キッチンスタディー 冷却基本原理と空調機器(柴田書店 月刊食堂1993年10月号)

キッチンの能力を高める最新機器の知識

キッチンスタディー第十回

冷却機

厨房機器はガスレンジ、グリドル、フライヤー等の加熱機器と、冷蔵、冷凍庫、製氷機、空調機等の冷却機器に大別する事が出来る。ガス、電気の加熱機器の故障は調理する事が出来なくなる事ですぐわかる。冷却機器の場合は完全に故障すれば冷却しなくなるので問題を発見できるが、徐々に能力が落ちたりした場合は故障を発見しにくい。冷却機の故障は外から見ただけではうまく動いているかどうかわかりにくいのである。

今回は、冷却機の冷却原理と各種の冷却機器の構造や注意する点を見てみよう。

冷却原理
図1の様に、フレオンガスをコンプレーサーで圧縮する。圧縮され高温高圧のガスになり、コンデンサーに送られる。コンデンサーで冷却されて低温で高圧の液体になる。次にドライヤーで水分などの不純物をろ過し、エキスパンションバルブ(蒸発弁)にいく。エキスパンションバルブで、液体は気化し低温低圧のガスになる。そのガスがエバポレーターを通り、そこに存在する熱を奪い、中温低圧のガスになる。それから再びコンプレーサーで圧縮され次のサイクルが始まるのである。以上が冷却サイクルであり、この構造をよく理解する事が機器を正しく使う上で重要である。冷蔵庫、コーラディスペンサー、製氷機、シェイクマシン、アイスクリームマシン、空調機等はまったく同じ冷却原理を使用する。違いは、エバポレーターの冷却部分の形状と、コンデンサーが空冷か水冷か、一体型かリモート型か、冷却温度により異なるフレオンガスの使用等である。

フレオンガスの低圧の圧力は蒸発圧力と言い、温度に影響する。そのためアイスクリームなどの負荷の高い機器の場合にはその調整が必要になる。高圧はコンプレッサーで圧縮されたガスの圧力である。設定以上の負荷をかけた時とか、コンデンサーが目詰まりを起こし、冷却が十分にされていない場合に圧力が高くなり、更にコンプレッサーで圧縮すると負荷がかかり、場合によってはコンプレッサーが焼ききれる事がある。一般的に圧力が上がりすぎるとコンプレッサーを保護するために高圧カットが働き機械の作動を中止する。また、コンプレッサーの温度が上がりすぎた時にも、作動を中止する温度センサーや電流値感知のサーマルをつけて保護している。冷却機器が止まり、リセットで動かす前に、コンデンサーの冷却は旨くいっているか確認しないと、コンプレーッサーを焼き切る事になるので注意していただきたい。機械が壊れるに至らなくても、電気代の使用料が大幅に増え、商品の品質が悪化するので、定期的なメインテナンスは重要である。

空調機
飲食店で最も大型の冷却機器は空調機である。厨房機器も需要であるが、空調機は最も重要な機器である。暑い夏に汗をかきかき店舗に冷を求めて入っても、もし店内が暑かったらそのまま出ていってしまうし、かりに我慢して飲食したとしても食欲が出ず売上は上がらないだろう。

従業員も厨房が暑ければ定着性が落ちるし、仕事のモラルも高まらないのである。飲食店の厨房で働く事は、空調が効かず暑いので、現在では3Kの代表的な職場と思われているのである。今後労働人口が減少していく中で、厨房の労働環境を改善して行かないとこの景気が快復した時に、また、バブルの時と同じか、それ以上に深刻な人手不足になるであろう。

(1)必要な空調冷房負荷の計算
従来、厨房の空調が十分に働き、夏場でも客席と同じ温度になっている飲食店はほとんどなかった。その最大の理由は空調などの設備を設計するのは厨房の設計士でなく、設備の設計士であると言う事である。筆者の経験によると、設備の設計士は実際の現場を知らず一般的な空調負荷で設計をしてしまうのが多いのである。最近ある厨房の設計に関わったが、その打ち合わせの際に、空調負荷を話し合ったのである。その時驚いた事に、空調負荷を1平方メートル当たり150kcalしか見ていなかった事である。そこでなぜ150kcalですかと訊ねたところ、事務所の負荷ですと答えられたのには絶句してしまったのである。営業と言えども、空調負荷の計算をわからないといけないと思った次第である。
しかしながら空調の計算と言うと、難解な専門用語が多く、それで閉口している人が多いと思うので、以下にわかりやすく説明する。筆者も専門家ではないので誤りがあったら許して戴きたい。

空調負荷は顕熱負荷と潜熱負荷に区分される。顕熱は空気の温度の上昇や下降に関わる熱で、潜熱は空気中の水分が水蒸気に、水蒸気が凝縮水へ、それぞれの状態の変化にともなって必要になる熱をいう。簡単にいうと室内の空気の湿度を上下する熱量が潜熱である。

人が室内にいると体温が直接室温を上げる働きをする。これが顕熱である。次に人は汗をかき、その汗が蒸発し室内の空気に含まれる。そうすると室内の湿度が上がり、暑さを感じる。これが潜熱である。つまり、一つの熱源で二つの熱の計算が必要になる場合があるのである。特に調理器具の換気により発生する外気の導入の際、顕熱と潜熱を考える必要がある。

空調負荷の計算は以下の要素を考えなければいけない。飲食業の場合、その形態から暖房時より冷房時の問題の方が多いので、冷房についてのみ考える。

<冷房負荷>
冷房負荷とは冷却と減湿する為に、必要な熱量のことを言い、各種に分かれる。以下にその種類を述べる。
<1>太陽輻射熱
窓ガラスを通して入ってくる日射による熱で、全て顕熱として計算する。計算は窓ガラスの総面積に標準日射熱取得量をかける。例えば西向きの場合1平方メートル当たりの1日のカロリー数は2394kcalにもなる。天井にガラス窓がある場合は5718kcalになるのである。ガラス窓には必ずブラインドを使用して熱を遮る必要がある。
計算式

外部の輻射熱による取得熱量=ガラス面積(m2)×遮へい係数×標準日射熱取得量

<2>伝導熱
窓ガラスや、壁、天井、床から、内部の温度差により侵入してくる熱で全て顕熱として計算する。
計算式

取得熱量=熱貫流率K×壁体の面積×温度差

<3>照明熱
照明器具より発生する熱量で照明器具1kw当たり白熱灯で860kcal、蛍光灯で1000kcalで計算する。顕熱である。一般的に1平方メートル当たり30kcal位である。
<4>人体熱
先ほど述べたように、顕熱と潜熱の両方が考えられる。一人当たり事務作業で120kcal、厨房で働く人で場合によっては200kcalの熱量がある。
<5>換気負荷
厨房器具の燃焼にともない排気をしなければならない。排気をすることにより厨房に新鮮な空気を導入しそれを冷却する熱量が必要になる。
まず、厨房の温度を何度にコントロールするのか決める。客席と同じ環境にするのなら、26ー27℃である。一般的に外気温より5℃下げるが、東京地方の外気温は32℃ になるので厨房の温度は27℃となる。

次に外気と空調後の相対湿度を設定する。夏場の外気湿度は65%位であるが、室内は50~60%位とする。調理用厨房機器の排気風量を補うため外部から同量よりやや多い外気を導入する。その量を決める。例えば、外気は夏であると32℃になるが それを27℃にするには5℃下げなければならない。その場合、顕熱潜熱と両方を計算する。

換気による損失熱(顕熱)=0.288×風量×室内外の温度差

換気による損失熱(潜熱)=715×風量×外気と内気の絶対湿度差

厨房の設計で重要なのは換気回数である。現在の換気回数は40~20位であるがこれは、換気フードの設計によって変わる。排気回数が少なくなる事は空調負荷が大きく減少するので設計の際には充分に検討する必要がある。今後、燃焼ガスを直接排気する事により換気回数を更に下げる事を検討する必要があると思われる。 なお、客席の換気とトイレの換気も忘れてはならない。

<6>調理器具の輻射熱と燃焼空気熱
グリル、フライヤー、レンジ等を加熱する際にガスの燃焼空気が厨房の空気中に混入し温度を上昇する。また、加熱部分の熱が輻射熱となり空気や作業者を直接加熱する。
機器毎の燃焼効率により発熱量は異なる。各機器の燃焼効率が良い物の方が熱負荷が少なくなる。また、なるべくオーブン等やスチーマー等の密閉加熱方式の調理機器を使用し輻射熱や、燃焼空気が直接作業者に当たらない工夫が必要である。次に厨房で負荷が高いのは空気中に蒸気を発散させる機器である。セイロで蒸したり、鍋で湯を沸かし放したり、作業中に床に水を出し放しにして置くと、空気中の蒸気量が多くなり潜熱の負担が多くなる。厨房はドライキッチンにし、蒸気の発生する機器は必要なときだけ使用する等の工夫で、厨房の作業は大幅に改善出来るのである。

以上のように計算するのであるが、やや面倒であるので、チェーン等のように厨房機器の数が決まり、排気風量が一定の時には、厨房の面積と客席の面積、に応じて簡単に計算する事がある。一般的に人の出入りの多い

ファーストフードタイプの店舗では厨房の場合、1平方メートル当たり400ー600kcalを考える。客席は250ー400kcal位である。これは店舗の厨房機器の数と排気風量により大きく異なるが、少なくとも事務所の基準の150kcalではとても暑くてたまらないのである。

(2)空調機の種類
<室外機>
空調機は室外機と室内機で構成される。図1のコンデンサーに当たる部分が室外機である。一般的に水冷か空冷である。以前は水冷のクーリングタワーを使用するのが多かったが、水のメインテナンスが大変であり、近年では飲食店などの小型の建物では空冷のタイプが多くなっている。空冷の場合ヒートポンプタイプが一般的になってきた。ヒートポンプとは簡単に言うと、コンデンサーの部分が夏場には放熱し、エバポレーター部分が冷却され、そこに空気を循環させ室内を冷却する。冬場にはガスの流れを代えコンデンサー部分で冷風を外に出し、エバポレーター部分で温風を出し暖房する仕組みである。ヒートポンプ式は一般的に電気で作動するが最近ガスヒートポンプ方式が出てきた。これは室外機の部分のコンプレッサーの駆動を電気モーターでなく、ガス燃焼エンジンで行う物であり、電気容量に余裕が無い時には有効な機種である。まだ余り普及していないので、機械の値段が高いのが欠点である。
空冷式の室外機の設置に気をつけないと冷却が充分に効かない事があるので注意されたい。特に複数の室外機を置く時には、室外機から出た温風が他の室外機のコンデンサーに吸い込まれないように充分距離を空ける必要がある。さもないと、吸い込みの温度がどんどん上昇し、機械に負担をかけ、電気代が高いのに、冷えないという問題が発生し、機械の寿命も短くなる。コンデンサーの冷却風を横に排気するタイプと、下から吸い込み上に排気するタイプがある。上に排気するタイプの方が他のコンデンサーに与える影響は少ない。室外機の周囲は遮蔽物がなく風通りが良くなくてはならない。また、上に屋根等があるとそこで排気がUターンし再度吸い込まれるショートサーキットを起こし易いので注意されたい。

<室内機>
室内機は以下に述べるように4種類ある。機種による構造を図を元に説明する。
<1>床置き型室内機
従来最も一般的に使用されていたタイプである。図2 コンプレッサーが内蔵であり、水冷のクーリングタワーの場合はコンデンサーに冷水が来て、フレオンガスを冷却し凝縮する。空冷の場合はフレオンガスを室外機に送り空冷のコンデンサーで冷却する。このタイプの室内機は信頼性が高くメインテナンスがし易い。特にサイドのパネルを取れば殆どのメインテナンスが可能である。室内機で重要なのは、フィルター、エバポレーターの清掃と、ファンベルトの交換である。床面積を取ると言う問題があるが、厨房で使用する室内機はこのタイプを使用するべきである。厨房の場合は排気に伴い新鮮空気の供給が必要であるが、このタイプは充分に供給できるので良い。
<2>天井隠ぺい型室内機
限られたスペースを有効に使いたいと言うユーザーの要望により、近年室内機を天井内に釣り下げる天井隠ぺい型が使用され出した。床置き型と異なり、コンプレッサーは室外機に置かれる。室内機はファンとエバポレーターのみの構造であり、冷却されたフレオンガスは室外機より送られてくる。
スペースを節約出来るので良いように思われるが、メインテナンス性は最悪である。特にファンベルトの交換は悪夢のようである。また、大きな室内機と、新鮮空気と供給空気のダクトが天井内で交錯し、エバポレーターの清掃は難易である。設計の際注意しないと、エバポレーターの清掃用の作業穴を開けていなかったり、天井の点検穴を開けていないばあいがあり、清掃作業が出来ない事がある。このタイプはなるべく厨房で使用しない方が望ましい。

<3>天井カセット型室内機
現在かなり普及しているタイプである。天井隠ぺい型と似ているが、違いは室内機の下部のリターンエアーの吸い込み口が露出している事である。図4。この図で分かるように一般的に新鮮空気の供給は行われない。新鮮空気を供給する場合でも、風量を充分にとる事は出来ない。新鮮空気を導入するときには一般的に新鮮空気を別に取り入れる場合が多い。
このタイプの室内機は元々事務所用に設計された物であり、その為フィルターは簡単な塵を取るような目の荒い物であり、厨房の調理の時に発生するオイルミストを除去する事が出来ず、エバポレーターに汚れが付着する事が多い。その為厨房で使用する事はかなり問題が発生するので注意されたい。オイルミストを良く取れるタイプのフィルターに代える事は、機械自体のファンの静圧が不足し、かえって風量が減少し、機械に負担をかける事になるのでしてはならない。

エバポレーターの清掃性はかなり悪く、場合によってはファンモーターを外さないと、清掃できない機種もある。一般的に店舗で清掃する事は余りお勧めできない。従来、業者も清掃方法が分からず苦労したが、最近は清掃を請け負う大手業者が出てきた。清掃代は1台当たり、3万円から5万円の間であり、年に1回の清掃は必要である。

なお、エバポレーターの部分で空気中の余分な水分は露結し、水となり排水される。このタイプの場合、拡大図の様に、水の傾斜が取れないため、一回水をタンクに貯め、一定量の水が貯まったら排水ポンプを作動させ、水を汲み上げ、勾配を作り出し排水する。 このポンプに水垢が詰まり、室内機の作動がしなくなるトラブルが多い。

このタイプの室内機はメーカーによる清掃性の差がかなりあり、また、モデルチェンジが激しい為、購入する際には清掃性を充分確認しなければならない。

<4>屋上置き一体型空調機
米国に旅行された方はご存知と思うが、ファーストフードやコーヒーショップ等は平屋であり、その屋根の上に四角い空調機が乗っている。これは米国で一般的に使われる空調機で室内機と室外機が一体になっている物である。この空調機は冷風を作りだし、それを屋根を貫通したダクトで送り、室内を冷却する。冷却後の空気はダクトで再度屋上に送られ、エバポレーターで冷却される。図5
このタイプのメリットは全部一体型であり、メインテナンスが容易である。床置き型もメインテナンスが容易であるが、営業中に清掃する事は出来ない。このタイプは営業中であっても複数の機械があれば、一つづつ清掃する事が可能であるし、お客様に対して見苦しくない。

また、春や秋など余り暑くない場合、新鮮な空気をダンパーで100%取り入れる事で充分冷却できるので経済的である。

最近日本でも海外の輸出向けの機種を国内に販売するようになった。特に平屋の郊外型の店舗の厨房に向いているので検討されたい。

欠点は、まだ機種が少ないので値段が高く、また、屋根に置くので強度を最初から計算しておく必要がある等、設計をきちんとしないとならない。

空調機のメインテナンス
どんなに設計や設備の良い空調機であっても、メインテナンスを怠れば、冷却しなくなり、ひどいと故障し修理代も多くかかる。従業員ばかりでなくお客様にも不快な思いをさせ売上に大きな影響を与える。 メインテナンスというと業者に任せると思うようであるが、店舗でも簡単に出来るのである。業者のメインテナンスは年に1回位であり、簡単な清掃、点検は店舗でやらないとならない。

<1>室外機
<水冷のタイプ>
年に一回、使用開始の前に水のラインを酸性薬品で洗浄する。水にはカルシウム、マグネシウム等が含まれており、それがパイプ内部に付着し、冷却効率を落とすからである。
厨房の排気がそばにある場合など、内部に油分が付着するので、アルカリ洗浄も併せて実施する。洗剤は洗浄の業者に水質や汚れの状態を見てもらい決める。室外機の使用負荷によっては、月に一回位の洗浄が必要である。

夏が終わり、使用しなくなったら、再度洗浄し、周囲をカバーし、塵や木の葉が入らないようにする。

<空冷タイプ>
空冷は、コンデンサーの清掃をする。年に数回の洗浄が必要である。洗浄用の水と洗剤を墳霧する機械で洗浄する。一般的に中性洗剤か、汚れがひどい時にはアルカリ性の洗剤を使用する。もし冷却が充分でない時には、コンデンサーの吸い込み温度と、排気温度を計測する。
<2>室内機
エバポレーターにはフィルターが付いているが、1週間に1回は清掃する事。痛んでいたら、交換する。それでも年に1回以上はエバポレーターを洗浄する必要がある。洗浄をしないと冷却しないばかりか、冷却のフレオンガスが液体のままコンプレッサーに戻りコンプレッサーを壊す事になる。気体は圧縮できるが、液体は圧縮できない。フレオンガスが液体で戻る事をリキッドバックと言う。コンデンサーの清掃が悪くガスの冷却が充分にされないときにもコンプレッサーに負担をかけるが、リキッドバックの場合にはコンプレッサーを完全に壊すので注意されたい。
床置き型や、屋上置き型の空調機は清掃し易いが、天井隠ぺい型や天井カセット型は清掃し難く、業者に依頼する事をお勧めする。 自分達で清掃するときには、電装関係に水をかけないように充分注意して行う事。

室内機は、エバポレーターを通過する風量が多いので、一般的にモーターから、ファンベルトを経由して回転させる。ファンベルトが緩んだり、切れると回転は伝わらないので、年に1回点検し、必要なら交換する。一般的に最低2年毎は交換するべきである。

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