朝食マーケット(商業界 月刊コンビニ2008年9月号)

最近、ソトアサという言葉を聞くようになった。朝食を家の外で食べると言う消費形態だ。多くの外食チェーンは朝食メニューを開発して早朝から営業を開始するようになり、コンビニも朝食メニューを採用し、食品メーカーはそれらの動きに対応して朝食用の食品を開発しだした。
なぜ今、ソトアサなのだろうか?

1) 国の政策
<1>食育
日本人の食生活は大きく変化し、一人暮らし世帯の増加などで、家族で食卓を囲む機会は減り、栄養の偏りや欠食など食生活の乱れが深刻になってきた。
2006年に最初の食育白書によると、毎日一緒に夕食をとる家族の割合は1976年に36.5%だったのが、2004年には25.9%まで低下している。そして、朝食を食べない人の比率は年々上昇しており、2004年は10.5%で過去最高を記録。年代別では20が27.4%で最も多く、特に男性は3人に1人が食べていない実態が明らかになった。
小中学生の朝食の欠食率は3%程度にとどまっているが、2005年度の調査では小学生で2割、中学生で4割が自分ひとりで朝食をとっていることがわかった。その食生活は学力に大きな影響を与えている。2007年の文部科学省は全国学力テストによると、基本的な生活習慣がしっかり身に付き、朝食を毎日食べる子と全く食べない子では小学校の国語や中学校の数学平均正答率に大きな差が出ている。

食生活の乱れは子供だけでなく大人にも影響を与え、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)について「強く疑われる」と「予備軍と考えられる」を合わせた割合は、中高年(40~74歳)の男性で51.7%、女性で19.6%に上っている。

そこで、国は首相をトップにした食育推進会議を設け、教育担当の文部科学省や食の供給の農林水産省、健康の厚生労働省など、これまでバラバラの対策だった関係府省が一体になって2005年7月に食育基本法を施行し、国民一人ひとりが食に関する適切な判断力を身につけ、生活改善につなげることを目指し、食に関する色々なキャンペーンを展開している。具体的には、2010年度を目標に、食育への関心を高めたり、朝食を食べない国民の割合を減らしたり、偏った食生活の見直しを促し、食の乱れによる病気への知識を深めることで、生活習慣病などの予防も目指している。

<2>メタボ対策 カロリー摂取の形態
東京都が2007年末に実施した調査によると、食事をとらない人の割合は、朝食が24.5%、昼食は1.2%、夕食は0.4%だった。
県立広島大学の加藤秀夫教授は「一日に三食をきちんと食べても、太る人と太らない人がおり、朝食と夕食の量が違う」ことに気づいた。学生で調べると、一日の食事の半分を夕食でまかなう人は体重が増えた。これに対し、同量を朝食で済ます人は体重が変わらなかった。加藤教授は「一日としては同じ量でも、夕食で多く食べると太る結果になった」と説明している。
そこで、文部科学省は学童の早起きと朝食の薦めのために、「早寝早起き朝ごはん」全国協議会(http://www.hayanehayaoki.com/)を発足させている。

<3>朝食のマーケットサイズ
農水省の試算では朝食の欠食は約50億食、金額にして1兆5000億円もあると言う。外食産業の売上規模は現在約、25兆円であり、現在朝食を食べていない人が全員外で朝食をとれば売上が6%も上がることになる。
そこで、農水省が2007年暮れより、朝食をきちんと取ることやコメを中心とした日本型の食生活を普及・啓発するキャンペーン「めざましごはんキャンペーン」を実施している。タレントの優香さんをキャンペーンのシンボルとして起用。朝食の欠食率が高い若年層に訴求する。期間中は午後7~11時を中心に全国ネットでテレビCMも放送している。流通業向けには関連コーナーを店頭に設けたり、ポスターの掲出などを提案。外食向けには新規メニューの投入などを働きかけている。

これらの政府を挙げての朝食キャンペーンによりソトアサという言葉が認知されだしたのだ。

2) 朝食マーケットの調査
日経産業地域研究所による買い手のホンネ産地研調査による朝食の消費金額を見てみよう。(2008年1月24日日本経済新聞。詳細は「日経消費マイニング」1月号に掲載)
平日の自宅外の朝食にかける金額は平均で564円。男性が五百円強、女性が六百円強と女性の方が高かった。男性は「素早く」食べるニーズが高い一方、女性は気晴らし感覚が強いなど、意識の差も目立った。
調査では普段は自宅で朝食を取る人が大半だったが、「ここ1年で平日に朝食を自宅外で食べたことがある」人も59.6%を占めた。これは2006年2月の同様の調査の51.8%から約8%増えている。
2~3年前に比べ自宅外で食べることが「増えた」率が全体より高いのは、20代男性と20~40代女性と比較的若い世代。一食の費用は男性が518円に対し女性は614円で、男性より100円ほど高い。中でも30代女性は664円だった。
全体で利用回数が最も増えたのは「コンビニで買って勤め先などで食べる」(19.7%)で、2位が「セルフ式コーヒー店」(8.7%)、3位は「ハンバーガー店」(5.1%)。4位の「コンビニやベーカリー以外の店」(4.7%)は30~40代女性に限ると一割超と高かった。
若い男性では「コンビニおにぎりと牛乳」の組み合わせが目立ったが、30~40代女性は駅ナカなどのおしゃれなカフェや新感覚の店も積極的に利用している。スープ専門店「スープストックトーキョー」ではスープとパンのレギュラーセットで760円と安くはないが、「働く女性を中心に、野菜が多く入ったスープなどが朝食に人気」だという。
ソトアサのイメージは男女で異なる。男性の1位は「素早く食事ができる」(51.1%)で、利便性が決め手。一方、女性は「自分が楽」「気分転換になる」が5割を超えた。「ゆったり食事ができる」というイメージも男性の2倍近くだ。

3) 日本の外食企業の動き

売上停滞に悩む外食業界は、このソトアサのブームにのり積極的に朝食に取り組みだした。

<1>マクドナルド
昨年に「マックグリドル」などの朝専用メニュー投入に引き続き、2008年初頭にはトルティーヤで温かいタマゴと焼いたベーコンなどを挟んだ「マックラップベーコンレタス・エッグ」など2種類を200~220円で朝食向けに販売。
続いて、「メロンパン」、板チョコを挟んで焼き上げた「チョコデニッシュ」、溶かした砂糖をかけた「シュガークロワッサン」の三種類を7月18日から販売している。朝食やおやつの時間帯などの需要を見込む。店内で温めることで「焼きたて感」を出す。
さらに朝食向けにコーヒーの品質を上げる反面、100円と言う低価格で提供し、朝食に強いコーヒー店に対抗する。

<2>すかいらーく
ジョナサンは「目玉焼モーニングセット」588円と「八種類の新鮮野菜サラダ」294円などを販売し、2007年9月の朝食時間帯の利用者数は前年同月比8%増している。
ガストも、朝食メニューを強化し、2007年9月の朝食時間帯の客数が昨年に比べ3割増えている。
中華料理のバーミヤン約650店のほぼ全店を対象に、通常午前10時の開業時間を午前9時に早め、同11時まで朝食メニューを提供する。朝がゆなど中華メニューに限らず、トースト、ごはん、卵料理などを組み合わせた洋・和風のセットを用意。

<3>日本KFC
6月23日から首都圏の51店舗で朝食需要への本格対応を始めた。午前7時半や8時などバラバラだった開店時間を7時に統一し、朝食向けメニューを提供する。たまごのハムサンドやチキンレタスドッグなど250円~290円の三種類のサンドを用意。さらに三種類のラテや六種類の紅茶などをそろえる。今秋以降、開発中のライスメニューやパンケーキも順次投入する。ランチタイムなどに比べ朝食時間帯の潜在需要は大きいとみている。
日本KFCは朝食市場への本格参入により、一日の朝食時間帯の売り上げ比率を現在の約3%から10%まで引き上げたい考えだ。
KFCは中国ではマクドナルドよりも成功しているが、その原動力はメニュー開発だ。中国人の好みに合わせて朝食ではお粥を販売するなどの、メニューの現地化が成功の要因であり、その戦略を日本でも採用しようという動きだ。

<4>ミスタードーナツ
5月26日から、軽食と朝食向けに甘味を抑えた、ポテトサラダとソーセージをのせた「ジャーマンポテトマフィン」と、半熟風目玉焼きとボロニアソーセージをのせた「半熟ソーセージエッグマフィン」を販売開始。価格はいずれも189円と低価格に設定。

<5>セブン&アイ・フード

デニーズの2月末のメニュー改定でモーニングのメニュー数を2割増やした。モーニングメニューを5品追加し32品とした。「焼鮭朝食」(600円)などの定食メニューに加え、3種類から選べるサラダにパンを付けた「選べるサラダモーニング」(500円)など、野菜料理も充実させ多様化する朝食の需要に応える。
現在、三店舗運営するそば・うどんの「弁天庵」で、2月末から午前10時までの限定で、朝食用の定食3種類の提供を始めた。ご飯と漬物、卵焼きにそばがつく卵焼き朝食(380円)など価格を500円以内に抑え、割安感を出した。

<6>フレッシュネス
ハンバーガーチェーンのフレッシュネスは首都圏の110店で大塚チルド食品と組み、モーニングセットを期間限定で投入した。ホットドッグなどに大塚が野菜で作ったヨーグルトをセットにして売り出した。価格は500円。

<7>日本サブウェイ
3月に手軽に食べられるようにパンを通常より小さくした朝専用メニューを投入。

<8>ゼンショー系の牛丼チェーンのなか卯
「有機納豆定食」など従来の二種類の朝専用メニューに加えて、とん汁や生卵などの「とん汁定食」を290円と同社の朝専用メニューで最も安く販売開始。

<9>バーガーキング
2007年9月九月にクロワッサン風のパンやベーコンのセットなど6種類の朝専用メニューを用意した。朝の時間帯の売り上げが導入前より2割程度アップ。

<10>モンテローザ
居酒屋「千年の宴」で、朝食の提供を始めた。現在はビジネスホテル内に入居している一店舗で実験的に提供しているが、今後、ホテル近隣やオフィス街の店舗でも導入を検討する。

<11>JR東日本フードサービス
ソトアサという言葉で象徴的なのはJR東京駅の構内にある、午前七時から開店するうず潮という「回転朝食」だ。昼以降は回転寿司であるが、朝は「朝定食五百円」を販売している。料金はレジで先払い。席に着くと、店員がご飯とみそ汁、味付けのりが載ったお盆を運んでくる。レーンを回転しているおかずから3品を選ぶことができる。同社よれば全体の売上の3割を朝食が占めるという。

4)ファスト・フードの朝食への取り組み
外食業界で朝食メニューに一番積極的に取り組んでいるのはファスト・フード業界だその取り組みを見てみよう。
ファスト・フードと一口で言ってもカテゴリー別に商品特性が異なっている。ドーナツ(米国一のドーナツはダンキンドーナツだが日本では撤退し、元兄弟会社のミスタードーナツが残っている)は朝食をメインにした業態だ。マクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーチェーンはランチ需要がメインで次がディナーであった。KFCなどのフライドチキンのチェーンはディナーの持ち帰りが中心で、ピザはディナーの宅配が中心となっている。
このように業態により、朝食、昼食、夕食に強い企業に分かれていた。しかし、市場が成熟する中で1店舗当たりの売上を伸ばすには従来のカテゴリーにこだわっていられなくなった。
ハンバーガーのマクドナルドは1955年の創業時にはテイクアウト限定で、朝の開店時間は10時半、閉店は8時と言う短時間の営業であった。その後、顧客が店内で食べることを求めるようになり、客席を備えるようになった。元々はハンバーガーとチーズバーガーだけであったが、顧客の嗜好におうじて、ビッグマックやフィレオフィッシュなど、食材のレパートリーやサイズを変えたメニューを付け加えだした。
そして、一番弱かった朝食に着目し、最初にイングリッシュマフィンとチーズ、カナディアンベーコン、目玉焼き、を使った朝食を1971年頃に発売した。それにあわせて従来は10時半の開店時間を早朝7時に変更した。
米国人の食生活では朝食は豚肉加工品のベーコンやハム、卵料理を食べるのが一般的であった。小麦粉製品も通常のパンではなく、イングリッシュマフィンやクロワッサン、ペイストリー、ベーグルなどを食べる習慣があり、牛肉を使うハンバーガーが朝食に向いていなかったのだ。
朝食の売上は当初は数パーセントに過ぎなかったが、提供時間が短く、テイクアウトも可能なため段々認知されてきた。顧客の増加にあわせて、ホットケーキやスクランブルエッグ、豚肉のソーセージパティ、などを追加するようになった。
当初のマクドナルドの朝食はハンバーガーと同様の仕組みで、工場で焼き上げたマフィンやソーセージを、店舗で加熱調理するものであった。
しかし、ローカルのハンバーガーチェーンであったハーディーズ社が革新的な朝食を開発し大人気となった。それは南部で人気の家庭料理のホットビスケットであった。通常のパンはイースト菌で発酵させるために、時間がかかるし、捏ねるのに労力が必要であり、パン工場で焼き上げたものを店舗で焼き上げて提供するのが一般的だった。
ホットビスケットは薄力粉にショートニングとバタークリームを混ぜて、ベーキングパウダーで膨らませる。パンのように捏ねる労力は不要だし、すばやく焼き上げられるので、南部の家庭料理として親しまれてきた。そのホットビスケットを店内で粉から作り上げ、熱々のホットビスケットに卵とチーズ、ベーコンを挟んで提供する朝食サンドイッチを発売し大人気となった。当時のマクドナルドの朝食の売上比率は10%程度であったのにたいして、ハーディーズの朝食比率は20%を超えるほど人気を示していた。
ハーディーズの売上に注目したマクドナルドはそのホットビスケットを採用することにした。その後、メキシコ料理のブリトーなどまでメニューを多角化し、現在では遅くとも朝6時から開店したり、場合によっては24時間営業を実施して、朝食売上比率を20%近くまで向上させた。
しかし、朝食を導入するためには、調理機器の抜本的な改善と莫大な費用を投入したマーケティング活動が必要であった。
創業当初のマクドナルドは小型のビーフパティのみのメニューであったので、大型のグリドル1台でよかった。次に、消費者の要望により大型のビーフパティを導入するようになりクオーターパウンダーと言う1/4ポンド113gのビーフパティを発売した。通常のミートパティは1/10ポンドであるので、その4倍のサイズであり、肉を焼き上げる温度を変えなくてはならなくなった。そこで、従来は大型のグリドル1台であったのを小型のグリドル2台にして、違う温度帯で調理をするようになった。その後の売上増大により、更にグリドルを追加し、最低で3台、大型のお店で4台を導入するようになった。
この導入が結果として朝食メニューの導入に役にたった。朝食メニューではベーコンやポークソーセージを、ホットケーキを焼き上げるにはビーフパティを焼き上げるのと同様に180℃の温度であるが、スクランブルエッグなどを焼くにはより温度の低い130℃程度に落とさなくてはならない。結果的に大型ハンバーガー導入のためにグリドルの数を増やしたのが役に立ったのだ。トースターも改善が必要だった。イングリッシュマフィンを焼き上げるためには通常のコンタクト式のトースターではなくて、高温の火力と温風で湿気を吹き飛ばす特殊なマフィントースターが必要であった。また、玉子を自動で焼き上げるためには特別なエッグ焼成器の開発も行わなくてはならなくなった。
従来はハンバーガーを販売していたマクドナルドで朝食を食べさせるためには、習慣を変えさせる必要があり、そのためには、莫大な量のテレビコマーシャルを流し続ける必要があった。
日本マクドナルドが朝食メニューを導入したのは米国よりも15年ほど遅れた1985年だ。マクドナルドが創業した時には開店が朝8時、閉店が午後10時が標準的な営業時間だった。日本人は牛肉を使うハンバーガーはランチから食べると言う習慣がなかったから、開業当初より早朝からハンバーガーを売っていた。駅前立地が多く、朝からハンバーガー売れ、米国のような朝食用のメニュー開発の必要性を感じなかった。その結果、本格的な朝食メニューの開発が遅れてしまった。しかし、朝食を抜本的に伸ばすには新しい朝食メニューの開発が必要であった。そこでまず、イングリッシュマフィンを使ったエッグマックマフィンを発売したが、当初は朝からハンバーガーを求める客が多く苦労した。その後、ホットケーキやスクランブルエッグなどメニューを多角化しながら同時にテレビマーケティングや販売促進を強化した。当初の朝食比率は数パーセントであったが、現在では平均15%、売上の良い店では20%ほどの朝食比率まで成長している。現在のマクドナルドは更に朝食の売上を伸ばすべく基本的に24時間営業、最低でも朝6時開店、夜24時閉店に切り替えて、朝食と深夜のスナックの売上強化を狙っている。

このマクドナルドの朝食戦略のターゲットはコンビニ業界である。米国でもコンビニは営業時間が長く、ファスト・フードと競合関係にあった。しかし、コンビニの欠点は温かい料理をスピーディーに提供することができないことに注目し、マクドナルドは徹底的な朝食メニュー強化を実施し、コンビニに差別化をすることに成功したのだ。その結果、米国NRN誌の2007年度の外食売上の順位を見ると、
売上順位は1位マクドナルドで28576ミリオンドル、セブン・イレブは32位で1695ミリオンドル。店舗数順位は3位マクドナルドで13862店舗、10位はセブン・イレブンで5475店舗と大きな差をつけているのだ。

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