サークルKサンクスの新業態 Fork Talk(商業界 月刊コンビニ2006年10月号)

サークルKサンクスが2006年9月27日東京駅八重洲口側に新業態店舗「Fork Talk」をオープンした。従来のコンビニは若い男性客が中心であったが、周辺で働く20代~30代の女性をメーンターゲットに設定しているという。開店翌日の28日に出張帰りの夜に店舗を訪問した。何処にあるのだろうと歩いていたら、明るいお洒落なお店が開いており思わず店内に入ってしまった。それがFork Talkだった。化粧品販売店のような雰囲気のお店であった。基調はグリーンと白を基調とした色使いは外食では見られないお洒落な雰囲気を醸し出している。
売り物はインストアー・ベーカリーと店内調理のパスタだ。入り口を入って右側に22席の客席を備えている。その奥にレジカウンター、一番奥がインストアーベーカリーのキッチンだ。パスタのキッチンはレジカウンターのさらに奥に位置している。パスタのコーナーでは8種類のパスタ、サラダ、スープ、エスプレッソタイプのコーヒー、がある。
最近はローソン,am/pm、デイリー山崎などが店内調理のお弁当などに挑戦しているが、どれも調理時間が長くて成功していない。今回のチェックは調理時間と品質だ。
サークルKサンクスは店内調理には随分早く挑戦している。お茶の水エリアの実験店ではだいぶ前に米国の軍事産業が開発したターボシェフと言う高速調理機器(大変高価でもある)を導入して、店内調理に挑戦をしていた。その頃から店内調理にはスピードが重要だと言うことを認識していたようだ。
今回感心したのはメニューを若い女性向けに絞り込んだことだ。筆者も4つほどの大学で教えており、学食の利用状況を調査したことがある。筆者の教えている大学は女子学生が多いが、その食事は焼きたてパン又はお握りと、サラダ、清涼飲料水の組み合わせが多かった。学食では定食などは食べず、パスタやラーメンなどが中心だ。このような若い女性の好みを的確に分析し、それらをターゲットに焼きたてパンとパスタに絞りこんだのは素晴らしいと思う。ローソンキッチンの場合和風弁当や洋風丼に挑戦したが、調理時間が長すぎたと言う欠点をかかえていたが、今回のパスタの場合2分から3分で完成すると言う。早速注文してみることにした。
28日夜9時に訪問し、海老のクリームソースパスタと茄子のミートソースパスタを注文した。客席には8人ほどが座っていたが、カウンターに並んだのは筆者一人であった。パスタは注文後2分50秒で出来上がった。その他、インストアーベーカリカーからカレーパンを取り、別途スープを注文したが、スープは提供まで2分かかった。
暇な時間にはかなり早く提供できるようだが、編集長が忙しい時間に訪問した際には20分以上かかったと言う。そこで、再度10月5日の平日の昼に訪問した。生憎の雨で店舗は余り客が多くはないが、ひっきりなしに女性客が訪れている。今回は和風たらこスパゲティとサラダ、ドリンクセット、ミネストローネスープを注文した。客席には15名ほど座って食事をしていた。スパゲティは注文後5分44秒で提供された。しかし、残念なことにカウンターの担当者がミネストローネスープを忘れ、さらに2分ほど待たされた。
パスタの調理時間が前回より延びているが、これは調理システムの問題だろう。厨房内には5名ほどが働いている。カウンターとフロアーには5名、インストアー・ベーカリーには4名と言う配置だ。
パスタの品質は28日にはしっかりとアルデンテであったが、10月5日はやや柔らかすぎた。厨房内は外から見えないようになっているが、出来上がり状態を見てみると冷凍のパスタを専用の蒸気スチーマーを使い、1分でスピード解凍加熱していると思われる。次に、加熱されたパスタを電磁調理器とフライパンでソースを合えているようだ。
このスチーマーはマクドナルドのバンズの加熱用に開発されたものであり、高速で使用方法が簡単でメインテナンスが容易であるというメリットがある。
パスタは480円から650円の価格帯で8種類そろえており、外食ではサイゼリヤ、ブイトーニ等と同列であり、味と品質はそれらと同レベルと評価してよいだろう。女性向けの淡白な味であり、男性にはやや物足りないかも知れないがターゲット的には問題ない。
売上目標であるが、日商75万円、インストア・ベーカリー、パスタ、コーヒーなど店内調理の売上げ構成比35%を目指すと言われている。インストアー・ベーカリーとパスタそれぞれ15%づつとすると、平均価格600円のパスタを1日187個販売すればよい。店舗所在地の周辺はオフィスが多く、売上の大半はランチに集中するだろう。仮に1日の売上個数の30%がランチに集中するとしても56個ほどであり、蒸気スチーマーは1分間で解凍加熱できるので、温度回復に同じ時間かかるとして1時間に60個の解凍加熱能力があるので問題がないだろう。推測では電磁調理機器は2台であるので、その部分のオペレーションがまだ慣れていないので、時間がかかっているようだ。もう少し慣れれば予定の売上げを上げるには問題がないだろうが、予測以上に注文が殺到すると待ち時間は5分を越えることが予想される。
これ以上の能力を増加するには蒸気スチーマーと電磁調理器の増設をすればよいが、作業面積が不足するし、人手も必要なので余り現実的ではないだろう。通常のパスタ専門店は冷凍のパスタであっても6つのパスタを同時に加熱調理できる麺茹器を使用し、ソースを絡ませるには4‾6つのバーナーを備えたガスコンロを使用する。これによりピーク時に対応するようにしているが、パスタ専門店でない同店の場合、現状の厨房設備はコンパクトでアルバイトにも使いやすく、なかなかバラスが良いと評価できるだろう。
ただし、普通のコンビニよりも調理機器と電気設備で1000万円以上もコストアップであり、それだけの投資を回収できるかが懸念される。食材コストを考えるとインストアー・ベーカリーの冷凍記事のコストが高いのが問題ではないかと思われる。ただし、冷凍パスタの売価と原価を考えると通常の弁当よりも合計の原価が低くなるので、収支的には他社の弁当店の併設よりも良いのではないかと思われる。

まだ、オペレーションに慣れていないのフェアーではないが、現状で気がついた他の、問題点を上げると

1)呼び出しの仕組み
カウンターで注文後数分かかるので、席について料理を待つ。料理が出来たことを知らせるために振動型のペイジャー(呼び出し器)を客に渡すが、気がつきにくいのでカウンターの従業員が大声をあげて客を呼ばなくてはいけない。しかも、カウンターより高い位置に客席があるのでカウンターから客を見つけるのが出来ず、余分な手間がかかっている。

2)パスタの温度
パスタの器が冷たいので、料理の熱々感がないのが残念だ。パスタを売り物にするのであれば、食器ウオーマーが欲しい。パスタ持ち帰りの場合品質の低下が予想される。テイクアウトには余り向いていない商品ではないだろうか。その点、焼き立てパンがテイクアウトの需要を満たすことが出来るので問題はないかもしれない。

3)客席の位置
客席のレイアウトが悪く、出入りが難しく客の導線がぶつかる。厨房やカウンターから客席が見渡せないので、客にとっては居心地が良く長居をする恐れがある。客席の回転効率を考えると、カウンターから見渡せる配置にした方が良いだろう。

4)内装材の質
店舗の内装はお洒落であるが、どうも外食店の設計をしたことのない設計者のようだ。油汚れの多い料理なので白の内装材の汚れが早いだろう。床の材質も目地など白いのであっという間に汚れが溜まり、イメージが変質しやすい。壁の下部に巾木を使っていないので、汚れが溜まりやすいし、モップなどで拭くと汚れがつきやすいだろう。内装材の評価は半年後に実施する必要がある。

5)安全性
入り口の段差が大きすぎ、事故の危険がある。周囲の店舗はスロープをつけたり、2段にしていることが多い。店舗前は遠距離高速バスの発着所になっており、夜遅くまで人通りが絶えない。昼は若い人の入店が多いが、夜間は高速バスを使用する年配者も見られ、店舗の入り口の安全性は必要不可欠だろう。

6)店舗の視認性
袖看板があるが、位置が高すぎ、小さいので視認性が悪い。夜間は明るくて目立つが、昼間は目立たないので、デザイン性も重要だが、やや距離の離れた場所からも見渡せるように袖看板のデザイン、大きさを設定するべきだろう。

総合的に見ると若い女性に絞込み、焼き立てパンとパスタと言う思い切りのよりメニュー構成は店舗の立地とぴったり適合していると評価できる。問題は店舗内の作業スペースが3つに分断され、多数の作業者が必要な現状を何処まで改善して、人件費率を下げるかと言うことであろう。このタイプの店舗は大都市のオフィス街にはぴったりと言えるが、採算性がこの店舗の将来を左右すると言っても良いだろう。

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