冷凍の状態で店舗に配送される。例えばハンバーグの場

合、冷凍肉を解凍し、挽き肉にする。野菜、パン粉、調味料を混ぜる。一定重量の大きさ
に整形する。冷蔵するか、瞬間冷凍する。セントラルキッチンは自社で所有して運営する
場合と、業者に委託生産する場合がある。チェーンの独自の味付け、大きさに揃えて店舗
に配送され、店舗では最低限の調理ですみ、食材のロスや人件費の削減になる。
米などもブランドを指定し、一回の炊飯量にあった形で配送される。ブランドを指定す
るのは、種類により水の量、浸漬時間が異なるからである。
<2>ファミリーレストランの調理機器
・グリドル(焼く機能)
ハンバーグ、ビーフステーキ、チキンソテーなどFRの代表的なメニューはグリルだ。従
来はフライパンなどで焼いていたが、販売量が多いためグリドルで焼く例が多い。
グリドルとは熱さ2cm位の厚い平らな鉄板を下からガスバーナーで熱する。従来は鋳
物のバーナーを使っていたが最近では効率の良い赤外線のバーナーを使用する。
 サーモスタットがついて温度コントロールが自動的にできるのが一般的で調理の失敗も
なくアルバイトでも調理ができる。一般的に温度は180℃前後を使用する。ステーキを
焼く場合その高温で肉の表面に焦げをつけ、肉汁が流れでないようにする。それからじっ
くり火を通す。
・オーブン(焼く)
 オーブン庫内の空気を加熱しその空気で食品を間接的に焼く。
オーブンは種類が多く、家庭で使用している電子レンジにヒーターが付いたタイプを直
接加熱型といい、簡単であるが時間がかかるのでレストランでは余り使用されていない。
加熱した空気をファンでかき回し加熱するタイプがあり、それをコンベクションオーブン
といい一般的に使用されている。
厚いステーキなどグルドルで長時間焼くと肉が堅くなるのでグリドルで肉の表面に焦げ
目をつけた後、オーブンでゆっくり火を通すと肉が柔らかく仕上がる。
ローストビーフに使う肉の部位は、リブアイが柔らかくて美味しいが、同じ部位の肉をス
テーキでグリドルの上で短時間に焼くと堅くなってしまうのがその良い例である。
 低価格のFRでは普通のオーブンでは時間がかかりすぎるので宅配のピザチェーンで使う
コンベアータイプのエアーインピンジメントオーブンを使用するようになった。熱く熱し
た空気を食品の上下から高速で吹き付けることにより短時間で焼き上げる方法である。作
業が単純で、アルバイトでも調理が可能で、5分間くらいで調理ができるのでサービスの
スピードが早くなる。また、ピーク時に備えてフライものを揚げておき、オーダーが入っ
たらオーブンで再加熱すること可能だ。
 オーブンの種類には色々あるが、直接加熱のタイプや空気を循環させて庫内を加熱する
、高温のスチームを使って加熱するスチームコンベクションオーブンなどもある。
・フライヤー
食品を揚げる調理機器である。フライものは一般的に180℃前後で揚げるのであるが
、温度が一定にならないと旨く出来上がらないのである。そこでアルバイトでも品質の良
い揚げ物ができるように、サーモスタットをつけ温度を一定に保つ。調理時間もコンピュ
ーターを内蔵し、いれる食材の量によって油の温度が下がるのを感知し自動的に調理時間
を調節する。厨房は忙しくコンピューターのブザーが鳴ってもすぐに揚げることができな
いときがあるので、最近では自動的に食品をいれたバスケットを油から上げる、オートリ
フトの装置を使用する。
・電子レンジ
 FRでは冷凍品を多く使用する。しかし調理機器は冷凍品を直接調理することができない
ので、電子レンジで解凍し、加熱調理に使用する。また、調理済みの冷凍冷蔵食品を再加
熱する。
・電磁調理機
 和食でシャブシャブコンロを客席で加熱する際に,ガスのように直火を使用しないので
安全で、排気が不要ということで,電磁調理器が普及している。加熱原理はコンロ内部に
埋め込まれたコイルに電気が流れると上に乗せた鍋の金属に誘導電磁波を発生させ金属を
発熱させるのである。上に金属がない場合はコイルに電気が流れていても加熱しないので
熱くなく、燃焼しないので排気も不要だ。
 調理だけではなくステーキやハンバーグを乗せる鉄皿を加熱するのにも使用する。
・冷蔵、冷凍庫 
FRでは多くの冷蔵、冷凍食品を使用するので、大きなボックス型のプレハブ冷蔵冷凍
庫を使用する。これは店舗に配送された、食材を保管するのに使用する。小出しにする際
に余り頻繁に扉を開け締めすると内部の温度が上昇し、食材の品質が悪くなるので、各加
熱調理機器のそばにアンダーカウンタータイプのコールドテーブル(冷蔵、冷凍庫)をお
き、食材を小出しに使用する。
・炊飯機器

家庭で使用するガス炊飯器よりも大容量で火力の強い機種だ。自動炊飯器もあるが、値
段が安く構造が簡単な丸型のガス炊飯器が一般的だ。ただ、洗米の行程は重要なので、自
動洗米機を使用する。炊飯で重要なのは、米に対し一定量の水量があるかということと、
一定時間侵漬するということである。一定時間水に漬けていないと炊いたとき十分に水分
が吸収されず、固くボロボロの米になってしまう。
炊飯後の米は、ライスウオーマーに移し保管する。米は炊いた後一定時間過ぎたら品質
が変わるので廃棄しなければならない。
・製氷機
氷を作る機械である。タイプによりキューブタイプ(家庭の冷蔵庫で作る氷のような四
角い塊)と細かなキューブ、フレーク(かき氷状)、フレークを固めたセクターアイスな
どに分かれる。FRでは一般的にキューブタイプが使用される。
・ドリンクディスペンサー
ホットコーヒーをつくる機械や、ジュースを冷却するディスペンサー、炭酸飲料を製造
するディスペンサー、ビールディスペンサーがを備え、ビンや缶の保管スペースの削減と
サービス提供時間の短縮をはかる。
・洗浄機
FRでは陶器の皿やカップを使用するので、大型のラックタイプの洗浄機を使用する。洗
浄機の能力だけではなく、ピーク時に下げた食器類をためておくスペースも考慮する。洗
浄機に通す前に、シャワーなどで予備洗浄する。米が付いた皿は、浸漬し落ち易くする。
洗浄機で重要なのは、予備洗浄と事後の汚れのチェックである。また、洗浄のみでなくリ
ンス(ゆすぎ)時に80℃以上の高温の湯で殺菌するが、その温度が規定を保っているか
常時チェックが必要である。
3)FFの調理技術
FFはハンバーガーやフライドチキン、ピザ、ドーナツ、などのように料理を絞り込み、
注文を受けてから1分以内に料理を提供できるようにし、店内の飲食だけでなく包装容器
を採用し持ち帰りを可能にすることで高い売上げと生産性を実現した。FRの場合、一つの
料理で1日に20品目も出れば売れるほうであるが、FFの場合には種類を絞り込んでいるた
め、ハンバーガーなどでは1時間に1500個も調理する必要がある。そのため、それぞれの
業種により専門の調理機器とレイアウトを必要とする。 
 FFはFRのようにセントラルキッチンではなく食品メーカーに製造を委託し、自社のカミ
サリーシステムで集配送を行う。各原材料にスペックを厳格に定めてそれに基づき食品メ
ーカーに発注する。各原材料はカミサリーに集められ、各店の発注に基づき配送される。
カミサリーは配送センターを兼ねているのでディストリビュートセンター(DC)とも呼ばれ
る。
<1>専用の火力の強い調理機器
・グリル
FRのハンバーグは冷凍のミートパティを解凍してから焼き上げるが、FFの場合、冷凍状
態から直接焼き上げる。そのため、焼き上げに使用するグリドルは火力の強いものでなく
てはいけない。また、より高速の調理を目指すために上下の鉄板で挟んで調理するクラム
シェルグリル(サンドイッチグリル)など特殊な調理機器を開発している。
・フライヤー
フレンチフライ、フィッシュポーション、チキンナゲット、フルーツパイ、お好み焼、
コロッケなどのフライ商品が多く販売されている。時間あたりの調理量が多くかつ、冷凍
品を解凍しないで調理するので火力が強いフライヤーが必要となる。FRではコールドテ
ーブルの上に置いて使用する小型のフライヤーであるが、FFでは大型の床置きのフライヤ
ーを3台以上使用する。アルバイトが調理するのでコンピューターで温度、時間のコント
ロールをするようになっている。また、揚がる量が多いので油のろ過を頻繁にやる必要が
あるので、フイルタリングマシン(油の自動ろ過機)の内蔵型が中心になっている。
<2>特許をとった調理機器で差別化
 KFCはフライドチキンを売り物にしているが、創業者のカーネルサンダースは圧力釜を
使用する調理方法で特許を取得し、11種類の秘伝の調味料レシピーと共に競合に真似をさ
れないようにしている。ピザの場合もコンベアーと、上下から高速の熱風を針のように吹
き付けるエアーインピンジメントを組み合わせて、短時間にピザを自動調理できることを
可能にした。この特許は機械の発明者が持っているが、このオーブンをいち早く購入し、
注文後30分以内の宅配システムを構築した、ドミノピザのようなチェーンが誕生している

<3>自動化の調理機器

 ハンバーガーチェーンの中にはグリルでなく、伝統的なバーベキュー直火タイプのオー
ブンにコンベアーを組み合わせて、上下から自動的に焼くシステムを採用しているチェー
ンがある。このコンベアーグリルを使用すると調理の自動化が図れ生産性が高くなる。
<4>待たせない工夫
 FFも成熟してくると顧客のニーズに対応するために、料理の種類を増やさざるを得ず、
注文後1分で提供することが難しくなってきた。そこで、多種類の料理を提供しながら料
理提供時間を短縮する工夫を凝らすようになった。
<高精度加湿保温庫>
従来のレストランの調理システムは、オーダーが入ってから調理をする、クック・ツ
ー・オーダーであり、料理は出来たてで温かく品質はよいが、調理に時間がかかるという
欠点があった。
ハンバーガーチェーンの初期のメニューはハンバーガーが1種類であり、そのため全メ
ニューで10品目くらいであったのである。そのためハンバーガーを事前に調理してウオ
ーマーに保管しておき、オーダーがあったらすぐに提供できるようにしていた。これをス
トック・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。このシステムによりテイクアウトのビジネスを
成功させることが出来、かつドライブスルーのような新しいビジネスチャンスを物にする
事が出来たのである。
しかし、チェーンが出来てから15年もするとお客様は、大型サンドイッチやソースの
異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや、多国籍料理を望むようにな
ってきた。そのため、数多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎて破
棄する必要が出たり、製造に時間がかかり、サービングタイムに問題が出るようになって
きた。完成品のサンドイッチとして保温しておくと、ソースや肉汁がバンズに染み込んで
しまうという問題が出てくる。そこで、調理に時間がかかるミートなどを事前に焼いてお
き、それを正確な湿度コントロールが出来る保管庫に保管しておく方法が出てきた。これ
により、焼いたミートを30分から1時間も保管する事が出来、作業が分散化し商品の破
棄も少なくなり、オーダー後の商品のサービングタイムが格段に早くなるというメリット
が出てきた。これをアッセンブル・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。現在では、多くのチ
ェーンで採用されるようになってきている。
ミートなどのデリケートな食材を保温するには乾いてしまってはならないので湿度のコ
ントロールを正確に高温域でできる特殊な保管庫を各チェーンで開発し使用している。
 最初は正確な湿度コントロールをする保管庫を使用していたが、扉の開閉により、庫内
の蒸気と温度を失い、料理の温度が下がり乾燥するという問題をかかえるようになった。
また、フライ物のように表面がカリッとした商品を保温するには乾燥した保温庫が必要で
あり、ハンバーガーパティや卵料理のように乾燥してはいけない食材は加湿保温庫で、と
2種類の保温庫を備えなければならなかった。そこで、それらの問題を一気に解決するた
めに、遠赤外線を使用し蓋の開口部分に湿度コントロールできる開閉装置を取り付け、あ
らゆる食材を保温することを可能にするようになってきている。
今後のトレンドは保温技術だけでなく、冷凍食品を高速に調理する技術だ。そのため、
エアーインピンジメントの上下からの熱風と電子レンジ加熱を組み合わせたり、高温ガス
燃焼と電子レンジを組み合わせた高速調理機器が開発されている。すでにグルメコーヒー
ショップなどでは温かいサンドイッチを高速で加熱するために採用されているが、今後さ
らに大型の高速調理機器が開発されるだろう。
<5>ファスト・カジュアルの影響
 米国で20年ほど前にファドラッカーズというグルメハンバーガーチェーンが誕生した。
挽肉加工やパンの焼きあげを店頭で行い、手作り感をアッピールする仕組みだ。FFは調理
工程が見えないようにしているし、パートアルバイトに調理をさせているので、冷凍食品
を電子レンジで温めているようなイメージを持たれている。また、FFで提供している料理
は肥満の原因だとか、使用している脂に心臓病の原因となるトランス脂肪酸が多すぎる、
フレンチフライなどの炭水化物を高温の脂で揚げると発がん性を疑われているアクリル・
アミドを生成する、などと言うことを言われるようになった。そのような健康志向の高ま
りから、ファスト・カジュアルのチェーンが続々と誕生するようになった。FFはその新業
態の隆盛振りを見て、それらのチェーンを買収したりしてノウハウを吸収し、より健康的
なメニュー開発をするようになった。大手FF企業はサラダやフルーツサラダなどの健康的
なメニューを続々と開発している。また、従来は閉鎖的であった厨房をガラス張りにして
どのように調理をしているかを顧客にアピールするようになった。
4)大量調理システム
ホテル、旅館、学校、工場、病院、弁当給食、レジャー施設、など、一箇所で大量の食事

を提供する給食施設では、大手FRのセントラルキッチンやカミサリーと同様な施設を設け
て原材料の加工から調理まで行う。施設によっては1日2万人規模の調理を一箇所で行う必
要性があり、FRやFFとは異なる設計を求められる。それが、クックチルと真空調理、新
調理などだ。真空調理は主にフランス料理で用いられる調理法で、クックチルは米国やヨ
ーロッパで使われる保存法で、両者の違いを明確にしておこう。新調理とは真空調理とク
ックチルの両方を意味する日本で作られた造語だ。
・クックチルとは
1960年代にスエーデンの病院において開発された、調理済み食品の冷蔵保存方法
だ。保存方法としては缶詰やレトルト、冷凍食品があるが味が劣化するし、保存料や添
加剤などを入れると体力の低下した病人には適さないと言う問題から、美味しい調理済
み食材を安全に長期保存する手法として考案された。
食品の加熱調理の目的は食品を食べやすくするだけでなく、温度を上げて食中毒菌を
殺菌し、食中毒を起こさないと言うものだ。しかし、通常の調理温度は高くても75℃で
あり、その温度では全ての食中毒菌を殺すことができない。土の中に存在する嫌気性細
菌のボツリヌス菌やセレウス菌、等の芽胞菌は温度をかけても死滅せず、かえって加熱
のショックで芽をだし繁殖を始めるので、緩慢冷却は危険である。クックチルは80℃前
後まで食品の温度を上げ、多くの細菌を殺菌した後、急速冷却し、-1~-3℃の間の
氷温間で冷却し、保管する仕組みである。
冷却方法には空冷と水冷、包装形態には真空パックと開放型の2種類にわかれ、真空
包装して加熱後水冷冷却するタイプはタンブルチラー方式と呼ばれ、調理後最大45日間
保存が可能だ。空冷方式は通常の調理法法で調理したものを空冷のブラストチラーで急
速冷却し、氷温で保管する。開放型であるために保存期間は5日間である。保存期間は
短いが衛生管理のレベルが向上するので、飛行機の機内食を製造するエアーケータリン
グ工場で使用される。ホテルでも衛生管理が良くなるので、使用されている。
 タンブルチラー方式は最大10万食まで調理できるので、大型の給食施設などで使用され
る。ホテルではブラストチラーとタンブルチラー方式を組み合わせて使用する例が多い。
特にスープ、ソースなどの製造に使用されたり、繁簡の差が多いリゾートホテルで採用さ
れている。
・真空調理とは
水冷方式で使われる真空パックはクライオヴァックという包装材料メーカーが担当し
ていたが、そのプラスチック包装に着目したフランスのG・プラリュー氏が真空調理法
という調理技術を確立した。
プウラリュウー氏は、高級食材であるフォオグラのパティを調理するときに従来の方
法では歩留まりが悪いので、パティを包装してから調理すれば、味も良いし、重量ロス
がないのではないかと考えた。フランス料理の古典的な調理方法の紙包み焼きの技術の
応用だ。真空調理の目的は保存のためではなく、肉などのジュースを損なうことなく、
しかもやわらかく仕上げる調理法というだ。真空状態にして低温で加熱調理するとロス
は5%にまで減少し、空気に触れないので油脂類が酸化せず、ビタミンの減少も少ない
メリットもある。ただし、真空調理は低温調理であり、蛋白質の凝固点は肉の種類によ
り異なるし、野菜のセルロースを柔らかくする温度も異なるので、食材により適正な加
熱温度が異なる。真空調理は美味しさを追求するために食品への加熱温度を変えており
、それが食品を保存するための細菌コントロールとはやや異なるという点だろう。その
ため、レストランなどの厨房で真空調理をする場合の保存期間は5日間と短い。工場等
で厳格な温度管理と衛生管理を行う場合には2週間ほどの保管期間になる。
クックチルや真空調理を採用する場合には、厳格な衛生管理のHACCPなどを取り入れ
ないと事故を起こすので注意されたい。
<2>その他、HACCP、ISO9000、22000、14000と言う規格について
最近の飲食施設では食中毒などの問題が絶えない。新型の食中毒菌の発生やチェーン企業
や大型の調理施設が増加しているため食中毒の件数は増加している。また、食中毒は単な
る地域や国の問題だけではなく、食品の国際流通に伴い一つの食中毒が世界の食品産業に
影響を与える時代となっている。それに対応して、HACCP(Hazard Analysis Critical
Control Pointの略で食品の調理や製造行程の際に食中毒を防ぐ意味で重要と思われる管
理項目を明確に定め、事故防止を防ぐ厳格な衛生管理)や1947に設立された品質管理の国
際規格のISO9000(International Organization for Standardizationの略で工場、飲食
施設、サービス施設、などでの製造工程に対する品質保証規格やサービスに対する品質保
証規格として定められた。最近ではホテルや旅館、外食チェーン等の宿泊産業や外食産業
で、サービスや商品の品質を向上させるために導入されている。)、2005年に制定された
ISO9000とHACCPを抱合したISO22000などがある。また、近年世界的に問題となっている環境問題に対処するために、1996年9月に環境マネージメントに関する国際規格として

iso14000が定められた(単なるゴミ問題だけでなく、オゾン対策、地球温暖化対策、森林
減少対策、環境ホルモン対策、海洋汚染の防止対策など総括的な対策である。)
飲食業も国際化の時代を向かえ、これらの規格に積極的に取り組む必要がでてきているの
である。

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