「10年後のコンビニはこう変わる」(商業界 月刊コンビニ2011年2月号)

「店内調理は広がるか?」
① 「店内調理現在までの取り組み」
コンビニで店内調理に本格的に取り組んだのは1980年に開業したミニ・ストップだ。マクドナルド出身者などをスカウトしてコンビニ内でハンバーガー類のイーインコーナーを作った。その後、オリジン弁当を店内に併設するコンボストアーを開発するなどしている。
米国ではレストランコンセプト開発プロのフィル・ロマーノ氏とカジュアルレストラン最大手のブリンカーインターナショナル社とが提携して、1996年1月にダラス市にEatzisイーチーズと言う大型総菜屋を開店した。ホテルのような大型厨房にショーケースを並べ、そこでプロの調理人が出来たての惣菜を提供するというシズル感のあふれる演出であっという間に大人気となった。日本からも多くの総菜屋や食品スーパー、コンビニ、外食企業等が見学に行った。惣菜と弁当のオリジン弁当がファミリー弁当と言う小さな弁当屋を経営していたオリジン東秀が経営不振を打開しようと、イーチーズの見学会に参加し、帰国後、高津に店内調理をする惣菜とお弁当のオリジン弁当を開業し大成功した。それ以後、店内調理に注目が集まり、各社が取り組みだしている。
その数年後にサークルKサンクスがお茶の水にターボシェフと言う熱風とマイクロウエーブを組み合わせた高速調理器を入れて店内調理を始めた。その後2006年9月に東京駅八重洲口側にインストアー・ベーカリーと店内調理のパスタを売り物にする新業態店舗「Fork Talk」をオープンした。
ファミリーマートは1990年代中ごろに、丼を店内調理する実験店をテストしたが、その後、店内調理への取り組みをやめていた。その代わりに店内のイートインスペースの設置などを行っていた。20010年になってサンドイッチのサブウエイとファミリーマートの併合店を開発し完成度の高い店内調理として注目を集めている。
2004年になるとデイリーヤマザキ、AM/PM、ローソン、のコンビニ3社が店内調理のテスト店の展開を始めた。その中で最も熱心であるのはローソンでほっかほっか亭風の併合店や洋風弁当併合店などをテストし、現在のローソン神戸キッチンの開発まで過去70億円を投資している。
その他、セイコーマートやココストアも積極的に店内調理に取り組んでおり、セイコーマートは2010年夏に本格的な店内調理と客席を備えた店舗を開店した。
最大手のセブンイレブンは店内調理に対して最も慎重であり、やっと2010年に揚げものと温かいご飯を組み合わせたサクサク亭を開始した程度で、イートインスペースの設置にもあまり積極的ではない。
このように店内調理への取り組みに関しては徐々に増えているが、コンビニによりその取り組みへの姿勢が異なるようだ。

② 「大胆予測10年後の可能性」 約750字
デイリーヤマザキやローソンが最も積極的に店内調理に取り組んでいるが、店内調理の設備への投資採算が合うか疑問だ。コンビニの商圏は2500人で成り立つが、オリジン弁当などの弁当屋の商圏は1万人必要であるからだ。そのため、店内調理を備えるコンビニは立地によって成り立つ程度と思われる。また、現在までのコンビニの店内調理のレベルはまだ、外食店や弁当店には遠く及ばない。店内調理機器への投資と人件費を抑えながら、料理の品質を外食店や弁当店より高める必要がある。
筆者が注目しているのは弁当惣菜自体の品質向上だ。店内調理にはあまり積極的ではないセブンイレブンだが、ベンダーでの弁当惣菜の製造技術の研究には熱心に取り組んでいる。その一つとして登場した「チルド弁当」は、炊飯技術の工夫や密閉度の高いパックにより、電子レンジで温めるだけで、家庭でつくる料理のような出来たて感を出している。また、「スチームパック惣菜」は、容器をフィルムで密閉することにより、温める際のスチーム効果によってジューシーな食感が楽しめるお惣菜。圧力鍋のような高温短時間の加熱が素材本来の味を活かしたおいしさを引き出すなどの技術開発をしている。
セブンイレブンのサクサク亭は地味な店内調理だが、揚げ物の品質は他コンビニを大きく引き離している。工場での弁当惣菜加工技術の向上が最も重要だということだろう。
コンビニの店内調理と並んで有望なのはイートインスペースだ。ローソン神戸キッチンを数店舗拝見したが、神戸市役所裏の店舗の広いイートインスペースは大変魅力的であった。外食店舗の閉鎖が進む中で、大型の店舗を確保できる余地も出来るので、イートインスペース増加が効果的ではないだろうか。
また、投資効率を考えると既存の外食企業、特に、サブウエイとファミリーマートのようにファストフードとの併合店はより費用効率が高く、かつ、売上げに貢献すると思われる。
いずれにせよ、色々な形態の店内調理への取り組みとイートインスペースの増加が予測され、10年後には外食とコンビニの垣根がより低くなり、外食企業は苦しい立場に追い込まれそうだ。

③ 「店内調理クリアすべき課題」 約750字
店内調理で難しいのはサービス速度だ。コンビニの客は弁当惣菜を買うに費やす時間は店内に入ってから出来上がっている弁当や調理済み惣菜を取り上げ、レジで精算するという作業を4分以内で済ませないと遅いと感じる。そのため、ローソン神戸キッチンではその時間を3分で済ませるように、ブッフェスタイルの調理済みの総菜や料理をカウンターにおいている。しかし、保温方式が悪いため、温度が低くなり美味しくなくなるのが問題だ。
サービス速度を早くするためには小型で高速の調理機器の開発が必要になる。以前、サークルKサンクスでテストし、現在はサブウエイの標準機器となっている米国製の高速調理機器ターボシェフは熱風とマイクロウエーブの組み合わせであり、高速だがピザやサンドイッチと言う洋風料理に向いており、ご飯や、煮物、焼き魚、と言う和風料理には不向きである。
筆者の注目しているのは超高温のスーパースチーム調理機器だ(過熱蒸気オーブンとも呼ばれる)。300度以上に加熱して大きな熱量を持たせた蒸気を食品の上下から噴射することにより、食品を乾燥させずに短時間に調理でき、和食に大変向いている。現在は大型の機器しかないが、小型のスーパースチーム調理機器を数台設置すれば、美味しい料理が短時間で作ることが出来るだろう。
あるコンビニ本部はこのスーパースチームに注目して、店内で冷凍麺を数十秒で高速調理して熱々の麺を提供するテストに取り組んでいる。これにフライヤーを組み合わせて、天ぷらを揚げれば今大人気の丸亀製麺のような美味しい料理を提供できるだろう。
もう一つ品質の向上のために必要なのが、工場での冷凍技術だ。これから、刺身などの生ものの惣菜を提供する必要が出てくるが、生のまま置いておいては日持ちしないし、衛生上の問題がある。しかし、冷凍すると品質が大きく低下する。
その冷凍品の品質対策として、セルアライブシステム冷凍(Cells Alive System冷凍、略してCAS冷凍と呼ばれる)と言う新技術が開発されている。
従来の冷凍方法では食品が周辺部位から冷凍される際に、水が氷の結晶化し体積が膨張する。そのため、食品の細胞膜に傷をつけてしまう。解凍時に、この傷からいわゆるドリップと呼ばれる細胞内の栄養や水分が流れ出し、食品の味を落としていた。
CAS冷凍の場合、食品を磁場環境の中におき微弱エネルギーを与えることで細胞中の水分子を振動させ、急速に冷凍させることにより水分の氷結晶化を抑え、細胞膜の破損を防ぐという原理だ。そのため、肉や魚、生ケーキ、等をこの方式で冷凍すると、解凍しても生の状態と変わらない品質を保てる。
この冷凍方式はまだ普及途上であり高価であるが、コストダウンが進み普及が進めば冷凍品の品質は大きく向上するだろう。そして、冷凍食品を解凍加熱するスーパースチームを組み合わせれば、料理の品質は格段に向上するだろう。
次に取り組む必要があるのが、調理済み食品の保温保存だ。スーパースチーム調理機器を使用しても数分の調理時間が必要であり、気の短い顧客は帰ってしまう。そこで、ローソン神戸キッチンのように調理して保温する必要がある。保温するだけでは乾燥して美味しくなくなるので、密閉の容器で乾燥を精密にコントロールするようにしたり、精密な加湿制御により料理を出来立ての状態に保つことが可能だ。
この冷凍技術、加熱技術、保温技術の開発には多額の研究費が必要であるが、ファストフード大手はすでに着手しており、料理提供時間を大幅に短縮している。外食企業よりも売上げ規模の大きなコンビニ業界はより積極的な技術開発投資をするべきだろう。

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