食品スーパー向けの衛生管理(東芝テック広報誌 あーる&I誌)
食中毒というと飲食店の問題のように思われるかもしれませんが、生鮮食材や調理済みを販売する食品スーパーや食品小売業も人ごとではありません。10年以上前になりますが、北海道の大手食品スーパーで大規模な食中毒を発生させました。その原因は加工に使用した井戸水が食中毒菌に汚染されていたのが原因でした。最近では雪印乳業の販売する牛乳がブドウ球菌に汚染により大規模な食中毒が発生し、販売した食品小売業の皆さんは大きな影響を受けました。牛肉では、保健所の検査ミスにより危険なo-157に汚染されたソーセージとして回収を報道し、製造メーカー、小売業に多大な迷惑がかかりました。また、雪印食品の牛肉の偽装事件発覚、国内牛からのBSEの発生、米国牛からのBSE発生、等、続発する食品安全問題から、世間の目がより厳しくなってきました。
筆者は食品スーパーの調理システムと衛生管理の構築に携わったことがありますが、食品スーパーの衛生管理は外食よりも遅れていると思います。その最大の原因は外食には調理人がいるが、職人を否定する食品スーパーには衛生管理と言う概念がやや欠けていることにあるようです。その対策としては、人物金の見直しが必要になります。一例を挙げると、物の面では、食品スーパーには食缶洗浄機が設置されていません。生の食材を陳列する容器やお皿を高温の湯で洗浄殺菌する必要があるのです。また、調理場を場合によってはバックヤードであるとか作業場という表現をしている場合がありますが、その場合、照度が不足し衛生的に問題が発生しています。区画をキチンとした明るい調理場を作る投資が必要なのです。もう一つは人の教育です。食品スーパーの惣菜部門などは殆どパートの方が運営しています。パートは入れ替わりが激しいので、衛生教育が十分でない場合があります。どんな衛生的な調理場でも、品質の高い食材を使っていても、それを調理する従業員の方が正しい衛生管理の知識を学ばなくてはいけないのです。
外食産業や食品スーパーは米国に見習ってきました。しかし、こと衛生管理に関しては日本の方が進んでいるというのが20年以上前の常識でした。ところが、1982年にCDC(米国疾病予防センター)が「オレゴン州にあるマクドナルド店舗で販売した生焼けのハンバーガーを食べた顧客が腸管出血性大腸菌o-157による食中毒にかかった」と発表したことにより、翌日からマクドナルド社の売り上げが激減し,安全対策として食品メーカーなどで採用されている高度な衛生管理のHACCPを採用せざるを得なくなりました。
1993年には西海岸のハンバーガーチェーンのジャック・イン・ザ・ボックス社の腸管出血性大腸菌o-157の食中毒事件による4名ほどの死亡事故により、NRA(全米レストラン協会)がHACCPを外食産業でも取り入れやすいようにわかりやすくした、S.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)という衛生管理システムを作成し,傘下の外食企業に普及を開始しだしました。そのシステムは教科書、VTRなどの教材と共に、日本でいう衛生管理者と同様な検定制度を設けて、受講者に衛生管理者としての認定を行う厳しい内容です。NRAは講習会をレストランチェーン従業員のために主催すると同時に、各チェーンのトレーニングデパートメントのために、トレーナー用の講座を開催しています。この講座を受講することにより各チェーンは自社のトレーニングにHACCPのシステムを導入する事が可能になったのです。
HACCPは食材原材料の受け取りからお客様にサービスするまでの食材の流れに焦点を当てた、衛生管理システムで7つのステップに分かれています。
●第1ステップ
危害を予測する。
●第2ステップ
重要点管理項目を明確にする。
●第3ステップ
食材を扱うそれぞれのステップにおける基準を明確にする。
●第4ステップ
重要点管理項目を監視する。
●第5ステップ
もし基準からはずれることがあれば、改善行動を起こす。
●第6ステップ
記録を残す。
●第7ステップ
自調理現場のHACCPのシステムがきちんと機能しているか確認する。もし必要なら改善を付け加える。上記のHACCPの基本はHAと言う危害の分析と予測を行うこと、つまり食材と食中毒菌の動向を常に把握すること。そして、CCPとは施設や食材を正しく管理して、従業員へ衛生管理の手法を具体的でわかりやすく教えることにあります。
まず、必要なことは現在の食中毒の状況はどうなっているかを把握することです。食中毒関連の本が発行されていますが、食品衛生事故の実状を把握するには間に合いません。インターネットの情報を常に把握する必要があります。
労働厚生省のHPを見てみましょう。(食中毒の発生件数) http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/jokyo/nenji.html これによると平成7年までは減少気味であった食中毒感染者が8年の堺市の集団給食による大規模な食中毒発生以来、増加現象に転じているのが分かります。発生件数をグラフにしているのが、http://www1.odn.ne.jp/‾cak40870/poison.html です。 食中毒が増加している原因は、新型の食中毒菌の出現と、従来の食中毒菌のパワーアップです。例えば、食中毒とは食中毒菌に起因する物を言うのですが、最近はウイルス性の食中毒も仲間入りしました。従来は温度の低い冬の間、生牡蠣は安全な食べ物でしたが、最近はノロウイルス(小型球形ウイルス)に汚染された牡蠣による食中毒が増加しています。食中毒の分類が始まったのは平成10年からと言うニューフェイスですが、平成15年度の食中毒原因としてトップになったようです。 http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03hassei/1.html
新型菌だけではありません。日本人は魚が好きで、海水中に存在する腸炎ビブリオ菌により食中毒が多いことは知られています。そのため衛生責任者の講習会では魚の取り扱いに気を付けるように教えています。腸炎ビブリオによる食中毒は平成4年には99件まで減少していたのですがそれ以後増加して、平成10年には839件となっています。その大きな原因は新型の腸炎ビブリオ菌によるものだと言われています。従来の腸炎ビブリオ菌は7℃以下で保管すれば菌が増えないと言われていましたが、新型菌は4℃以下に保管しないと菌が増殖するようになりました。つまり、昔の知識の7℃で保管していると危険だと言うことです。 愛知県衛生研究所のHPでは4℃以下に保存するように述べています。 http://www.pref.aichi.jp/eisei/tudkbiseibutu.html
サルモネラ菌も同様で、従来、卵の外側だけが汚染されており、内部は大丈夫だと言われ、冷蔵庫で保存しないで生食していました。しかし、新型菌のサルモネラ・エンテリデュス菌は卵の中を汚染し、冷蔵保存をしないと食中毒菌が繁殖し加熱して食べないと危険と言われるようになり、常温保管でなく冷蔵保管の食品となりました。 食中毒菌の種類については社団法人食品衛生協会の以下のHPを参考にしてください。
http://www.n-shokuei.jp/
食中毒の発生が多い状況の中日本医師協会もHPで注意を呼びかけています。
http://www.med.or.jp/kansen/index.html
食中毒の状況を把握した次は、従業員に対する具体的な衛生教育の実施です。食品スーパーの従業員の方はパートアルバイトが多いのでHACCPなどと言う横文字を使うと抵抗を感じる方が多いようです。そこで、米国外食チェーンで取り入れている、HACCPの考え方を元に、難しい表現を使わない簡単なチェックリストと、「すぐ使える食中毒防止のチェックポイント50」を以下のようにまとめてみました。一度、店舗の衛生状態をチェックし、従業員の教育に使ってみることをお勧めします。
なお、米国外食チェーンで採用している厳格なHACCPに基づいた管理手法については筆者の執筆した、「有害微生物管理技術 第2巻 製造・流通環境におけるエンジニアリングとHACCP」第6章 ホテル・レストランの衛生管理システムの実像 共著 (2000年 株式会社フジ・テクノシステム)を参考にしてください。 また、食関連の危機管理と人材教育については 「給食マネジメント論」 共著(2004年第一出版)を参考にしてください。
店舗衛生診断書 店舗名____ 責任者名____ 診断者名____ 実施年月日___
チェック | 改善ポイント | |
(最初に衛生の知識確認をしましょう) | ||
日本は衛生的な国だと思うか? | ||
昨年の食中毒原因菌の上位3位を言えるか? | ||
従業員への衛生教育を実施しているか? | ||
保健所の衛生講習会を最近3年以内に受講? | ||
調理機器の手入れの仕方を知っているか? | ||
厨房の照度は何ルックスか? | ||
1.手洗い | ||
洗い方(30秒間ひじから下をもみ洗い) | ||
頻度 (必要時、最低30分に1回) | ||
洗浄殺菌洗剤の使用(厨房: 倍、客席: 倍) | ||
爪用ブラシの常備容器 | ||
洗面器のクレンリネス | ||
ペーパータオルかドラヤーを使用 | ||
2.身だしなみ | ||
白衣、ユニフォームは清潔 | ||
靴の手入れ | ||
髪の毛は束ね、帽子を着用 | ||
爪は短く、濃い色のマニュキアはない | ||
ひげは剃っている | ||
帽子のかぶり方 | ||
傷のある者、病気中の者 | ||
装身具ははずしているか(指輪、時計など) | ||
月に一回の検便 | ||
2.肉、魚の加工 | ||
(朝) | ||
前日の閉店時の包丁、まな板洗浄殺菌状態 | ||
シンクの洗浄殺菌 | ||
器具の洗浄殺菌(器具別) | ||
作業台殺菌 | ||
冷蔵庫冷凍庫殺菌 | ||
洗浄殺菌洗剤の使用法(温度使用量) | ||
(営業中) | ||
室温の状態 | ||
肉、魚をおろす際の衛生状態 | ||
シンクの洗浄殺菌 | ||
食材によりまな板、包丁を分けている | ||
包丁の洗浄殺菌 | ||
殺菌液計量カップの使用 | ||
殺菌液の交換と(2時間に1回交換) | ||
(夜間) | ||
シンクの洗浄殺菌 | ||
まな板洗浄殺菌 | ||
包丁の洗浄殺菌 | ||
まな板包丁の温度殺菌 | ||
布巾の洗浄殺菌 | ||
グリストラップの清掃 | ||
ゴミ箱の片づけは | ||
ゴミ箱の洗浄殺菌 | ||
3.煮物、揚げ物、焼き物 | ||
鍋の洗浄殺菌 | ||
器具の洗浄殺菌 | ||
調味料の保管方法 | ||
各器具の洗浄殺菌 | ||
周囲の洗浄殺菌 | ||
オーブンの温度調整 | ||
フライヤーの温度調整 | ||
焼き物機の火力調整 | ||
調理レシピー通りに調理 | ||
調理時間 | ||
調理後の中心温度と時間 | ||
調理機器の手入れとメインテナンス | ||
下拵えと調理が明確に分けている | ||
再加熱温度 | ||
4.盛りつけ台 | ||
布巾洗浄殺菌(青と白) | ||
盛りつけ台アルコール消毒 | ||
盛りつけワゴン車アルコール消毒 | ||
食器のアルコール消毒 | ||
盛りつけ時の手袋着用 | ||
ペーパータオル | ||
次亜塩素酸ナトリウム溶液の確認 | ||
5.野菜加工、下ごしらえ | ||
盛りつけ台洗浄殺菌 | ||
冷蔵庫、冷凍庫の温度 | ||
冷蔵庫内殺菌、整理 | ||
包丁、まな板の洗浄殺菌 | ||
6.セルフサービスコーナー | ||
古い料理と新しい料理を混ぜていない | ||
お皿の洗浄殺菌は交換毎に行う | ||
トングの洗浄殺菌は2時間毎に実施 | ||
トレイの洗浄殺菌は2時間毎に実施 | ||
持ち帰り容器の管理 | ||
手洗器に洗浄殺菌剤は備えている | ||
手洗器にペーパータオルの備え | ||
保温ショーケースの温度は60℃以上 | ||
冷蔵ショーケースの温度は5℃以下 | ||
保温期間と温度 | ||
7.検品 | ||
温度は冷蔵は5℃、冷凍は-18℃以下 | ||
包装の状態 | ||
肉魚などの生鮮品の臭い、色、異物、チェック | ||
商品ラベル、製造月日、工場、商品コード | ||
保存可能期間、賞味期間 | ||
製造メーカー名、産地 | ||
入り数、重量、規格 | ||
8.倉庫、冷蔵冷凍庫 | ||
厨房出入り口の扉の状態(営業時) | ||
冷凍�冷蔵庫の温度 | ||
冷凍機器のコンプレッサーの冷却能力 | ||
冷凍冷蔵庫内の清掃殺菌 | ||
先入れ先出しのローテーション | ||
清掃用具の状態 | ||
の清掃 | ||
棚の整理整頓 | ||
の絞り器、の状態 | ||
冷蔵冷凍庫内部の区分け | ||
虫、ネズミ対策 | ||
9.その他 | ||
布巾 (殺菌保管使用状態) | ||
置き場の | ||
の衛生状態 | ||
冷凍冷蔵庫の衛生状態 | ||
殺虫殺鼠実施状態定期消毒 | ||
知識(食品衛生責任者) | ||
VTR等の衛生教材の使用状況 | ||
食品衛生のための従業員教育 | ||
年一回の水質検査 | ||
年一回の水槽清掃殺菌 | ||
10.洗剤の種類 | ||
中性洗剤(名前) | ||
次亜塩素酸ナトリウム(名前) | ||
手洗い洗浄殺菌剤(名前) | ||
食器洗浄機洗剤(名前) | ||
アルカリ系強力洗剤(名前) | ||
ミルク製品向け洗浄殺菌洗剤 | ||
食器、調理器具、手指用、アルコール(名前) | ||
床用洗剤(名前) | ||
トイレクリーナー(名前) | ||
その他 | ||
11.器具洗浄機 | ||
洗剤の種類 | ||
洗剤の濃度 | ||
洗浄ノズルの状態 | ||
リンス温度は85℃以上 | ||
定期的なメインテナンス | ||
メインテナンス記録 | ||
A…100~93% B…92%~85% C…84~77% F…76%以下
得 点 | 達 成 率 | 今月評価 |
前回指摘事項の改善状況: |
今回指摘事項の内容: |
総 評: |
<食品スーパーですぐ使える食中毒防止のチェックポイント50>
1)従業員衛生
まず働く従業員の皆さんが健康で衛生的でないといけません。
<1>検便
最低年に一回の検便は必要ですが、夏場などの食中毒の危険の多い次期には月に1回は行いましょう。本人が異常なくても、大腸菌、サルモネラ菌などの食中毒菌を保菌している、健康保菌者が多いので定期的な健康診断が必要です。本人は何でもなくてもその菌が食品につくと、それを食べた人が食中毒になる危険があるからです。
<2>髪の毛
髪の毛やふけにはブドウ球菌が付着しており、髪の毛をさわった手で食品に触れるのは食中毒の原因になります。調理に携わる際には必ず帽子やヘアーネットを着用し、髪の毛は常に耳にかからないようにしましょう。女子は髪の毛を束ねるなどしてヘアーネット内部にしっかり毛が入るようにします。
<3>アクセサリー
指輪、時計などは細菌の格好の隠れ場所です。調理をする際には身につけてはいけません。ピアスなどは穴をあけた耳の部分が炎症をおこし、ブドウ球菌のすみかになりやすいので注意しなければならないのです。またアクセサリーの金属部分や宝石が食品に混入しお客様が飲み込むことにより歯の欠損や胃の異常を引き起こす危険があります。
<4> 爪
爪は最も細菌の多い場所で、厨房の入る前に必ず毎日チェックし、短く切りそろえましょう。但し、あまり短く切りすぎて肉を傷つけると化膿しブドウ球菌が発生するので適度な状態を保つようにします。濃い色のマニュキアはお客様に悪い印象を与えるだけでなく、爪に汚れが溜まっても見えにくいので取り去りましょう。
<5>手洗い
細菌は手を経由して食品に感染します。手洗いが食品衛生の基本なのです。手は肘から下まで洗浄殺菌剤をつけ、30秒ほどもみ洗いします。爪先は爪ブラシを使用し隙間等まできれいに洗いましょう。手洗いは洗浄殺菌能力のある専用の効果のある洗剤を使用してください。手洗いの後は必ず、ペーパータオルやドライヤーで手を乾かし、決してタオルや前掛けで拭いてはいけません。手に傷があったり、手荒れがひどい場合には手にブドウ球菌が繁殖し食中毒を引き起こすので食材加工に従事してはいけません。
<6>洗剤の使用方法の知識
手洗いの洗剤は正しい使い方をしないと殺菌効果が出ないのです。特に塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸を使用する場合には、石鹸で手を洗った後その石鹸をきれいに洗い流してから殺菌洗剤を使用しないと殺菌効果が出ないので注意してください。
<7>タオル、布巾の洗浄殺菌
タオル、布巾の繊維中には細菌が数多く潜んでいます。食品や場所により色分けし、使い分け、複合汚染が起きないようにしてください。また、定期的に洗浄、殺菌し、乾燥させて使用します。殺菌は次亜塩素酸ナトリウム溶液100ppmになるように水で希釈した溶液に10分以上浸しください。
<8>保健所の講習を受け衛生管理者の資格をとる
少なくとも店長や加工責任者は保健所の衛生責任者の資格を取っておきましょう。一回だけでなく5年に一回は受講し常に最新の知識、対策を学びそれを実行できるようにします。
<9> 衛生講習会を開催し、衛生対策の告知をする
保健所の講習を受けた後はその内容を店内のミーティングを開き全員に衛生対策の具体的な手法を告知します。また、営業中は従業員がその通りに実行しているか常時チェックを怠らないようにしてください。
<10>自己管理
食品加工に携わる物は自己管理をきちんと守り、自分の健康管理をしましょう。夏場などは暴飲暴食を慎み、体調をしっかり維持してください。体調が弱り下痢などの症状を自覚するときには責任者に申し出て、食品加工に従事しないようにしましょう。また、手に傷があったり、風邪を引いてくしゃみがでるような場合も食品加工に従事してはいけません。
2) 検品
食品小売業の大きな責任は良い食材を購入し、搬入の際には不良品や欠陥商品を受け入れないようにしなくてはいけません。検品は重要な仕事なのです。
<1> 温度
肉や卵、野菜など幾ら良い原材料であっても少量の細菌が付着しています。少量の細菌であっても温度が5℃以上で数時間おかれると細菌は繁殖を始めるのです。原材料の納入時には冷蔵品は冷蔵温度、冷凍品は冷凍温度であることを確認しましょう。
<2> 包装の状態
受け取りの際には、包装がきちんとして細菌の汚染ないことを確認しましょう。段ボールであれば水濡れや土で汚れていないか、真空包装の商品であれば亀裂や傷がないかを確認して受けとります。細菌だけではなく虫、異物、毒物の混入の恐れもありますから真剣にチェックしてください。
<3> 臭い
肉や魚などの生ものであれば、開封して温度のチェックの他に腐敗臭や、異常な臭いがしないかチェックが必要です。臭いがないから安全というわけでありませんが、腐敗臭がする場合には大変危険ですし、味にも影響します。
<4> 色
臭いだけでなく肉などが色が黒ずんだりした場合には腐敗や変質の危険があります。野菜の場合でも色が変化している場合には品質の劣化の可能性もあり慎重にチェックしましょう。
<5> 異物
肉類などの場合、カットで使用する刃物の破片や、牧場のカーボーイの打つ散弾銃などの鉛の玉が入っていることがあります。魚の切り身であれば、寄生虫や大骨の混入をチェックしてください。
<6> 虫
野菜の場合、農薬の使用が少なかったり、無農薬の場合が多く、そのため虫の混入が多いのです。虫がいる場合には食中毒菌の存在の恐れもあり十分注意が必要になります。また、虫がいるような野菜は保管状態が悪いことが多く、品質の劣化の可能性があるのでよくチェックを実施してください。
<7> 製造月日、製造工場、商品コード
加工商品であれば製造月日等のシールがきちんとついているかをチェックします。製造月日を偽る場合もあるので良く注意してください。原材料に問題が発生したときにはクレームをつけなければいけませんが、その際に、製造工場、製造月日、商品コードを正確に伝える必要があるからです。
<8> 保存可能期間 賞味期間
どんなに、衛生的な原材料であっても細菌数が0ではなく、少量の細菌に汚染されています。その原材料を賞味期間中に基準の温度で保管していれば問題ありませんが、その期間を過ぎてから使用すると問題が発生したり、原材料に問題があっても製造メーカーの保証がなくなるので、先入れ先出しをきちんと守り、賞味期間をきちんと管理しましょう。
<9> 製造メーカー名
製造メーカー名がきちんと書いてある物を使用してください。当然の事ながら後で原材料に問題がある場合にクレームを言わなくてはいけませんが、メーカー名がきちんと書いていないとクレームを受け付けてくれないことがあります。
<10>入り数、重量は正しいか
入り数、重量が少ないと金銭的な損害もありますし、途中で開封されたり、汚染や、乾燥などの品質の問題の可能性もあるのです。
3)保存
<1> 冷蔵庫、冷凍庫の温度
どんなに衛生的な材料であっても冷蔵温度を超えるような温度で保管していては細菌の増加を引き起こします。冷凍食品であっても細菌は死んでいませんから、温度が上がると細菌が増加して危険です。冷蔵、冷凍の温度はきちんと管理してください。
<2> 複合汚染を起こさない区分け
魚や肉は調理の際温度をかけるから案外安全ですが、野菜や果物、ケーキ類は温度をかけないので、肉や魚に接触すると食中毒菌が繁殖し事故になる危険があり、危険な原材料と調理をしない食材は別に区分けする必要があります。
<3> 虫、ネズミ対策
肉や魚、卵などは腐敗するので冷蔵庫に入れるから案外安全ですが、野菜、果物、穀物などは常温で保管することが多いのです。その保管場所にネズミや昆虫が進入し食中毒菌や寄生虫の繁殖を引き起こすので、ネズミの穴等がない、密閉した場所に保管しなければなりません。また、害虫、ネズミの定期的な駆除が必要です。定期的に駆除をしましょう。
<4> 水の管理
井戸水が原因で食品スーパーで大規模な食中毒を引き起こしたなど水が原因の食中毒は多いのです。特に大腸菌の感染源として井戸水やプール、湖、川などの水が汚染源になっています。特に井戸水を使用する場合には定期的な水質検査が必要ですし、近所に便所などの汚染源がないか注意しなければなりません。水道水であっても水質検査と入水槽の洗浄殺菌は年に1回実施しなければならないのです。
<5> 先入れ先出しのローテーションを守っているか
原材料の賞味期限を切らしたり、腐らせたりするのは先入れ先出しのローテーションが悪いからです。あまり大量に廃棄処分をすると利益に影響するからとつい使用してしまう危険があるので日頃からローテーションをきちんと守り、商品が劣化しないように気を配りましょう。
<6> 冷蔵庫、冷凍庫、常温保管庫のスペースは十分あるか
食中毒を引き起こした事業所を見てみると冷蔵庫、冷凍庫などの保管庫が不足している場合が多いようです。供給する食事数に対してバランスのとれた設備があるように見直しをしましょう。
<7> 冷凍機器のコンプレッサーの冷却能力は十分か
冷蔵庫や冷凍庫を換気の悪い部屋に置くとオーバーヒートし正しい温度で冷却できなくなります。また、コンデンサーの汚れがあると冷却能力が不足したり、機械故障の原因ともなるので、定期的なチェックと清掃を実施してください。
<8> 在庫が多すぎないか
在庫が多いと原材料の扱いが乱雑になり、賞味期限などの管理がおろそかになります。適正在庫を心がけ、在庫負担も少なくするように心がけましょう。
<9> 保管スペースの整理整頓がなされているか
保管スペースの整理整頓をすることにより、ネズミ、害虫の進入も発見できるし、進入そのものも少なくなります。また、原材料の賞味期間切れの恐れもなくなるのです。整理整頓に心がけましょう
<10> 冷蔵、冷凍、常温スペースの定期的な清掃はなされているか
冷蔵、冷凍庫であっても細菌は死滅しません。細菌が付着したまま放置するとだんだんと増加し、食中毒を引き起こす原因となります。定期的に綺麗に清掃し、殺菌を実施しましょう。冷蔵庫や飲み物ディペンサーも細菌が増殖しやすいので定期的な清掃殺菌が必要になります。
4)調理
<1> 調理レシピーの確立
調理レシピーは味の安定や食材コストの管理だけでなく、何度で何分温度をかけるかを明確にして、食中毒菌を殺す働きがあります。調理レシピーは頭の中にあればよいのではなく、文書化し誰でも分かるようしなければなりません。また、調理レシピーは定期的にチェックしたり、現場でその通りに調理しているか見てください。
<2> 調理温度
食材をさわったり味見をしたりして温度をチェックするだけでなく科学的に客観的に温度をチェックする必要があります。少なくとも正確なデジタル温度計が必要で、どこの食材の部分を日に何回、何時、チェックするか明確にし、記入したチェックリストは一定期間保存してください。
<3> 調理時間
温度が高くてもその温度で数分間おかないと細菌は死にません。調理温度だけでなくその温度で何分間調理したかもも決めます。フライヤーやグリドルであればタイマーを使用し誰でも一定の温度、時間で調理できるようにしてください。
<4>調理法
調理レシピーの内容が常に最も合理的か、安全に火が通っているかを時々検討しましょう。挽肉のハンバーグの場合、つなぎの種類、水分、脂肪の比率、厚さにより火の通る時間、温度が異なるので、食材、使用機器、調理法など総合的に見直しが必要になります。
<5>調理機器のメインテナンス
細菌を殺すという意味で火を通すのは最も重要な調理の働きですが、その火力は規定通りでているか、清掃しており何時も衛生的か、温度コントロール装置には誤差がないか、温度の回復力は基準通りか、タイマーの時間は基準通りか、等を定期的にチェックし、記録しましょう。
<6>下拵えと調理とを明確に分けているか
肉をきり分ける、魚を3枚におろす、野菜の皮むき洗浄、などの下拵えは調理場とは別にきちんと区別していますか? 肉の塊、魚の腸、鰓、野菜の根の土の部分には色々な細菌が付着しているのでそれを厨房に持ち込まないようにしてください。
<7>まな板、包丁などは食材により区分けしているか
肉、魚などは調理の際に火を通すと比較的安全ですが、野菜などは生で食べることが多く、火を通さないので、細菌をつけないように注意しなければなりません。肉や魚を切ったまな板、包丁は野菜などの生ものの調理には絶対に使用しないようにしましょう。
<8>再加熱温度
カレーライス、シチュー、煮物など仕込んでから翌日に加熱する場合にでも、温度は75℃までしっかり上げ細菌を死滅させましょう。通常75℃まで加熱すると殆どの細菌は死にますが、完全に滅菌するわけではありませんし、野菜の根についた芽包菌などは熱のショックで発芽し、快適な温度で繁殖する場合があので、再加熱はきちんと行いましょう。
<9>保温期間と温度
調理した物を食べるまで保温しておく場合には保温温度は最低60℃以上で保温してください。保温時間は最大2時間までで、それを越えて保温してはいけません。それ以下の温度や2時間以上保温する場合には細菌の増殖が危険範囲を超えるからです。
<10>原材料と調理品の保存
原材料と、調理済みの食品は冷凍か冷蔵の温度で保管します。調理済みの食品を保存する場合調理後の熱を十分にさましてから冷蔵庫に入れないとかえって冷蔵庫内の温度が上がり細菌の繁殖を促すので注意しましょう。なるべく冷却能力の高いブラストチラーか水冷のケトルクーラーなどを使用しなければならないのです。
5)調理器具、衛生道具
<1>温度管理が出来るか
火を通す調理器具は出来るだけ温度コントロール装置が付いて自動的に温度が一定に保たれる物を使用してください。調理後には食品の中心温度を計測し、中心温度が75℃以上1分間以上加熱されているか確認が必要です。
<2>時間管理が出来るか
レシピーでの調理温度と時間を守れるように各調理機器にはタイマーを使用するのが望ましいのです。タイマーは一つではなく複数の時間コントロールが出来るようにしましょう。
<3>定期的なメインテナンススケジュールがあるか
どんなに良い機械でも定期的な手入れやメインテナンスをしないと正しく作動しません。定期的なメインテナンススケジュールと、その内容が明確になっているか注意しましょう。
<4> 各器具の説明書があるか
機器購入時には機械の正しい取り扱い方法やメインテナンスを書いた、機器取り扱い説明書があります。それを機械別にきちんとファイリングし必要なときに取り出せるようにしててください。
<5> 従業員は正しい使い方を知っているか
機械も正しい使い方をしないと温度、時間が一定に保たれなかったり、加熱が十分でなくなるので、正しい使い方を学び、実際に使用できるように教育をしましょう。
<6>正しく清掃しているか
グリドルなど幾ら温度が正しくても表面にカーボンが付着していては熱伝達を妨げ、食材に温度が伝わらず生焼けになり食中毒を引き起こします。グリドル、フライヤーなどのカーボンは定期的にきちんと取り去ってください。
<7>定期的なカリブレーションチェックを行っているか
温度と時間の調整が出来る機械の場合、その機械の温度計や時間が正しく動いているか、表示しているか、定期的なチェックをしなければなりません。店舗には少なくとも正確なデジタル温度計とストップウオッチが必要になります。
<8>正しい洗剤の使用方法を知っているか
洗剤の正しい使用方法を身につけてください。洗剤は水との希釈倍率が重要で、各洗剤の種類により異なるから注意をしてください。特に殺菌液などは希釈倍率を守らないと効果が出ません。一般的な器具殺菌用液の次亜塩素酸ナトリウム溶液の場合、有効塩素濃度が100PPM以上ないと効果が出ないので注意をしましょう。また、殺菌剤を温度の高いところや容器の蓋をはずしたままに放置したり、長期間保管した場合にも効力が落ちてくるので、保管にも注意を払ってください。
<9>洗剤の計量カップはあるか
調理機器の殺菌にはブリーチなどの次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用します。この場合使用濃度をメーカーの指定通りに使用しないと効果がありません。計量カップと、殺菌剤を作る容器の量を把握し正確な濃度を出すようにしましょう。
<10>清掃用の器具は揃っており、衛生的か
洗浄用のブラシ、たわしは油脂分が付着し内部に細菌が繁殖している場合が多いようです。汚れたブラシ、たわしで洗浄するとかえって汚れが付着するので、ブラシたわしはきちんと洗浄殺菌した物を使用してください。
<11>包丁、まな板の洗浄殺菌
包丁、まな板は特に洗浄に注意し、洗浄後、殺菌液で殺菌します。まな板の傷や、包丁の柄の部分には汚れや細菌が入り込んでいるので、殺菌液が接触できず殺菌できないので、80℃以上の高温で殺菌をしたほうが安全です。傷の付いたまな板や柄の部分に汚れがしみ込みやすい包丁は交換をする方が良いでしょう。
<12>器具洗浄機は予備洗浄とリンス温度に注意
器具洗浄機はリンス温度が80℃以上になっているかチェックします。温度が低いと器具の殺菌が出来ません。また、食器をきちんと予備洗浄し食器の汚れがきちんと落ちているか常時チェックしてください。そして、洗浄した食器はネズミ、害虫が進入しないように密閉の出来る乾燥した食器庫に保管します。
<資料>
<1>衛生管理としてのHACCP 米国ではハンバーガーチェーンなどでの腸管出血性大腸菌o-157の大規模な食中毒発生以来、HACCPと言う高度な衛生管理の手法を食品スーパーや外食チェーンに取り入れるようになった。その詳細は筆者が執筆した以下の書物を参考していただきたい。
有害微生物管理技術 第2巻 製造・流通環境におけるエンジニアリングとHACCP 第6章 ホテル・レストランの衛生管理システムの実像 共著(2000年 株式会社フジ・テクノシステム)
<2>危機管理と人材教育
食品以外の危機管理の対策と事故発生後の対策。人材教育のあり方に関しては筆者執筆の以下の新刊を参考にしていただきたい。
給食マネジメント論 共著(2004年第一出版)