コンビニエンスストアーの広告宣伝 セブンVSローソン(商業界 食品商業1995年秋冬月号)

マチのほっとステーションでローソン、セブンと知名度互角に
(内容は編集部にて編集する前の生原稿で多少異なります)

マーケティングとは自社のマーケット(市場)を明確に定めて、その市場性を測定して、顧客の要求を満足させる商品、サービス、店舗網を開発し、顧客と自社の両方の利益を同時に達成するための手段である。成功した企業の多くはマーケティング思考に基づく会社運営が上手であったためだ。

重要なのは単年度の広告宣伝費だけではなく、その累積の広告宣伝費が売り上げに比例してくるということだ。広告宣伝費を額でのみ考えるとインフレーションなどで左右されるので、累積GRPで見ていく。

GRPとはグロス�レイティング�ポイントのことであり、延べ視聴率を意味する。視聴率とはテレビや雑誌、ラジオ等を見たり聞いたりしている率である。この数字が多いほど、広告宣伝効果が高いといえる。この毎年の視聴率の累積が高いほど、そのチェーンの売り上げが高くなるのだ。

CVSが日本でマクドナルドなどのFFチェーンより数多くの店舗と売り上げを示すようになったのは幾つかの理由があるが、最大の理由はマーケティング環境である。日本と米国とは文化が異なるが、ビジネスと法律、規制などの点で米国と多くの類似点がある。文化が異なるのに類似点が生じているのは、第2時大戦後日本駐留の米国軍が数多くの米国の法律、規制を持ち込んだと言うことである。

さらに戦前と異なり、米国への留学が多くなり米国から多くのことを学んできた。特に放送事業の規制が日本と米国では良く似ていることである。テレビ局の開設に当たってNHKからスタートさせたがやがて数多くの民間放送局を加えた。これにより、放送に対するコマーシャルの事業の道が米国と同様に開けたのである。欧州では未だに公共放送が中心であり、民間放送局が少ないのと比べると格段の差である。そのため欧州では商品のコマーシャルを流せない国や、流せても時間や内容への規制があるそのため、米国から進出した企業の展開や、新商品の普及に苦労している。

自由な筈の本家の米国でもタバコのCMは全面禁止であるし、酒もアルコール度の高いウイスキーやブランデーなどはダメで、ワイン、ビールのみである。ビールでも飲むところは放映してはダメで、カップにつぐところなどのイメージコマーシャルでしかない。比較的に自由な米国でも、基本的には宗教の影響力が強く、そのため数々の規制や暗黙の了解がある。

たとえば、米国では子供用の番組を平日のゴールデンタイムに流すことはしていない、土曜日の午前中に集中して流している。米国ではまだドライステーツといって、日曜日には酒の販売をしない州がある。これは日曜日は安息日であり、神とともに静かに過ごすのだという宗教上の影響からきている。このように進んでいると言われる米国でも案外保守的な側面を持っている州がまだ残っているのだ。

もちろん日本でも公正取引委員会による規制により放映できないCMもある。しかしそれは比較広告や、懸賞広告の金額の制限であり、表現上の制限が少ないと言うことでは世界でも最も進んでいるのではないかと思われる。特にテレビCMの表現に対する規制が少ないのは大きな特徴であり、酒、タバコなどの嗜好品の規制が全くない。それがTVCMをうまく使いこなした企業の売り上げを伸ばす大きな要因になっている。

1.知名度
店舗やチェーン店舗の知名度をあげることはCVSにとって大変重要である。それは店舗の売り上げを上げるだけでなく、店舗加盟者の募集にとっても大変重要であり、店舗展開と同調した知名度の向上が重要になる。また、チェーン展開に伴い店舗指導員や優秀なバイヤーなどの数多くの本社従業員の確保も必要であるが、チェーンの知名度が上昇すれば優秀な社員を数多く集めることが可能になる。チェーン経営のとって知名度をあげることは重要であり、TVCMはその大きな武器となる。

小売業の世界では知名度とイメージは大変重要である。広告宣伝を武器に短期間に会社のイメージを変えた例として、現在日本フォードの社長をしている鈴木氏がトヨタ時代にトヨタのイメージを1年間で変えた実例がある。

以前は日産が「技術の日産」というキャッチフレーズで長らく技術的に最も優れているというイメージを持っていた。特に零戦を作っていたプリンス自動車を合併してから、その優れた技術をスポーツカーの開発にあて、販売では2位だが技術ではトップであるというイメージを確保していた。

販売シェアートップのトヨタであっても長い間、そのイメージを変えることはできなかった。そこで鈴木氏はレーザーというキャッチフレーズを考案し、トヨタのエンジンの先進技術を徹底して訴えた。当時の車の宣伝は大きさや豪華さであり、エンジン技術の先進性を訴えるのは希であった。特にトヨタの広告宣伝戦略は顧客にわかりやすいと言うことを目指しており、これは異例の広告戦略であった。しかし、この異例の戦略は当時の排気ガス問題などでだんだん技術の重要性に目覚めだした消費者に受け入れられ、トヨタのエンジン技術が優秀であるということを浸透させることに成功し、たった一年でイメージを変えることに成功したのである。広告宣伝戦略は綿密にに組み立てると大変効果がでるという実例の一つだ。

CVSも同様だ関東地区で先行しているセブンイレブンを追撃するローソンの知名度の向上の手段もかなり効果的であり、当初30%であった知名度を最近では90%台まで向上させているようだ。

2.広告宣伝戦略でのドミナントの重要性
CVSの出店戦略を考える上でドミナントが重要だと言われる。ドミナントの重要性は一般的には物流が容易で日に3回もの食材を搬入でき鮮度管理が良いからだと言われているが。その他に大きな理由がある。それはドミナント形成での店舗数増加により、消費者の目にとまる機会が増加し、チェーンのブランドを確立しやすくなるからだ。

あまり知られていないがもう一つ大事な点がある。それは、ドミナントを築くことにより、TVCMをより効率的に活用できるのだ。総合スーパーの場合には商品数が28万品目と多いし、店舗形態も異なるのでTVCMで簡単に訴えることが出来ず、チラシなどの印刷媒体が中心になる。しかし、CVSの場合には商品数が3000品目以内でありTVCMを使用してチェーンの告知をすることが可能である。

ドミナントというと県別などの行政区割りで考えやすいが、ドミナントはTVのカバーするエリアで考えなければいけない。図1の東京テレビエリアマップを見てみよう。 東京テレビエリアのカバーしている範囲は、東京、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉、静岡の一部、山梨の一部の広範囲のエリアなのだ。

図2は大阪TVマーケットである。大阪TVマーケットは大阪、兵庫、京都、和歌山、奈良、滋賀、の各県と、徳島、三重の一部の地域を含んでいる。 東京と大阪テレビマーケットを押さえることは、世帯数で20、503、000を押さえることになり、全テレビマーケットの世帯数43、385、000世帯の47%を確保することになる。(表4を参照)東京エリアでは静岡、山梨、大阪エリアでは徳島、三重の一部の地域にTVCMがスピル(流れて)しており、それを考慮すると、この2つに地区に集中出店することで全国の50%の地区をカバーすることになり最も効率が良くなる。

3.ドミナントの形成
セブンイレブン
此の最大のTVマーケット東京テレビマーケット(関東地区)でのドミナントを確立しているのはセブンイレブンだ。此の地域での店舗数は静岡、山梨のスピルの入る一部を除いて3353店(95年6月現在)だ。セブンイレブンはこのCVSのドミナント理由を明確に理解し、全国では26県にしか進出していない。そしてドミナントを形成している東京テレビエリアでは最大の店舗数とバランスのとれた小売業(外食も含めて)最大のTVCMを流し、マーケットシェアーを握っている。
ローソン
それに対して競合のローソンは東京テレビエリアでの立ち後れが大きく影響している。ダイエーグループと言うことでドミナントの重要性を物流の面でしか理解していなかったローソンは初期における店舗展開でダイエーと同様の全国同時展開を目指し、結果的に関東地区の展開に出遅れてしまった。その結果関東地区で6月末で1726店舗を持っている。しかしローソンの関東というのは東京、山梨、神奈川、志津丘東、栃木、千葉、茨城、埼玉、長野、群馬と東京テレビエリア以外も含んでいる。ローソン広報によると東京TVエリアの店舗数は1600店舗ではないかと言うことである。簡単に言うとローソンはセブンイレブンの約半数しか東京テレビエリアに持っていないことになる。
4.ドミナントの強弱が与える広告宣伝戦略の違い
セブンイレブン
セブンイレブンはまず店舗イメージの浸透を図り、「有名なセブンイレブンいい気分」を打ち出した。その結果店舗イメージ上の浸透率はトップになった。店舗名が浸透した後はCVS商品の浸透に力を入れだした。CVSの広告宣伝上の問題点は商品数が小売りより少ない3000品目といってもTVCMとして打ち出しにくい、そこでCVS商品つまり弁当などのFFを前面に出したCMを放映するわけだ。この関東地区における大量のCMと店舗の大量集中出店により、最も影響が出たのがFFのマクドナルドやKFCである。
しかし、最近のセブンイレブンは関東地区での店舗配置が密集し、その結果自社内での競合状態が見られるようになった。そこで現在の夏に打ち出しているのが、10万人プレゼントだ。これはプレゼントなどの強力なインセンティブをつけることにより、店舗への来店頻度を上げ売り上げを上げるわけだ。最初は店舗イメージの浸透、次にCVS商品の訴求、そして来店頻度の向上と着実な広告宣伝戦略を歩んでいる。

TVCMのタレントもあまりあくの強い有名タレントを使用せず地道にセブンイレブンのイメージを浸透する、トップ企業の品の良い戦略を採っている。

ローソン
関東地区で出遅れたローソンはサンチェーンとの合併を機に関東地区における広告宣伝戦略で大攻勢に出だした。まず、チェーンの知名度は30%以下でセブンイレブンはもとより、他のCVSに比べても大変低いものであった。そこでまずローソンの名前を浸透することを考えた。しかしながらセブンイレブンと同様の手法で広告宣伝をすることは効率が悪いので、顧客ターゲットを絞りより効率の高い手法を考案した。91年から「町のホットステーション」というスローガンで統一し、セブンイレブンは知っているが、ローソンを知らないと言う人に積極的にアプローチをかけた。
更にインパクトをねらい、セブンイレブンとは異なりタレントを積極的に使用し、ストーリーのあるミニドラマ風CMを展開した。

セブンイレブンは商品を中心としたCMを流しているが、ローソンは客との関わりを全面に出したCMを中心に流しイメージが分散するのを避けた。

5.広告宣伝媒体の使用状況
表1を見てみよう。これは東京テレビマーケットにおける(関東)90年度から94年度までのセブンイレブン、ローソン、マクドナルド、KFCのTV広告の使用量をまとめてみたものだ。

番組�スポットの合計秒数は年間のCMの放映時間の合計だ。番組CMとは提供番組を持ち、その中でCMを放映する。スポットとは番組を持たずにCMを流すことを言う。TV広告の量を表すには単に放映時間や、広告宣伝費の合計では正確ではない、一般的にはGRPで表現する。GRPとはグロス�レイティング�ポイントつまり総視聴率のことである。例えばあるプロモーション期間中に200本のコマーシャルを流し、その一本当たりの視聴率が10%であったとすると、10×200本=2000GRPとなる。そして知名度はGRPに比例して高くなると言われている。

GRPは売り上げを左右する大事な数字である。コンビニエンスストアーやスーパーでは、店舗売場の棚に商品を陳列する際に、類似の商品であればGRPの多い商品を一番良い場所に陳列する。客はテレビなどでよく見る馴染みのある商品を購入するからだ。 CVSの広告宣伝量を比較するにはこのGRPを用いるのが正確だ。そこで東京テレビエリア(関東)における過去5年間分の4社のGRPを比較してみた。此の表の中にはローソンのデーターが2年分抜けているが、これは、ビデオリサーチの発表するデーターが出稿量上位50社以上であり、それ以下の場合には掲載されないからで、ゼロではないことをご了承いただきたい。

比較できる年度91年と94年で各社どうなるかを見てみよう
表2 東京テレビエリア(関東)GRP比較表
チェーン名 91年度GRP 94年度GRP 伸び率
セブンイレブン 37、366 52、057 139.3%
ローソン 17、429 34、032 195.3%
マクドナルド 43、608 38、519 88.3%
日本ケンタッキー 29、181 28、734 98.5%
上記のようにFFの2社は広告宣伝量を落としているがCVSの2社は大幅に増加しているのがわかる。特にセブンイレブンの39%増加に対し、ローソンの95%の増加が目に付く。特に最近のローソンのTVCMを良く見るし、内容を見ると統一されたストーリーがあり大変印象に残るCMであり、かなり計画性を持った広告戦略のようである。

セブンイレブン
全国展開を行わず、ドミナントを形成している割には番組CMを多く採用しているのが目に付く。番組CMは場合によってはネットワークの番組として全国に流れることがあり、店舗がない地域にも流れる。これは全国展開をしていないチェーンには効率の良くない手法である。しかし、チェーンのイメージにあった番組と組み合わせることにより、チェーンイメージの統一を維持を保つことが出来るメリットがある。
また、セブンイレブンのように大きなCMの顧客であるとTV局から大口顧客として優遇され、場合によってはスポットCM(番組の間に流すCM)より単価が安くなり効率が良くなるようだ。

番組CMを行う事により店舗のない全国に流れる副次的な効果は、チェーン全体のイメージや株価の維持、社員の採用に役立つだけではなく、新しい地域に新規に出店する際に最初からチェーンのイメージが浸透しており、急速な売り上げの拡大と、フランチャイジーの獲得が可能になることだ。そういう意味ではローソンの牙城である大阪テレビエリアへ本格的に進出したセブンイレブンの成果に注目される。セブンイレブンの出店数とTVCMの使用量に注目するべきだろう。

関東地区においてはセブンイレブンがトップシェアーを閉めていたが関西地区では大きく異なる。関西のTVCMのGRPのトップはローソンでありセブンイレブンは上位50社のランキングに入っていない。初めてチャレンジャーの立場で挑戦するわけだ。そういう意味でセブンイレブンの広告宣伝戦略と店舗数の増加のトレンドは注目に値するだろう。

ローソン
表2にあるようにローソンの関東におけるCMの増加量はすさまじいものがある。94年には店舗数で半分のローソンがセブンイレブンの65%の量のCMを投入しているのだ。これは関東地区におけるセブンイレブン追撃の意志を明確に表しているといってよいだろう。
表1を見るとローソンはスポットCMを主体に効率よく広告を行っているのがわかる。セブンイレブンと異なりミニドラマ風のCMで個性を打ち出し、更に積極的なCMのテストを行っている。

6.TVCMの表現方法
TVCMを主体とする広告宣伝で何を訴求するのだろうか?まず、会社、チェーンのイメージだ。ここではCVSとはなにか、どんなに便利なのかを訴える。年中無休だとか深夜営業しているなどだ。そして単に商品を売っているだけではなく、新しい文化なのだというイメージ向上が重要になる。また、どんな店舗と商品を扱っているのか、具体的なQSCを訴えていく。次に何を売っているのか、具体的な商品を訴求していく。新商品がでたらそれを訴求する。たとえば焼き立てパンとは何かということを具体的に消費者に訴えるのだ。

会社のイメージ以外のCMでは具体的に、売り上げを上げる目的がある。売り上げを上げるには、客数を伸ばす、客単価を伸ばすという2つの手段がある。客数を伸ばすには新規顧客をとることと、来店頻度を増すと言うことである。

新規顧客をとるには、従来こなかった客層を呼び込むことが大事である。コンビニの客層は25歳前後の男女というように極端に絞り込まれている。その客層を広げることが新規顧客の開発で重要だ。そのためには公共料金の支払いが出来るとか、宅配便の取り扱い、航空券の販売などだ。

来店頻度を向上するというのも重要だ。CVSの商圏は狭いからその限定された住民の来店頻度をどれだけ向上するかは重要な戦略だ。そのためには焼き立てパンとか、冷麺の発売、お総菜の種類を増加するなどの商品の増強策が重要になる。ローソンではSMAPなどの中高校生に人気のあるバンドのCDなどを販売し、新規顧客の獲得をする。しかし、新商品だけでは来店頻度を上げるのには強力ではない。そこで強力な引力で顧客を引っぱり込み来店頻度を向上する手段が必要だ。それがセブンイレブンで行っている10万人感謝プレゼントだ。インセンティブをつけて来店頻度を向上するのだ。

インセンティブをつけて呼び込んだ客に新商品を教え客単価を上げて売り上げを上げることも重要だ。インセンティブプロモーションをうった後は、新商品などで客単価を上げ売り上げを上げることが重要になる。

7.CMの作り方。
セブンイレブン
セブンイレブンのCMはトップ企業の余裕か、イトーヨーカドーの伝統か大変地味である。従来の石田ひかりにかえて今年の3月の行楽編から渋谷琴乃に変更した。セブンイレブンではイメージの訴求を行っているが、それは行楽編、電車編、旅館編など比較的地味なCMである。タレントを使用してもチェーンのイメージがでるように地味なタレントを使用するようである。CMは当初はセブンイレブンいい気分などのキャッチフレーズでイメージを訴求するのが多かったが、現在では商品を全面にだしたものが多くなっている。
ローソン
セブンイレブンを追撃するためか、CMに目立つタレントを使用し、一気にチェーンのイメージを訴求する元気の良さがある。95年は「それいけ ローソン通り物語`95 あ、新ローソン 宣言」編からスタートして、高嶋を店長とし、町を祖礼池町(それいけまち)とし、交流する顧客とその家族を設定した。父親のフランス駐在帰りの大学教授を長塚京三、母親を由紀さおり、長女中山美穂、妹大塚ねね、美穂の友人を松本明子、アルバイトを鈴木蘭蘭、等の豪華メンバーで演じている。これらの新メンバーにより、新ローソンを訴求するわけだ。長塚京三、由紀さおり等は年齢が高いがヤングマインドで演じさせることにより客層を広げる事を目指している。
談話
株式会社 ダイエーコンビニエンスシステムズ
商品統括 販売促進部 部長 野林 定行
社長室 広報 主査 東 博史
以下談話と入社案内、ニュースリリースを元にまとめてみた。
1.TVCMを本格的にスタートした理由
初めてTVCMを流したのは1979年であった。

その流れは

1.コンビニエンスというものに対する理解促進、業態そのものを訴求した、啓蒙活動。
2.商品そのもの、その独自性を訴求。
3.オリジナル商品の訴求と話題作り。
であった。

そして、本格的にTVCMをスタートしたのが1989年にローソンとサンチェーンがDCSVとして合併してからである。店名をローソンに統一し、看板を取り替え新しいCVSを作ろうと言うことで91年から「町のホットステーション」というスローガンで統一した。単なる便利な店と言うことではなく、ステーションという町の情報を発信するという意味で、新しいCVSの形を作りたかったからだ。

2.CMの目的
顧客にはセブンイレブンは知っているが、ローソンを知らないと言う人に積極的にアプローチをかけるものである。また、顧客向けだけではなく、新しい企業文化をつくることも目指した。その企業文化を明確に打ち出すことで、社外、社内、フランチャイズオーナーの融和をも目指した。

具体的には

1.売り上げの向上
2.盟店オーナーの獲得
3.従業員(加盟店、本社スタッフのモラルアップ
の3つがあるが3についてはかなり影響が強く、地方から社員を集めるときに親にどんな会社かを説明するのが難しかったが、CMのお陰で説明が簡単になり、従業員の確保にも効果があった。そういう意味で社員も良いなと思えるCMでなければ効果が少ない。
3.CMのスタンス
セブンイレブンはオールラウンドプレーヤーであるので、全般的なイメージアップをねらうのではなく、ローソンがCVSのリーディングチャレンジャーなのだという位置ずけを訴える戦略を考えた。

セブンイレブンは商品を中心としたCMを流しているが、ローソンは客との関わりを全面に出したCMを中心に流している。勿論弁当、おにぎり、総菜、ベーカリー等のCVS商品をCMの中に挿入はするが中心は客との関わりである。

4.CMの統一性
ローソンのCMが目立っているのは長年ミニドラマ仕立てで継続したCMを流していることだろう。これによりセブンイレブンに匹敵する知名度を達成するようになっているようだ。そのCM戦略を見てみよう。

91年よりタレントを使用し本格的にコマーシャルの放映を開始することにした。セブンイレブンの方が客層が広く関東で早くから展開しており、歴史が長く主婦層まで広く押さえている。そこでローソンは「新しい、若い、元気」だというイメージの訴求を目指し、連続ドラマ風で日常生活の中でローソンがどのように機能しているか訴える戦略をとった。

売り出し中の俳優の高嶋政伸を使い、ミニドラマ仕立てのCMの展開を開始した。まず「町のホットステーション」というキャッチフレーズの浸透をはかった。91年の最初は町の若大将シリーズを打ち出した。特に高嶋店長の元気で明るいイメージは顧客だけでなく店舗の従業員にも良い影響を与えたようだ。

92年は「貴方を見ているから」、93年は社内スローガン的な「目指すは地域一番店」で仕上げ「町のホットステーション」が実現されたという事を目標にした。

本当は93年でシリーズを終了の予定であったが、94年が5000店舗達成の年であり、「今年は5000店」「目指すは地域一番店」「ローソン通り物語」で高嶋を継続採用した。

95年は「それいけ ローソン通り物語`95 あ、新ローソン 宣言」編からスタートしている。高嶋を店長とし、町を祖礼池町(それいけまち)とし、交流する顧客とその家族を設定した。父親のフランス駐在帰りの大学教授を長塚京三、母親を由紀さおり、長女中山美穂、妹大塚ねね、美穂の友人を松本明子、アルバイトを鈴木蘭蘭、等の豪華メンバーで演じている。これらの新メンバーにより、新ローソンを訴求するわけだ。長塚京三、由紀さおり等は年齢が高いがヤングマインドで演じさせることにより客層を広げる事を目指している。

全員を同時に出すのではなく総菜、焼き立てパン、等プロモーション毎に出演する人間の組み合わせは代えている。正月には全員で出演するのでイメージ上、何時も全員出演しているように感じるのだろう。

ミニドラマ仕立てにしたのはインパクトの強いCMで本数は少なくとも印象が強く残るようにするためであり、広告代理店は博報堂一社を使用している。CMは大阪東京同じものを流している。最初は高嶋が東京の雰囲気が強く大阪で抵抗があったが、現在は問題がない。

5.広告と店舗の連動
当然の事ながら広告と店舗の連動を行っている。現在のCMは夏場に人気を出すために「ほっとなおいしさそろってます“縁日気分”」を打ち出している。その為に熱々の空揚げ君、アメリカンドック、ジャイアントドック等の商品を全面に出す。また、入り口の目立つところには花火を並べ、縁日気分を強調している。

此のプロモーションと連動する店舗のマテリアルとしては

・幟旗
・店頭横断幕
・ガラスシール
・ホットケース上POP
・花火のコーナー
があり、それらを店舗へパッケージで送付する。アルバイトでも掲示できる作業指示書を添付しているので店舗掲示のマテリアルの統一性が取りやすい。
更にSVが店舗を回り、商品の発注を促すなどフォローアップする。 メーカーの宣伝する商品との連動は、店舗が狭いため、店内が混乱するので連動しない。ただし、メーカーが全国発売する商品の販促ツールなどは用意し配布する。CVSでは新商品を出しても既存の商品との食い合いが生じるので必ずしも売り上げに貢献しない場合があるからだ。

6.プロモーション期間とGRP
CMは客単価向上をねらうのではなく、客数の増加を重視したものである。

プロモーションは必ず重ならないようにしている。普通は6週間であるが、今年の夏の期間中は2週間単位で行っている。今年の夏は冷夏が予測され、そのため、売り上げを伸ばす努力が必要であり、プロモーションを2週間単位としている。その為複数のプロモーションが行われている印象があるがそれは意識して行っている。通常春秋に行うフレッシュベーカリーのプロモーションを夏に行ったのは、冷夏であったためだ。通常1カ月半前にプロモーション内容を決定する。

ディスカウントセールを行うのは無理が出るのでやらない。総菜で20円引きを行ったのは、全種類の総菜のラインアップが揃ったので、試して貰いたいためのお試し価格であり、ディスカウントではない。

プロモーション期間中のGRPは最低700GRP/WEEKである。ローソンの関東地区における年間GRPを週平均に換算すると477GRPとなり、それを裏付けている。

7.TVCMの成果
90年度のローソンの知名度は30%位であり、当時はセブンイレブン、ファミリーマートより低い数字であった。現在ではセブンイレブンと同じくらいの90%台の知名度となり、ファミリーマートを抜いていると思われる。これはファミリーマートのTVCMの総量が少なく定期的に行われていないためではないかと思われる。ファミリーマートは昨年から鈴木杏樹を使って積極的になっているが安定してCMを継続していないようである。

売り上げに関してはCMの総量がすぐに売り上げにつながるのではない。 CVSは知名度より近さが大事だ。店舗が最大のメディアである。知名度はCMでカバーできるが利用頻度はカバーできない。セブンイレブンは21都道県への進出であり、ローソンは41都道府県への展開であり、主戦場の関東地区ではセブンイレブンは3300店でありローソンは1600とその半分である。知名度は上昇したのでこれから店舗展開が鍵になるだろう。

8.まとめ
今回の縁日気分のプロモーションを見てもストーリー性が明確に顧客に伝わっているのが特徴だ。セブンイレブンや他のCVSも花火を前面に陳列しているがそれは季節商品としてであり、CMとの連動性やストーリーの面白さが伝わってこない。店頭のPOPを見てもローソンの方がセブンイレブンより統一されているのは、やはりかなり意識したマーケッティング戦略のせいだろう。

ローソンのCMは、サンチェーンの合併からローソンのブランドイメージの訴求、トップ企業との差別化の手法などかなり計画的に作成されたものであり、日本の小売業のマーケティング戦略として最も優れたものの一つだろう。セブンイレブンを追撃する2番手戦略としての典型的な手法を用いて確実な知名度の確立に成功している。特に関東におけるGRPの増加はセブンイレブンを追撃しようという意志が明確に見えるものである。今後は此の確立した知名度を武器にどれだけ店舗数を拡大できるかが主要な課題になるだろう。そういう意味ではローソンの今後の戦略には目を離せないものがあるようだ。

また、今回特に感心したのはローソン広報の応対である、通常マーケティング戦略をオープンにすることは嫌がるのだが、丁寧に細かい質問まで答えてくれた。これからもローソンの全体のマーケティング戦略が統一されていることがうかがえる。 日本の小売業もローソンの様にもっと正しい広報活動を勉強するべきであろう。

参考資料 マーケティング
広告というと髪の毛をポニーテールに結んだ専門家の特殊な世界なのだと思い勝ちであるが、実は広告には理論がある。米国のマクドナルド社では店舗のSV以上にはマーケティングハンバーガー大学を開催し広告宣伝の授業をしている。そこでは以上に述べた内容は勿論、TVのCM時間帯の購入方法、全世界の広告宣伝の手法など具体的な例を取って教えている。広告は理論立てて構築すれば誰でも学べるのだ。残念ながら日本では体系だった教育法がないので、自ら勉強をする方に下記に幾つかの参考文献を述べておく。これらを読めば殆どのマーケティングの知識を得られるので参考にされたい。また、以下にそれらの本からダイジェスト版を作成し参考になるようにしたのでごらんいただきたい。
まず、マーケティングという言葉の定義との分類とその特性、を見てみよう。
1.マーケティングとは
マーケティングを細分化していくと、アドバタイジング(広告宣伝)プロモーション(販売促進)、パブリックリレーション(PR,広報)、店舗展開と店舗オペレーションの4つに分かれてくる。

1.広告宣伝
広告宣伝とはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、等のマスメディアを企業がお金を払って使用する活動のことである。

特にTVCMは効果が高く、戦争で言えば空軍である。爆撃機によりCMを絨毯爆撃し、敵の反撃力を押さえる活動だ。これにより、会社の知名度、イメージ、商品名、好意度を確立し、店舗による地上戦を有利に導くのだ。

2.販売促進(プロモーション)
販売促進とは短期的な売り上げ増進や、店舗未利用者の利用を促す活動であり、無料券、試食券、割引券、プレミアム(景品)等を使用する。

TVCMがいくら良くてもそれだけでお客を引きつけることは難しい。そのために、プレミアム等により、店舗までお客を引き寄せるのだ。つまり地上戦を戦う際の武器弾薬の役割になる。

3.広報(PR、パブリックリレーション)
広報は、会社のイメージ、商品、店舗のオペレーションなどについて、企業が媒体費用を支払わないで、新聞や、雑誌、テレビニュースに取り上げてもらう活動である。戦争の場合でも戦う大義名分が大事であり、それを当事国だけで無く、周囲の国に知らせることで支持を受けることが出来、戦いを有利に運べるのだ。会社のイメージや商品にあらかじめ好感度を持ってもらってから、大量の広告宣伝費や、販売促進費を使用すると効果的になるのだ。

4.店舗展開と店舗オペレーション
広告宣伝、販売促進、広報がいくら優れていても、店舗数が少ない、店舗の規模が小さい、店舗のQSCが悪い、等では売り上げは取れない。店舗展開と店舗オペレーションは、局地戦の戦いであり、いくら空軍が制空権を握っていても最終的に地上軍が地区別に制覇していかないと勝利を得ることは出来ない。セブンイレブンが売り上げNO.1になっているのは、TVCMだけではなく、店舗数が6044店と圧倒的に多いことによる。ドミナントをしっかり築き上げそこに店舗と広告宣伝費を集中することにより、さらに売り上げが高くなるのだ。

CVS等のフランチャイズチェーンに加入する最大の理由は、単独店より売り上げが上がるからだ。売り上げを上げるためにはTVによる積極的な広告宣伝が重要だ。チェーン展開にはTVエリア別の攻撃が重要なのだ。店舗数が少ない内に全国展開を考えるチェーンがあるが、そのほとんど失敗している。

ドミナントの必要性は、物流や管理だけではなく、広告宣伝において重要だからだ。 フランチャイズに加入する最大のメリットは、個人経営に比べ売り上げが飛躍的にのびることであるが、チェーン本部がばく大なTVCMを打つことで、それを保証することになる。フランチャイズチェーンの展開にとって、TVCMの使用方法をマスターすることは必要条件なのだ。

2.広告予算と効果測定
広告を実施する前に現在の自社チェーン店舗の位置づけを明確にしなければならない。自社の位置づけは外部の調査会社により客観的に調査してもらう。300サンプルに聞き取り調査を行う。この調査では、会社のイメージ、想起率(会社の名前、商品名などを思い出すか)、利用頻度、利用形態(何時、誰と、どの理由で)、競合チェーンの利用状況、QSCの評価(自社と他社)、競合のGRP量、強い点、弱点、店舗展開上の地域別強弱、地域別の広告の強弱等、細かく調査する。この調査と、各店の売り上げデータ、アンケート調査を元に、今後どの地区で、どのような広告宣伝が必要かがわかってくるのだ。そしてどのような広告宣伝媒体(テレビ、ラジオ、新聞、折り込みチラシ、雑誌、屋外広告、ダイレクトメール)を使用するか決定していくのだ

調査により、自社の強弱が出るからそれに基づき今後訴求する内容を決めていく。会社のイメージ、商品のイメージ、QSCのイメージをどのように訴えるか、明確にするのだ。

3.広告宣伝予算とTVCMに必要な費用
1.予算の作成 どのくらいの広告宣伝費を使うかを明確にする必要がある。広告宣伝予算を立てる場合には、商品別のGRPを設定し、それから算出する。競合他社の状況、自社の目的から必要な経費を計算する。新商品、営業時間延長、深夜営業、新サービスの展開などタスクにより必要な広告宣伝経費を積み立てて考えるタスク別予算作成方法がある。
もう一つの方法は、広告宣伝費は安定して一定に使用するのが効果を持続できるので、売り上げに一定の%をかけた額を毎年使用する方法がある。

2.広告のターゲットと目標を決める
自社店舗の対象客層を明確にする。年齢、男女別、所得別等だ。これによりターゲット別の広告戦略を立てることが可能になる。

訴える内容は、会社のイメージ、商品のイメージ、店舗QSCである。プロモーションであれば、客単価アップ、新商品による売り上げアップ、新規顧客の獲得、来店頻度アップなど訴求する内容を明確にする。

3.タイプ別広告(メディアミックス)
広告にターゲットと目標が決まれば、どの広告宣伝媒体を使用するか決めていく。TV、ラジオ、新聞、チラシ、雑誌等の中でどの広告媒体が効果的か決めていく。業種とターゲットにより使用する広告宣伝媒体は異なるが、CVSチェーンの場合はTVCMが最も有効だ。

しかしTVCMだけでよいかというとそうではない。最近ではTVを見ない層が存在する。そのためにメディアミックスといって様々な広告宣伝媒体を使用する必要がある。ラジオを使用したり、新聞、チラシも必要になる場合もある。調査を綿密に行い効果的な広告を選択する必要があるのだ。

4.TVCM媒体コスト
図1の東京テレビエリアを見てもらえばわかるが、東京テレビエリアのカバーしている範囲は、東京、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉、静岡の一部、山梨の一部の広範囲のエリアなのだ。

図2は大阪TVマーケットである。大阪TVマーケットは大阪、兵庫、京都、和歌山、奈良、滋賀、の各県と、徳島、三重の一部の地域を含んでいる。 東京と大阪テレビマーケットを押さえることは、世帯数で20、503、000を押さえることになり、全テレビマーケットの世帯数43、385、000世帯の47%を確保することになる。東京エリアでは静岡、山梨、大阪エリアでは徳島、三重の一部の地域にTVCMがスピル(流れて)しており、それを考慮すると、この2つに地区に集中出店することで全国の50%の地区をカバーすることになり最も効率が良くなる。

表4は都道府県別TV世帯数であり、テレビエリア別の世帯数の明細である。店舗展開はこのテレビエリア別に展開することが必要だ。

TVCMには番組提供CMとスポットCMがある。番組提供CMは放送する番組のスポンサーとなり番組中にCMを流すのだ。良い番組であると反響が良いので当然のことながら視聴率は上がるが、コストも高くなる。表1はセブンイレブン、ローソン、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキンの90年度から94年度の間の年間使用TVCMの内容一覧表だ。この表では番組CMとスポットCMの各種数値を合計してある。94年の4社の数字を平均してみると、スポットCM1本当たりの時間は平均15秒、一本当たりのコストは61万円、1本当たりのGRPは6.69%、1GRPのコストは約9万円であることがわかる。

同じ計算を番組CMでやってみると1本当たりのコストが14万円と安い事に気がつく。しかし、ここで言うコストとは電波料金のみであり、番組の制作費を加算していない。番組の制作費を提供するスポンサーで応分に負担するわけだが、番組の種類により費用が異なるので一概にコストを言うことは出来ないが、一般的にスポットCMと同額か±20%位と思えばよいだろう。費用はスポンサーとしてのTV局との関係によりかなり変動するようだ。

一般的に一つのCMを浸透させるに必要な期間は4ー6週間である。この期間に投入する必要なGRPは最低2000、出来るなら4000GRP必要である。2000GRPのCMを流す場合の媒体コストは2000×9万円=約1億8000万円のコストがかかることがわかる。

5.TVCMの費用と制作費
CMの放映秒数は米国の場合、30秒と1分間であるが、日本は15、30秒が中心であり、15秒を多く使用している。放映時間が異なるので米国のCMとはかなり質の異なる映像が多いのだ。1本当たりの制作費は質により大きく異なる。安いもので200万円から高いもので2000万円以上と、品質により大きな金額の差が出る。米国では有名タレントを使用するCMは少ないが、日本の場合有名タレントを使用するケースが多いようだ。タレントのコストは1流で契約金2000万円、1作品ごとに2000万円、年間3回のCM撮影としてとして5000万円~1億円かかるのだ。

有名人を使用するメリットはタレントの良いイメージを使用し一気に商品名を浸透させるメリットがあることだ。しかし、デメリットとしてスキャンダルでイメージが悪化したり、人により好き嫌いがある場合だ。また、あまり色々な商品のCMに出るタレントであると、自社の商品のイメージが正確に伝わらないことがある。

6.TVCMの期間
一つのCMの放映期間は4週間から6週間である。これは店舗の商品のキャンペーンや連動のプロモーションの期間による。あまり期間が長くなると徐々に効果が落ちてくるし、あまり短いと経済的でない。また、あまり同じCMを大量に流すと視聴者がいやになる問題があり、適度なGRPを考える必要がある。そのために同じプロモーションであっても数本の異なったCMを制作するわけだ。

広告の出し方は色々なパターンがあるが、プロモーションをする1週間前から、事前のティーザーCM(事前になにかやるのだと言う期待感を持たせる手法

7.をわずかに流し、スタートして第1週より第2週にピークを持っていき、3週4週は盛り上げた注目度を維持する量のCMを放映する。一般的に一つの商品訴求するのに、期間によらず最低2000GRP最大で4000GRP必要である。2000GRPのCMを流すとそれに比例して売り上げは上昇するが、筆者の経験によるとあるGRPを越える時点でその経済効果が低減していくようだ。これは商品、チェーン、競合状態により変わるので、各チェーンで経験から設定する必要があるだろう。
4.知らなければならない広告宣伝用語
広告宣伝の世界は難しい言葉が多いが、最低限度以下の言葉を知っておく必要がある。

1.GRP(Gross Rating Point)
延べ視聴率のことであり、期間中の各CMの視聴率の合計である。単位は%である。平均視聴率(到達率)×本数(回数)

2.リーチ(Reach)
累積到達率のことで、視聴世帯の広がりを示し、少なくとも1回以上視聴した世帯の割合。つまり広告が一回以上到達した人の割合である。単位は%。

3.フリークエンシー
平均到達回数のことで、少なくとも1回以上視聴した世帯が、平均何回視聴したかを表す。

リーチとフリークエンシーの関係は図3にようになる。
図3 リーチ、フリークエンシーについて
図3
リーチは市場(ターゲット)ヘの到達率で、ビークルの露出ごとのそのスコアが変化する。

例えば、一回目が20%で、2回目が30%の場合
図のように、各回独立でなく必ず重複が考えられる。
l 2回の露出を通して得られる実際のリーチは、

20+30=50% ではなく
15+5+25=45%である。
このとき到達回数に注目すると、

重複図
広告に携わる人の総合口座:日経広告研究所編より

簡単に言うとGRPは使用したCMの量を意味する。この数字はどのくらいの広告宣伝量を使用するか、いくら費用がかかるかを表している。

リーチは図のように2本のCMを放映したとき、1本目の視聴率が20%、2本目が30%であるとする。GRPは両方の合計の50%であるが、2本のCMを重複して視聴した人の比率が5%あったとすると、両方の合計から5%を差し引き45%となる。この数字がリーチである。つまりGRPとしては50%に視聴者に届いているはずだが、重複があるので、実際に届いている比率は45%であると言うことだ。リーチとは実際に到達した数字を意味する。

フリークエンシーとは頻度だ。2本のCMを見た人が5%いるわけだから、50÷45=1.1となる。つまり頻度のことを意味する。CMは単に一回だけ見ても購買意欲をかきたてる訳ではなく、何回か見る必要がある。フリークエンシーの数字が大きいほど同じCMを何回か見ることになる。一般的に3~5回到達していると有効で購買につながると言われている。しかしこの数字が多すぎ、10回以上を越えるとマイナス効果になるので注意が必要だ。

5.中小はどうするのか
TVCMというと高価で中小のチェーンには不可能であると思われるが、GRPの単価はそのテレビマーケットの持っている世帯数に比例する。つまり東京の1割以下の世帯数である静岡ではGRPコストは東京の1/10である。(日本経済新聞)そのため10店舗でも可能だ。東京の場合最低でも100店舗が必要だ。低価格であるため、静岡を選んでテストマーケットにする企業が多い。各社の新製品を全国マーケットに導入する前には静岡でTVを使用したマーケットテストを行うことが多いようだ。

先にTVCMの必要なGRPは最低2000であると申し上げたが、これは大手チェーンが短期間で一気にプロモーション展開をするために必要なGRPであり、個店単位でTVCMをうつ最低限度のGRPはもっと低くても良いのだ。CMの効果を測定する方法として認知率があるが、100GRPで24%の人が認知し、250GRPで32%、500GRPで38%1250GRPで50%が認知する。2000では56%、3000では63%である。(広告に携わる人の総合口座:テレビ�ラジオの媒体特性:ビデオリサーチ小黒直広:日本経済新聞社による)350~500GRPあれば効果はかなり期待できるのだ。

広告宣伝をする前に重要なのは、店舗のイメージとQSCだ。いくらCMでよいイメージを訴えても、店舗でその用意が出来ていなければなにもならないのだ。

6.広告代理店の選定方法と注意点
広告代理店というと、髪の毛をポニーテールに結って訳の分からないことを言う別世界の人間だと敬遠する人が多いようだが、それはCMや制作物などのクリエイティブの担当者である。実際の広告宣伝会社の担当者はマネージメントをする、日本語をちゃんと話す日本人であるから安心していただきたい。しかし、専門家であるからと全てをまかせてはいけない。まずあなたの店舗と商品を理解させる必要がある。他社と比べての強弱をしっかり理解させ、なにを訴えていくか明確する必要がある。また、放映するCMは事前に店舗の社員、アルバイトに見せ、理解させ、店舗のQSCを完璧な状態で放映する必要がある。さもないと、悪い状態の店舗を逆宣伝することになるからである。

参考文献一欄表
本名 著者名 出版社名
広告白書(平成3ー7年版) 日経広告研究所
有力企業の広告宣伝費(平成6年版) 日経広告研究所
マーケテイング原理 フィリップ�コトラー ダイヤモンド社
広告に携わる人の総合講座 日経広告研究所
広告ビジネスハンドブック 望月 明 宣伝会議新社
マーケテイング�サクセス R�Fハートレイ ダイヤモンド社
広告コニュニケーション新論 根本 昭二郎 日経広告研究所
放送ハンドブック 日本民間放送連盟 東洋経済
現代テレビ放送学 渡辺 みどり 早大出版部
戦略的メデイアプランニング ケントM�ランカスター、ヘレンEカッツ 日経広告研究所
放送 コニュニケーション90 大月書店
テレビ放送を考える 田宮武、津金沢聰広 ミネルウァ書房
放送メデイア入門 稲田植輝 社会評論社
ビジネス調査のやり方 原隆志 中経出版
クーポン広告 小林太三郎、大木眞ひろ、清積哲也 電通
マーケテイングリサーチ最前線 朝野ひろ彦 同友館
新しい広告効果測定 小林貞夫 日経広告研究所

著書 経営参考図書 一覧
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