PL法とHACCP(ハサップ)(商業界 飲食店経営1995年10月号)
PL法とHACCP(ハサップ)
本年の7月よりPL法が施行され飲食業もその具体的な対策が必要だ。PL法の施行は日本の国際化から生まれたものだ。PL法は製造物責任法でありレストランが提供する食品は製造物となるわけだ。 PL法そのものは具体的な品質管理を述べたものではないので、製造物の安全性向上のために製品の研究段階、製造段階において従来の日本的な品質管理だけでなく国際的に通用する品質管理を導入しなければならない。
国際的な品質管理とは、ヨーロッパでのEUコミュニティでのあらゆる標準化の中で、品質管理の標準化として誕生したのがISO9000の品質管理基準だ。ISOとはInternational Organization for Standardizationの略で日本語では国際標準化機構である。
日本からEUへ輸出する製品は全てISO9000の規格にあったものでないとならないようになっている。そのため主に機械などの製造メーカーがISOの規格を取得している。日本ではそのためISO9000は機器メーカーの基準であると思われているようであるが、日本から輸出する食品にも提供されるのである。最近問題になったのは日本の魚加工業の製品がEUへ輸出できなくなったことである。この最大の理由は日本側がこのISO9000の主旨を理解していなかったためのようである。
ISO9000は製品を設計し、供給する供給者の能力を立証することが、必要とされる品質システムである。まず、経営者は責任を持って品質に対する方針と目標及び責務を明確にし、文書化しなければならない。次にその方針を社内全体に行き渡らせ、実践させなければならない。
そのほか、品質管理システム、設計管理、文書管理、購買、製品の識別、工程管理、品質検査及び試験方法、不良品の管理、問題点是正の処置、取り扱い保管、包装、品質記録、内部品質監査、教育訓練、統計的手法など20項目に渡る要求基準がある。ただ、ほとんどの産業に当てはまるように作成されているので、具体的な食品製造工程については述べられていない。
ここで大事なのは人に頼るのではなく、組織、管理手法、方法を明確にし、文書管理をきちんとするということである。先に述べた魚加工業で問題になったのは品質管理を立証できなかった文書管理にあるようだ。今後PL法では製造業者に問題点の解明の責任があり、管理状態などをきちんと文書化し管理する責任がでてくるようだ。
さて、もう一つの国際基準として米国で用いられているHACCP方式がある。HACCPとはHazard Analysis Critical Control Point のことである。危害分析、重要管理、事故防止品質管理システムというような翻訳になるであろう。
同様なシステムはNRA(全米レストラン協会)がS.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)という名称で傘下のレストランオペレーションに推薦している。これらのシステムは食品の製造行程の管理状態に焦点をあて、発生する可能性のある危害を分析、予測して、起こりうる危害の優先順位をつけて、ポイント毎に管理していく手法である。
HACCPは1971年に米国食品会社のピルズベリーによってNASA(航空宇宙局)の宇宙船のパイロット用の食事を安全に製造するために開発された。
宇宙船で食中毒が発生することは宇宙船が故障するのと同様に大変危険であるからだ。HACCPのシステムは食品製造行程全体を管理し絶対に問題を発生させない、ゼロディフェクトを保証しなければならなかった。従来の食品製造コントロールシステムは、製造後サンプルを抜き取り分析し問題点を発見する物であった。HACCPのシステムは問題が発生する前に問題点を発見し、欠陥を事前に改善するシステムである。元々は食品製造工場用に考案されたシステムであるが、飲食業の調理システムの改善にも役に立つと評価され急速に普及し出している。米国ではAIDSの問題と大腸菌事件以来急速に導入するチェーンが増加している。
最近では米国のジャックインザボックスのハンバーガーの食中毒問題で脚光が浴び、米国の飲食業各社がそのシステムを厳格に取り入れ始めている。特に大腸菌事件で問題になったファーストフード業界で急速に普及しており、店舗の品質管理はもとより食材供給業者の工場における管理も厳しく行われている。特に最近NRA(全米レストラン協会)で真剣に取り組み始めている。
飲食業におけるHACCP
飲食業でのHACCPはセントラルキッチン(CK)と店舗の両方で導入されなければならない。まず、メニューと使用する原材料を明確にし、予想される危険を分析する。次にCKでの原材料の受け入れ時のチェックから始まり、各行程での品質に影響を与える重要な管理項目を定め、重要管理項目ごとに、管理内容を明確にしていく。最終商品に問題が発生したときには、重要管理項目ごとに問題点を明確にする。各重要管理項目ごとに管理をしっかりしておけばその先に品質の問題が発生することが少なくなる。つまり、商品の各行程において関所を数多く設けて問題商品が間違っても消費者に届かないようにするのだ。
食品製造行程の流れのそれぞれのステップには食品が汚染される可能性がある。汚染とは許容限度を越えた細菌による汚染、毒物の残存などである。そこで食品の製造行程の中で汚染の可能性の高いセクションつまり、重要管理項目(Critical Control Poit)を決定する。重要管理項目は、作業、準備、調理手順を含む全てから洗い出すのだ。
具体的な食材の管理にはいる前にまず、どんな危険がありうるのか、それはどんな状態であるのかなどの衛生管理の知識を正確に知っておく必要がある。
食中毒の現状と飲食業の衛生管理の重要性
食中毒は経口により(食物を食べることにより)発生する病気のうちの一つのジャンルである。経口の疾病は食中毒の他に以下の様に分類できる。
表1 食物による疾病の種類
法定伝染病
コレラ、赤痢、腸チフス
食中毒
細菌性食中毒
(感染型):腸炎ビブリオ、サルモネラ、カンピロバクター、病原大腸菌、ウエルシュ、セレウス、エルシニア・エンテロコリチカ、ナグビブリオ、ビブリオ・ミミカス、ビブリオ・フルビアース、エロモナス・ヒドロフィラ、エロモナス・ソブリア、プレシオナス・シゲロイデス。
(毒素型): ブドウ球菌、ボツリヌス菌
化学性食中毒
(動物性自然毒): フグ、貝類、魚、
(植物性自然毒): きのこ、ジャガイモ、青梅 (カビ毒) アフトラキシン
(化学物質): 有害性金属(カドミウム、アンチモン、銅、錫、亜鉛)
有害性食品添加物(砒素、ズルチン、有害色素)
放射性物質(チェルノブイル事故)
混入(メチルアルコール、ジエチレングリコール、農薬、水銀)
ウイルス性食中毒 生牡蛎によるウイスル性食中毒
食中毒様症状 アレルギー性・ヒスタミン性食中毒(食物アレルギー、卵、牛乳、そば、鯖鯵等の魚) 腐敗食品摂取 油の酸化による食あたり
異物混入 金属 毛髪 虫 洗剤 毒物
表1の法定伝染病と細菌性の食中毒は良く似ている。実際、腸チフスと、サルモネラ菌は 類似の菌なのだ。違いは、法定伝染病のコレラ、赤痢、腸チフス、パラチフスは、少量の菌を食物などを通して経口摂取しただけで発病するのに対して、細菌性の食中毒は大量に繁殖した食中毒菌を経口摂取したときに発生するという、伝染力の差である。食品衛生で言う、衛生管理とは主に食中毒菌を対象にした物である。
経口による伝染ではないが、エイズ、感染性肝炎等も飲食業では注意しなければならない問題である。米国では、ファーストフードなどで紙製品を使用していても、完全な衛生対策として、食器洗浄機を導入しているのは、エイズ、感染性肝炎等の対策も考慮しているからである。
食中毒の現状
ではどんな食中毒の発生が多いのだろうか、過去の統計を見てみよう。
表2 過去の食中毒発生状況(表2から5は厚生省生活衛生局食品保健課発表データ)
年度 事件数 患者数 死者数
1983年 1,095 37,023 13
1984年 1,047 33,084 21
1985年 1,177 44,102 12
1986年 899 35,556 7
1987年 840 25,368 5
1988年 724 41,439 8
1989年 927 36,479 10
1990年 926 37,561 5
1991年 782 39,745 6
1992年 557 29,790 6
1993年 550 25,702 10
表3 1993年度 月別 発生状況
総数 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
件数 550 17 16 21 25 30 46 70 107 101 56 25 27
表4 1993年度 細菌別発生状況
総数
細菌 385件
サルモネラ 143
ブドウ球菌 61
ボツリヌス菌 2
腸炎ビブリオ 110
病原大腸菌 37
ウエルシュ菌 9
セレウス菌 6
エルシニア・エンテロコリチカ .
カンピロバクター 14
ナグビブリオ 1
その他の細菌 1
表5 原因施設別発生状況
件数 %
原因施設判明総数 495 100.0%
家庭 96 19.4%
事業場 21 4.2%
学校 22 4.4%
病院 6 1.2%
旅館 75 15.2%
飲食店 181 36.6%
販売店 8 1.6%
製造所 5 1.0%
仕出し屋 63 12.7%
行商 ー ー
採取場所 1 0.2%
その他 17 3.4%
表2から表5を見てもわかるように、全体の食中毒自体はここ10年間の推移を見てみると、減少しているのがわかる。しかしながら未だに食中毒事故の3/4はプロのいる飲食店で発生しているのは大きな問題である。
表3を見ると食中毒の多発時期は温度、湿度の高い6月から10月に多く発生する。7月から9月に発生する食中毒は全体の50%に達するのでこの期間は特に注意が必要になる。
細菌性食中毒とは
細菌そのものにより感染する食中毒だ。食中毒の原因菌のトップは、海産物を原因とする腸炎ビブリオ菌であったが、93年はサルモネラ菌がトップになっているのが注目される。また、病原大腸菌、カンピロバクター等の事故も増加しているようだ。食中毒菌は新種の発生があり、気を抜けない。
日本で比較的多い食中毒に魚介類から引き起こされる。腸炎ビブリオがある。感染源は海水中の腸炎ビブリオ菌が魚介類から調理器具を経由して食品を汚染し、人に感染する。魚介類を生で食べる場合には、早めに食べ、冷蔵庫できちんと保管する必要がある。腸炎ビブリオ菌は海水に存在しており、海産物は殆ど汚染されている。問題は、菌を繁殖させなければ問題を起こさないのだが、魚などを調理したまな板で他の食品を調理し、常温で放置することにより、菌が繁殖し事故が発生することが多い、必ず魚介類の専用のまな板を使用する。
サルモネラ菌の感染源はネズミ、ネコ、ニワトリ、食肉等、であり、それが、包丁、まな板等の調理器具を経由して食品を汚染し、人がその食品を食べ発症する。サルモネラで注意しなければならないのは、本人は異常を感じない健康保菌者がいることだ。人口の0・3‾0.5%は健康保菌者であるといわれており、数千人の検便でに0.3%前後から検出された経験がある。本人は健康でも、調理をする際にその菌が混入すると、第3者に食中毒を引き起こす危険があり、飲食業に従事する人の定期的な検便は絶対に必要だ。健康保菌者のサルモネラ菌の駆除は普通の病院では出来ず、専門の病院で治療を受けないと駆除できなくなる。サルモネラ菌は、食鳥、卵、食肉等での汚染が多く、必ず十分に火を通して食べるべきだ。日本では卵を生で食べる習慣があり、卵の取り扱いに無頓着なので注意されたい。
食鳥を汚染している菌としてサルモネラ菌の他にカンピロバクターがあり、それによる食中毒が増加している。
最近クローズアップされてきた菌で病原大腸菌がある。従来大腸菌というのは無害であると思われていた。大腸菌は名の通り、人間や動物の糞便から発見される。食品中から大腸菌が発見されると言うのは、他の腸内細菌、例えば、赤痢、コレラ、チフス、サルモネラ等の危険な菌がいる可能性があるということで、食品の安全検査の目安として使用されていた。しかし、2年ほど前に米国のハンバーガーチェーンのジャックインザボックスでハンバーガーのミートを完全に火を通さなかったために発生し、死者まで出して有名になり、今では食中毒を起こす菌として知られている。 Oー157(EーColi)は牛などの腸内にいる菌であり、日本では井戸水などで発見されている。飲食業で井戸水を使用する際には年に1回は水質検査をし安全を確認する。水道水を使用する場合でも、貯水タンクを使用する場合には点検穴に鍵をかけ、更に年に一回の清掃殺菌をしなければならない。
毒素型(細菌が発生する毒素による食中毒)
93年の食中毒の原因の第3位になるのがブドウ球菌だ。ブドウ球菌は人や動物の化膿性疾患、フケ、髪の毛、鼻汁、ハエ、ゴキブリにいる。昔軍隊でフケ飯といって、気に入らない上司の食べるご飯にフケをかけて腹痛をおこさせる嫌がらせがあったが、これはブドウ球菌を利用した食中毒である。手指、調理器具を経由して食品を汚染し、人に感染する。ブドウ球菌による食中毒は人間が一般的に保菌しているので、おにぎりや、弁当などの食中毒の原因になることが多い。おにぎりなど手で直接握ったものを、常温で保管するのは大変危険であり、大手のコンビニでは清潔な機械で握ったり、手で握る場合にはビニール手袋を使用し冷蔵保管する。食中毒の症状は下痢、腹痛などであるが、体力が弱い、病人、老人、子どもには危険である。
発生件数はあまり多くないが、最も危険なのはボツリヌス菌だ。肉類、魚、豆類、(缶詰)、漬け物、鮒寿司、レンコンの漬け物等の保存食品で発生する嫌気性菌だ。レンコンの事件のように事故が発生すると死亡事故にいたるほど危険である。野菜などの根の土などについているので、その洗浄加工など原材料の段階からの管理に注意しなければならない。
細菌性食中毒に対する対策 まず、原材料は全て食中毒菌に汚染されていると考えるべきだ。それを防ぐ3大要素がある。
つけない、増やさない、殺す
という簡単なことだ。
つけないと言うことは、細菌をつけないと言うことであり、まず大事なのが手洗いだ。単に石鹸で洗うだけではなく、その後殺菌する。また、洗った手を手ぬぐいや前掛けで拭いてはいけない、かえって細菌を手に付けるようなものだ。必ず使い捨てのペーパータオルを使用する。しかし、手洗いの頻度を増やすと手あれが増えかえってブドウ球菌が発生するので、手洗いを過信してはいけない。店内で食べない持ち帰りの総菜を調理するのなら、プラスチックの使い捨ての手袋を使用し、直接手を食品にふれないようにする。手はいくら殺菌しても、手あれなどがあれば、ブドウ球菌などが存在するからだ。
次に大事なのは、調理器具の殺菌だ。まな板、包丁、布巾等多くの食品にふれる調理器具を定期的に殺菌する。特にまな板は、傷が付いていると細菌の巣になるので、定期的な交換をする。また、使用中でも時間があれば洗浄殺菌しなければならない。また、食品により使い分けるべきだろう。
図1
まな板は傷の中に細菌が入っているので、一般的な殺菌剤で殺菌することが難しい、高温の湯で(80度以上の)殺菌する必要がある。食器洗浄機があれば、開店前と閉店後に洗浄機で高温殺菌するとよい。(ただし、リンス温度が80度以上の設定でないと効果がない)洗浄機で洗った後、次亜塩素酸ナトリウム溶液を濃度100PPMにした殺菌液につけるか、殺菌用アルコールを吹きかけ、立てかけて乾燥させる。
まな板や、調理機器を洗うブラシや亀の子たわし、スポンジに注意が必要だ。油で汚れた亀の子たわし等は細菌の巣であり、かえって菌を塗り付けることになるから。亀の子たわしや、ブラシはしゅろなどの植物性の物は細菌汚染が多く使用する際に良く洗い油を落として殺菌して使用することが大事だ。出来れば、プラスチック製のブラシの方が汚染が少なく安全だ。
筆者の経験でアイスクリームマシンなどの清掃の際も問題になったのは、ブラシである。プラスチック製のブラシと埋め込み方の工夫をし、更にブラシ専用の油落とし洗剤を開発して解決した。
増やさない、ということは食品中の細菌を増加させないことだ。食中毒菌はどんなに注意しても完全に防ぐことは出来ない。しかし、かりに食中毒菌が付着してもそれが危険なレベルまで増殖しなければ食中毒を引き起こすことはない。飲食業で食中毒を発生するのは、この増やさない工程が不十分だからだ。94年の食中毒を見てみると、大手ホテルでの食中毒の発生が10月までで、5件、374人に上っている。(読売新聞データーベース)これらの多くは宴会などで発生しており、調理後の食事の保管状態が長すぎたか、温度状態が悪かったのではないかと思われる。図1は食中毒菌と温度の関係である。細菌が繁殖するのは、60℃から5℃の間であり、この温度帯をさけて保管しなければならない。調理後の食品は直ちに冷却するか、60度以上の細菌の増殖しにくい温度帯に保管する必要があるのだ。大手ホテルでも、宴会の際には十分な冷蔵庫と保管庫が不足しているようで、毎年このような食中毒事故を起こしているのは残念だ。厨房設計の際には、宴会等の需要期まで考えた設備設計をするべきだろう。ある大手都市ホテルは食中毒を出した後、慌てて冷蔵庫の増設を行ったこともあるようだ。
細菌を殺すことは最も重要であり、調理機器の重要な役割だ。食品を調理する際には、食品の内部温度が一定の温度に達することが大事だ。図1を見てほしいのだが、米国では大腸菌の事件以来、調理温度を変更し、内部温度が74℃になるまで加熱するようになっている。今後、温度と調理時間の管理はより重要になって行くであろう。
細菌性食中毒の他に注意すること
化学性食中毒については、原材料の選定を慎重に行うことが必要になる。
<4>の食中毒様症状の油の酸化と、<5>の異物混入は細菌性の食中毒と同じく注意を払う必要がある。
油の酸化は、フライヤー内で油が接触している金属に銅等を使用していると、酸化が促進される。保健所では最近油の酸化のチェックを厳しくする様になっている。酸化が進んだ油で揚げた食品を食べると食あたりを起こし、細菌性の食中毒と同じくらい苦しむことがあるためだ。そのため日本の油の酸化の基準はドイツと並んで世界で最も厳しく、AV値で2.5である。これをチェックするには酸化度の試験紙があるので使用する。
筆者が以前ダンキンドーナツに勤務していたときに、油が頻繁に酸化する問題が発生した。ドーナツは油を大量に吸収するので、油の回転率が良く、殆ど廃棄しないで良い。それが3日で酸化するという問題が発生した。原因を調べるとフライヤーの部品で銅にクロームメッキをした部品を使用していたが、そのメッキがはげて、銅が露出し、油に接触していたため、あっと言う間に酸化していたのだ。
また、油は太陽光線が当たっても酸化が促進されるので日除けや蓋などが必要だ。油の酸化対策ではいろいろな酸化防止装置があるが殆ど役に立たない。一番大事なのは使用した後なるべく早く油を濾過し、油中の食品の滓を取り去ることである。また、温度が設定より高くなりすぎると油を痛めるので、なるべく温度が上がりすぎない精度の高い温度制御装置を使用する。また、定期的なフライヤー内部の洗浄を行い、油槽にたまったカーボンを取り去ることは油の寿命を長持ちさせる秘訣だ。
顧客からのクレームで最も多いのが異物混入だ。機械の部品が簡単に外れて調理中の食品に混入することは絶対にあってはならない。筆者の経験でも食中毒より異物混入による事故がはるかに多い。
グリドル清掃用の金だわしがおれて、ステンレス屑がグリドルの上に残っていたのを知らずにハンバーグパティを焼いて出してしまったことがある。客の喉に刺さり、大騒ぎになった。そのクレーム対策に大変苦労し、グリドルの清掃方法を変更し、グリドルクリーナーという洗剤でカーボンを溶かすようになった。事故の責任をとって筆者が開発したのだが2年もの長い期間かかった思い出がある。
また、グリドルクリーナーを使用するのは営業後である。営業中にカーボンをスクレーパーで削り取るのだが、その、刃物がグリドルより堅いとグリドルの鉄板を削り取り、ミートについてしまうという問題もあり、両者の材質の選定で苦労した。 先日、筆者がある有名なスパゲティレストランに行って食べたら、中から鉄片が出てきたことがある。なにかと思ったら、たわしを束ねている、ワイヤーの切れ端であった。機械の部品ではなくとも、清掃する器具に使用する部品まで混入しにくい物にする注意が必要だろう。以前、菓子に塗るバターブラシを止めるビスが混入するという事故が多発し、金属を使用しないブラシに変更した経験もある。また、ブラシの毛の植え方が悪くブラシの毛が菓子についてしまうというクレームもあり、ブラシの材質、植え方から改善させられたことがある。事故がないように事前の細かい注意が必要だろう。 店舗で使用する全ての機械、調理機器、清掃道具まで細かい気配りが必要だ。部品だけではなく、洗剤の混入事故も多いので注意しなければならない。良くあるのだが洗剤を、食器に入れておきそれを誤って飲んでしまうという事故がある。中性洗剤でも大量に飲めば死亡する危険がある。洗剤の保管はきちんとしなければならない。 ここからカット
HACCPの具体的な管理
以上の様に書くと何だ以前からある食中毒対策と同じじゃないかと思われるようだが、実は基本的に異なる管理システムである。従来の衛生管理は従業員のモラルや教育レベルに依存していたシステムである。また、保健所の抜き打ちチェックによる、大腸菌検査などの検査システムによってしか衛生状態をチェックできないものであった。 HACCPは人的な要素をなるべく避け、危険度を具体的に低くしようというものだ。また、完成品の大腸菌検査などに頼らず、衛生管理を各工程でしっかりと管理しようと言う工程管理である。
HACCPとは2つのステップに分かれる。
危害分析、予測
まずHazard Analysis つまり食中毒や毒物、異物混入などの危険を各原材料別に予測する。勿論使用する全原材料の危険度を予測すればよいのだが、現実には飲食業では1000品目以上の食材原料を取り扱うので全原材料の管理は物理的に無理だし、現実的でない。一番危険な食品は何かを見極めそれに集中して管理することが効果的な安全管理なのである。例えばハンバーグステーキの原材料を考えると、冷凍牛肉、生タマネギ、パン粉、スパイス等が考えられる。ここで最も危険性のあるのが、牛肉だろう。牛肉は一般的にサルモネラ、ブドウ球菌等で汚染されている。いくら冷凍であっても、解凍するときに付着したサルモネラ菌が増殖し食中毒を起こす可能性がある。つまり、牛肉の扱いが最も注意しなければならない。
重要な管理項目に優先順位をつける
次に Critical Control Point、重要管理項目を決定する。牛肉はサルモネラ菌などで汚染されているから、注意して扱う必要がある。そこでどう注意して扱うかという具体的な項目を決めるわけだ。先ほど食中毒を防ぐにはつけない、増やさない、殺すと書いてあった。ここで大事なのは増やさない、殺すということである。細菌を増やさず、殺すというのは、温度管理と時間管理である。冷凍の牛肉は受け取り時に冷凍状態でなければならないし、表8の様に受け取り時点の温度はマイナスのー15無ければならない。そして調理するときには中心温度が74℃まで上がるように加熱する。つまり、保管の時の温度はなるべく低くし、細菌の繁殖を防ぐ。細菌の付着は避けられないし、冷凍状態に保っても細菌は死滅するわけではない。そこで付着した細菌を調理により殺すと言うことが大事になる。その際に大事なのは一定の温度まで上げると言うことだ。図1の危険温度範囲以外の温度に食品温度を管理することが必要なのだ。
調理に必要な温度は一般に60℃以上であるといわれているが、ジャックインザボックス事件以来、米国の大手チェーンでは温度基準を変更し、
鳥は74℃以上
豚は74℃以上
魚は74℃以上
牛は68℃以上
にしている。
ここで重要なのは、店舗に必ず正確なデジタル温度計をおいて定期的に温度を計測しておくことだ。PL法律で重要なのは問題が発生したらそれを立証するのは企業側であるからだ。つまり、店舗での温度管理をどのように、どのくらいの頻度で行っているかを文書に残し保管することが重要だ。例えば温度計測は、開店前、昼のピーク前、夜のピーク前の3回実施し、記録しておく。記録した用紙は3カ月保存する。等だ。図2は各商品の調理行程と温度を記録するものだ。これは調理レシピーを作成するときに同時に作成し、定期的にその通りされているかチェックするものだ。最初と手順が変わったり、温度が守られていないと問題が発生するからだ。このチェックの期間も明確に定める必要があるだろう。
また、調理した食材を保管するには保管期間を明確にすることが重要だ。日本では保管時間と温度を明確にしていないが、米国では60℃以上、2時間以内の保管であると定めている。大手チェーンでは保管温度を66℃以上と定めている。保温庫の温度状態と、食品の中心温度を定期的にチェックすることが重要だ。
業態別管理項目
別表の15ー17にFF&FR、給食、レストラン(原材料から作る)の3種類に分けて具体的な管理手法をまとめてみたので参考にされたい。基本的には原材料の保管の状態、温度、期間、をきちんと管理することである。今後重要になるのはそのチェックリストを保管しておき、きちんと管理をしていることを立証することだ。温度も毎日最低3回は計測し、記録して、その記録紙は最低3カ月は保存するなどの基準を決めることだ。
表15
FF、FRの場合
FF、FRの場合のはハンバーグパティをセントラルキッチン(業者から購入する場合でも)で整形し、冷凍状態で送られてくる。この場合の注意点は保管温度をしっかりと守ることと、調理をしっかり行うことだ。重点管理項目は調理と保温であり、温度と時間をしっかり守ることが必要になる。調理の温度とはグリドルの温度だけではなく、ハンバーグパティの内部までしっかり温度が上がっているか、部分的なムラはないかまでチェックしなければならない。
この業種は売り上げが高いので、調理機器のメインテナンス、温度調整も定期的に行い、調理品目の温度と同時に調理機器の温度も記録して残しておく必要がある。調理を普通タイマーなどで管理しているがその時間のチェックも必要だ。温度をしっかり守るためにはグリドル表面のカーボン落としや、ターナーの鋭さも必要であり、マニュアル管理と、記録管理は必要不可欠だ。
なお、この場合管理が楽なように思われるが、セントラルキッチンや製造業者の管理は別途しっかり行わなければならない。製造業者の管理をしっかりしていないと、事故が発生し、補償問題の時に負担の度合いが増加するからだ。基本的には製造業者がこのHACCPのシステムを導入していることが条件になるだろう。セントラルキッチンと、製造業者の工場のHACCPのシステムについては飲食店経営95年4月号の筆者の記事を参考にしていただきたい。
表16
給食の場合、
給食と書いたが、原材料を基本的に冷凍で仕入れる業種としてみてもらえればよい、重点管理項目は店舗での加工度が高いほど増加する。この場合には調理、冷却、保管、再加熱、保温が重点管理項目になる。重点管理項目が増加する代わりにセントラルキッチンや製造工場の管理の度合いが減少する。
調理と保温の項目は表15と同様だが、給食の場合大量に短時間に捌く必要があり、つくりおきが必要になる。従来の食中毒の問題点は作り置きであり、その間の温度管理と時間が悪いと細菌が増殖し事故を起こすのだ。
調理をして温度を74℃まで上げても細菌は死滅するわけではない、減少するだけだ。そして温度が60℃以下に下がると残った菌が活性化し、快適な温度と水分により増殖し食中毒を起こすのだ。調理後直ちに冷却し、2時間以内に5℃以内に冷却する必要がある。これにより細菌の増殖が最低限度になる。その後の保管は冷蔵温度帯で2日間である。此の保管可能期間は冷蔵庫の温度管理能力により異なるので、各店舗で食品中の細菌検査から決定しなければならない。いずれにせよ、冷却時間、温度、保管可能期間、冷却後の再加熱温度、保温の温度など具体的に決め、それを管理し記録しなければならない。
良く勘違いするのだが一度調理済みの食品は温めるだけでよいと思うことだ。上でも述べたが、冷却保管中でも細菌は増殖するのであり、再度温度をしっかりと上げて細菌を死滅させる必要がある。調理はグリドルで完全に調理し、再加熱の際にはスチームコンベクションオーブンを使用すると焦げ目がつきすぎないで、内部まで十分加熱される。
表17
レストランの場合
レストランとは食材を全て生の状態から店舗で調理することを言う。また、調理後はすぐに提供し、保管をしないという前提である。その為に重要管理項目は調理だけである。生の状態での温度管理とあまり長期間保管しないと言うことで大事な箇所は調理の温度である。従来一般的なレストランでは調理温度など正確にしらべないで、舌で熱いという判断であった。しかし、これからはやはり、調理後の温度も正確に調べ具体的な調理機器の温度設定、時間設定をする時代に来ているだろう。いずれにせよ、調理温度の管理はしっかりする必要があり、最低限度、温度計、ストップウオッチの供えをするべきだろう。
温度管理で案外おろそかにし勝ちなのが冷蔵庫の温度管理である。冷蔵庫の温度計が狂っていることもあるので、正確な温度計を使用し時々チェックする必要があるし、冷却が十分出来るようにコンデンサーの清掃も必要になる。また、常温保管の食材でも、常温というのは25℃位のことを言うのであり、厨房の中の35℃以上ある様な場所で保管してはならない。また、当然の事ながら虫や、ネズミの害にあわないような、食材保管庫でなければならない。
HACCPでは洗剤の知識も必要だ
P/L法の施行に伴い、調理機器の清掃殺菌作業等をきちんとおこなう必要がでてくる。 しかしいくら衛生管理が重要であるからといっても、人件費の高騰した現在では効率的な調理器具の清掃殺菌行わなければならない。
洗剤の働きの原理と、配合成分の知識
洗剤の洗浄力と中性洗剤
水、洗剤、物理的作用(ブラッシング、撹拌、噴射、循環、振動、温度)の3つの作用が洗浄の3大要素だ。
例えば、厨房で使用するダスターの洗浄を考えてみよう。厨房で使用するダスターには種々の汚れが含まれる。油状の汚れ(動物、植物性の油)、蛋白質汚れ(卵、ミルク、肉、植物蛋白)、炭水化物汚れ(ご飯、でんぷん、糖分)、無機質汚れ(土砂、金属)、特殊な汚れ、等だ。その汚れは、ダスターの表面に付着したり、染み込んだり、場合によっては変色するほどの汚れだろう。ダスターをきれいにするには、普通の水で洗浄する場合と、中性洗剤をといだ水で洗浄する場合があるだろう。では、水を入れたバケツと、中性洗剤をといだバケツを用意してみよう。
汚れが付着したまま乾燥したダスターを水中に入れても水がなかなか染み込んでいかないはずだ。そこで、ダスターを手で水の中に浸け、無理に水を染み込ませてみる。それだけでは汚れは落ちてこないはずだ。そこで、ダスターをごしごしこすったりもんだりすると、汚れが落ち、水が濁ってくるはずだ。水ではなく、湯を使用すると汚れ落ちはもっと良いはずだ。このごしごしこするのと、湯を使用するのを物理的な力という。
では中性洗剤を希釈した水で洗ってみよう。ダスターに直ぐに水が染み込むのが分かるだろう。これを浸透作用という。
次にダスターをごしごしもみ洗いしてみよう。中性洗剤を使用した方が水の汚れが多いはずだ。これは洗剤が汚れに吸着し、水に溶かすつまり乳化作用が働くからだ。 次にそれぞれのダスターを絞ってみよう。当然の事ながら、洗剤を使用したほうが汚れが落ちているはずだ。これは、洗剤を使った方が汚れがダスターに、再び付く事がなくなるからで、洗剤の分散作用という。
水で洗うより中性洗剤で洗った方がきれいになっているだろう。この中性洗剤の主成分が界面活性剤であり、上記の浸透、吸着、乳化、分散の4つの作用をもつ。本来洗浄作業は水でも時間をかければ可能である。しかし、乾いたダスターに水が染み込むのに時間がかかるのは、汚れに水が届きにくいと言うことなのだ。水を乾いたダスターの上に一滴落としてみよう。水は玉のようになって、ダスターになかなか浸透していかないだろう。これは、水の表面張力が布への浸透を防ぐからだ。この表面張力を押さえれば水はダスターに容易に浸透するはずだ。この水の表面張力の力を減少させるのが界面活性剤なのだ。界面とは何かというと、表面のことだ。表面張力を落とすことにより、繊維の中の汚れまで水が達するのだ。これを浸透力という。図3
汚れまで到達した界面活性剤は図4のように親水基と親油基に分かれている。親油基が汚れに浸透して汚れの周囲をとりまいていく。この汚れに付着する作用を吸着という。次に汚れを取り去り、水に取り入れていく。この水に汚れを取り去る作用を乳化という。水が濁っている状態のことだ。
水にとけ込んだ汚れが、また、ダスターに吸い込まれては困るので、ダスター表面にとりついた界面活性剤は汚れが再度付着しないようにする。この作用を分散作用という。
以上の4つの作用が、界面活性剤の働きである。
界面活性剤の種類とそれ以外の成分
界面活性剤は4種類ある
*アニオン(陰イオン)界面活性剤、
コストは低いが洗浄力が高いので最も一般的に使用される。
*カチオン(陽イオン)界面活性剤、
洗浄力はないが、殺菌剤や繊維の柔軟仕上げ剤として使用されている。
*非イオン界面活性剤、
コストが高いが水の硬度に影響されないので、洗浄力を高める必要のある難しい条件で 使用される。
*両性界面活性剤
水溶液のP.H.によって、アルカリ側で陰イオン系、酸性側で陽イオン系に変わる界 面活性剤である。洗浄力、殺菌力、柔軟効果を持っているが価格が高いため特殊な用途 で使用されている。
洗剤に使用する界面活性剤は、一般的にアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤だ。アニオン界面活性剤が最も多く使用されるが、汚れの対象、条件によっては非イオン界面活性剤も使用される。殆どの場合は数種類の界面活性剤を組み合わせて使用する。
ビルダー、添加剤
中性洗剤は界面活性剤の組み合わせだけでない。水はカルシウムとかマグネシウム等の金属分を含有している。例えば温泉で石鹸を使用してもあまり泡立たないが、それらの水中の成分が邪魔しているからだ。そこで、添加剤のキレート剤を含有させ、洗浄力が落ちないようにする。
添加剤の効果は、洗剤の効果向上、金属腐食防止、軟水効果、溶解度の向上、粘度調整、泡安定、肌荒れ防止、等いろいろあり、用途により配合を変える。 中性洗剤を購入する際には単に値段だけで比較しないで配合成分、濃度が使用用途に適合しているかを考慮して、購入する必要がある。
化学洗剤
洗剤は中性洗剤だけではない。アルカリと酸性の洗剤が存在し、用途により使い分ける。
アルカリ洗剤
洗剤は全て中性洗剤で良いわけではない。厨房で使用したダスターは油でまみれているはずだ。いくら中性洗剤の濃度を高くしても油の汚れを完全に落とすことは難しいのだ。油の汚れを落とすには、アルカリ系の化学洗剤を使用する。アルカリ度を表すにはPHを使用する。PH7が中性だ。数字は1から14までだ。7より数字が大きくなると、アルカリ度が強くなる。数字が7より小さくなると酸性になる。8位までは弱アルカリであるが、12前後になると強アルカリになり、目に入ると失明の恐れがあるし皮膚を侵す。メーカーによりアルカリ度は異なるので使用説明書を良く読み、取り扱いを十分注意する必要がある。店舗には最低限、目を保護するゴーグルと、手袋が必要だろう。また、アルカリ、酸性の洗剤は保管場所を限定し、誤って使用しないように容器の色を目立つようにする。
酸性洗剤
髪の毛を洗浄した後、リンス剤を使用する。これはシャンプーの成分と水中の金属分(カルシウム、マグネシウム)が作用し、金属石鹸が出来、それが髪の毛に付着し、ざらざらするためだ。昔は、レモンなどでリンスをしたが、レモンは弱酸性であり、付着した金属石鹸分を取り去る働きがあるからだ。つまり、中性洗剤、アルカリ洗剤、の他に、酸性の洗剤が必要になる。お風呂の清掃する場合に使用するのは酸性の洗剤が多い。
食器洗浄機でリンス剤を使用するがこれもリンス水の中にカルシウム、マグネシウムが入っており、そのまま高温でリンスすると金属成分がグラスなどに付着し白くなるし、水切れが悪くなるからだ。その為に酸性の洗剤でリンスする。
酸性の洗剤もアルカリと同様に取り扱いに注意が必要になる。
洗剤の種類
家庭で使用する洗剤だけをを見ても、中性洗剤、ブリーチ、研磨剤、台所用強力洗剤、風呂場洗剤、トイレクリーナー、洗濯石鹸、柔軟剤、シャンプー、リンス、と数多くある。飲食業のように厨房から、客席、建物等、幅広く洗浄するにはもっと数多くの種類の洗剤が必要であり、その特性や使用上の注意点を理解しなければならない。
中性洗剤
「洗剤の洗浄力と中性洗剤」の項目を参照
殺菌剤
シェイク、アイスクリームマシンの洗浄殺菌
調理機器の洗浄は大変重要だ。単に洗浄するだけでなく殺菌をすることが必要である。FFなどではシェイク、ソフトクリームが大きな売上を占めるが、保健所による乳製品の検査は大変厳しく、夏になると頭を悩まる。従来は、機械を水でリンスしてから、中性洗剤をといだぬるま湯で洗い、それから水でリンスし、今度は次亜塩素酸ナトリウム100ppmの溶液で5分間殺菌する。それから再度水でリンスするという複雑な作業が必要であった。しかし、ミックスの配合成分は、油脂分と、蛋白質、カルシウム、マグネシウム等であり、中性洗剤では完全に洗浄できないことが判明した。シェイクやソフトクリームミックスを製造している乳製品の工場ではラインの洗浄に中性洗剤を使用していない。それは、中性洗剤では乳脂肪、蛋白、カルシウム、マグネシウムを除去できず、金属分がラインにたまり、乳石となり、細菌の巣になってしまうためだ。ライン洗浄では殺菌よりもまず汚れを落とすことを重視する。汚れが落ちないとその内部の細菌に洗剤が到達しないため、殺菌効果を発揮することができないからだ。
そのために、特殊なアルカリ系の粉末洗剤を使用する。殺菌効果を出すために次亜塩素酸ナトリウム溶液ではなく、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用する。ある温度にといだジクロルイソシアヌール酸は殺菌効果を出すだけでなく、油脂分と蛋白質を分解する能力が高いのだ。その他に洗浄能力を高めるために界面活性剤を混ぜて洗浄効果を最大限にだす。洗剤を最大限に生かす湯の温度も重要である。熱い方が油脂の汚れ落ちがよいが、殺菌剤の安定性が悪くなる。洗剤に最も適した温度に設定する必要がある。
更に、カルシウム、マグネシウムが洗浄効果を落とさないように、キレート剤を配合する。泡が立ちすぎると、リンスが大変なのであわ立ちを少なくする配合もする。
また、機械を洗浄するわけであるから、金属、プラスチック、ゴム部分の腐食がないかが重要だ。その為に腐食防止剤を配合するが、更に腐食度の経時変化を調べ部品の交換時期を明確にする。
シェイク、アイスクリームマシンの取り出し口にはプラスチック部品を多用するが、プラスチック部品は傷つきやすくそこに細菌が繁殖しやすいと言う問題がある。従来の中性洗剤では浸透力が弱いが、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用すると汚れに対する分解度と浸透度が強く、プラスチック部品が真っ白に綺麗になるために衛生度は格段に向上した。
殺菌効果を持続させるために一回分づつに洗剤を分け、完全密封した状態にパックし殺菌効果が落ちないように加工する必要がある。また、粉末洗剤であるので、水への溶解性が良くないと、有効でないので粉末粒子の大きさと溶解性の設定をきちんとする。
この洗浄殺菌剤は高価であるが、清掃時間が短縮出来るので人件費が低く、使用水量も少ないので、トータルコストはかえって低くなると言うメリットがある。洗剤の選定に当たっては単にコストだけでなく、人件費、水道光熱費等、総合的に考慮するべきだろう。
なお、大腸菌を0にするにはこの洗浄殺菌剤だけでは力不足である。シェイクやアイスクリームを作るには、冷媒を通したシリンダー内部にミックスを入れて冷却し、凍り始めたミックスをスクレーパーブレードで掻き取り、撹拌して粘度の高い飲み物やソフトクリームを製造する。そのスクレーパーブレードはモーターからチャンバーを貫通したドライブシャフトを通して回転される。このドライブシャフトからミックスが漏れないようにゴムのOリングと可食性潤滑剤のグリースを使用する。この部分のグリース内部に混じったミックス内部に大腸菌などが繁殖しやすい。また洗浄ブラシにもグリースが付着するがその内部に細菌が繁殖する。洗浄ブラシとシャフトに付着した潤滑剤グリースを分解する洗剤の使用が必要になる。可食性潤滑剤のグリースに最も適した界面活性剤の配合をした特殊洗剤が必要になる。
次亜塩素酸ナトリウム溶液(ブリーチ)
厨房の殺菌剤として一般的に使用されているのは次亜塩素酸ナトリウム溶液だ。一般的には次亜塩素酸ナトリウム溶液濃度が5‾6%の物が多い。購入時に価格で購入を決定する場合が多いが、性能に大きな違いがあるので注意されたい。
筆者は以前12%濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用していたことがある。ある大手メーカーの製品で、6%の物より濃縮してあるのでスペースを使用しないし、高級なのだという触れ込みであった。しかし、シェイクマシンに対する殺菌効果が弱いので、調べてみたところ大きな問題があった。開封しない状態で5カ月後に有効塩素濃度が60%まで低下していたのだ。開封している店舗の物はもっと低下していた。原因を調査したところ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は液のPH数値が高いと(アルカリ度が強い)安定度が下がり、有効塩素の低下率が高くなるということであった。つまり、濃縮度が高いのがかえって良くなかったのである。また、容器が10KG入りであり、開封後の使用期間が長いため、実際の店舗での有効塩素量の低下が著しいという問題があった訳だ。そこで、濃度を6%、容器を1kg入りの小型にして、有効塩素量の低下を防ぐようにした。この改良で、小型容器にしたためにコストは上がったが、殺菌という大事な作業の為にはやむを得なかった訳だ。
次亜塩素酸ナトリウム溶液のPHが高いと安定性が悪いと言うことは殆どの文献に書いてあるにも関わらず、大手メーカーでもこの様な初歩的なミスをするのである。これ以後、全ての洗剤をチェックしスペックを明確にせざるを得ず、この作業に数年を費やさざるを得なかった。
しかし、文献に書いてあることもあてにならないことがある。殆どの洗剤の本に次亜塩素酸ナトリウム溶液は水でといで使用する、湯を使用すると安定性がない、ということであった。しかし、どの本も全く同じ表現であったのでおかしいと思い、確認テストを実施したところ、湯でも安定性は損なわれず、かえって洗浄性が向上し殺菌効果が高まることが分かった。文献が間違っていたわけではなく、実は製造方法がより安定性の良い物に変更されたのが大きな原因のようである。文献は必ずしも最新の情報に基づいているわけではないので、必ず自らの確認テストが必要だろう。
手洗い洗浄殺菌洗剤
衛生的にするというとまず大事なのが殺菌剤による殺菌だ。例えば手洗いだが、どうやって洗っているかが重要だ。完璧な殺菌が必要な病院などでは、石鹸で手を良く洗ってからクレゾール液に手を浸し殺菌する。洗浄工程は最も重要だ。洗浄で手の汚れが落ちていれば、汚れの内部に存在する細菌も洗い流されてほんの少ししか残留していないはずだ。手洗いはまず洗浄効果が最も重要なのだ。次にだれでも間違いなく殺菌をすることが出来るという事が基本だ。飲食店は病院のように専門家を採用しているのではなく、殆どアルバイトが中心だからである。
飲食店では手を石鹸で洗ってから塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸で手を殺菌する方法が一般的である。塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤の殺菌効果を利用した物だ。しかし、普通の洗剤は陰イオン界面活性剤なので、両方を同時に使用すると殺菌効果がなくなってしまうという重大な欠点がある。石鹸をよく洗い流してから、逆性石鹸を使用しないと、殺菌効果が打ち消されてしまうのだ。正しく使用すれば逆性石鹸の殺菌力は高く効果的なのだが、 アルバイトを多く使用する飲食業ではいくらトレーニングをしても、手洗いを正しくやらない危険がある。
そこで洗浄と殺菌を同時に出来る手洗い洗剤の開発を行い、化粧品などの殺菌剤に使用される、イルガサンDP300を使用し、洗浄と殺菌をかねるようにした。化粧品などに使用する殺菌剤を採用したのは手荒れを防ぐためなのだ。手荒れをおこすと、ブドウ球菌が発生し食中毒の元になるからだ。採用する際には殺菌剤の濃度と、手あれ防止剤が配合されているかをチェックする必要があり、実際の使用テストが望ましいだろう。現在では殆どの洗剤メーカーがイルガサンDP300入りの手洗い洗剤を販売しているようだ。
手の殺菌をアルコールで直接行う場合があるが、アルコールの種類や使用頻度によっては手荒れを引き起こすので、使用方法と頻度に注意が必要だ。手洗いは重要であるが、あまり洗いすぎると手が荒れるので、適度な手洗いにとどめるべきだろう。おにぎり、寿司、サラダ等のなまものを作るときには使い捨てのプラスチック手袋を使用し、その外側をときどきアルコールスプレーなどで殺菌するのが望ましい。
酸性洗剤
シェイク、アイスクリームマシンは乳製品を使用するのでいくら完璧に洗浄しても長い間にはカルシウム、マグネシウム等が溜まって乳石となり、細菌の巣になりやすい。定期的に酸性の洗剤で乳石を除去する必要がある。
また、スチームコンベクションオーブンのスチームジェネレターや加湿保温庫等は水分中のカルシウム、マグネシウムが沈殿する。やかんを長い間使用していると、内部に白い軽石状の付着物ができるのと同じだ。これは水中のカルシウム、マグネシウムの堆積物だ。これを除去するには酸性の洗剤で溶かし流す。あまり堆積物が厚くなるとなかなか溶けず作業時間がかかるので、定期的に作業をする方が効率がよい。金属によっては酸性の洗剤で腐食が発生するから、用途、金属等機械別にきめ細かく選定する必要がある。
強力油落とし洗剤
厨房では多くの油を使用しているのでそれぞれの用途に応じた効果的な油落とし専用強力洗剤が必要だ。
グリドルクリーナー
従来はグリドルの表面のカーボン落としには金だわしなどを使用していたが、ステンレスの破片が客の喉に刺さり大騒ぎになった経験があり、グリドルクリーナーを開発した。グリドルクリーナーの条件はグリドルが高温のまま100℃前後で清掃できるように、耐熱の溶剤と、浸透性が必要になる。グリドルの汚れ自体はまだカーボン化していないので比較的簡単に汚れを落とすことは可能なのだが、問題はグリドルの鉄が錆びたり、高温でアルカリ反応を起こし変色してどす黒くなることであった。その色変化を押さえるのが最も苦労した点である。その結果、清掃後のグリドルの金属の色がきれいなステンレス色になるようになった。もう一つ注意しなければならないのは、洗浄作業が完璧に行われず、洗剤成分が残留する恐れがあるので、配合成分は食品添加を中心にする必要があることだ。
一般的には苛性ソーダーが20%前後含まれるのが一般的であり、その他に、キレート剤、界面活性剤、金属腐食防止剤、粘度調整剤が配合される。
フライヤーボイルアウト
フライヤーの熱交換部分は高熱になり油分が焦げ付きカーボンとなる。カーボンは断熱材であり、熱伝達を妨げ、油の温度回復を遅くする。その為に3カ月に一度は洗浄しカーボンを落とす必要がある。堆積したカーボンはグリドルより堅いのでより浸透性の高い界面活性剤と、強いアルカリ成分が必要だ。油槽に水を張りそこに洗剤を入れ30分間ほど煮沸するのだが、フライヤー内の残存油分と、カセイソーダーが反応し石鹸になるので泡が多く立ち、ふきこぼれ、コントロールパネルを痛める危険性がある。消泡剤の配合と、金属腐食防止剤の配合が必要になる。温度は沸点100℃より低い95℃前後で煮沸する。その為にフライヤーが温度コントロールが出来る仕様が必要になる。さもないと油槽から泡が吹き出る危険がある。此のフライヤーボイルアウト洗剤もアルカリ度の弱い物が開発されている。しかし、完全に中性と言うわけではないので取り扱い、特にゴーグルの使用は必要だ。
オーブンクリーナー
コンベクションオーブンの汚れの清掃は大変であり、グリドルクリーナーのような強力なアルカリ洗剤をスプレーし、しばらくしてからふき取る。内部を洗うことが出来ないので、グリドルクリーナーのように食品添加物で作った安全な物が望ましい。
最近では、スチームコンベクションオーブンが増加している。熱交換器の内部やファンの内側まで付着したカーボンを溶解する必要があり、グリドルクリーナーのタイプを使用する。吹きかける際に洗剤の濃度が高すぎるとうまく噴霧が出来ないので、水で薄め粘度を下げて使用する。スプレーには色々な種類があるが、粘度の高い溶液を噴霧出来る特殊なポンプ式のスプレーを使用するのが望ましい。ポンプ内部の部品は耐アルカリ性でなければならない。オーブンクリーナーの基本成分はグリドルクリーナーとほぼ同様であり、最近では低アルカリの安全性の高い物が出ている。
安全性の問題と取り扱いの注意
上記の洗剤は基本的に強アルカリのカセイソーダーを20%‾40%含有しており取り扱いには十分な注意が必要である。目に入れば失明する危険があるので取り扱う際には必ずゴーグルを着用する。耐アルカリ性のネオプレーンゴム手袋を使用する必要がある。低アルカリであっても皮膚に直接触れたり、目に入ったりすると危険であるので注意が必要である。誤って飲み込んだ場合には、すぐに水やミルクをを大量に飲んで洗剤分を吐き出し、直ちに医者にいく必要がある。また、目にはいった場合には、直ちに水で洗浄し医者にいく必要がある。いずれにせよ洗剤の種類により、毒性と対応方法が異なるので、使用説明書を普段から良く読み適切な対処が可能にするべきだろう。
筆者の20年間の経験で1件だけアルバイト従業員がグリドルクリーナーを目に入れ失明寸前になったことがある。マニュアル通りゴーグルを使用していなかったためであるが、それでも企業責任からより安全な洗剤に切り替えざるを得なかった。とりあえず苛性ソーダから苛性カリに切り替え、さらに、界面活性剤の浸透性を向上したアルカリ分の弱い中性に近いものに改善した。
アルカリの弱い洗剤の必要性は、調理機器にステンレス以外のアルミを使用する傾向からも必要になっている。クラムシェルグリドルの上側のグリドルは重量の関係からアルミにメッキをしたものを使用しているが、アルカリの強い成分の洗剤であると腐食し、表面が凸凹になる危険性があるので、アルカリ分の弱い洗剤の必要性がある。また、スチームコンベクションオーブンの清掃の際、アルカリ系のクリーナーを噴霧すると発生する蒸気と臭いがきつく作業が危険でありアルカリ分の弱い洗剤の必要性が出てきている。
各種金属にはアルカリに対するPH限界値がある。鉄鋼は無いがアルミ、亜鉛は10、黄銅は11.5、と金属により異なるので、洗剤使用時のPHを計測し、設定する。
アルバイトの多い職場等や、ステンレス以外の金属を使用する場合にはできるだけアルカリ分の弱い洗剤の採用を是非検討すると良いだろう。ただし、強アルカリ洗剤より、溶解性が落ちるので、ブラシ掛けをするとか、清掃の頻度の向上や、洗剤の適正量など使用上の注意が必要である。また、安全性が高いといっても洗剤を直接皮膚に触れたり、目に入れることは危険なので、手袋とゴーグルは必ず着用が必要だ。
床用洗剤、コンクリートのコーティング
厨房の床は油分が多く清掃するときに、アルカリ度の高い洗剤で清掃することがあるが、アルカリ分が多いと、コンクリートの目地や、タイルを痛めることがあるので、床専用の洗剤の仕様が望ましい。アルカリ度の強い調理機器用の洗剤で床を洗浄すると、油は落ちるが、リンス性が悪くかえって滑る恐れもある。油落としの能力だけでなく、滑りにくい成分でなくてはならない。また、床の清掃が不十分であると悪臭の元になるので、殺菌剤を含んだ床用洗剤を使用するとよい。
上薬のかかったタイル、ガラス、アルミ材をアルカリ度の高い洗剤で洗浄すると、腐食し、ガラスなどは曇り、タイルは艶がなくなり、アルミはざらざらになってしまう。洗剤の特性に留意して使用する必要がある。
厨房や倉庫に床をコンクリートむき出しで使用すると、強い洗剤で腐食されるし、ひび割れが出てくる。出来たら、コンクリート専用のコーティング剤を使用するべきだろう。
窓ガラスクリーナー
窓ガラスクりーナーの主成分は、界面活性剤とつや出しのシリコンとグリコールなどだ。
界面活性剤は汚れ落としをする。シリコンはつや出し剤だ。車の洗車機のワックスは油性のワックスではなく、シリコンを使用する。シリコンを使用すると艶が出て、水がかかっても水滴になり、きれいに流れ落ちる。ただし、日持ちがしないので毎日使用する必要がある。グリコールは車の不凍液と同じ成分だ。粘度があってガラスに付着し清掃性が向上し、寒冷地でも清掃中に凍ることがないからだ。
つや出しが必要なかったり、寒冷地でければ普通の中性洗剤でも汚れが落ちるので、十分だろう。特にガラスに輝きがほしい場合にはガラスクリーナーを使用するなど使い分けると経済的だ。ガラスの清掃の秘訣はダスターなどで拭かずにゴムのスクイジーを使用することだ。やや慣れが必要だが、スピードが速くなるし仕上がりがきれいなので検討する価値があるだろう。スクイジーの使用方法は、パチンコ屋などのガラスを多く使用するビルの清掃業者のやり方を見ると良い。秘訣は、一回ごとにスクイジーの汚れをダスターでふき取り、直線ではなく∞字型にスクイジーを動かすことだ。また、スクイジーのゴムのエッジがきちんとしていないと汚れが落ちないから日頃の交換頻度をきちんと守ることがこつだ。
研磨剤
長く清掃していない、鍋などのカーボンがぎっしりついたりした物は、強アルカリ洗剤を使用しても落ちる物ではない。金ダワシなどでこする必要がある。そんなときにはクレンザーなどの研磨剤が必要になる。研磨剤の主成分は、ガラスの原材料になる珪砂と界面活性剤、アルカリ剤等が主である。研磨自体の能力は珪砂の粒子の大きさに左右される。
フライヤーなどの油槽についた汚れを毎日清掃する際に、研磨剤を使用するが、油に混入するので、珪砂などの食品に混じっても良い物だけを使用する場合がある。
金属を研磨する際には珪砂の粒子の大きさにより、傷つき方が異なるので、清掃対象の金属にあった大きさの粒子を選定すると良い。厨房では他の洗剤と混ぜて使用されることが多いのでなるべく、珪砂だけの方が汎用性があって良いようだ。
真鍮磨き
ピカールなどを使用する。この場合も清掃頻度をきちんと守らないと汚れが落ちなくなるので、日頃の注意がいる。最近では真鍮色のメッキがある。メッキは真鍮の様に色が変色しなくて便利だが、間違ってピカールなどをかけてこするとメッキが剥げてしまうので、金属の素材に注意すると良い。
家具クリーナー
日本の清掃方法は何でも水拭きするという基本的な欠陥がある。テーブルとか椅子などの家具を水拭きするのは最も良くないのだ。木で出来た家具はニス塗りしてあるが、ニスが水溶性であり、水で剥離し、汚れが染み込んでしまうのだ。なるべくカラ拭きが望ましいのだ。しかし手指で触れることが多く、手垢が付いて汚くなる。ニスを落とさないで手垢を落とすには専用の家具クリーナーが必要だ。ワックスをかけても良いのだが、客席では臭いが出てあまり向いていないし、作業性が良くない。水溶性のスプレータイプの家具クリーナーが作業性がよい。ただし、一般に市販している物は香料が入っているので、営業時間外のみに使用する注意が必要だ。
木の家具を使用するにはかなりの手入れが必要だが、どうしても水拭きで済ませたい場合には、家具の塗装をしっかりした物にする。ニスではなくウレタン塗装などをすると耐水性があり良いだろう。市販の家具はウレタン塗装が多いが厚めにかけた方が持ちがよい。
いくら持ちがよいウレタン塗装でも2年位すると部分的に剥がれれてきて、そこから汚れが染み込むので、定期的な塗装をすると長持ちするようになる。
木部だけでなく、レザーや、プラスチックも家具クリーナーで清掃すると艶が出て汚れがつきにくくなる。一度きれいに清掃した後は、家具クリーナーを含ませた、ダスターで軽く空拭きすれば簡単にきれいになる。
ステンレスクリーナー
厨房で使うステンレスは汚れが目立たないようにヘアーライン加工してある。ステンレスを水拭きで使用すると、水分のカルシウム、マグネシウムがステンレス表面に付着して白っぽくなり輝きが出ない。ステンレスの汚れは、油性のステンレスクリーナーで落とし、同時につや出しをする。ステンレスクリーナーの油性の成分がヘアーラインの細かいところに入り、それが艶を出すのだ。油の付いた指などで触っても跡がつきにくいのはそのためだ。ステンレスクリーナーの欠点は油性の成分のため食品にかかってはいけないと言う点であり、厨房で使用するには注意が必要だ。また、同じつや出しでも家具用とは使い分けするという手間がかかるので、筆者は水溶性の家具用クリーナーの溶剤を工夫し、ステンレスには原液、家具には水で薄めた物を使用するようにしたことがある。いずれにせよ、日本的な水で拭き掃除をするという習慣は止めるべきだろう。
外部の金属、プラスチックの汚れ落とし
外部の金属、塗装部分、プラスチック部分は、車の排気ガスや、雨水のカルシウムマグネシウムの水垢がついている。普通の洗剤では落ちにくいのだ。この場合には車用の水垢クリーナーが有効だ。水垢クリーナーで汚れを落とした後ワックスを掛けると効果的だ。最近ではワックスに水垢を落とす成分を混合してあるのが一般的なのでそれを使用すると良いだろう。ただし、ワックス成分中に研磨剤が入っているとプラスチックや塗装部分にダメージを与えるので注意が必要だ。
トイレクリーナー
便器に溜まった、尿石を落とすには酸性洗剤を使用するものが多い。あまり溜まりすぎると落ちなくなるので定期的に洗浄するか、クレンザーなどの研磨剤を使用する必要がある。ただし、研磨剤などには次亜塩素酸ナトリウム等が入っている場合があるので、酸性のトイレクリーナーと混ぜて使うと塩素ガスが発生し危険なので注意しなければならない。
安全性のために中性タイプのトイレクリーナーが出ているので洗浄性に問題がなければ使用しても良いだろう。アルカリ系の洗剤のところでも述べたが、安全な洗剤は洗浄能力は決して高くないので、清掃の頻度はきちんと守る必要があるという事を理解して使用しなければならない。
洗剤の安全性
食品を調理する機械を洗浄するのであるから、洗剤の安全性は最も重要である。飲食業は安全性が大事であり、使用する機械を洗浄する際に、洗剤が残留したり、それが危険であっってはいけないのである。使用する洗剤の安全性を確認してから使用する義務がある。安全性といってもただ一つだけではなくいくつかの要素に分かれているので、それを見てみよう。
環境問題
洗剤の主成分は界面活性剤である。界面活性剤といっても種類があり、多少の知識が必要だ。10年以上前に合成洗剤の安全性を騒がれたことがある。安全性の中でも特に生分解性の問題だった。使用する界面活性剤が分解されないで残ってしまい、動植物に残留する危険性があるというものであった。現在では、生分解性の高い物を使用するのが当たり前になり、問題は少なくなっている。初期の界面活性剤はABS(分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩)であり、生分解性が悪く問題があったが、現在はLAS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)などの生分解性の良い物を使用するのが当たり前になり問題は少なくなっている。
もう一つの問題はトリポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩をカルシウム、マグネシウムへのキレート剤として使用することにより、排水が河川などに流れ込んだ際に、栄養素が高すぎ、藻などが発生するという問題である。現在では燐酸塩に変わるキレート剤が使用される用になった。この燐酸塩に関しては日本では厳しい基準があるが、海外の洗剤は水が日本とは比較にならないくらい硬度の高い水のために、まだ、燐酸塩類を使用している場合があるので、使用の際には注意されたい。キレート剤の配合が多い場合は、金属腐食や手荒れが多いので併せて注意が必要だ。
毒性
毒性には、急性毒性と、慢性毒性、重金属類の含有、の3つが考えられる。
急性毒性とはLD50で判断する。どんな物でも一度に大量に摂取すると死亡する危険がある。例えば少量の塩とか、醤油は無害なのは当然だが、それを大量に摂取すると、死亡することがある。そういう意味ではどんな物も安全と言うことはあり得なず、どのくらい摂取したら危険かと言う危険度のバロメーターとして使用される。LD50とは半数致死量という。Limit Death Fiftyの略で、急性毒性を表す数値だ。ある物質を動物に経口投与した場合、それにより50%の動物が死亡する量を動物の体重1kgに換算した数値である。ある洗剤のLD50が4.5g/kgであったとすると、体重50kgに換算すると900gになる。つまりこれだけの量を摂取すると大人でも死亡することになる。ちなみに食塩のLD50は3.7g/kg、つまり、体重50kgの大人が185gの塩を摂取すれば死亡するのだ。つまり此の洗剤は塩より急性毒性という意味で安全と言うことになる。勿論だからといって食品に混入して良いと言うことではない。食品に混入して良いのは食品添加物でないといけないのだ。
重金属とは、砒素、カドミウム、有機水銀などの毒物だ。これはJISで検査項目が指定されているので、公的機関での調査のレポートがあるはずだから、メーカーに確認すると良い。砒素重金属は基準以下でなければならない。
手あれ、
次に安全性で問題になるのは、手荒れだ。手荒れを引き起こすとそこにブドウ球菌が発生して不衛生であるばかりか、皮膚障害を起こし、危険なのだ。できるだけ皮膚に優しい洗剤が必要だ。これは配合成分などを見て判断するしかないし、使用して手荒れを判断する必要がある。家庭用の洗濯石鹸などは、皮膚にサンプルをつけ手荒れの問題をチェックするが、業務用ではそこまでは実施していないのが現状だ。業務用の洗剤は洗剤の濃度を守り、使用時には保護手袋を使用したり、使用後は保護クリームを使用して手の脱脂を防ぐのが基本だ。
洗剤の選定と開発
洗剤の選定は単に安いからと言うことだけでなく、洗剤を使用することにより、人件費、水道代、光熱費がどうなるかで判断するべきだ。また、洗剤の有効性、安全性を良く確認し購入しないと安物買いの銭失いになるだけでなく、食中毒などの危険もあるので十分な知識と確認が必要だろう。
新型の調理機器を開発するに当たってどんな方法で、洗浄殺菌するかは重要な問題だ。機械の性能だけでなく、効率が良く短時間で簡単に洗浄殺菌ができるようにすることは大切だ。
*参考文献
FOURTH EDITIN刊行 「 FOOD SERVICE SANITAITON」 Frank L. Bryan 他著
The Educational Foundation刊行 「Serving Safe Food」及びVTRテープ
The Educational Foundation刊行 「HACCP REFERENCE BOOK」
大成出版社刊行 「食品製造業者のためのPL法」 監修農林水産省流通局
同友館刊行 「流通業・サービス業のPL対策」 伊早坂昭夫著
中央法規刊行 「 HACCPこれからの食品工場の自主衛生管理」河端俊治、春田三佐夫編
健康産業新聞社刊行 「食品と開発」95年2、4、5、6、8月号