外メシの極意(月刊KITAN 95年12月号)

外メシ(なかでもファーストフード)がふところに優しいこれだけの理由――ちょっと小腹の空いたときに重宝するのが、街角のファーストフードのお店。いまやマクドナルドはハンバーガーは130円。ひと昔前は360円でなかったか? 物価は上昇しているのに、だんだんと安くなる。いったいどんなカラクリがあるのだろう? マクドナルド出身で、外食の原価構造に詳しい有限会社清晃代表取締役の王利彰さんにお話を伺った。(王)マクドナルドなど、ハンバーガーのチェーン店が価格破壊できた理由は、「ハンバーグー(挽肉)を使用している」というところにある。安くてうまい理由…挽肉のブレンド肉のウマミは脂身にある。かたくて脂身のない肉でも、おいしい脂身を混ぜるとおいしくなる。

肉そのもののごまかしはできないが、ウィスキーでいう「ブレンド」をすることによって、味を調整し、価格も安く抑えることが可能だ。

穀物をエサにしている味のいいアメリカ産の牛(うまいが高価)の脂身と、牧草を食べさせているオーストラリアやニュージーランドの牛(脂身がちょっと生臭いが安い)の赤身をブレンドして、おいしい味のハンバーグを作る。こんな芸当もマクドナルドのような世界規模のチェーンにとってはたやすいこと。

ともかくハンバーガーのチェーン店の強みは、ピンからキリまである肉の中から、目的に応じて必要なものを選び、それを自由にブレンドできることにある。

家庭ではそうはいかない。それにスーパーで買った挽肉は、ラベルに和牛と書いてあっても、ひょっとするとあらかじめブレンドされている肉かもしれない。なぜなら小売業はそこで儲けていたりするからだ。勝者マクドナルドの価格破壊戦略の全貌昨今の価格破壊戦争ではマクドナルドが圧倒的に優位であるが、同社の強みは世界規模の流通システムを自社で構築しているところにある。

何しろ全世界に1万4,000‾5,000の店舗がある。世界中に専用の農場を持っているし、買い付けも自社でやっている。だから、原料を世界中から臨機応変に調達することができる。たとえばオーストラリアの肉が安いときはオーストラリアから仕入れ、ニュージーランドの肉が安くなればニュージーランドからの調達に切り替える、といったようなことも容易だ。しかも扱う量が非常に多いので、安く購入することも可能になる。

モスバーガーが日本に1,000店あるけれど、それと比べてみても、売り上げにしろ、食材の消費量にしろ、マクドナルドはケタ違いだ。そこの底力は、世界の牛肉の市場価格を左右できるほどである。

普通ファーストフードの会社は、集荷業者が肉を集めて、食品会社が加工し、それから輸入商社(ここで価格が決められる)と、問屋を経ることになる。この輸入商社の介在に原価が高くなる原因がある。

ところがマクドナルドの場合、集荷業者が、生産者から肉を買い、直接工場に持っていき、そこで加工したものを買うというもの。マージンや保管料など、流通過程で生じるコストを極力排したシステムが構築されている。価格決定権も同社にある。

ちなみに、一般の人がスーパーで肉を手にするまでには、生産者から集荷業者にわたり、競りにかかって値段が上がって、仲買人。それから食肉会社、肉の問屋、ようやく肉屋。これだけの業者の手を経る牛肉を、劇的に安くできるだろうか?関税と為替が価格破壊の影の立役者昔は、材料を輸入すると高くついたけれど、いまでは日本国内の流通のほうが高い。大阪・東京間よりもアメリカ・日本間の船賃のほうが安いぐらいだ。しかも牛肉の関税が下がっているし、円高でもある。国産の牛肉に比べて原材料も、加工賃も、運賃も、輸入したほうが安い。

つまり、日本のファーストフードやファミリーレストランが価格破壊できる理由は、「輸入」にある。

現在の日本の価格設定は、1ドルが360円ぐらいの時の設定のままだから、価格破壊といっても、いまの為替市場の水準にすればいいだけ。まだまだ各社値下げの余地はある。 25年ぐらい前、ファーストフードが日本に上陸したときに、いちばん原価が高かったのはケンタッキーフライドチキン(50%)。次にハンバーガーで(40%)、いちばん安いのがドーナツ(20%)。ところが今は、ハンバーガー(20%前後)より、ドーナツのほうが原価が高くなっている(30%)。牛肉は輸入自由化で原価が下がったが、小麦粉は政府の規制があって高価な国産をしようしている。だからドーナツは安くならない。

最近は、居酒屋の焼き鳥にしても、安い焼き鳥はみんな、串に刺したものをタイや中国から輸入している。今や日本には竹串がほとんどないので、これも安く現地調達している。安い価格の理由は輸入にある。これはウナギもそうである。

ところで、ケンタッキーフライドチキンなども、鶏を輸入すればもっと安くなる。しかし鶏は、骨の中に髄液というのがあって、時間がたつとその臭いが出てしまう。つまりビーフに比べて、冷凍した場合に味が劣化してしまうのだ。だからケンタッキーは輸入できず、国内で生産するしかない。それで原価は下がらない。それにケンタッキーは鶏の専業だから、ビーフを売りたくても売る体勢にない。だから安いビーフを使えないし、値段も下げられない…。

その点、牛、鶏、豚、魚を扱うマクドナルドなどは、食材の種類が多く、その組み合わせで安いセットメニューを出すことができる。食材のバランスが取れているところは強い。いくら一口に外食産業をいっても、そこが何を扱っているかで、原価構造はずいぶん違ってくるのだ。料理にかける時間が経済的にマイナスだ仮に、マクドナルドのハンバーガーと同じものを家庭で作ろうとした場合、いちばんネックになるのは人件費の問題である。たとえば、パンを作るところから始めたとする。一生懸命こねて、発酵させて、焼いて――これだけで4時間必要だ。時給1,000円とするなら、パンを作るだけで4,000円分の手間。原材料費はそんなに違わなくても、人件費を考えると全然ワリに合わない。ところで、お宅は台所で魚を三枚に下ろしたりしますか? ウロコは飛び散るし、アラは臭うし、かといってスーパーであらかじめ切ってある刺身を買うと鮮度が落ちている。それなら居酒屋に行って食べた方がいい。鮮度が良くておいしいし、高くはないし、何よりも手間がいらない。現実に、居酒屋のお刺身の人気が非常に高くなってきている。

夫婦共働きが増えたことにより、女性たちは、食材原価の経済性という価値観に加えて、時間の価値観(コスト意識)を持ち始めた。「家で作るより外食のほうが経済的」となると、今後、より外食ニーズが高まるであろう。

牛挽肉135g199円
玉ねぎ180g168円
ピクルス165g278円
パン4個130円
ケチャップ180g168円
サラダ油400g248円
塩・コショウ43g205円
フレンチマスタード150g195円
全部で1,511円
牛挽肉45g66.3円
玉ねぎ3g1.3円
ピクルス1枚5.1円
パン1個32.5円
ケチャップ10g9.3円
サラダ油少々3.1円
塩・コショウ少々4.8円
フレンチマスタード1.5g2.0円
合計124.4円
なにがマックだ!俺が個人的に価格破壊してやるぜ!
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計算ではマックで買うより5.6円安いぜ!
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ちょっとレアだが、まずかあァないぜ!
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しかし、ちょっと待てよ…。後かたづけは面倒だし、それに俺は調理に30分以上かか
ったけど、時給800円としても約400円のタダ働き。買い物と後かたづけの時間も含め
ると… どう考えてもマックで買った方が安くつくぜ!
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マックだと注文して商品ができてきて席につくまで1分以内。しかも130円!
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