コンビニエンスストアー店内調理の分析(商業界 月刊コンビニ2004年7月号)

1)始めに
外食産業の売上は29兆円をピークから微減し現在では26兆円を切るレベルまで低下している。景気の低迷という面もあるが、コンビニや食品スーパーの持ち帰り惣菜との競合が大きな原因だ。ファスト・フード最大手のマクドナルドは毎年ベンチマークサーベイというマーケティング・リサーチを行っている。消費者の動向、嗜好、競合の利用状況、自社に対する評価などを創業時より詳細に分析したものだ。それによると当初の競合は同じハンバーガーやファスト・フード業界であったが、15年ほど前よりコンビニの調理済み食品が最大の競合となっており、その激しさは年々大きくなっている。マクドナルドが65円ハンバーガーを打ち出したのはコンビニ対策という側面もあったのだ。
ファスト・フードが成長した最大の利点は注文後1分以内で料理を提供するというサービス速度の速さと、持ち帰りが容易という簡便さだ。しかし、注文後1分以内という速度をうたい文句にしているが、昼時などのピーク時には注文をするまで行列を作らなくてはいけないと言うデメリットがある。ファスト・フードといえどもあくまでも店内調理であり、ピーク時には調理やサービスに充分な人員が必要なのだ。
コンビニの最大のメリットは店内に入ってから、出来上がっている弁当や調理済み惣菜を取り上げ、レジで精算するという作業を4分以内で殆ど待たずにできるという事だ。この利便性がマクドナルドなどのファスト・フードの最大の脅威と言える。
しかし、利便性の反面、調理済みの弁当であると言うことで、出来たてでなく冷たい、食品添加物などの安全性という欠点がある。さらに、コンビニの出店が飽和状態になり競合にうち勝つために、味や温度の優れている店内調理に挑戦をするようになってきている。幾つかのコンビニチェーンが店内調理に挑戦をしているのでそのうち3社の視察と分析を行ってみた。

2)店舗の視察と考察

① デイリーヤマザキ・ホットステーション・
足立島根4丁目店 足立区島根4-1-9(最寄り駅は東武伊勢崎線西新
井駅、旧日光街道沿) 店舗面積72.4坪、売場面積52.1坪、厨房面積9.8坪、席数20
席、駐車場12台
今回視察の3店舗のうちで最もお金をかけた店舗である。立地も素晴らしく通りを隔てたセブンイレブンはデイリーヤマザキが出店するまで日商150万円を誇る店であった。その強力なセブンイレブンを圧倒しているのがこのデイリーヤマザキの店舗だ。
山崎製パンが母胎であるという面を最大限に生かした店舗で、店内には大型のカウンターがあり、3台のレジスターと電子レンジ、ソフトクリームマシン、エスプレッソマシンが並び、大型のファスト・フードの趣の素晴らしい店舗である。カウンターの後ろにはインストアーベーカリーと弁当の厨房が分かれて設置されており、ガラス張りで店舗に入った客に出来たてのパンや弁当を作っているという事を強調し、店内調理であることを目立たせている。焼き立てパンは食品スーパーなどのインストアーベーカリーよりも陳列場所は狭いが40種類ほどの豊富な種類を並べている。そこには店内調理をした弁当も10種類ほど並べている。イートインスペースは20席を備え出来たての弁当やパン、エスプレッソなどのドリンクを楽しめる。
ベーカリーのキッチンはデッキオーブンが2台、コンベクションオーブンが1台、リターダー1台、フライヤー1台が並べられ、3名がパン造りにあたっている。弁当用のキッチンはフライヤー1台、電子レンジ2台、シーラー1台、その他冷蔵冷凍庫。
カツ重弁当とスープ、エスプレッソを注文してみた。カツ重は注文後、冷凍のとんかつ(100g程度)を8分ほどかけて揚げる。あがったとんかつを包丁でカットし、スライス玉葱をタッパーウエアーに敷き、その上にカットしたとんかつを並べる。そしてたれと卵液を入れ、電子レンジで1分ほど加熱する。合計13分ほどで出来上がった。スープも同じく電子レンジで加熱する。カツ重のボリュームと味はなかなかの物ではあるが、調理時間が10分を越えるのはコンビニに要求する迅速性とは共存できないし、ファスト・フードは勿論、ファミリーレストランにも勝てないだろう。
もう一つの欠点はインストアーベーカリーと弁当製造部門を別の厨房で作業していることであり、ピーク時の人員は忙しいファスト・フード並に必要である。当日はベーカリーが3名、弁当に3名、レジに4名、外に1名と何と11名も働いている。売上は確かに高いが、このオペレーションは直営のフラッグシップ店舗では可能であるが、トレーニングの難しさと人件費とからみると一般的でないだろう。

②ローソン鶴見駒岡一丁目店 横浜市鶴見区駒岡1-28-8(環状2号線沿) (できたて)
弁当提供時間10時~23時
3店の中では最もローテクの店舗だ。コンビニにオリジン弁当やほっかほか亭などの調理場をつけたという形態だ。キッチンはほっかほか亭レベルの調理設備しかないので、設備投資は最も少ないだろう。
以前、ミニストップが店内にオリジン弁当の売り場を併設したコンボストアーの実験を行ったが、コンビニとほっかほか亭の組合せと言うところだ。温かい弁当を提供するという意味ではなかなか良いアイディアだ。
唐揚げ弁当と焼き魚弁当を注文した。カウンターの後ろにあるガラス張りの厨房で作り始めた。2つの弁当が出来上がるのに8分ほど時間が必要であった。焼き物器やフライヤーはローコストの物であり、それが原因で調理時間が長いのだ。この調理時間は暇な時間帯の注文であり、これが平日のランチタイムであれば注文が殺到し、サービス提供時間は10分を楽に超えるだろう。また、注文をして待つスペースが狭いので待つ客は嫌がり、売上を取ることが難しい。注文後製造するテイクアウト弁当は注文後の調理時間がかかるので、充分なウエーティングスペースを設置しないと販売チャンスを失ってしまう。ただし、提供時間が長いだけあって、鯖の塩焼きや鶏から揚げの品質は良かった。
包装材料はこだわりを持ち、丸い容器を崩れないように組み合わせられるようになっているが、その分コスト高だろう。通常の四角い弁当形状のほうが、作業性が良く提供時間を短縮できるだろう。
厨房設備は4枚扉のリーチイン冷蔵庫が1台、同じく4枚扉のリーチイン冷凍庫が1台。アンダーカウンター冷蔵庫1台(作業台として使用)フライヤー2台、上火焼きリンナイペット1台、カツ丼ようの電磁調理器1台。と簡素な設備だ。
コンビニのレジに2名、弁当の調理に2名と3店の中では最も売上が低いためか、作業人数も少ない。しかし、それでも一般的なコンビニと比べると2倍の人数が必要だ

③APスタイル AM/PM本社横
スターバックスなどのコーヒーショップに簡便なインストアーベーカリーを組み合わせた一番簡便なスタイルである。このスタイルは都心立地で可能な物であり、郊外立地のコンビニには不向きであるが、Am/pmは都心立地が多いので良いのだろう。
和風の弁当を提供しないので、調理時間は最も早い。マイクロウエーブと温風を組み合わせたコンビネーションレンジを2台使用し、サンドイッチを高速に加熱できるようにしている。
パン類は冷凍生地を店内で解凍発酵させ焼き上げるペイストリーと、調理済みのサンドイッチを提供している。細長い面積のために一階がカウンターと4席の客席、2,3階は客席という形態で、3店のなかでは限りなく外食に近いだろう。
カウンターに並んだ客が見て選べるように、焼き上げたてのペイストリーと包装済みのサンドイッチを並べている。サンドイッチは冷たいまま食べるものと、加熱して温かく提供する物に分かれている。冷たいサンドイッチは客が注文するとそのまま提供するが、温めるサンドイッチは一度パンと具材を別にして、コンビネーションレンジで1分ほど加熱する。外側がパリッとし、中も温かく提供できる。ただし、野菜が一緒に入っている物は野菜を一度取り外し、具材とパンを加熱し、ソースやマヨネーズなどを加熱したパンや具材にかけて、野菜を入れ直し組み立てるという手間がかかる。それでも1分半となかなか迅速なサービスを可能にしているのはさすがだ。
冷凍パンを製造するのは1名、レジに3名、サンドイッチを加熱調理するのは1名、外のマネージャーが1名とアイドルタイムであったが6名が作業を行っており、一般的なグルメコーヒーショップよりも生産性が低いといえる。
調理機器は小型のホイロとオーブンが一台づつ、コンビネーションオーブン2台、エスプレッソマシン1台、ジュースマシン1台、その他冷凍冷蔵庫、ショーケースと言うシンプルな装備だ。

3)まとめ
コンビニの店内調理の課題は提供時間が長い、人事生産性が低い、設備投資が高い、より長時間の教育が必要、商圏が異なる、と言う5点だ。
<1>調理システム
コンビニはベンダーの工場における調理技術は大変高いが、店内での調理に関しては殆ど知識がないといえる。コンビニの最大の強みは店内に入ってから4分以内に必要ない物を買えると言うことであり、ファスト・フードと競合するためには注文後料理を1分以内に提供できる仕組みが必要だ。注文後1分以内に熱々の料理を提供するにはかなりの技術が必要になる。
マクドナルドやKFC、ミスタードーナツなどの調理システムは、店舗で専用の高速調理機器や、高精度の保温システムを使用し、注文後1分以内に提供できるようにしている。ファスト・フードの調理システムは小型の店舗であっても1000万円以上の設備が必要であり、規模が大きくなると2000万円を超える投資を行うのが一般的だ。それらの調理機器はチェーン向けの専用機器であり、食材を高速で調理できるようにしている。
ミスタードーナツは冷凍生地を解凍発酵して揚げてドーナツを作り、できてからの賞味期限が数時間と長い、店内で加熱調理する点心類は高速の解凍加熱器を自社開発し使用している。KFCは生の鶏を自社特許の圧力フライヤーで15分で揚げ、2時間の保温をできるようにしているので、注文後1分以内に提供できるのだ。マクドナルドは通常は2分以上かかるハンバーガー・パティの焼き上げを両面から焼き上げるクラムシェルグリドルを開発し1分以内に調理できるようにした。さらに特許の保温機器を使用し焼き上げたパティ(肉)や揚げ物を保温し、20秒で焼き上げることのできる高速トースターを使用し、注文後1分以内に熱々のハンバーガーを提供できるようにしている。ファスト・フード各社はそれぞれ調理法に付いては特許などを取得した専用の調理機器を使用するなど調理時間の短縮には懸命なのだ。

<2>人事生産性が低い
従来の店舗の最低でも倍は必要である。この原因は原材料の加工方法と自動化の調理システムにより改善できるが、そのためにはより専門的な開発に取り組むべきだろう。現段階では素人の開発した調理システムとしか言いようがない。

<3>長時間の教育が必要
外食に比べコンビニのマニュアルは簡素であり、ファスト・フードチェーンに比べると1/10程度のマニュアルの分量だ。それだけ販売する商品の完成度が高いのだ。しかし、調理を行うとなると原材料の受け取り、保管、調理、賞味期限、衛生管理、清掃など細かい教育が必要になる。それを怠ると食中毒の危険があるからだ。しかも、メニュー改訂を頻繁に行うコンビニでは、そのたびに教育が必要となり、従来とは全く異なる教育システムを構築せざるを得ないだろう。

<4>設備投資が高い
店内調理を行うためには最低でも数百万円の厨房投資と15坪の増床が必要でありかなりのコストアップ要因だ。デイリーヤマザキ・ホットステーションの場合には通常のコンビニには必要のない受電設備まで必要で、高価なベーカリー機器を考えると通常の店舗に2000万円前後の追加投資をしている物と思われる。
インストアーベーカリーは冷えてから提供することが可能であり、出来たて感、手作り感があるにも関わらず、サービス速度は最も早く、コンビニにとって最適であると言える。しかし、ベーカリー機器メーカーの競合が少ないため設備投資が大変高い。また、冷凍生地を供給できる製パン企業は少なく、原価が大変高く利益率には貢献しないと言う問題も抱えている。

<5>商圏が異なる
もう一つの問題は、マクドナルドなどの洋風ファスト・フードが商圏人口3万人、オリジン弁当などの和風惣菜弁当が商圏人口は1万人必要であるが、コンビニは2500人で成立するという商圏人口の違いである。それは日常的な食品を提供しなければならないことを意味し、オリジン弁当よりも安価で食べやすい弁当や惣菜の開発が必要であり、そのためには難しい和風惣菜調理システムを構築しなければならない。

最後に、

現在は店内調理へのテストマーケティングという段階だろう。以上のように色々問題点を指摘したが、デイリーヤマザキ・ホットステーションの目前のセブンイレブンを圧倒するお店の活気には注目されられる。地元に密着した、日常食である和風弁当や和風惣菜をキチンと製造できるようになれば、これからの老齢化社会のニーズに応えることが可能だろう。外食企業の新たな脅威となる可能性のある注目される業態と言える。

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