タコベルのリエンジニアリング(柴田書店 月刊食堂1994年4月号)

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タコベルのリエンジニアリング

読者の皆さんはリエンジニアリングという言葉を聞いたことがあるだろうか?聞いた事があったとしても、製造工場を持つ大企業の経営手法であると思われていたであろう。しかし、フードビジネスに於いてもリエンジニアリングは有効に生かし、急成長している企業があるのである。

リエンジニアリングとは、M.ハマーによってつくられた言葉である。彼は著書の中で「リエンジニアリングとは新しい競争に備えて自らの企業を徹底的に立て直すために必要な、新しいコンセプトによるビジネス・モデルと、手法である。」(日本経済新聞社刊、リエンジニアリング革命、M.ハマー、J.チャンピー共著)と言っている。簡単に言うと「大会社の官僚的で非生産的な組織を排除し、無駄を省き、本当にお客様が何を望んでいるかを、0から見直し、解決する手法である。」 文中でのケーススタディーの一つとして、米国のタコベルが取り上げられている。

従来、中規模のメキシカンファーストフードのチェーンであったタコベルを、1983年以来リエンジニアリングの手法を使い、米国有数のファーストフードチェーンに仕立て上げたのである。 タコベルでは、まず、お客様が何を欲しがっているかを調べた。その結果お客様は、大きな店舗や、装飾などではなく、おいしい食事を早く、温かいうちに、きれいな店内で、安く食べたいということであった。そこで、お客様の食べる食材以外の全ての経費を見直し削減した。店舗での食材加工を極力無くし、店舗での必要な最終調理も自動化し、店舗面積に占める厨房の面積を縮小し、同じ建物で客席数を2倍にしたのである。

それらの結果、商品の販売価格を大幅に下げることに成功し、ファーストフードチェーンで最初にバリューミール(低価格で価値のある食事)戦略を打ち出し、大成功したのである。バリューミールは1980年代の終わりに開始したもので、セットメニューを59セントや69セントと言う低価格で打ち出し、メシキカンフードの健康イメージもあり、大成功を納めるのである。

そのため、競合のマクドナルドもバリューミール戦争に突入せざるをえなくなったのである。80年代の終わりは米国の景気は最悪であり、現在の日本の状況と似ており、すべて価格指向になっていたのである。

また、タコベルは商品戦略だけではなく、従来の出店戦略にとらわれず、スーパーマーケット、学校、小売り店など、従来ファーストフードのマーケットでない場所に出店を拡張し、売上を大幅に上げたのである。

さらに、経費を0から見直そうと言うことで、本社経費の見直し、特にスーパーバイザー制度の見直しなど、従来の原則にとらわれず、積極的に実施したのである。特に中間管理職を大幅に削減しかえってコミュニケーションを良くしたのである。

ペプシコグループのタコベルが大成功をおさめたリエンジニアリング戦略に一貫して流れるのは、厨房をできる限る小さくし、最終的には無くても良いのではないかという極端な考え方である。この考え方「ゼロ・キッチン」はペプシコ本社に大きな影響を与えたのである。

ペプシコのフードビジネスのグループは、タコベル、KFC、ピザハットの3社である。現在これらの会社の合計売上はNO.2であるが、これを2000年にはN0.1にしようと言う遠大な計画がある。そのためには単に店舗をオープンするのみでなく、規存のチェーンを買収しようと言うアグレッシブな計画を持っている。現在のグループ企業は、メキシカンレストラン、フライドチキン、ピザである。持っていないのはハンバーガーだけなのである。もし、ハンバーガーチェーンを買収すれば2000年には間違いなくNO.1の売上のチェーンになるであろう。そして、そのプランを実行に移したのである。それが、ハンバーガーのドライブスルーオンリーの分野で急成長を遂げているホット&ナウである。

タコベルは1990年に77店であったホット&ナウを買収し、昨年は南部の6州に展開し、現在では合計16の州に展開している。 ハンバーガーの全体のマーケットサイズは、25bilionであり、そのうち4%をドライブスルーオンリーのチェーンが占めている。その内、3社のマーケットシェアーは85%と寡占状態なのである。最終的には、10、000~15、000店舗ができると言われている。Nation’s Restaurant Newsの94年1月10日号によると現在の店舗数は 1993年末で以下の通りである。

店舗数 平均売上
ラリーズ 522 $990000
チェッカーズ 403 $800000
ホット&ナウ 241 $70000(93年は100店舗を開いた)
ラリーズは売上が不振であり、$2.9Mの損失を出しているのである。会社は規存店の売上をあげるために、出店速度をスローダウンするといっており、ホット&ナウが買収をしようとしている噂がある。

タコベルがドライブスルーオンリー店に目をつけたのは、メニューがシンプルであり、設備コストが低いことである。 特に建設コストが低くさらに移動式の店舗を採用することにより建設期間を大幅に短縮し大量の店舗を短期間にオープンできるからである。つまり、2000年までにNO.1になる事が可能な、出店速度の早いチェーンシステムを手にいれたのである。

たとえばチェッカーズは1994年度は260店舗を開店する予定である。そして、1995年の終わりまでには、総店舗数を1000まで持っていく能力があるとのことである。

これは店舗の建設会社を傘下に納めており、その会社では1週間に6~10のユニット型の店舗製造能力がある。店舗候補地を25~35日で整備し、すでに95%の機械を設置してあるユニット型店舗を運び込んでから13~19日以内に完成することができる。 つまり1カ月半で店舗の建設が終了するのである。建物と機械、看板を含めて、5000万円のコストであり、マクドナルドなどの半分強のコストである。

設備投資だけでなくランニングコストが低いのも特徴である。現在展開しているタコベルのそばに店舗を開き、タコベルのアシスタントマネージャーが店舗を運営するのである。つまり、店長が1人で2店以上の複数の店舗を管理できるので、社員の人件費を削ることが可能なのである。

さらに、タコベルの店舗の場合は、パートタイムの人件費をコントロールするために、店舗の作業を機械化した。特に野菜をタコで巻く作業の機械化、さらにフライ類の自動フライヤーを開発したのである。

ホット&ナウでも当然のことながら、それらの自動化の機器を採用テストしているのである。ファーストフードの調理で多いのは、グリドルでの肉類の調理であるが、それ以上に多いのがフレンチフライ、フライドチキン、フッシュポーションなどのフライ類である。そこで、自動フライヤーを採用テストしているのである。

自動フライヤーは元々大手ハンバーガーチェーンが開発していた。それは、リーチイン冷凍庫とフライヤーと産業用のロボットを組み合わせたものである。技術的にはそうむずかしくないが、問題はコストが高いということと、産業用ロボットと人間が同じ場所で混在して作業するのは大変危険であると言うことであった。また、ロボットは人間の複雑な作業を真似すると、作業スピードが遅くなると言うこともあった。

産業用のロボットは自動車産業の溶接ラインで使用されているが、作業そのものは単純であり、一定のスピードで環境の悪い場所でも正確な作業が可能なのであり、24時間作業も可能なのである。

しかしファーストフードの厨房では、朝、昼、晩のラッシュとその間のアイドル時間帯があり、一定の量で生産することができず稼働率が低い。また、設備投資を考えれば1台のロボットで複数の作業をさせないと投資効率が悪いのである。ところがロボットに複数の複雑な作業をさせようとすると途端に効率が悪くなるのである。ロボットが一つの動作から次の動作に変わるとき、判断業務が必要であり、それにかかる時間は人間よりかなり遅いのである。

そこで、ホット&ナウは現存のフライヤーとリーチイン冷凍庫を組み合わせ、ロボットでなくフライ作業を分解し、直線の作業を機械化することを目指したのである。

フレンチフライの作業を考えて見よう。
まずフレンチフライのオーダーを3ついれる。
図のアームがバスケットを横のレールまで持ち上げる。
横移動のアームに移しかえる。
横移動のアームがバスケットを左側の冷凍庫まで移動する。
冷凍庫内部のバスケットに入った冷凍ポテトをオーダー分だけ傾けてスライドさせ
においてあるバスケットに入れる。
バスケットを元のフライヤーまで元に戻し、静かに油の中に入れる。
油の温度、時間は各フライヤーのコンピューターが管理する。30秒後にアームが
バスケットを上下に揺らし、内部の冷凍ポテトがほぐれて良く火が通るようにする。
3分間位経過し出来上がったことをコンピューターが判断し、アームに教える。
アームはバスケットをつかみ油から上げる。
30秒ほど油の上で油をきり
右のバギングステーションまで移動し、バスケットを傾けポテトを開ける。
バスケットを自動的に元の位置に戻す。
塩を振り、かき混ぜ、紙容器に詰める作業は人間が実施する。この作業まで機械化すると、もっと高度なロボットが必要で、作業スピードはかえって遅くなるのである。

作動部分はフライヤー上部のみであり、アルバイトの人間と交差する事がなく安全である。唯一危険なのは、バギングステーションで作業中にバスケットがきて手に触れて火傷をする事であるが。バスケットが来るときにブザーを鳴らすか、センサーで人間が作業中は途中で止まって待つようにする事が可能である。

このシステムは従来のシステムに簡単な稼働部分の追加ですみ現実的な考え方である。3台のフライヤーと冷凍庫のセットで300万円くらいで販売する事を目指している。

また、自動のフイルタリングマシンを内蔵し、必要に応じて油をろ過し、品質を常時最高にしておけるし、内蔵のコンピューターを活用し故障診断、カリブレーション(温度調節など)を自動化できるのである。

今後さらに開発する必要があるのは,POSにオーダーを入れた時点で自動的にフライを開始するシステムである。さらには、過去の売上実績から当日の売上予測をし、自動的にフライし、お客様を待たせずかつ、廃棄商品も無いようにする事である。

現在の労働人口と人件費を考えるとまだ人間を使用する方が安いが、10年後を考えると本当に必要になるのである。また、出店をガソリンスタンドやコンビニエンスストアーの中などに広げると、人手が無くてもできるシステムが必要なのである。タコベルとホット&ナウでは単なるコストダウンのみでなく、必要なら積極的な投資も考えており常に業界の一歩先を走っているのである。

(なお、今月号のファーストフードの調理機器の知識の中でホット&ナウの厨房のレイアウトを載せてあるので参考にされたい。)

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